医療機器の開発促進のための医療における技術評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201297A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機器の開発促進のための医療における技術評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
菊地 眞((財)医療機器センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1990年以降急速に減速傾向にある我が国の医療機器・用具産業の実状をふまえて、望ましい医療機器の開発促進のための医療における技術評価について研究することを目的として検討を行った。
研究方法
本研究は、主任研究者及び研究協力者による研究班を組織し、平成10~12年度に本課題に関連して実施された基盤的研究と検討結果に基づいて技術評価の具体的手法を策定し、また、この手法を用いて2種類の医療機器に対してケーススタディとしての技術評価を実施した。なお、技術評価は書面とプレゼンテーション及び質疑応答により行った。さらにこのケーススタディとしての評価作業を試行することにより、今回策定した評価手法の問題点の洗い出しを行った。
結果と考察
1)技術評価の具体的手法:医療機器の技術評価の実施にあたっては、まず第一に準備段階として評価対象となる機器を選定し、さらにはその機器の発展や普及の時相を検討して、各時相に合わせて何回か評価を行うことが望ましい。評価者としては、医療専門家、医療管理者、医療従事者、行政担当者、一般社会人を代表する数名から10数名程度を選出して、評価者グループを構成する。ただし場合によっては、医療機器の技術評価を利用する立場の差異を考慮して、例えば医療従事者などの専門家だけで行うことも考え、この場合に出されてくる評価結果を一般人も含めた評価者グループが出した結果と対比させて検討することも必要である。評価者には、予め評価の対象機器の内容を示した資料を配布し、これに基づいて評価者自身が想定した従来技術を明示した上で、その従来機器・技術と対比したときの相対的効果を評価する。最終的な評価結果を導出する過程で最も問題になる点は、各評価項目(設問)に対する“重みづけ"であり、この重み係数をいかに付けるかはそれぞれ立場により異なってくる。本年度は、これらの点に留意しつつ、次の手順により技術評価のケーススタディを行った。①国内で製造されている医療機器のうち、治療機器と診断機器から1台づつ機器を選定、②機器を評価するための評価記入票の作成、③評価者として、学識経験者(工学側1名、医学側1名)2名、企業1名、行政経験者1名のそれぞれ立場の異なる4名を選出、④技術評価申請書に選定した機器を製造している企業側が必要事項を記入、⑤機器のプレゼンテーション及び質疑応答、⑥評価者による評点付け(評価記入票を使用)と評価コメント記述、⑦評価得点の集計、⑧得点集計結果の正規化及び表示、⑨評価レポートの作成、2)は各点である。2)ケーススタディの結果:①輸液ポンプ:技術の評価(正規化得点の最高点70、平均点60.7、最低点50)、経済性の評価(正規化得点の最高点90、平均点72.2、最低点60)、診療ニーズ適合性(正規化得点の最高点88、平均点65.8、最低点53)、信頼性・安全性の評価(正規化得点の最高点98、平均点85.6、最低点73)、患者・社会便益性の評価(正規化得点の最高点92、平均点82.6、最低点75)②血圧脈波検査装置:技術の評価(正規化得点の最高点73、平均点62.0、最低点50)、経済性の評価(正規化得点の最高点76、平均点65.0、最低点55)、診療ニーズ適合性の評価(正規化得点の最高点100、平均点92.5、最低点69)、信頼性・安全性の評価(正規化得点の最高点85、平均点70.9、最低点53)、患者・社会便益性の評価(正規化得点の最高点87、平均点71.2、最低点57)、考察:本年度行ったケーススタディは対象機器の評価を確定することが目的ではなく、ケーススタディとしての評価作業を試行することにより、今回策定した評価手法の問題点を洗い出すことである。以下に、ケーススタディを通して明らかにされた問題点について示す。[Ⅰ]評価
