文献情報
文献番号
200201258A
報告書区分
総括
研究課題名
救急救命士による特定行為の再検討に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
平澤 博之(千葉大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成3年より救急救命士制度が導入されて以来,救急救命士による特定行為として心肺機能停止状態の事例に対し医師の指示のもとで,1)半自動式除細動器による電気的除細動,2)乳酸化リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液,3)ラリンゲルマスクまたは食道閉鎖式エアウェイ使用による気道確保がなされてきた.しかしながら救急救命士制度が導入されて以来10年以上が経過しているにも拘らず心肺停止事例での救命率は向上せず,救急救命士による特定行為の見直しが必要となってきている.これらの背景を踏まえた上で「救急救命士の業務のあり方に関する検討会」が結成され,その中間報告(平成14年7月)によると,救急救命士の業務拡大を行っていく上ではメディカルコントロール(MC)体制の確立が前提であり,救急救命士の業務の適正化と向上を図る為の教育,研修,事後検証が行える体制の整備が必要であるとの結論に至った.
本研究においては,MC体制の構築を前提に,気管挿管による気道確保等,救急救命士による特定行為の内容拡大についてこれらの行為の必要性や安全性を医学的に再検討し,さらにこれらの行為が救急救命士によって有効にかつ安全に実施するための諸課題等の提起および解決を目的とした.
本研究においては,MC体制の構築を前提に,気管挿管による気道確保等,救急救命士による特定行為の内容拡大についてこれらの行為の必要性や安全性を医学的に再検討し,さらにこれらの行為が救急救命士によって有効にかつ安全に実施するための諸課題等の提起および解決を目的とした.
研究方法
救急救命士による特定行為の内容拡大の項目として,心肺機能停止事例に対する気管挿管による気道確保,および薬物投与の2項目につき医学的に検討した.
気管挿管については,主任研究者以下10名の研究協力者でグループを構成し,現行の救急救命士が気管挿管を有効かつ安全に実施する為に新たに必要とされる医学的内容を含めた教育,研修カリキュラムおよび事後検証方法のプロトコールを作成した.さらにドクターカー対象事例の実証分析等を踏まえ気管挿管の適応・禁忌事例等を医学的に検討し,心肺停止事例における気管挿管のプロトコールを作成した.
薬剤投与については主任研究者以下,関係学会(日本救急医学会,日本麻酔科学会,日本臨床救急医学会,日本蘇生学会)代表者10名の研究協力者でグループを構成し,心肺停止事例における救急救命士による薬剤投与の適否や認める場合の主要条件に関して検証し,さらに救急救命士に薬剤投与を認める場合の薬剤の種類,用法,用量等の標準化について検討した.
気管挿管については,主任研究者以下10名の研究協力者でグループを構成し,現行の救急救命士が気管挿管を有効かつ安全に実施する為に新たに必要とされる医学的内容を含めた教育,研修カリキュラムおよび事後検証方法のプロトコールを作成した.さらにドクターカー対象事例の実証分析等を踏まえ気管挿管の適応・禁忌事例等を医学的に検討し,心肺停止事例における気管挿管のプロトコールを作成した.
薬剤投与については主任研究者以下,関係学会(日本救急医学会,日本麻酔科学会,日本臨床救急医学会,日本蘇生学会)代表者10名の研究協力者でグループを構成し,心肺停止事例における救急救命士による薬剤投与の適否や認める場合の主要条件に関して検証し,さらに救急救命士に薬剤投与を認める場合の薬剤の種類,用法,用量等の標準化について検討した.
結果と考察
1)気管挿管について
気管挿管については院外心肺機能停止事例全体の救命率向上に寄与するとの根拠は得られていない.しかしながら気管挿管でなければ気道確保が困難な事例も一部存在することから,医師の具体的指示に基づき救急救命士が気管挿管を実施することを限定的に認める必要があるとの結論に至った.気管挿管実施が可能となる為の救急救命士に要求される具体的な条件として,資格取得以来3年以上の実務経験者のうち,気管挿管に関する62時間の追加講習を受講後,病院内で30症例の気管挿管実習を修了することが挙げられた.気管挿管がこれまでの特定行為とは異なり危険を伴う医療行為の範疇に含まれることから,講習追加カリキュラムの中には気管挿管に関する技術面だけでなく,気管挿管実施に伴う社会的倫理的側面を含めた内容を追加した.病院実習は麻酔専門医指導下での事前にインフォームドコンセントを得た全身麻酔症例とした.また,全ての院外心肺停止事例において気管挿管が適応となるのではなく,異物等による窒息の事例等が限定的に気管挿管の適応病態として挙げられた.さらに救急救命士が実際の救急救命士現場で気管挿管を安全に実施する為には,事後検証,再教育を含めたMC体制の構築や事故・訴訟発生に対する体制整備も必要であると考えられた.
