ストレス関連疾患に関する医療経済学的評価基準の作成(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201295A
報告書区分
総括
研究課題名
ストレス関連疾患に関する医療経済学的評価基準の作成(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
石川 俊男(国立精神・神経センター国府台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木登茂子(九州大学大学院医学研究院)
  • 伊藤順一郎(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 大井田隆(国立公衆衛生院)
  • 久保千春(九州大学大学院医学研究院)
  • 小牧元(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 釈文雄(国立療養所岩手病院)
  • 西間三馨(国立療養所南福岡病院)
  • 原井宏明(国立療養所菊池病院)
  • 樋口輝彦(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 伏見清秀(東京医科歯科大学大学院)
  • 羽白誠(国立大阪病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,640,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心身症や摂食障害、神経症、うつ病などのストレス関連疾患等に対する精神・心理療法は保険診療上、通院精神療法及び入院精神療法、心身医学療法等で評価されているものの、要する時間に対して保険診療上適切な評価がなされているか、さらに医師以外の治療者(心理士など)が行った場合には算定ができないなどの課題も存在している。そこで、精神・心理療法を行った場合の治療効果及び経済的評価を医療保険制度面から多施設において行い、系統的・組織的に詳細な分析を行うことにより、精神・心理療法の位置づけを行う。これにより、EBMに基づいた医療が行われ、医療の質が高まると共に、効率的で経済的な診療体系の構築に役立てることができると考えられる。
国民皆保険制度をとっている我が国においては、診断・治療技術は診療報酬点数により評価されているものが大部分であり、保険システムのより適切な評価と効率的な運営に向けた改革を行っていく上でも、先ず現在の制度を基盤として評価を行い、それを元にして更なる効率的な診療を行っていくことは必要である。
また、ストレス関連疾患について、精神・心理療法を行う場合、治療者の技術に対する評価が難しい分野であり、診断・治療に関するガイドライン等の指標も今後必要となるため、指標を作成する際の要素としても精神・心理療法に関する治療効果及び経済効果の研究は不可欠である。指標の構築によって、精神・心理療法の適応となる病態が明らかとなり、適切な診療科への受診を容易にし、治療期間の短縮にもつながる。さらに、現在国家資格として認められていない心理士の役割、心理士が関わった際の治療・経済的効果についても検討を行い、今後資格の是非を議論する上でもこの研究は必要である。
この研究により、これまで評価の困難であった心身症や神経症、うつ病などのストレス関連疾患に対する医療技術・特に精神・心理療法について経済面からの適正な評価が推進され、今後、効率的な医療保険制度改革を行っていく上でも成果を上げることができる。さらに、今後増加することが予想されているこれらの疾患から国民の健康を守ると共に、国民が負担する医療費の軽減にもつながり、国民の経済的負担減にも寄与するものと考えられる。
研究方法
1 ストレス関連疾患治療の現状分析;本研究を実施する各施設から,アトピー性皮膚炎・気管支喘息・過敏性腸症候群・摂食障害・うつ病・社会恐怖と診断されて精神・心理療法を受けている症例を,各疾患約100例選別し,年齢,性別疾患重症度,治療経過,精神心理療法以外の治療法,治療効果,合併症,医療費等について担当医にアンケート調査を行う.対照群として精神心理療法を受けていない薬物療法中心の症例を,年齢,性別,疾患重症度,合併症等を考慮した上で選択する.比較分析の精度を向上するために重症度,疾患像を厳密に定義して,エントリー症例を決定する.披検群と対照群について,治療内容,治療効果,医療費を比較分析し,これらの疾患に対する精神心理療法,薬物療法などに区分して集計し,精神心理療法の有無による治療費用の差異を分析する.
また,各施設において当該6疾患の間近の新規受診例を症例データベースに登録し,疾患重症度,治療内容,治療効果等について定期的にデータを登録し,コホート分析を実施する.患者の年齢,性別,疾患重症度,合併症の有無等と精神心理療法,薬物療法などの有効性の関連を分析するとともに累積医療費を集計計算し,各種治療法の費用対効果を分析する.
2.精神心理療法を行う場合の効率的で経済的な指標の確立;1.の結果から,精神心理療法の内容,治療期間,治療時間,心理療法士の係わり方,精神心理療法以外の治療法の内容等について,各疾患毎に,治療効果への影響,医療費等との関連性を分析し,精神心理療法の選択と実施の合理性に関する総合的な指標を検討する.また,各施設において,これらの指標を治療法の指針として採用した診療を行ない,その治療効果および経済性を分析し,各指標の妥当性を検証する.
