医療及び療養環境で使われる諸物品の安全性の問題についての研究

文献情報

文献番号
200201270A
報告書区分
総括
研究課題名
医療及び療養環境で使われる諸物品の安全性の問題についての研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
三宅 祥三(武蔵野赤十字病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2002年4月に厚生労働省が取りまとめた「医療安全推進総合対策」で、療養に用いられる物品の安全管理についても指摘された。ここで、ベッド、車椅子、点滴台、オーバベッドテーブル、ポータブルトイレなど医療器具として認められていない多くの物品が医療、看護、介護、リハビリテーションでは使われている。これらの物品に関係する重大な患者障害事故も報告されている。これらの物品の安全性は、従来一つの盲点になってきた。これらの物品の危険性を検証し、その安全性を高めるべく改善と注意喚起を図ることで、より安全な療養環境を整備していくことを目的として研究を進める。また医療機関内部での毒劇物の扱い方の実態についても合わせて調査し、その安全管理の方法について検討して患者療養環境の安全性の向上に役立てたい。
研究方法
療養に用いる物品については、5つの急性期病院と1つの老人保健施設に対してアンケート調査と聞き取り調査を行った。毒劇物については5つの急性期病院でアンケート調査をした。いずれも調査結果を分析、研究した。
結果と考察
〔療養に用いる物品〕1.5つの急性期病院と1つの老人保健施設で過去の物品のインシデント・アクシデント(事故)の事例を収集した。対象物品はベッド類テーブル類、車いす、点滴スタンド、ポータブルトイレ、入浴関連のものである。事例は全部で109件であった。物品によって、発生しているインシデント・事故の種類にばらつきが見られた。また、その結果についても、患者に被害のなかったものから、死亡に至ったものまである。そのうち、ベッドは患者の死亡事故や骨折という重大な結果を引き起こしており、さらに転倒・転落も多い。オーバーベッドテーブルについては、不安定でテーブルそのものが倒れる等という事例が多い。点滴スタンドは、移動時と固定時で発生しているインシデント・事故が異なっている。移動時に患者が転落・転倒する等の例が発生している。ポータブルトイレは、大きな怪我の例はないが、転倒したり、ずり落ちたりしている例がある。車椅子は転倒・転落、挟まる、ずり落ちるなどのインシデント・事故が発生しやすい。1.実態調査で明らかになったインシデント・事故の原因と傾向:これらのインシデント・事故は患者の状態に由来するもの、物品に由来するもから院内の環境にいたるまで、複合的な原因となっている。患者を取り巻く環境を中心に、問題点を考えると以下のように整理できる。①患者の状態:ベッド、車椅子、ポータブルトイレ等は、体型、年齢(子供、大人、高齢者)、意識レベルの低下(不穏、痴呆、理解力低下)、病状(麻痺、浮腫)など。②看護職の未確認等:看護職が未確認のまま物品を操作して事故(骨折、表皮剥離)が起きている。③物品の機能・特定部位の機能:インシデントの中には、物品本来の機能に由来しているもの(点滴スタンドのフックが引っかかる)あるいは利用方法が過去と変化したことに由来するもの(点滴スタンドに輸液ポンプの装着、車椅子に点滴スタンドと酸素ボンベの装着)、一部の部位の機能が高度化(機能が高度したベッドの操作で転倒、柵に挟まる)、利便性の向上が図られたためにインシデントが発生している例がある。物品の機能に由来するものは、周囲の環境との整合性を考えて、周囲の環境を作り変えていく必要がある。④物品の組み合わせ:単体の物品では、安全でも、療養環境で複数の物品が組み合わされてインシデントが発生する例がある(ベッド柵とマット、ベッド柵とマットレス、ベッドとオーバーテーブル、点滴スタンドとオーバーベッドテーブル)2.物品に関する安全対策の問題点:実態調査で明らかになったようなインシデント・事故について、物品の一部を改善することは、
医療現場の工夫によって行われているものの、医療機関や行政、メーカーの協力による医療及び療養環境における安全対策は図られてこなかった。このような安全対策の取り組みが遅れてきた理由とし、第一に医療機関の特殊性、第二に報告連絡システムの不在がある。(1)医療機関の特殊性 ①医療機関における看護の対象者とケアの方法:医療機関は年齢・状態等、多様な患者を抱えており、患者の状態と物品との整合性の問題がある。さらに介護施設と比較すると、患者を可能な限り動かす方針であり、物品も移動を前提として配置されている。しかし、急性期病院でも、全体に患者は高齢化しているために、可動性の物品でのインシデントが発生している。この背景には移動を前提に開発・製造された物品と、患者の実態との間に齟齬が起きている。