EBMに基づく職域における「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン」の評価、並びに労災2次検診導入の予防医学的意義に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201288A
報告書区分
総括
研究課題名
EBMに基づく職域における「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン」の評価、並びに労災2次検診導入の予防医学的意義に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐久間一郎(北海道大学大学院医学研究科)
  • 浅香正博(北海道大学大学院医学研究科)
  • 清田 典宏(北海道労働保健管理協会)
  • 石井好二郎(北海道大学大学院教育学研究科)
  • 増地あゆみ(北海道大学大学院文学研究科)
  • 玉置 淳子(北海道大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,967,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、平成13年度に日本循環器病学会で策定された「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン」がどのように活用が可能か、介入可能な危険因子である喫煙、高血圧(HT)、肥満、耐糖能異常、高コレステロール(TC)血症、高トリグリセライド(TG)血症、低HDL血症、精神的・肉体的ストレス、さらに新しい危険因子として注目されている感染因子について、特に職域で大規模コホートの形でも疫学的に検討する。同時に、「労災二次検診」の予防医学的意義について検証する。また、心筋梗塞の症例対照研究の形でも危険因子を検討する。また、積雪地域在住の高齢者が実践可能な運動プログラムの開発を目的とし、在宅型ステップ運動による身体トレーニングが、生活習慣病の危険因子に及ぼす効果を検討する。
研究方法
1)コホート研究:札幌市職員の13000人、北海道職員14000人、JR北海道職員1600人、千歳市職員の600人、北海道大学職員1600人を対象にコホート研究を行う。札幌市職員については動脈の脈波測定をおこない、現時点の動脈硬化の評価と、その動脈硬化性疾患発症の予測因子としての役割を検討している。従来からの危険因子に加えて精神的・肉体的ストレス、さらに新しい危険因子として注目されている感染因子について検討をおこなう。
2)心筋梗塞の症例対照研究:1999年~2001年に、北海道大学医学部附属病院循環器科および北海道内の同科関連病院に搬入された急性心筋梗塞症例722例と、対照群1748例について比較検討を行った。対照群は一般住民健診者。ロジスティック回帰分析により、急性心筋梗塞発症に対する各冠動脈疾患危険因子の相対危険度を検討した。
3)労災二次健診の検討:頚部超音波の指標はIMTを評価した。
4)運動介入プログラム:15名の高齢者を対象に、12週間の在宅型トレーニングを実施した。トレーニングは,乳酸性作業閾値(LT)に相当するステップ運動を用いた。なお、トレーニングを実施しない15名の高齢男女を対照群とした。運動介入前後に、LT、身体組成および生活習慣病危険因子(血圧,血中化学成分)を測定した。5)内蔵脂肪:対象は116人。測定項目は肥満と内臓脂肪(身体計測、bioelectrical impedance analysis 、腹部CT)、 CRP (高感度)、インスリン抵抗性の指標; interleukin-6 (IL-6)、 tissue necrosis factor-α (TNF-α)、 頚動脈超音波の IMT。
6)動脈硬化性疾患の危険因子、ストレル・労働時間、イソフラボン:従来の危険因子に加えて、仕事のストレス、労働時間、うつ、不眠等の精神的な因子や、予防効果の考えら
れるイソフラボンについて文献的考察を行った。
結果と考察
1)コホート研究:現在は、前述の集団に質問紙票の配布中で、具代的なデータは提示できないが、来年度にはコホート集団の基礎データ、また脈波による動脈硬化の程度に関わる危険因子を示すことが可能である。
2)心筋梗塞の症例対照研究:各冠動脈危険因子の相対危険度は、男性では低HDL血症がodd ratio(オッズ比:OR)6.16と最も高く、高血圧症OR 2.73、耐糖能異常OR 1.82順となった。女性では高血圧症がOR 5.77と最も高く、低HDL血症OR 3.43、耐糖能異常OR 2.42の順であった。両性とも高コレステロール血症のORは1未満の値となった。北海道では男女とも、冠動脈危険因子の中では低HDL血症、高血圧症、耐糖能異常の相対危険度が高く、いわゆるmetabolic syndromeが重要であることが示唆された。
3)労災二次健診の検討: 285人が対象。各動脈硬化の危険因子と頸動脈硬化の指標との関連を多変量解析ですべての指標に有意であったのは、年齢と収縮期血圧のみであった。今回の検討では収縮期血圧のみがどの指標にも関連する有意な因子であったが、脂質、血糖値、高感度CRP値やインスリン抵抗性の指標もいずれも関連していなかった。4)運動介入プログラム:運動群において、LTおよび、男性のクレアチニン,女性の収縮期血圧,GOT、γ-GTP、総コレステロール、血糖は介入前後で有意な変化が認められた(p<0.05)。 5)内蔵脂肪: CRP は肥満の指標に有意に関連していた。年齢、性、喫煙、で調整後、CRPはウエスト周囲径、ウエスト・ヒップ比、内臓脂肪面積といった内蔵肥満の指標により関連していた。IL-6と TNF-α はCRPに関連しなかった。血圧、代謝の指標、CCA-IMT も CRPと関連していた。しかし、年齢、性、喫煙、BMIで調整後は血圧とHDLのみが有意であった。健康な日本人では、CRPは内臓肥満に関連し、インスリン抵抗性の要素の一部に関連していたが、IL-6 と TNF-α には関連しなかった。
6)動脈硬化性疾患の危険因子、ストレル・労働時間、イソフラボン:従来の危険因子については欧米ではコホート研究を元にそれぞれの危険因子を総合して虚血性心疾患発症のリスクを推定する方法が報告されている。しかし、Framingham研究のscore sheetはアメリカの日系移民ヒスパニック系にはそのままあてはまらないとの報告があり、動脈硬化性疾患の発症率について欧米と異なる日本では、独自のコホート研究によるこのようなCHDの予測をする方法が必要で、健診を有効に活用することができるようになると考えられる。また仕事のストレスは仕事のストレインモデルや努力―報酬不均衡モデルによる虚血性心疾患への影響が報告されているが、日本でのevidenceはなく、今後の検討が待たれている。また、労働時間も日本の心筋梗塞の症例対照研究が有名であるが前向きの検討が必要である。イソフラボンと循環器疾患との関連について多くの報告がみられるようにはなったが、未だその機序や、効果については議論の余地が残る。今後、一般集団を対象とした更なる検討を重ねる必要がある。
結論
症例対照研究の結果より心筋梗塞の危険因子としてHDL、HTが重要でこれらを中心に保健指導、二次健診を考慮するべきと考えられる。労災保険による二次健康診断受診者で頸動脈硬化に関わる因子は収縮期血圧であった。ハイリスク群でも特にHTに介入について積極的に考慮すべきである。在宅型運動ステップ運動は、生活習慣病の危険因子の軽減に有効な運動プログラムである事が示唆された。また新しい危険因子であるCRPは内臓肥満に関連し、インスリン抵抗性の要素の一部に関連していた。高感度CRPは内臓肥満に関連した指標として、今後の予防因子として期待される。日本では、動脈硬化のリスクをスコア化して、動脈硬化性疾患の発症を予測するevidenceがなく、このコホートで、さらに仕事のストレスや労働時間、不眠等の要因を加えてリスクの評価表を作成し、evidenceに基づく健康診断、保健指導への指標を作成していく。

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