年次計画:
初年度は、調査エントリー症例のクライテリアを決定し、疾患重症度の判定および治療効果判定のための治療者用および患者用の調査票を疾患毎に作成した。また、各施設の本研究対象患者の受診状況を聞き取り調査し、統計的に充分な症例が確保できるように調査を実施する医療機関を選定した。更にコホート調査に向けて、治療者用及び患者用の調査票を疾患毎に作成し、患者登録用データベースの作成を行った。第2年度は、初年度に定めたエントリー症例クライテリアに基づき、研究実施医療機関を受診する患者から症例を選択し、作成した各調査票を用いて、患者聞き取り調査及び治療者アンケート調査を実施し、その集計と予備的分析を実施し、調査方法、統計分析方法、症例必要数の検討を行うとともにコホート調査の患者登録を開始した。次いで、第3年度は、前年度に引き続き、横断調査の集計と統計分析を行うと共に、コホート調査については6ヶ月毎に集計したデータを分析する。これらの結 果から精神心理療法実施のための効率的で経済的な指標の暫定版を作成し、それらを指針とした診療 を行った場合の治療効果等を分析した上で、効果的な治療法選択のための指標案を策定する。 
結果と考察
第2年度は、初年度に定めたエントリー症例クライテリアに基づき、研究実施医療機関を受診する患者から症例を選択し、作成した各調査票を用いて、患者聞き取り調査及び治療者アンケート調査を実施し、その集計と予備的分析を実施し、調査方法、統計分析方法、症例必要数の検討を行うとともにコホート調査の患者登録を開始した。過敏性腸症候群(釈、伏見、石川)では、横断研究(16例、コントロール9例)、コホート研究(2例、c2例)が開始された。今後症例が追加され、分析される。アトピー性皮膚炎は、今年度より皮膚科医(羽白)が分担研究に加わり、皮膚科領域、心療内科(小牧)領域それぞれの検討が開始された。すでに40例がエントリーされ調査が進められている。気管支喘息(西間)では、横断研究調査が行われ、心身症群(17例)と非心身症群(9例)にわけて検討され、心身症群では経過の良い群と重症群の二つの群があることがわかったが、いずれにしても、非心身症群より治療の満足度がたかいことがわかった。コホート研究もスタートして症例が集まりつつある。摂食障害は心療内科(久保)と精神科と分けて行われているが、心療内科では、受療行動に及ぼす影響の検討を行い、診断名などが治療 中断に影響を与えているとした。精神科(伊藤)では、心理教育がもたらす医療経済学的な効果を集団療法に参加した18家族を対象に実施している。精神科領域の研究では、社会恐怖(原井)、軽症うつ(樋口)がそれぞれ調査票を完成し調査がスタートしている。また、荒木は心理的集団作業療法について言及し、大井田は本研究テーマに関する文献データベースの作成を行った。この研究では、精神疾患の政策医療ネットワーク及び心身症・摂食障害の政策医療サブネットワークなどを中心とした施設を調査対象と考えている。まず5つの対象疾患(気管支喘息・アトピー性皮膚炎・過敏性腸症候群・摂食障害・うつ病、社会恐怖)を中心としたストレス関連疾患の標準的診療評価指標を作成し、医師・臨床心理士などによる精神・心理療法が行われた場合と行われなかった場合と比較して、その治療効果と共にコスト面での効果について調査及び経済的分析を行う。横断的研究・縦断的研究に関する調査票を作成の上、協力施設を決定して、調査を開始した。現在、横断的研究に関するデータを集計し、予備的分析を行った上、調査方法、分析方法等を検討している。また、縦断的研究については、患者登録を開始し、定期的なフォローアップを行っている。
結論
この研究により、これまでの評価の困難であった心身症や神経症、うつ病などのストレス関連疾患に対する医療技術・特に精神・心理療法について経済面からの適正な評価が推進され、今後、効率的な医療保険制度改革を行っていく上でも効果を上げることができる。さらに、今後増加することが予想されているこれらの疾患から国民の健康を守ると共に、国民が負担する医療費の
軽減にもつながり国民の経済的負担減にも寄与するものと考えられる。

公開日・更新日

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