Mass Gatheringにおける集団災害医療対応の一環としての医療搬送用ヘリコプター配置に関する研究

文献情報

文献番号
200201262A
報告書区分
総括
研究課題名
Mass Gatheringにおける集団災害医療対応の一環としての医療搬送用ヘリコプター配置に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小井土 雄一(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山本保博(日本医科大学)
  • 杉山貢(横浜市立大学)
  • 吉岡敏治(大阪府立病院)
  • 浅井康文(札幌医科大学)
  • 石井昇(神戸大学)
  • 杉本勝彦(昭和大学)
  • 小井土雄一(日本医科大学)
  • 勝見敦(武蔵野赤十字病院)
  • 森村尚登(国立横浜病院)
  • 布施明(川口市立医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
われわれはこれまでMass gatheringにおける集団災害医療対応の構築を、2002年FIFAワールドカップ大会(以下WC大会)を題材に研究を進め、その研究成果の中でWC大会における集団災害医療計画作成のためのガイドラインおよびマニュアルを作成しWC大会開催関係諸機関に提示して、また開催関係諸機関を集めセミナー等を行いWC大会における集団災害医療対応の構築の必要性を提言してきた。その活動の成果により10ケ所の開催地の地方自治体は程度の差はあれ何かしらの集団災害医療対応が敷かれた。
集団災害対応構築にとってトリアージ、応急処置、搬送が3本柱になることは言う間でもないが、その中でも搬送は時間的制約をもっとも受け、個々の重症傷病者の救命に最も関与すると考えられる。因って、搬送手段、搬送先に関しては事前の充分な検討が必要である。集団災害発生時の重傷患者の救命を考えた場合、トランスポーテーションは迅速かつ分散搬送が可能でなくてはならない。この条件を満たすには医療搬送用ヘリコプター配置は欠くことができない。そこで、本研究の目的は、パイロットスタディー的に、WC大会中本邦で行われる11試合に対して、スタジアムに近隣に医療搬送用ヘリコプターを駐機させることを試み、解決すべき諸問題を抽出・研究し、今後のMass-gatheringにおける集団災害医療対応の一環としての医療搬送用ヘリコプター配置の有用性と可能性につき検討する。
研究方法
一旦集団災害が起きれば、陸路搬送が平常時と同等に行えるとは考えにくい。また、陸路搬送では、自ずと重症患者が災害発生場所周辺の医療施設に集中してしまう。迅速搬送および分散搬送の観点からは、空路、それもヘリコプターの活用が最も理想的である。しかし、通常は災害時に急にヘリコプター搬送が必要となっても、臨時ヘリポートの設営、要請法の煩雑さを始めとする様々な問題に行き当たり、思うようには活用出来ないのが現実である。一方、WC大会のようなMass gatheringにおいては開催日時が決まっており、事前にすべてを準備することが可能である。
災害拠点病院は災害時には搬送拠点となることが定められ、その為の臨時ヘリポートの設置が義務付けられているが、スタジアムに臨時ヘリポートを設置することにより、このネットワークは最大限に生かされると思われる。スタジアムにヘリポートを設営しておけば、待機させたヘリコプターだけでなく、応援ヘリコプターによる複数のヘリコプターがスタジアムヘリポートを中心に、搬送の拠点とすることができる。本来ある災害基幹病院を中心とした広域搬送のネットにアクセスすることができ、多数重症患者の救命に必要と言われている短時間の間の分散搬送が可能となると思われる。
しかしながら、重症者を被災地外へより早く搬送するにはヘリコプター搬送が有効であるが、ヘリコプター搬送にもその適応と問題点があることを充分認識しておかなければならない。本研究では、スタジアムにおけるヘリポート設置、へり待機にかかわる以下の問題を検討することを目的とする。
1)ヘリポートの確保に関して
2)医療搬送用ヘリコプター(ドクターヘリ使用)の確保に関して
3)医療搬送用ヘリコプターの医療スタッフの確保に関して
4)医療搬送用ヘリコプター搬送の適応に関して
5)医療搬送用ヘリコプター搬送の有用性に関して
6)搬送先医療施設のネットワーク構築に関して
7)夜間運行の安全性確保に関して
8)事後評価に関して
結果と考察
重症者を被災地外へより早く搬送するにはヘリコプター搬送が有効であるが、ヘリコプター搬送にもその適応と問題点があることを充分認識しておかなければならない。本研究では、スタジアムにおけるヘリポート設置、へり待機にかかわる以下の問題を検討した。
1)ヘリポートの確保に関して
