診療情報の統一コーディング対応による診療結果比較に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201250A
報告書区分
総括
研究課題名
診療情報の統一コーディング対応による診療結果比較に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
河北 博文(東京都病院協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,825,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、主要な24疾患・処置を対象に、参加病院が一定の臨床指標に基づいてプロスペクティブに患者データを提供するシステム(診療アウトカム評価事業)を利用し、
①患者の属性・重症度などケースミックスに基いて死亡率等の予後、在院日数、医療費などの診療アウトカムの分布、代表値などの標準を明らかにする。
②参加病院には自院の位置付けを明らかにすることにより医療の質向上へのインセンティブを与える。
③患者がインフォームドコンセントを与える際に医療側から提供される情報の質・量面での改善と、満足度向上をもたらす。
④同一疾患の治療に必要な実際のコストを算出・比較することにより医療経営の合理化・医療資源の配分のあり方を検討することが、可能であるか否かを検証することである。
研究方法
1.診療アウトカム評価事業の確立
診療アウトカム評価事業では、代表的な疾患・処置についての当該患者の個人データ、および、病院全体の指標の2種類のデータを継続的に収集・解析し、参加病院に還元することにより、医療の質の改善の可能性を明らかにするものである。
(1)対象疾患の同定と臨床指標の開発
対象疾患としては、患者調査などの各種統計、及び参加予定病院に対するアンケート調査を基に代表的な24疾患・処置を選択した。標準的な急性期病院においてはこの24疾患により全退院患者の30-40%をカバーし、病院全体の機能をほぼ反映することが想定される。各疾患・処置ごとに、専門家のパネルにより重症度を反映する指標を確定した。参加病院は対象24疾患・処置に該当する全入院患者について継続的にデータを提出することが要求される。なお、対象疾患を全ての疾患・処置としなかったのは、日本では国際疾病分類に基づくコーディングを行なっていない病院も参加が可能にするためである。また病院全体の医療水準を表す臨床指標としては、院内感染症、転倒・転落、抑制の3種類を採用した。臨床指標の決定にあたっては、既にアウトカム評価事業を行なっている米国Maryland Hospital Association、豪Australian Council on Healthcare Standardsなどが用いている臨床指標、および参加予定病院のヒアリング結果を参考とした。
(2)ソフトウエアの開発
本事業用に専用の入力用プログラムの開発を行なった。これは市販のデータベースソフトであるアクセス上で起動し、日本語のプルダウンメニューを多用するインターフェースを用いることにより、国際疾病分類に基づくコーディングを行なっていない病院においても、国際疾病分類に基づくデータ入力が可能となるよう工夫されている。入力される患者情報は、属性、主傷病名、手術名、合併症・併発症、重症度、ADL、入院前・退院後の行き先、医療費(合計及び細目別)などである。
(3)参加病院の募集及び説明会の開催
本事業開始に当たり、運用規定を設け、東京都病院協会会員のみならず、広く参加病院を募った。また、入力担当者を対象とした説明会を開催し、本事業の趣旨、入力の方法などの説明、質疑応答を行う。
(4)事業の開始
2002年4月より参加病院は院内体制が整い次第、順次データ提供することで事業を開始する。データは3カ月毎に提出され、解析され、参加病院に対して報告がなされる。個人情報の取り扱いについては特に留意され、データは秘匿化がなされた後に提出される。診療アウトカム事業は、医療のパーフォーマンス測定、病院のプロファイリングを目的としたものであり、病院相互のレーティングを行なう場合には、データの信頼性、再現性に一定の限界があることに留意される必要がある。現時点では、レーティングは考慮しておらず、参加病院名の公表も行なわない。
(5)Websiteの構築とデータの公開
データの一部はwebsiteにより公開する。
2.診療録管理体制についてのアンケート調査
診療録管理と医療安全管理はともに病院が適切に医療サービスを提供する上で重要な役割を有する。東京都病院協会では、ほぼ2年ごとに会員病院を対象にしたアンケート調査を実施し、現状、問題点、改善策について指摘してきた。今年度も本アンケート調査を実施し、1998年、2001年調査の結果と比較検討を行った。調査対象は、東京都病院協会会員、都内非会員、東京都以外の教育病院(臨床研修指定病院、大学附属病院)とし、比較検討にあたっては、連続性を担保するために東京都病院協会会員のみ、および全体の集計結果をそれぞれ明らかにする。回答者は病院代表者であり、質問項目は、病院の属性、診療録管理の状況、電子化の状況、開示の状況と開示に関する意見などについてである。
3.Best Practice病院の見学と研修会の実施
本研究の推進を目的に、診療録管理に特に優れた病院、独自の構想により診療録管理を展開している病院の視察を行った。
4.診療録管理立ち上げマニュアルの検討
