客観的臨床能力評価試験における医療面接評価の根拠

文献情報

文献番号
200201248A
報告書区分
総括
研究課題名
客観的臨床能力評価試験における医療面接評価の根拠
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
竹村 洋典(三重大医学部附属病院総合診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 津田司(三重学医学部附属病院)
  • 横谷省治(三重大医学部附属病院)
  • 大滝純司(東京大医学教育国際協力研究センター)
  • 松岡健(東京医科大霞ヶ浦病院)
  • 櫻井裕(防衛医科大)
  • 伴信太郎(名古屋大医学部附属病院)
  • 平田一郎(大阪医科大)
  • 三木哲郎(愛媛大)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本は欧米と文化的背景や医療システムも異なっているが、このような医療面接のもつ医師患者関係を向上させたり情報収集量を増加させる能力に関する研究はほとんど行われていない。欧米で「よい医療面接」が日本においてもよいとは限らない。とくに、欧米で行われている医療面接に関する多くの研究が比較的少ない対象数で行われているので、これらを日本の医療の中で検証する必要がある。
本研究の目的は、医療面接のいくつかの技法が情報収集能力および患者満足度に与える影響を日本において検証することである。さらに、比較的大きい対象数を用いてこれらを検証し、高い精度でこれらの関係を検証することもこの研究の目的である。
研究方法
本研究は以下の6ヶ所の医学部・医科大学において行われた。
北海道大学医学部、東京医科大学、名古屋大学医学部、三重大学医学部、大阪医科大学、愛媛大学医学部
対象は、2000年から2003年の間に客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination、以下OSCE)を受けた第4学年と第5学年の医学生である。OSCEは、卒前医学教育で、学生の臨床能力を評価する一つの方法である。OSCEは、1~2日で行われた。OSCEの医療面接ステーションでは、医療面接を行う能力を評価する。医療面接ステーションでのプロトコールは各々の大学で大きな違いがなく、医学生(以下役割を明らかに示すため「医師」とする)は標準模擬患者(Standardized Patient、以下SP)を相手に5分間の医療面接を行った。SPは、ある患者症例を演じられるように、また、医師の質問に対して病歴や症状を答えられるように訓練を受けた。症例としては、緊張型頭痛、偏頭痛、過敏性腸症候群、十二指腸潰瘍、高血圧等が含まれていた。医師は、どの症例の患者と医療面接をするか、前もって知らせなかった。1人または2人のよく訓練さられた評価者が、医療面接評価票を用いて、その医療面接を評価した。その医学部・医科大学の医師が医療面接の評価者となった。
本研究では、まず評価票の信頼性の検定をし、その上で医療面接と得られた情報量または患者満足度の関連を調査した。
医療面接評価票は、言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションを含む13の面接技法の評価から成り立っている。すなわち、自由質問法(Open-ended Question)、促進、心理社会的アプローチ、受療行動情報、患者背景、レビュー・オブ.システム(Review of System)、反映(共感的態度)、良好な医師患者関係、リラックスさせる配慮、自己紹介、患者中心/解釈モデル、適切な位置関係、十分なアイコンタクトの13項目である。これらの項目はカテゴリー尺度にて評価した。対象から496人を抽出してこれらの項目について評価者間の信頼性を評価したところ、「促進」と「リラックスさせる配慮」についてはκ係数が両者とも0.2以下であり、対象項目から除外した。
医療面接評価と同時に、患者から得られた情報量も、医療面接の評価者によって測定された。情報量は5項目のコンポーネントで評価した。すなわち、時間、部位、程度、背景、随伴症状の5項目である。これらの項目も、カテゴリー尺度にて測定された。情報量の各項目に関しても、496人を対象としてこれらの項目についての評価者間の一致度を評価したが、5つすべての項目に関して、κ係数は0.6以上であり、これらを採用した。この5つの項目のスコアの合計を総情報量と定義した。
同時に、医療面接を受けたSPも、SP評価票を用いて、その医師から受ける印象をいくつかの項目について評価した。すなわち、よいマナー/態度、話をよく聴いたか、正確に理解したか、わかりやすい言葉づかい、またこの医師にかかりたい、の5項目である。各項目はカテゴリー尺度によって評価した。これらの得点を患者満足度の指標として用いた。実際、対象の医療面接のうち、278の医療面接において、SPが医師による医療面接に対する満足度をVisual Analogue Scale(VAS)で測定したが、VASと各々5つの評価項目の相関関係は回帰分析にて全て有意(p<0.0001)であった。したがって、SP評価票は、患者満足度を測定する方法として妥当なものといえよう。
