Evidenceに基づく日本人脳出血患者の治療ガイドライン策定

文献情報

文献番号
200201285A
報告書区分
総括
研究課題名
Evidenceに基づく日本人脳出血患者の治療ガイドライン策定
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
篠原 幸人(東海大学医学部神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 井林雪郎(九州大学病態機能内科学助教授)
  • 石田暉(東海大学リハビリテーション科教授)
  • 神野哲夫(藤田保健衛生大学脳神経外科教授)
  • 小林祥泰(島根医科大学第3内科教授)
  • 松本昌泰(広島大学大学院脳神経内科学教授)
  • 森悦朗(兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室室長)
  • 永山正雄(東海大学神経内科講師)
  • 鈴木明文(秋田県立脳血管研究センター副病院長)
  • 棚橋紀夫(慶應義塾大学神経内科講師)
  • 内山真一郎(東京女子医科大学附属脳神経センター神経内科教授)
  • 山本勇夫(横浜市立大学脳神経外科教授)
  • 安井信之(秋田県立脳血管研究センター所長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
米国では1994年頃から、また英国でも2000年にEBMをかなり重視した詳細な優れた脳卒中診療ガイドラインが作成されたが、これらのガイドラインの内容は本邦の実情とはかけ離れたものであった。本邦と欧米を比べると、t-PAのように承認されている治療薬の相違、人種差、病型の相違があり、欧米のガイドラインをそのまま本邦に当てはめることはできない。特に脳血管障害の中でも脳梗塞に次いで多くかつ欧米に較べて本邦に多い脳出血については、米国AHAより1999年にガイドライン(Stroke 30:905-915, 1999)が出版されているものの本邦の従来の考えと全く異なっており、また本邦におけるいくつかの研究も殆ど考慮されていないまま発表がなされている。この点は比較的欧米と実情が一致する脳梗塞やクモ膜下出血とも大きく異なる点である。従って特に脳出血に関しては、本邦における詳細かつ豊富なエビデンスも十分考慮して、単なる欧米のガイドラインの邦訳ではなく本邦の実情に合った独自の治療ガイドラインの作成が急務であった。さらにガイドラインを作ることで、本邦に如何に十分なエビデンスが乏しいか、またその中でベストエビデンスは何かが分かると本邦の臨床研究の目標も明確になると考えられた。
研究方法
以上の趣旨に基づき脳卒中関連の5学会[日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会(脳卒中の外科学会)、日本神経学会、日本神経治療学会、日本リハビリテーション医学会]の代表者が平成12年10月に東京に集まり協議した結果、本邦独自のガイドライン作成の必要性について全員一致し、本主任研究者を委員長とした脳卒中合同ガイドライン委員会が組織された。同委員会の執行部は、委員長(本主任研究者)、副委員長3名(福内靖男足利赤十字病院院長、吉本高志東北大学脳神経外科教授、石神重信日本リハビリテーション医学会常任理事)、統計解析専門家として折笠秀樹富山医科薬科大学教授よりなる。同委員会は、脳梗塞・クモ膜下出血・脳出血・脳卒中一般を各々担当する4つの研究班より構成され(のちリハビリテーション班が独立)、かつ各々の領域についてガイドライン発表前後の内容修正・改訂のために委員長・副委員長・他2名からなるレビューワーが置かれた(総計、委員46名、実務担当者42名)。EBMに則ったガイドライン作成の手順は、1) 作成委員会の設置、2) 該当テーマについての現状評価と問題点の洗い出し・評価法の決定、3) 対象文献の検索、4) 入手した文献の批判的吟味、5) 各文献・項目に対するエビデンスのレベル付け(アブストラクトテーブルの作成)、6) 各項目・病型に対する勧告のグレード付け、7) 作成されたガイドラインの妥当性の評価、の順で行われた。各分担研究者には、該当テーマに関して約11万件以上の文献の批判的吟味をお願いし、別紙に示す規準に従って引用に価する文献ないし意見(1992年より2002年4月頃までの関係文献をMEDLINE、Cochrane Library、医学中央雑誌その他を利用して検索、その後の新しい文献は適宜追加)のレベルを決定し、その結果を統合して該当項目の治療リコメンデーション(推奨)の評
価を行った(III. 本委員会の分類を参照)。
(倫理面への配慮)
理論的なエビデンスやガイドラインだけではあるべき治療はできない。患者個人の人格・個性や医師の技量などを十分に考慮・加味し、且つ倫理面に慎重に配慮したガイドラインの作成を心掛ける。なお本研究はすでに報告されている情報を利用し、EBMに則って治療ガイドラインを作成するものであり、患者や医療従事者から情報を直接収集することはない。
結果と考察
研究結果
最終的に総計11万件以上の文献の批判的吟味が行われ、これに基づき推奨(リコメンデーション)、エビデンス、引用文献が各領域別に作成された(V. 資料を参照)。脳出血領域については、内科的・外科的・リハビリテーション的観点から病期に応じた治療ガイドライン案が作成された。作成にあたってはエビデンスのレベルを最も重視したが、本邦における脳出血診療体制、当該治療法の保険適用状況も勘案し、現状に即した治療ガイドラインとした。脳卒中一般領域については、まだ病型も決定しない超急性期例・病型不明例やstroke care unit、stroke unit、一次予防等が取り扱われた。
考察
本研究では、現時点で収集しうる限りの脳卒中とくに脳出血のエビデンスに基づいて治療ガイドラインを作成した。本研究成果の普及により、患者数が多く社会的にも極めて関心の高い脳出血の診療に従事するすべての人々が支援されうる。すなわち脳出血治療における質のばらつきの減少、治療成績の向上、また適格な手術適応例の決定をはじめとして、脳卒中を診療する専門医のみならず特に一般臨床医家への診療ガイドラインとしての効果が期待される。また本邦でも脳出血は手術すべきか否かについては議論のあるところであるが、本ガイドラインの作成は医療費の削減にもつながり得よう。これらEBMに基づく本ガイドラインを明確にし且つ更新していくことは、国民の医療・保健・福祉の向上に大きく貢献するのみならず、健康21をはじめとする厚生労働省の施策の妥当性・必要性を国民や財務省に示す意味でもきわめて重要な客観的資料となろう
結論
脳卒中関連の5学会を中心に組織され本主任研究者を委員長とした脳卒中合同ガイドライン委員会は、平成14年度医療技術評価総合研究事業「Evidenceに基づく日本人脳出血患者の治療ガイドライン策定」をはじめとした検討により脳卒中診療ガイドラインの作成を進めており、現在その成果は完成しつつある。しかし作成されたガイドラインは、現段階ではエビデンス集の域は脱しているものの、真のガイドラインと言うよりもsystematic reviewに近いものである。今後の研究では、systematic reviewから更に一歩進め、エビデンスがないものには現段階でこのようにしたら良いというリコメンデーションを全項目に加えた本当の意味でのガイドラインに迄進化させ、かつそれを各病型を同じ表現、同じレベルで示せるようにする。さらに完成した脳卒中診療ガイドラインの円滑なデータベース化を可能とすること、これを用いることによって脳卒中診療の質が本当によくなったのか否かを検証・評価することが本研究の今後の課題となる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)