2)薬剤投与について
救急救命士に薬剤投与を認めることの適否については関係学会等による検討を行った結果,文献検索等による心肺蘇生時の薬剤投与(エピネフリン,アトロピン,リドカイン)の有効性を示す明確な根拠が見当たらなかったこと,高度の医学的な判断を要する行為であること等を理由として否定的な意見が多かった.一方,EBMが確立される以前から普遍的に使用されているエピネフリンに関しては一定の効果を期待できることを踏まえ,必要な教育を受けた救急救命士に対しMC体制下で医師の具体的指示が確実になされることを限定にエピネフリンの使用については認めても良いとの意見があった.これらのことを踏まえれば,救急救命士に薬剤投与を認めることについて直ちに結論を得ることは困難であり,院外心肺停止事例における薬剤投与の有効性・安全性をドクターカー等において研究・検証し,かつ各地域のMC体制の整備状況およびその質の評価について検証する必要があると考えられた.
気管挿管については院外心肺機能停止事例全体の救命率向上に寄与するとの根拠は得られていない.しかしながら気管挿管でなければ気道確保が困難な事例も一部存在することから,医師の具体的指示に基づき救急救命士が気管挿管を実施することを限定的に認める必要があるとの結論に至った.気管挿管実施が可能となる為の救急救命士に要求される具体的な条件として,資格取得以来3年以上の実務経験者のうち,気管挿管に関する62時間の追加講習を受講後,病院内で30症例の気管挿管実習を修了することが挙げられた.気管挿管がこれまでの特定行為とは異なり危険を伴う医療行為の範疇に含まれることから,講習追加カリキュラムの中には気管挿管に関する技術面だけでなく,気管挿管実施に伴う社会的倫理的側面を含めた内容を追加した.病院実習は麻酔専門医指導下での事前にインフォームドコンセントを得た全身麻酔症例とした.また,全ての院外心肺停止事例において気管挿管が適応となるのではなく,異物等による窒息の事例等が限定的に気管挿管の適応病態として挙げられた.さらに救急救命士が実際の救急救命士現場で気管挿管を安全に実施する為には,事後検証,再教育を含めたMC体制の構築や事故・訴訟発生に対する体制整備も必要であると考えられた.
2)薬剤投与について
救急救命士に薬剤投与を認めることの適否については関係学会等による検討を行った結果,文献検索等による心肺蘇生時の薬剤投与(エピネフリン,アトロピン,リドカイン)の有効性を示す明確な根拠が見当たらなかったこと,高度の医学的な判断を要する行為であること等を理由として否定的な意見が多かった.一方,EBMが確立される以前から普遍的に使用されているエピネフリンに関しては一定の効果を期待できることを踏まえ,必要な教育を受けた救急救命士に対しMC体制下で医師の具体的指示が確実になされることを限定にエピネフリンの使用については認めても良いとの意見があった.これらのことを踏まえれば,救急救命士に薬剤投与を認めることについて直ちに結論を得ることは困難であり,院外心肺停止事例における薬剤投与の有効性・安全性をドクターカー等において研究・検証し,かつ各地域のMC体制の整備状況およびその質の評価について検証する必要があると考えられた.
結論
救急救命士による特定行為の再検討項目として,院外心肺停止事例に対する気管挿管による気道確保および薬物投与の必要性や安全性について検討した.救急救命士が適切に気管挿管を実施する為には,まず3年以上の実務経験を有する等の一定の基準を満たした救急救命士が,一定の追加講習,および病院実習を受講することが最低限必要であり,実際の気管挿管が適応となる病態についても全ての院外心肺機能停止傷病者とするわけではなく,気管挿管がより有効でかつ気管挿管による有害事象が発生する懸念がない事例に限定する必要があった.さらに各地域においてのMC体制の充実化も重要であり,事後検証,再教育,事故対策等の項目についても一定の試案を作成したものの、今後も引き続き検討する必要があるとの結論に至った.
救急救命士による薬剤投与に関しては,院外心肺停止事例における院外での薬剤投与の有効性や安全性についての科学的根拠が存在しない為,国内におけるドクターカー等における薬剤投与の有効性や安全性 について検討することが前提であり,その検討結果を踏まえた上で,院外心肺停止事例における救急救命士による薬物投与の有効性や安全性について再度検討する必要があるとの結論に至った.
救急救命士による薬剤投与に関しては,院外心肺停止事例における院外での薬剤投与の有効性や安全性についての科学的根拠が存在しない為,国内におけるドクターカー等における薬剤投与の有効性や安全性 について検討することが前提であり,その検討結果を踏まえた上で,院外心肺停止事例における救急救命士による薬物投与の有効性や安全性について再度検討する必要があるとの結論に至った.
公開日・更新日
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