医療・保健分野におけるインターネット利用の信頼性確保に関する調査研究総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201254A
報告書区分
総括
研究課題名
医療・保健分野におけるインターネット利用の信頼性確保に関する調査研究総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
辰巳 治之(札幌医科大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 三谷博明(日本インターネット医療協議会)
  • 花井荘太郎(国立循環器病センター)
  • 西藤成雄(西藤こどもクリニック)
  • 水島洋(国立がんセンター研究所)
  • 上出良一(東京慈恵会医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者・国民が自分に合った医療を選択し、医療に主体的に関わっていくために、医療・保健分野でのいっそうの情報公開が求められている中で、情報をひろく容易に発信できる利点から、情報の提供媒体としてインターネットの活用が進んでいるが、提供される情報の内容や提供法について問題も指摘され始めている。そこで、利用者の信頼を確保していくためには、それぞれの提供主体の立場や特性を踏まえつつ、利用者側のニーズに対応する情報の提供方法を組み立てていく必要がある。情報の提供主体を、国や自治体等の公的主体、医療機関や民間団体などの私的主体というように分けると、それぞれの役割や重点の置き所が理解しやすくなる。この分類に従い、まず、公的主体として、都道府県や市町村の自治体から、現在どのような情報が提供されているか、また地域の住民からみてどのような情報が望まれているかを把握するため、実際にインターネットで医療情報を利用している患者・家族、また医師双方の立場から居住する地域の自治体サイトにアクセスしてもらいアンケート調査を行った。また、医療情報の内容によって主たるべき情報の提供主体も変わってくると考えられることから、利用者が期待する提供主体についての質問も行った。さらに、医療・保健分野でのインターネットを利用した情報やサービスの提供・利用に際し、提供主体が自主的に質を高めていくことを目指す倫理規範やガイドラインについて、実際の利用者である患者・家族を対象にアンケート調査を行った。
研究方法
1.自治体等公的機関の提供する医療情報について、患者及びその家族対象にアンケート調査を行い、依頼した人数は1853名で、内訳は男性652名、女性1201名、患者の立場825名、家族の立場1028名であった。2. 自治体等公的機関の提供する医療情報について、医師対象にアンケート調査を行い、依頼した医師は655名で、勤務形態別の内訳は開業医163名、勤務医492名であった。3.インターネットによる医療情報の提供法について、患者及びその家族対象にアンケート調査を行い、依頼した人数は2150名で、内訳は男性1020名、女性1130名、患者の立場1023名、家族の立場1127名であった。この調査におけるプライバシー保護に関しては、アンケートの依頼及び回収の作業はすべて委託し、本研究班は、個人情報を除く回答データ及び集計データのみ扱うようにした。 なお、対象患者の疾患は、高血圧、糖尿病、喘息、アトピー性皮膚炎、胃がん・乳がん・大腸がんの5種とした。それは、今日の代表的な生活習慣病としてとらえられている疾患(高血圧、糖尿病)、近年患者の顕著な増加があるにもかかわらず、診断や治療法について様々な意見や解釈が出ている疾患(喘息、アトピー性皮膚炎)、治療法の選択により大きな結果の違いが生じることがあると考えられる疾患(胃がん、乳がん、大腸がん)の間での比較するねらいがあった。
結果と考察
都道府県や市町村の自治体等の公的機関における医療情報の提供は、まだ十分でなく、地域によって. 提供される情報の量や内容に差があること、また住民がアクセスできる自治体サイトの広報やアクセス方法において改善が求められることが示唆された。特に、患者・家族にとっては、地域の医療機関に関する情報の提供源として、自治体等の公的機関からの情報提供の充実を望んでおり、医師においても、医療機関や医師に関する情報の提供を望んでいることが示された。中でも医療
機関や医師を選択する上で重要な情報となる診療実績やアウトカム情報の公開は、患者・家族側において強いニーズがあること、その際の情報の提供主体としては、国または国に準ずる機関やNPO等の第三者機関が中心になることが望ましいと考えていることがわかった。いっぽう、医師側においては、アウトカム情報の公開は、「病院や医師の選択に役立つ」、「病院の医療機能の向上に役立つ」と、半数近くが支持しながらも、アウトカム情報は、利用の仕方によって問題が生じたり、患者・国民が理解するのは難しいとの理由により、公開すべきでない」と慎重に考えている医師が少なくないことが示された。情報の提供主体として、私的主体に位置づけられる医療機関や民間の団体・組織においては、自主的なガイドラインを作成、運用するなど、「信頼性の確保」に向けた努力を行うと同時に、「問題があるものを第三者機関が積極的にチェックしていく仕組み」や、「問題があった場合に、第三者機関が意見や苦情を受ける仕組み」をつくったり、「サイトの運営主体者が自己チェックできるようなガイドラインを作成し運用する」など、第三者評価や自己チェックの機能が働いていくようなシステムが望まれていることが示された。また、この時の自主的なガイドラインは、各提供主体が自主的に作成運用を進めるだけでなく、「関係者が協議してそれぞれのガイドラインの共通の基礎となる基本原則や理念をつくるとよい」という方向づけが望まれていた。さらに、「自主的な取組の効果の及ばない」、いわゆるアウトサイダーへの対応については、「問題に早めに対応できるよう、行政や第三者機関が日常的に監視を行う」、「問題があった場合に、意見や苦情の受付・相談を行う機関を設ける」など、問題に対処するための社会的な仕組みが求められていることが示された。以上により、インターネット等の新たな情報通信媒体を通じて、患者・国民が求める医療情報をひろく提供していくには、公的主体である国や自治体等の公的機関からは、利用価値の高い客観性のある情報を患者・国民に向けて、より積極的に提供していく必要があり、また、個々の医療機関、団体・組織等の私的主体においては、自主的なガイドラインを作成運用したり、第三者評価や自己チェックの機能を働かせていくなどして、信頼性を確保するため工夫や対応を行っていく必要があることが示された。
結論
インターネット上で提供される医療情報の信頼性の確保に関し、自治体等公的機関からの医療情報の提供の現状を把握するため、患者・家族や医療関係者に都道府県、市町村等の自治体サイトにアクセスしてもらい、利用可能な医療情報やアクセスのしやすさ等についてアンケート調査を実施した。また、医療情報の提供主体として考えられる公的機関や医療機関等の役割について考察を行うため、情報の内容ごとにどこが情報提供主体者となるのが望ましいか、利用者の信頼を得るための自主的なガイドラインのあり方等について患者・家族にアンケート調査を実施した。 その結果、自治体等公的機関においては、医療情報の提供がまだ十分とは言えず、患者・国民のニーズにこたえきれていないこと、情報の提供方法にも改善が求められることが示唆された。また、医療機関や企業等の民間レベルにおいては、自主的なガイドラインを作成、運用したり、第三者評価や自己チェックを機能させていく努力を行うなどして利用者の信頼に応えていく必要があることが示された。

公開日・更新日

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更新日
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研究報告書(紙媒体)