医療安全に資する標準化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201277A
報告書区分
総括
研究課題名
医療安全に資する標準化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 すが(NTT東日本関東病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小西敏郎(NTT東日本関東病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療の質と患者サービスの向上に不可欠な医療安全体制の確保において、個人レベルの知識、技術、行動規範の向上が必要であるが、医療現場における業務は、随時発生することや多様な要求レベルを抱えた患者の存在に加え、オーダー発生から実行に至るまでには、多部門間・他職種間の正確な情報伝達、物品の速やかな供給、専門的技術の提供、確認作業、患者への説明と同意、実施後の観察による結果の評価など、そのプロセスは複雑多岐に渡っている。それらを安全に実行するためには、複雑性をいかに排除し、合理的で実行可能なシステム構築と運用体制の整備が不可欠である。本研究は、そうした業務システム標準化の取組みが有効に機能している「事例」を収集・分析することにより、医療事故予防や安全確保に関する管理組織、オーダー発生から実施に至る作業プロセスの標準化、ルールを統一し実行するためのマニュアルの有効性、品質維持と改善に必要な評価機構の必要性を明らかにするものである。今回の研究範囲は、医療事故防止に関する、①物品管理、②薬品管理、③治療経過管理、④情報管理、⑤患者安全管理など、多職種間・患者―医療者間の情報処理と伝達、人の物とのインターフェースなど、実行上のリスクに注目した業務システムを対象とした。
研究方法
医療安全に関する項目の中で、主として一般看護業務に関連性の深い項目として5領域を設定し、各施設が独自に取組んでいる標準化事例(マニュアル)の提供を依頼した。提供内容(マニュアル)そのものは各施設独自のものであり提供施設に一任したが、標準化にいたるプロセスを明らかにするため、マニュアル作成経緯を説明する質問項目を設定し事例とともに提供してもらった。具体的には、それぞれの「事例」の、①開発に取組む発端となった出来事、②マニュアルの達成目標、③開発組織(参加メンバー)、④開発方法(標準化ステップ)、⑤開発したツール(運用マニュアル、説明資料、評価表、付随する物品)、⑥運用方法(院内周知、啓蒙、教育、評価機構)、⑦評価(直接効果、波及効果、課題など)である。まとめは、1.マニュアル・患者指導パンフレット・スタッフ教育用教材などは標準化モデルとしてそのまま提示した。2.各事例の標準化のプロセスは、マニュアル開発や運用、リスク発生や防止に関連すると考えられる項目を、要素(キーワード)として抽出した。3.以上の結果を踏まえて、全体を事例集として収録した。
結果と考察
今回の研究では、9施設から33項目のマニュアルの提供を頂いた。その提供内容は、4領域に分類されるが、(1)患者の安全管理領域では、①患者誤認防止策3例、②患者転倒・転落防止策4例、④各種チューブ類の抜去防止策1例、④人工呼吸器の安全管理1例、薬剤誤注入防止策6例、(2)標準治療・看護計画の領域では、①救急外来診療1例、②術後の深部静脈血栓症防止策2例、③身体拘束管理1例、④パス使用による患者安全管理4例、(3)物品・薬品管理領域では、①救急カートの標準化2例、②輸血管理3例、③注入器操作1例、④与薬事故防止3例、(4)医療事故防止ガイドライン領域2例である。今回の研究では、開発過程はマニュアルの種類、目的、施設背景が多様であるため数量的分析はできなかったが、各マニュアル作成過程から注目すべき特性を抽出し、開発推進の方向性を探り、次の研究の課題とした。結果:マニュアル作成の発端は、注射の安全管理や転倒・転落防止では、インシデントやヒヤリハット報告による発生件数の把握が発端となっている。その中で薬剤注入誤認防止では、内容の多様性から確認行動を含めた業務フローの標準化の必要性を認識している。そして、指示受けから準備―実施―記録までの業務を
段階別に分類し、改善点を抽出してルール作りや医療者の確認行動の標準化・定着化を目標にマニュアル作成に取組んでいた。転倒転落防止では、インシデント報告数の推移や骨折など重大事故の発生がマニュアル作成の発端となっていた。しかし、転倒転落事故は患者個々の発生要因に依拠するため、①発生要因を査定し、リスク水準と要因に応じた予防策を適用する、②実際の事故に対し、看護者のリスクに対する認識度やケアとの関連性を評価するなど、発生要因と対策の関連性を明らかするアプローチがなされていた。一方、インシデントの発生件数は少なくても、医療事故発生の重要なサインと考え取組んでいるものは、患者誤認や人工呼吸器、チューブ管理などである。患者誤認では、誤認事故を教訓にフルネームでの患者確認やリストバンド導入に取組んでいる施設は多いが、従来の方法が機能しない場面や新システム導入を期に見直す取組みがなされていた。また、深部静脈血栓症防止などは、特定部署の研究的取組みが院内全体に認知されマニュアルとしての承認を受けている例である。また、クリティカルパスを活用した患者の安全管理では、入院中の急性期を対象としたものから、外来の患者指導に生かすなど患者指導やバリアンス分析、記録の活用など多様なツール開発の基盤となっていた。開発組織:各施設による医療安全管理体制で異なっていたが、分類すると、①医療安全管理委員会が主導し関連部門に委嘱する、②リスクマネージャーが主導する、③各部署が開発するなどである。参加メンバーは、医師、看護師、薬剤師、検査技師、ME、機能訓練士、MSW、事務、機器開発業者が参加していたが、これらは、インシデントや事故が多職種間の中で発生し、各職種間の取決めや専門的知識の活用が必要と判断されたためと考えられる。作成方法:業務のプロセス分析と発生事故の要因を特定して作成に取組んでいた。しかし、今回、開発されたツール(マニュアル・リスクアセスメント用具、患者指導パンフレット、自己点検表、職員教育用ツール)の評価については、発生件数の減少は感じているものの、結果のデータ収集・分析は十分ではなく、有効性の分析までは至っていない。
結論
この研究は、事例を集め紹介する初歩的なものであるが、マニュアル開発効果としては、施設における①医療安全に対する感受性と行動力を向上させる、②施設全体の協働と教育的機能を向上させている。今後は、事例やマニュアル開発プロセスを基盤として、標準化に向けて多施設・他職種間で情報交換し、専門的な分析ツールの活用によって、精度の高い科学的な根拠に基づいたマニュアル作成方法の開発に取組む必要がある。

公開日・更新日

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