専門家を内部で得ることが困難な中小規模の病院において、診療録管理体制の構築を支援することが可能か否かを検討する目的で、3病院を対象に、外部からの診療録管理の専門家の派遣を行い、診療録管理体制の立ち上げの支援プロジェクトを実施した。その知見を基に、中小規模の病院を想定したマニュアルの作成を行った。
結果と考察
1.診療アウトカム評価事業の開発と実施
代表的な24疾患・処置、及び病院全体の診療実態を反映する3指標を用いた診療アウトカム評価事業のあり方についての検討、入力プログラムの開発、運用規定の制定などを行い、運用を開始した。現在は約20病院の参加により、3カ月ごとにデータの集計・解析が行なわれている。2002年4月-6月の初回の集計では2799人、7月-9月には2866人の個人データの提供をそれぞれ得た。参加病院数、提供個人データ数ともに増加傾向にある。
(5)Websiteの構築とデータの公開
データの一部はwebsiteにより公開されている(http://www.tmha.net/outcome/index.html)。
2.診療録管理体制についてのアンケート調査
都内病院、都外教育病院を対象にした診療録管理体制についてのアンケート調査を実施した。過去の調査結果と比較して診療録管理の状況の改善しつつあること、また、病院として診療録開示が進められていること、が認められた。診療録開示については、1998年-2001年の間に病院管理者の間に認識について開示促進に向けて大きな変化があったこと、現在は開示を行なう体制を構築しつつある時期にあることが伺える。特に、医療訴訟の増加についての懸念を持ちながらも、開示促進が医療の質、患者満足度向上に寄与すると考えるものが多くを占め、体制整備を進めている状況が伺えた。開示を法制により定めるべきか否かについては意見が分かれるものの、現在開示を積極的に行なっている病院では法制化を支持する割合が高い傾向にあった。これは開示を実際に行なっている病院においては、法制化は現状を追認するに過ぎないことが伺えた。
3.Best Practice病院の見学と研修会の実施
視察は佐賀医科大学附属病院、国立大阪病院の2病院を視察した。佐賀医科大学病院については、特に優れたものとして、講師を招き一般公開の研修会を実施した。
4.診療録管理立ち上げマニュアルの検討
専門家を内部で得ることが困難な中小規模の病院において、診療録管理体制の構築を支援することが可能か否かを検討する目的で、3病院を対象に、外部からの診療録管理の専門家の派遣を行い、診療録管理体制の立ち上げの支援プロジェクトを実施した。その知見を基に、中小規模の病院を想定したマニュアルを作成すべく、項目案について検討を行った。
結論
本研究で開発・確立した診療アウトカム評価事業は、日本ではじめての臨床指標を用いたアウトカム評価を継続的に実施するプロジェクトであるという点で画期的である。また病院団体が主導で同プロジェクトを実施するという点からは、医療の質向上における病院団体の役割についての知見を与えるものである。医療の質を維持・向上させるための仕組つくりについては世界的にも現在模索されつつあり、同プロジェクトについても既にシンガポールなどの外国から照会が行なわれるなど注目されている。同プロジェクトについては、①参加病院数が少ないため、今後参加病院の拡大を図る必要があること、②データの信頼性を確保するために担当者を対象にした強化研修、部署訪問などを行なう必要があること、③より正確なベンチマーキングを可能とするために、病床数、病院種別ごとの集計を行なうこと、などに改善の余地が有る。また同プロジェクトがもたらすデータが、参加病院のマネジメントや医療の質にどのような影響をもたらし、また患者の受診行動にどのような影響をもたらすかについては今後の検討課題である。
診療録管理体制についての2002年調査では、過去の調査結果と比較して診療録管理の状況を改善しつつあること、また、病院として診療録開示が進められていること、が認められた。診療録管理の状況については比較的コンスタントに改善が認められること、従来、十分でなかった病院において新たに診療録管理のための試みが行なわれつつあることが示唆された。これらの病院に対して、それぞれの状況に応じた改善プログラムを提示し、支援体制を構築することは東京都病院協会などの病院外組織の重要な役割であると考えられる。診療録開示については、1998年-2001年の間に病院管理者の間に認識について開示促進に向けて大きな変化があったこと、現在は開示を行なう体制を構築しつつある時期にあることが伺える。特に、医療訴訟の増加についての懸念を持ちながらも、開示促進が医療の質、患者満足度向上に寄与すると考えるものが多くを占め、体制整備を進めている状況が伺えた。開示を法制により定めるべきか否かについては意見が分かれるものの、現在開示を積極的に行なっている病院では法制化を支持する割合が高い傾向にあった。これは開示を実際に行なっている病院においては、法制化は現状を追認するに過ぎないことが伺える。厚生労働省検討会では、診療録情報の提供のあり方、開示法制化の是非などの検討が行われている。診療録管理、医療安全管理などの重要な問題について定期的に調査を行い、現状、問題点などを明らかにするという活動は、これまでほとんど行なわれていない。同一の対象設定した定点調査も日本ではこの他に行われていない。本調査は今後も継続して行なわれる必要があり、その意味で極めて重要なものと考えられる。
またBest Practice病院の事例を元にした一般公開の研修会、診療録管理体制立ち上げマニュアルの開発と、外部専門家による病院支援体制の有効性についても今後より実証的に検討される必要がある。

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