データマイニングによる生活習慣病のリスクファクター発見とその改善効果に対する臨床的かつ医療経済的評価 (H14-医療-021)                    

文献情報

文献番号
200201287A
報告書区分
総括
研究課題名
データマイニングによる生活習慣病のリスクファクター発見とその改善効果に対する臨床的かつ医療経済的評価 (H14-医療-021)                    
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
福井 次矢(京都大学大学院 医学研究科 内科系 臨床疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 大石まり子(大石内科クリニック(国立京都病院WHO糖尿病協力センター))
  • 大生定義(横浜市民病院 神経内科)
  • 吉岡成人(北海道大学 医学部 第二内科)
  • 大田祥子(岡山中央病院)
  • 豊増佳子(聖路加看護大学 看護管理学)
  • 青木則明(School of Health Information Sciences、University of Texas Health Science Center - Houston)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康日本21では、国民の健康寿命の延長と生活の質の向上に向けて、生活習慣改善を国民の健康増進を達成するための目標の一つとしてあげている。しかし、現状では、患者のナレッジモデルに適合したエビデンスが少ない、個別化された生活習慣改善のための指針が少ない、などの問題点がある。本研究は、患者に分かりやすい言葉で表現された生活習慣改善のためのエビデンスや知識を創出するために、データマイニング的アプローチで、生活習慣病のリスクを発見し、その改善の効果を臨床的・医療経済的手法で包括的に評価することを目的とする。
研究方法
本研究は3年計画で、平成14年度は収集するデータ項目の決定とデータベースのプロトタイプの作成、試験的なデータ収集を行った。平成15年以降は、本格的なデータ収集と分析を行う。さらに、その結果に基づいた比較対象試験、費用効果分析、質的研究による生活習慣改善の有用性の包括的評価を行う。本年度は、以下の項目について研究を行った。
(1)文献検索
医学中央学会雑誌データベース、及び「厚生の指標」および「日本公衆衛生雑誌」の中から、
「生活」、「生活習慣」、「生活習慣病」をキーワードに検索した。
(2)フォーカスグループインタビュー
生活習慣病患者に関わっている医療従事者、実際に減量をする努力をしている肥満者、
および健常者のグループでミーティングを行い、生活習慣を構成する要因、生活習慣に
関連する要因、生活習慣病が悪化しやすい患者の特徴や、生活習慣病を引き起こさない
ための生活習慣について検討した。
(3)生活習慣に関わる因子に関する調査
生活習慣に関わると考えられる性格・行動変容・社会的支援・健康人生観・QOLについて、
過去に報告されている様々な尺度について、信頼性・妥当性を含め検討した。
(4)生活習慣の概念図の構築と生活習慣調査票作成
フォーカスグループインタビューの中で語られた内容及び文献検索の結果から、「生活
習慣」を表すための概念図を構築した。次に、概念図に表された各因子について、既存
の調査票の有無を確認し、信頼性・妥当性の評価がなされているかどうかについて調査
した
また、既存の調査票に含まれていない内容については、グループディスカッションで語
られた内容から質問を考案した。
(5)日々の生活行動調査計画
本研究の分析に必要な日々の生活行動データを収集するための方法、具体的なシステム
の設計について検討した。さらにシステム構築に関わるプライバシー・セキュリティ上
の課題を挙げ、その対策について検討した。
結果と考察
(1)平成14年度は収集する過去の文献検索とフォーカスグループ分析と、その結果に基づく生活習慣の概念モデルの構築を行った。
(2)文献検索の結果、生活習慣病の関連因子としては、食事や運動などの、日々繰り返される生活パターンや喫煙や飲酒、仕事や余暇のすごし方、身体的状況や種々の検査結果、身体状況などが上げられた。また、その他に行動様式に関わる自己効力感やストレス・コーピング、環境友人関係や健康情報へのアクセス、地域や文化なども影響があると考えられた。しかし、個人の生活習慣を細かくモニタした研究は少なく、その点に関しては工夫が必要と考えられた。例えば、今回調査した加速度計などは有望なツールと考え
られた。
(3)札幌、京都、岡山の3箇所で全く異なったフォーカスグループに調査を行ったが、肥満・糖尿病のリスクとなりえる生活習慣としては、基本的にはほぼ同じような結果が得られた。食事・運動といった生活習慣行動は糖代謝異常発現の大きな発症要因であるが、これらの行動は個人が意識して選んで行っているというよりは、種々の要因で規定されて起こる習慣化した行動と考えられた。行動を規定する要因として、個人的要因(性別、家族構成、職業など)と外的環境要因(地域性や友人関係など)、および個人の健康感・信念・意識・性格などの内的要因が挙げられた。飲酒・喫煙・嗜好品(ファーストフードレストランの利用、スナック菓子の多食)・睡眠・余暇の過ごし方・ストレスについては、相互に関係しており、とくにストレスと生活習慣病との関係が注目された。
(4)生活習慣を調査するためには、生活習慣そのものだけでなく、生活習慣に影響を及ぼす様々な要因の検討が必要であることが明らかとなった。生活習慣に影響を及ぼす要因として、個人的要因と社会・環境的要因があり、各々にいくつかの下位項目が存在する。また、生活の質を評価することは、現在の生活習慣の原因や結果に関連すると考え、生活習慣に関わる要因の中に別枠を設けて含めた。一方、生活習慣としては、一般的に定義されているように、食事、運動、飲酒、喫煙、仕事・余暇があがった。また、これら因子の組み合わせを考慮するために、1週間の生活パターンを生活習慣に含めるべきと考えられた。
(5)概念図に表された各因子について、既存の調査票の有無を確認し、信頼性・妥当性の評価がなされているかどうかについて調査した。また、既存の調査票に含まれていない内容については、グループディスカッションで語られた内容から質問を考案した。今後は、各々の因子について抽出された質問票および質問項目を組み合わせ、実行可能で我々の目的に応じた調査票を作成していく予定である。
(6)日々の生活行動は、生活行動表に従って、出来るだけ患者の言葉・物語を自然言語として記録する。1日の最後に食事や運動などの5項目について行動の評価をスコア化する。運動に関しては、身体反応を記録するための各種センサーを利用する。食事内容はデジタルカメラに記録し、栄養士によって予測カロリーなどを評価する。また、本研究では、日々のデータの入力・チェックのため、ウェブデータマネジメントシステムの構築が必要であり、十分にセキュリティを考慮する必要があるため、セキュリティの基準として米国で2003年4月に施行されるHIPAA法の基準に従ったセキュリティポリシーを策定した。
結論
本研究は3年計画で、平成14年度は収集する過去の文献検索とフォーカスグループ分析と、その結果に基づく生活習慣の概念モデルの構築を行った。また、概念モデルに従って、生活習慣をモニターするためのデータ項目の決定を行った。データ項目は、食・運動習慣だけではなく、生活様式に深く関わる生活のリズム、社会活動への参加、仕事上の変化、ストレスなどの日常生活上の細かな内容や、さらに家族環境や、健康や人生に対する観念などの要因も含めることになった。さらに、今年度はデータ収集システムの設計を行い、それに付随する問題点について検討した。平成15年以降は、データ収集システムの構築を行い、本格的なデータ収集とデータマイニングによる分析を行う。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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