電磁界の白血球及び免疫系機能に及ぼす影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201120A
報告書区分
総括
研究課題名
電磁界の白血球及び免疫系機能に及ぼす影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大久保 千代次(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 牛山 明(国立保健医療科学院)
  • 増田 宏(国立保健医療科学院)
  • 岡田 秀親(名古屋市立大学)
  • 多氣 昌生(東京都立大学)
  • 伊坂 勝生(徳島大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建築物内における商用周波電磁界とトランジェント磁界への暴露状況を把握すると共に電磁界暴露と白血球及び免疫機能との関連の有無を含めて、電磁界の健康影響を追究する。
研究方法
①居住環境内の電磁界影響を把握するには、その曝露実態解明が必要となる。我々はこれまでに、商用周波の正弦波のほかに、WHOで議論されている、家電製品の電源オンオフ時に生じる波形が非正弦波的に変化する性質(トランジェント)磁界を含む磁界の時間波形を検出し、この波形をディジタル的に取り込むことによって同一の波形を繰り返し発生させることができる磁界曝露装置の基礎的システム開発し、国立保健医療科学院の既設の低周波磁界曝露装置にトランジェント磁界発生装置を付加して設計製作したが、今年度はトランジェント磁界と50Hzの商用周波磁界暴露を並行してマウスへ亜慢性的に暴露し、その時の波形分析を行った。
②商用周波磁界が白血球の血管内皮への粘着性亢進現象を惹起することが皮膚微小循環系で認められたので、その分子レベルでの解析を展開するために、局所炎症反応の抑制に関わると考えられるCarboxypeptidase R (CPR) の変化に焦点を絞り、Carboxypeptidase N (CPN) と共に解析した。
結果と考察
①これらのトランジェント成分により、生体中に誘導される電流度の大きさ、分布を明らかにするための解析手法の開発を行った。生活空間における電磁界暴露評価を行うために、トランジェント磁界に着目した研究を進めた。ピーク値が1mTを超える磁界の発生源としてブラウン管式ビデオモニタと盗難防止ゲート監視装置を取り上げ、それらが発生する磁界の特性を測定した。盗難防止ゲート内では人体の頭部付近で最大、約2.8mTの磁界を観測した。これらの知見からトランジェント磁界発振器をヘルムホルツコイルに付け、配線は暴露装置のZ軸方向の磁場を形成するコイルに接続、発振器からは周波数7.4kHzの磁界を50 msec signal-1sec interval(50ミリ秒シグナルを出し、1秒停止の繰り返し)の設定でトランジェント磁界暴露装置を開発した。この装置を用いたときの実際の曝露磁界を測定し、トランジェント磁界波形を模擬した7.4kHz,300μTのバースト波形のほぼ均一な磁界をヘルムホルツコイル内に発生できることを確認した。この条件での磁束密度は、ピーク値で162.6μT(7.4kHzの値)であった。その上で、トランジェント磁界を実験動物に曝露するための曝露装置を50Hzの磁界との同時曝露も可能な仕様として、トランジェント磁界と同時に50Hz、3.0mT(RMS)の磁界を作り重層暴露を行った。
②一方、3.0mTの商用周波磁界を1週間に亘って継続的に暴露すると、有意(p<0.001)な白血球の血管内皮への粘着性亢進現象を惹起することが皮膚微小循環系で認められた。しかし、それ以下の磁界強度ではその様な変化は生じなかった。免疫学的解析では、3.0 mT の電磁界に1週間置いたマウスでは有意(p < 0.05)なCPR活性の低下が認められた。しかし肝臓から抽出したProCPR(CPR前駆体)のmRNA 量には大きな変動は認めなかった。生体内の白血球挙動もCPR共に3.0 mTが閾値であり、その他の免疫系機能も同様と推察された。この結果から商用周波磁界暴露マウスにおいて変動する可能性があることを示唆する知見を得た。そこで、炎症時や電磁界暴露時などにおけるProCPRの動物体内での役割を解析する手段として、ProCPRの遺伝子をノックアウト(KO)した、ProCPR欠損マウス作成に成功することができた。次に開発したトランジェント電磁界発生器を用いて、トランジェント電磁界との複合暴露に対する影響を調べた。マウスには皮膚微小循環の観察が可能な背側皮膚透明窓を装着し、暴露開始8日目及び15日目における白血球の血管内皮への相互作用をin vivo顕微鏡システムで解析した。その結果、磁束密度3mTとトランジェントの複合暴露においては、15日目で暴露前に比べて白血球粘着能について有意な亢進がみられた。しかし、トランジェント磁界を重畳することによる影響の増強は見られなかった。少なくともトランジェント磁界が白血球粘着能に大きな影響を与えている可能性は低いと考えられる。したがって、本研究で観察された白血球粘着能の亢進現象はおもに3mTの強い磁界(一般生活環境の数千倍の強度に相当)によって惹起されたものと考えられる。この結果は電磁界が免疫系に直接的、間接的に何らかの影響を与えることを示唆しているが、ヒトの健康に対してどれだけの影響を及ぼすのかについてそのメカニズムも含めてさらに検討が必要である。一方、KOマウスに対する電磁界全身暴露を行ったが、統計学的に有意差を検定するには実験動物の数が充分用いることができなかったので、白血球の活性化にカルボキシペプチダーゼRの関与が示唆されたものの、詳細な解析は今後に残された。
結論
建築物内における商用周波磁界とトランジェント磁界への暴露状況が把握し、これに基づいてトランジェント磁界発生装置を開発し、商用周波磁界と共にトランジェント磁界を並行して暴露する事に成功した。一方、3mT(一般生活環境の数千倍に相当)という高レベル商用周波磁界に2週間に亘って継続的に暴露すると、生体内の白血球活性化もCPR共に3.0 mTで変化を示し、これが閾値であると同時に、白血球の活性化にカルボキシペプチダーゼRの関与が推察された。しかし、トランジェント磁界には白血球活性化への関与は認められなかった。

公開日・更新日

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