スタジアム周辺にヘリポートの設置基準に準じたヘリポートの確保、あるいは飛行場外離着陸場の確保が可能か研究した。今回のWCにおいては、当初の予定では、スタジアム周囲に臨時ヘリポートを設置し、ヘリコプターも待機させる予定であったが、準備期間が短く開催までの時間も間近であったため、JAWOC、自治体WC推進委員会および消防機関はすでに準備体制を整えた後であり、新規にヘリポートを設置、駐機させることは困難であった。また、臨時ヘリポートは、あくまでも緊急離発着のヘリポートであり、駐機はさせてはいけないという法規も壁になった。今後はドクターヘリに関しては規制緩和も必要と考える。
2)医療搬送用ヘリコプター(ドクターヘリ使用)の確保に関して
民間航空の医療搬送用ヘリコプターの使用、既存のドクターヘリの使用、消防ヘリコプターの使用、災害ヘリコプターの使用を検討した。ドクターヘリを配置するには、高額の費用が必要であった。札幌、鹿島に関しては、既存のドクターヘリを流用することによりコスト削減が出来た。
3)医療搬送用ヘリコプターの医療スタッフの確保に関して
救急医療と航空医療の知識と技術をもったスタッフのリクルート、スタッフの教育に関する検討を行った。ほとんどの開催地では、集団災害医療対応を担った医療機関からドクターヘリの待機医師が派遣され、スタッフの質の確保が可能であった。
4)医療搬送用ヘリコプター搬送の適応に関して
集団災害時傷病者においては搬送の適応と優先順位に関して検討した。多くの開催地では、重傷者の搬送順位を決めていた。搬送手段として、ドクターヘリか救急車かは、搬送先を考慮して決められていた。
5)医療搬送用ヘリコプター搬送の有用性に関して
机上シミュレーションを行い医療搬送用ヘリコプターの迅速性、分散搬送能力を検証した。多数重症患者では、迅速広域分散搬送が理想であるので、ヘリコプターによる搬送の効率性を検討するため、決断分析(decision analysis)と地理情報システム(GIS: geographic information system)によるシミュレーションを行った。ヘリコプターの搬送の方が救命率が高いという結果が得られた。
6)搬送先医療施設のネットワーク構築に関して
重傷患者を迅速に分散して搬送するには、事前の救命対応病院のネットワーク作りが必要である。災害拠点病院は災害時には搬送拠点となることが定められ、その為の臨時ヘリポートの設置が義務付けられているが、スタジアムに臨時ヘリポートを設置することにより、このネットワークは最大限に生かされたと考える。
7)夜間運行の安全性確保に関して
試合は日没後行われる場合が多くヘリポートの夜間照明が必要となる。また夜間同空域を複数のヘリコプターが飛行する可能性があり、効果的な搬送と飛行の安全性を確保するために調整機関が必要となる。複数ヘリコプターの運行の調整に関して検討した。ドクターヘリを配置した11試合中、10試合が日没後の試合であった。そのため、臨時ヘリポートの照明が必要になった。開催地によっては、防災へりおよびドクターヘリが待機し、複数ヘリコプターの運用が準備されたが、調整は防災基地によってなされた。
8)事後評価に関して
今回は実際の運行がなく評価できなかった。
結論
一旦集団災害が起きれば、陸路搬送は平常時と同等に行えない。また、陸路搬送では、自ずと重症患者が災害発生場所周辺の医療施設に集中してしまう。迅速および分散搬送の観点からは、空路、それもヘリコプターの活用が最も理想的である。しかし、通常は災害時に急にヘリコプター搬送が必要となっても、臨時ヘリポートの設営、要請法の煩雑さを始めとする様々な問題に行き当たり、思うようには活用出来ないのが現実である。一方、WC大会のようなMass gatheringにおいては開催日時が決まっており、事前にすべてを準備することが可能であった。今回研究班としてドクターヘリを配備したのは11試合であっが、この研究班がヘリ搬送の重要性を啓発したこともあり、残りの21試合においても、災害ヘリコプター、消防ヘリコプターあるいは自衛隊ヘリコプターによるヘリコプター搬送が、災害時患者搬送計画に盛り込まれた。
災害拠点病院は災害時には搬送拠点となることが定められ、その為の臨時ヘリポートの設置が義務付けられているが、スタジアムに臨時ヘリポートを設置することにより、このネットワークは最大限に生かされたと考える。
机上シミュレーションによる集団災害時の重症患者搬送の検討でも、救急車搬送に較べヘリコプター搬送は有用性が認められた。
今後、如何なるMass ミgatheringのイベントに、どのような基準でドクターヘリの配備を考えていくかという課題があるが、コスト等の実際面を考えると、現在行われているドクターヘリ事業推進を推進していくのが現実的であり、これらの延長線上でMass ミgathering時の災害対応準備も可能であると考える。

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