実施前において考慮すべき事項:本評価においては、評価対象である機器を、既存の同様の機能を有する機器と対照させながら相対的な価値を評価することになる。したがって、まず第一に重要な点は、国内・外に存在する既存の同様の機器の情報を出来る限り正確に、かつ網羅的に収集することが必要になる。この点について事前にどれだけ準備できるかが評価結果の質を大きく左右させることになる。したがって、将来このような医療機器の評価を担当する部署、又は機関には関連データの収集と蓄積能力が求められる。[Ⅱ]評価実施にあたって考慮すべき事項:(1)上述[Ⅰ]に関連して、評価の実施にあたっては、まず第一に評価申請者(当該機器の製造者、または販売者)から出来る限りの正確で最新の情報を申請書に記載してもらえるか否かが重要になる。申請者が他の機器に対する充分な情報を把握していないケースや、承知していても意図的に記載しないケースなどが考えられ、その不足を[Ⅰ]と関連して評価実施側がどれだけ補えるかも重要になる。(2)一方、評価者がより正確な評価をおこなうためにはたんに申請書を判読するだけでなく、出来る限り申請者自身によるプレゼンテーションを併せて行わせることが望ましい。プレゼンテーションとともに質疑応答を実施し、評価者側が対象機器に対してより正確な理解を深めてから評価を実施すべきである。(3)その際に評価対象機器に関連する最先端科学技術(具体的な機器になっている以前だが、高いポテンシャルを有する当該機器に使用可能な代替技術など)に対する情報も把握しておくことが肝要であり、特に機器開発の視点からの評価においては当該機種の製品寿命や代替機器の出現を予測する上で重要な要素になる。(4)評価者は可能な限り多数であることが望ましいが、評価目的に応じて適切な分野からバランスを考慮して人選すべきである。そのためには、評価者グループの人材確保も極めて重要な要素になる。また、評価者と申請者の間の秘密保持をどのように行うかなどについても充分配慮する必要がある。 [Ⅲ]評価手法そのものに関係する問題点:(1)複数の評価者による評点では、必ず評価者間において点数のバラツキが生じることから、各評価者の評点傾向(バイアス)を明らかにし、それらを適切に補正するなどの処置が必要である。(2)本手法においては設問の内容が対象機器に該当しない場合に、その旨を指摘することとしているが、評価者間で指摘が異なることが見られる。この場合には、各々コメントを表記することで結果に反映させるが、点数化して総合評価する(例えば、ケーススタディで示したようなレーダーチャートとして図示するなど)場合には、その取り扱いについて検討する必要がある。(3)本評価手法においては相対的評価に基本を置いたために医療にとってプラス効果を正に、マイナス効果を負に評点することとし、その程度により3段階に分けている。3段階評価では各評点の配分はリニアであり、及ぼす影響や効果の大小が薄まってしまう場合が生じる。各設問ごとの重みの軽重については今後個別に検討すべき課題である。[Ⅳ]評価結果に関連した特記事項:(1)相対評価を基本とする本評価手法により得られた評価結果については、既に上市されている多数の機器の特色を定量的に明示する点でその意義は大きいものと考える。(2)評価申請者側(主に製造企業側)にとっては上記の相対的で総合的な評価結果も有用だが、各企業毎に抱える個別視点での評価要求事項に対する直接的な解答を得る事への期待が大きいものと容易に推測される。それらの要望に対して、どのように対処すべきかも、将来医療機器の技術評価に対して産業側に積極的に参加してもらうためには大事な課題となる。(3)一方で、これらの評価結果は新規技術開発を促進するための投資家や企業の意思決定者にとって少なからず有用なものと思われ、今後このような評価結果を多数蓄積することで、多種の製品間の優劣が描出できる可能性を有する。
結論
今年度に実施したケーススタディは、評価手法をについてより詳細に検討するうえで、大変有意義であった。「開発促進のための
評価」という点からは、①技術そのものに関する評価、及び②技術開発を行う仕組み・環境に関する評価、があると思われるが、後者に関してどこまで踏み込むか、今回のケーススタディでは経験できなかったので、今後中小企業の開発事例を例にして実際に試行する必要があると考えられた。さらに、1)評価を中立的に行えるような機関の必要性、2)評価結果の処理については当該企業以外へ情報が流れないこと、評価結果が当該企業側には自動的に流れていくシステムの必要性、などが感じられた。これらの研究成果を踏まえて次年度(平成15年度)においては、さらに新たな評価対象機器を選択して評価を試行し、評価手法の問題点についてより詳細な検討を進めるとともに、人工材料関係や新規開発製品、並びに従来は医療機器開発を手掛けていなかった周辺分野からの新規参入などのケースについても研究を進めていくこととする。
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