②インシデント・事故の原因を自己に求める習慣:物品のインシデント・事故について、自分の責任とする傾向があり、物品そのものや、物品が使われている総合的な環境に関心を向けることが少ない。看護・介護職の習慣として、現場にあるものを活用することが重要視されてきて、現場そのものを変えるという行動が少なかった。そのため、物品に改善の余地があっても、その情報を製造者側に伝えることに慣れていない。③安全性の観点からの物品の購入:医療機関では、改良された物品が出回っても、財政的な問題で買い替えが進まない状況もある。(2)報告連絡システム①メーカーと医療現場の情報格差:医療現場にはメーカーによる安全対策の状況、メーカーには医療現場の物品の利用実態や、改善に対するニーズが伝わっていないという情報格差がインシデント・事故を招いている。本調査で、患者がベッド柵に首が挟まって死亡した例では、ベッド柵のすき間は70ミリの製品であった。このメーカーの製品で過去にも類似の事故が発生しており、安全性を高めるため、現在は50ミリのすき間の製品を販売している。しかし、この情報は医療現場には伝えられず、安全性の高い製品に変更していなかった。メーカーは安全性向上のために、インシデント・事故の詳細な情報が必要である。従来、事故発生時にメーカーが現場に立入ることを拒否されることが多く、メーカーは発生状況の「推定」で製品を改善してきたという事情もある。医療機関がインシデント・事故の発生情報を積極的に公開し、その原因解明にメーカーと協力して取り組むことも必要である。②利用者の意見を聞く機会の不足:物品の利用者は、患者と患者をケアーする看護職である。その両者からメーカーが情報を入手できていないことが、用具の改善につながらない一因である。特定のメーカーが市場を独占しているに近い現状も製品改善が進まない一因でもある。③他の医療機関との情報交換の機会の不足:看護職等が他の医療機関との情報交換の機会がないことも、安全対策を遅らせる要因となっている。④物品に関する苦情、改善策等の情報の組織的発信・相談窓口の不在:物品の安全性の問題や使い勝手の向上について、情報の発信が組織として行われないこと、又受け付け窓口となる団体の不在が、医療機関とメーカーの情報の流通がうまく機能しない一因にもなっている。苦情等について、情報を受け付けた後、中立的な立場からメーカーに改善の要求を行える機関が存在しないことも、製品の改良を遅らせる要因である。〔毒劇物〕1.調査対象:5つの急性期病院の病棟、外来にアンケートを163枚配布、有効回答136(83.4%)。136部署のうち、毒劇物を扱っている部署は94部署。2.病院内での管理体制:1)毒劇物管理マニュアルの有無と毒劇物管理責任者の設置。①毒劇物管理マニュアルを有する病院は3施設。②管理責任者:薬剤部、検査部等の毒劇物を管轄する部署での責任者を置いている施設が3施設。これらの施設にはマニュアルがある。3.病棟・外来で使用している毒劇物。1)使用している物質:アジ化ナトリユウム(毒物)1施設、ホルマリン(劇物)5施設、パラホルムアルデヒド(劇物)2施設、塩酸(劇物)5施設、トルエン(劇物)5施設、水酸化ナトリウム(劇物)1施設。2)アジ化ナトリウムを使用しているのは1施
設のみで、蓄尿検査の防腐剤として使用。他の施設では同じ検査項目に、防腐剤として炭酸ナトリユウムを使用。3)毒劇物の形状:アジ化ナトリユムを使ってい病院では、水溶液で使用。4)毒劇物の使用目的は防腐剤と消毒剤。5)各毒劇物の使用頻度:使用頻度の多かったのはホルマリン(81件)、塩酸(20件)、トルエン(16件)。(6)使用方法及び管理方法。1)毒劇物の請求と受領には大きく分けて2つのシステムがあった。①使うときに検査部に取りに行く。②常備分が不足したら検査部等に請求してとりに行く。請求受領の際に伝票を用いている施設と用いていない施設とがある。量的管理が不十分である。3)表示:病院の容器に移されると名称のみの記載で、「医療用外(毒)劇物」の表示と取り扱い上の注意の記入がないものが多い。4)保管場所はナースステーション内や処置室であり、薬品と近い場所のこともあった。鍵付きの保管場所や専用の保管場所のある所は少なかった。5)容器の移し替え:毒劇物の使用に際して、小さい容器に移し替えていることが多く、多くは看護師が行い、中には移し変えに注射器を使用している例もある。
結論
〔療養に用いる物品〕物品の安全性の向上について、医療従事者、とメーカー、業界団体、と行政機関の3者が対等に情報交換できる中立的な場の常設が必要である。利用者の声がメーカーに届き、より安全な製品の開発に繋がると考えられる。〔毒劇物〕毒劇物の管理体制については、管理責任者の決定、施設内での取り扱い規定を定める。使用頻度の低いの物は中央管理が望ましい。毒劇物についての教育の徹底。小分けした毒劇物に使用する容器や表示を統一して識別しやすくする。現在使われている毒劇物の必要性について再検討が必要である。

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