患者の利便性・情報セキュリティを考慮した医療情報システム

文献情報

文献番号
200201255A
報告書区分
総括
研究課題名
患者の利便性・情報セキュリティを考慮した医療情報システム
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小松 尚久(早稲田大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,017,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の医療現場において、情報電子化の動きが盛んになっている。これまでは紙を媒体としてやりとりされていた情報を電子化し、事務作業の効率化を図るのが主な目的であり、電子化された情報を体系化することで情報システムを構築する病院も増加している。しかし、現在の電子カルテを中心とする医療情報システムは、単に紙ベースで行なわれている情報の記録をデジタル化したに過ぎず、そのシステムの目的が論じられないまま構築されている。それゆえ、医療現場ごとで電子化のフォーマットが異なり、情報の共有化が未だ遅々として進んでいないのが現状である。
また、医療費負担コスト意識の高まり、治療方法の選択、医療機関・医師の選択などというように、医療サービスに参加する患者の姿勢が積極的になってきている。このため、医療機関は患者満足の向上を図る必要があり、情報共有による医療情報システムの構築は、その一助となるものである。患者満足向上ためには患者が主体的に、自己責任において受療できることが望まれる。そのためには、患者が医療情報システムに自由にアクセスでき、そこから自由に病院を選択できることが必要である。このフリーアクセス・フリーチョイスを達成することが、患者満足の向上につながるということができる。
しかし現在の状況では医療機関および患者の双方に有益な医療情報システムが確立されておらず、そのためフリーアクセス・フリーチョイスが達成されていない。また電子化された医療情報が有機的に活用されていないという現状がある。原因としては自分の病状や病院の質、カルテ内容など様々な情報が不足していて、フリーアクセス・フリーチョイスを行なうための判断材料および環境が整っていないことが考えられる。これを打破することで膨大な情報システム投資の採算性向上と、患者のフリーアクセス・フリーチョイスを実現することが可能となる。
そこで本研究では、病歴、薬歴および医師からの診断情報を患者が所有することにより、フリーアクセス・フリーチョイスを可能にする医療システムを構築する。医療機関だけでなく、患者に対してもインタビューを行なうことによってフリーアクセス・フリーチョイスのための医療情報システムの在り方を検討し、またその際に必然的に起こるであろうセキュリティの問題に対して、個人情報のプライバシーと情報共有化の利便性のトレードオフを患者がどのように考えているかを分析し、その補完を図るものとする。
研究方法
まず始めに、医療情報システムの現状分析として、現在までに構築されている医療情報システムについて、主に国内の事例を中心に調査・分析する。医療情報システムに対しては院内情報システムと地域医療ネットワークに区別して取り扱うこととする。ここで医療情報システムの現状を分析することで、本研究の手がかりとする。
次に、医療情報に対する患者の意識調査として、現状の医療情報システムを踏まえて、患者が医療情報に対してどのような意識をもっているかを調べる。ここでは、患者のフリーアクセス・フリーチョイスが達成された場合、患者はどのような情報を求めているのかということに注目し、重点的にアンケート調査を行なう。このアンケート結果に対して分析し、患者の医療情報に対する考えを明らかにする。
その次に、医療情報のセキュリティ問題に関する整理とバイオメトリクス認証技術の有効性の検討を行なう。個人の医療情報をネットワークで共有化した場合、情報漏えいなどの危険性が生ずる。これを解決しなければ地域医療ネットワークは構築できないことから、医療情報のセキュリティに対する問題をここで整理する。また、最近注目を集めるバイオメトリクス認証技術についてまとめ、この有効性を検討する。
最後に、患者の利便性と個人情報セキュリティを両立させる医療情報システムのフレームワークを提案する。現状の医療情報システムと患者が求める情報から、新しい医療情報システムはどのような方向性が望ましいかを考える。また、情報共有化の利便性と個人情報セキュリティを両立させるためのアンケート調査を行ない、分析する。分析は支持率の検定・クロス集計・因子分析によって行なう。この分析結果を踏まえて、情報セキュリティ問題をクリアした新しい医療情報システムを提案する。
結果と考察
現状の医療情報システムは、院内情報システムに対しては十分な構築が進んでいることが分かった。しかし、地域医療ネットワークの構築は未だ進んでいないのが現状である。特に、フリーアクセス・フリーチョイスの概念は決定的に欠如しており、患者満足の向上という重要な目的は達成されていない。
また、患者が求めている情報は、特にその病院ではどのような診療が受けられるか、その医師はどのような診察ができるのか、ということが分かった。このことから、患者は医療機関に対して診療というサービスをもっとも期待しているといえる。また、その他の情報の優先順位も明らかになったため、効率よく地域医療ネットワークに共有する情報を準備できる。
地域医療ネットワーク構築の際に問題になる情報セキュリティ問題は、患者プライバシーという機密性の高い情報を扱うため、非常に難しい。現在注目を集めるバイオメトリクス認証技術にも欠点があり、情報漏えいの危険性は回避できないことが分かった。このため、患者個人情報をネットワークで共有するのは危険であることから、本研究においてはバイオメトリクス認証技術を利用するのではなく、患者の利便性と情報セキュリティを比較し、情報セキュリティよりも利便性を重視するような情報のみを共有することを考える。
またアンケート調査によって、患者は健康診断の項目は個人管理、検査歴・投薬歴は地域管理もしくは個人管理、病歴はどれともいえないことが分かった。このことにより、地域医療ネットワークで共有できる可能性がある情報は検査歴・投薬歴であることが分かった。また、健康診断の項目はICカードなどで個人管理した方がよいことが分かった。
本研究の提案する地域医療ネットワークとしては、院内情報システムが完成した病院同士をネットワークによって連携させた病院間連携システムと、自己診断システムを融合させたものを提案した。自己診断システムによって患者は自分の症状を知ることができ、その症状に合致した病院を地域医療ネットワークから選択することが可能となる。これによって、患者はフリーアクセス・フリーチョイスを達成することができると考えられる。
結論
医療情報電子化の動きが盛んになる中、紙媒体から電子カルテへの動きが活発になってきているが、未だ患者視点に立った医療情報システムの構築は未だ遅れている。このような現状の中、本研究においては患者視点というものを最重要事項として捉え、従来の医療従事者の効率向上のための医事システムとは一線を画した医療情報システムの提案を行なった。
本研究ではフリーアクセス・フリーチョイスという新しい概念を導入し、患者視点に立った患者満足向上のための医療情報システムを提案した。フリーアクセス・フリーチョイスとは、患者が医療情報システムに自由にアクセスでき、そこから自由に病院を選択できることである。
まず、院内情報システムの提案によって、地域医療ネットワーク構築の足がかりを整えた。次に、病院間連携システムの提案によって、病院間で医療情報を共有し、患者が医療情報システムに自由にアクセスできるようになる。また、自己診断システムの提案によって患者は自分の症状を知ることができ、これにより地域医療ネットワーク内のどの病院でも自由に選択することができるようになる。
以上の提案は、具体的な方法論ではなく、あくまでもフレームワークとしての提案である。実際に医療情報システムを構築するにあたっては、院内において必要となる各システムの種類・規模、また地域においてもネットワークの種類、データベースの規模、情報の種類が異なってくる。しかし、本研究の独創性は具体的な方法論にあるのではなく、フリーアクセス・フリーチョイスの概念を用いて医療情報システムを構築した点にある。この概念を用いたことで、患者満足の向上につながるフレームワークが提案できたのである。

公開日・更新日

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