全対象数は1,527人であった。ある医療面接の医療面接評価票やSP評価票において答えが不十分な場合は、その解析に必要とされるデータから、その医療面接のデータ分は削除した。各々の医療面接と総情報量の関連、および医療面接と患者満足度の関連は、カイ二乗法によった。P値は、すべて両側検定の値である。すべてのデータは、SASソフトウエア(バージョン8)によって解析した。
本研究実施に当たり、厚生労働省・文部科学省による「疫学研究に関する倫理指針」に準じた措置・対策を講じた。
結果と考察
1 患者から得られる情報量を増加する医療面接
欧米の研究では、自由質問法、心理社会的アプローチ、受療行動情報、さらには反映(共感的態度)、患者中心/解釈モデルなどが得られた情報量と正の関連があるとされている。本研究は、この点で欧米における研究と一致していた。また本研究では、良好な医師患者関係が、得られる情報量にも影響していることが分かった。
2 患者の満足度を向上させる医療面接
従来の欧米の研究では、反映(共感的態度)や良好な医師患者関係が患者満足度によい影響を与えていることが指摘されているが、本研究は、これを支持する結果となった。
特記すべきは、欧米の多くの研究で医師患者関係に良好な影響を及ぼすとされている患者中心/解釈モデルが、本研究では「話をよく聴いたか」を減少させる結果となった。
欧米の研究では、自由質問法、心理社会的アプローチ、受療行動情報、患者背景などは、医療面接で得られる情報量を増加させるとされているが、本研究では、患者満足度にも影響していた。竹村による日本における研究によると、自由質問法は患者満足度に好影響を与えることが示されている。本研究はこれと同じ結果となった。
レビュー・オブ・システムを取ることが「よいマナー/態度」に好ましくない影響を与えている可能性が本研究で指摘された。
本研究では自由質問法が「話をよく聴いた」に負の影響を与えている可能性が示唆された。
3 非言語的コミュニケーション
従来の研究では、適切な位置関係や十分な視線など、よい非言語的コミュニケーションは得られた情報量を増加させるとされているが、今回はこの結果を支持する結果となった。
また、十分な視線がまたこの医師にかかりたいと思わせることが本研究で分かったが、これも、欧米の研究と一致している。
興味深いのは、本研究において、適切な位置関係や十分な視線が「話をよく聴いたか」に負に関係していることが示唆されたことである。
4 本研究の長所と短所
本研究の対象数は比較的多く、これによって研究の解析力が向上していることは、本研究の長所といえる。また、患者としてSP、すなわち標準化された患者を使用したことは、結果に影響するであろうその他の因子を制御している可能性が高い。また、面接時間は患者満足度などのアウトカムに大きな影響を与えることが分かっている。本研究で面接時間を制限したので、医療面接時間による影響も制御したと考えられる。されらに、本研究は6つの医学部/医科大学において行われたので、外的妥当性も比較的維持されていると考えられる。
一方、本研究はいくつかの短所も存在していると思われる。第一に患者としてSPを使用したことである。実際、患者としてSPを使用した場合と実患者を使用した場合で評価が異なることが指摘されている。SPを使用することの長所とともに、これらの欠点も考慮すべきであろう。OSCEという特殊な状況下での結果であることも、影響を与えている可能性がある。また、患者満足度を測定する際の妥当性や信頼性などは、しばしば問題としてあがってくる。しかし、それでも、この種のほとんどの研究においては、質問票をもちいて満足度を測定していることも事実である。
結論
欧米でいわれているように、自由質問法、心理社会的アプローチ、受療行動情報等は、本研究でも患者から得られる情報量を増加させたが、欧米では医師患者関係に影響するとされる反映(共感的態度)、良好な医師患者関係、解釈モデルも、本研究では、得られる情報量に関与していることが示唆された。
また、欧米と同様、本研究においても反映(共感的態度)や良好な医師患者関係は、患者満足度によい影響があることが示唆されたが、良好な医師患者関係や患者中心/解釈モデルが「話をよく聴いてくれた」に好ましくない影響がある可能性も示唆された。また、欧米では得られる情報量に影響するとされる自由質問法、心理社会的アプローチ、受療行動情報、患者背景なども、本研究では医師患者関係に良好な影響があることが示唆された。
適切な患者と医師の位置関係を作ることや十分な視線を維持することなどの非言語的コミュニケーションが、情報量を増加させる効果がある可能性があることが示唆された。また、これらが「話をよく聴いてくれた」と必ずしも感じさせない可能性も示唆された。

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