化学物質過敏症等室内空気中化学物質に係わる疾病と総化学物質の存在量の検討と要因解明に関する研究

文献情報

文献番号
200201117A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質過敏症等室内空気中化学物質に係わる疾病と総化学物質の存在量の検討と要因解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 正典(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 埴岡 伸光(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 石川 哲(北里研究所病院臨床環境医学センター)
  • 池田 耕一(国立保健医療科学院)
  • 青柳 象平(千葉大学)
  • 三浦 通利(岩手県環境保健研究センター)
  • 片平 大造(福島県衛生研究所)
  • 酒井 洋(新潟県保健環境科学研究所)
  • 山口 貴史(群馬県衛生研究所)
  • 小川 政彦(埼玉県衛生研究所)
  • 北爪 稔(横浜市衛生研究所)
  • 小林 浩(山梨県衛生公害研究所)
  • 近藤 文雄(愛知県衛生研究所)
  • 小林 博美(滋賀県立衛生環境センター)
  • 古市 裕子(大阪市立環境科学研究所)
  • 八木 正博(神戸市環境保健研究所)
  • 谷口 秀子(姫路市環境衛生研究所)
  • 立野 幸治(山口県環境保健研究センター)
  • 津野 正彦(高知県衛生研究所)
  • 力 寿雄(福島県保健環境研究所)
  • 山﨑 誠(福岡市保健環境研究所)
  • 大和 康博(北九州市環境科学研究所)
  • 菅本 康博(熊本市環境科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
室内空気中の化学物質に係わるシックハウス症候群等の問題は、新聞等において連日のように取り上げられているが、その本疾病と室内空気中化学物質とを直接的に結びつけた研究は少ない。加えて、これらの疾病は特定された化学物質ではなく、相対的な化学物質の暴露が大きな要因であると考えられている。このため、平成14年度はこれら疾病の本質を探るべく、ホルムアルデヒドをはじめ揮発性化学物質160化学物質について、約171家屋の室内・外からの約3万件に及ぶデータを解析し、室内空気中のこれら化学物質の存在量、化学物質過敏症の臨床的研究、ホルムアルデヒドの免疫的研究等の検討を実施し、我が国における状況を把握した。
研究方法
[研究方法及び結果と考察]
本研究では、1.全国居住環境における室内空気中化学物質の実態に関する研究、2.化学物質過敏症の発症要因化学物質の検索に関する研究、3.病院等多量放散施設における室内空気中化学物質の調査と評価に関する研究、4.室内空気中化学物質の低減化に関する技術開発の分野について検討した。
1.全国居住環境における室内空気中化学物質の実態に関する研究
Ⅰ.室内空気中化学物質の測定法の開発に関する研究
本研究では、1)室内空気中化学物質の主物質であるテルペン類の捕集効率の確認、2)揮発性有機物についてはポンプ/溶媒抽出法、 ポンプ/加熱脱着法、パッシブ捕集法の三種の相関性を検討することであった。研究は、昨年と同様に、各地方衛生研究所18機関においてそれぞれのボランティア家屋に室内・外の空気採取と聞き取り調査を行った。その結果、国際的にも未だ実施していない、160に及ぶ化学物質を一度に測定できる手法を開発できた。
Ⅱ.室内空気中の測定対象化学物質の選定に関する研究
室内空気中に確認される可能性のある化学物質として選定した153物質およびその他の存在の可能性がある7化学物質の合計160化学物質を対象とし、その内アルデヒド・ケトン類20化学物質および有機酸類等18化学物質を除く122化学物質を対象とすること妥当であることが認められた。定量下限を評価すると、加熱脱離法は0.23~0.46ug/m3が大部分であるのに対して、溶媒抽出法では2.78~6.94ug/m3と加熱脱離法に比較して溶媒抽出法では1/10~1/20であった。
Ⅲ.室内空気中化学物質の溶媒抽出法、加熱脱着法及びキャニスター法の比較
室内空気中化学物質の測定方法である溶媒抽出法、キャニスター法並びに加熱脱着法の3法の問題点を整理した。加熱脱着法と溶媒抽出法では、1つには空気採取法である捕集剤の違い、第2にはGC/MSへの導入法の違いより、特に、エタノールなどのアルコール類やテルペン類に違いがみられた。
Ⅳ.全国の室内・外空気中化学物質の存在状況に関する研究
全国の室内・外の空気を採取し、溶媒抽出法による測定を行い、5万件のデータを整理したところ、室内の平均値で10ug/m3を超えた化学物質は、Toluene, Ethylbenzene, Xylene, Isopropylbenzene, n-Decane, n-Undecane, α-Pinene, 1,4-Dichlorobenzeneであった。調査した家屋の中の9割の家屋で不検出であった化学物質は22種も確認された。また、5割以上の家屋で検出された化学物質は45化学物質も認められた。
室外における化学物質の濃度は、10ug/m3を超えたものは平均値でTolueneのみで、1ug/m3以上では13物質が存在していた。また、その他の化学物質約100種は不検出であった。室内と室外の化学物質の濃度のI/O比は、2以上のものは88化学物質も存在していた。また、室内に起因しないと考えられるI/O比2以下は、20種であった。これらの化合物の中には、Benzene, Isooctaneなどの自動車排ガスに起因すると考えられた。
Ⅴ.溶媒抽出法および加熱脱離法による室内空気中化学物質の実態に関する研究
TVOCの定義と実態把握を目的として、室内空気中の化学物質を溶媒抽出法と加熱脱離法とについて122種の化学物質について同一室内空気を全国調査によって検討した。
溶媒抽出法と加熱脱離法について122化学物質を、統計的に評価した結果、測定された化学物質の5割以上で回帰直線は、Y=Xに近い回帰直線が得られることが両方法との差がなく、同等性が認められた。
Ⅵ.溶媒抽出法と加熱脱離法によるTVOC測定方法に関する研究
全国におけるTVOC調査を実施したところ、平均値、中央値は、溶媒抽出法で553, 374, ug/m3であるのに対して加熱脱離法では2,119,1,142 ug/m3と加熱脱離法が極端に高い値を示した。しかし、エタノールを除いたTVOCを比較すると、溶媒抽出法では381、251ug/m3であるのに対して、加熱脱離法で563, 399ug/m3と近似した。個々のTVOCのデータを対数変換して正規性の検討を行ったところ、特にエタノールを除いたTVOCでは対数正規分布であることが判明した。
Ⅶ.居住空間におけるカルボニル化合物の実態と特性
居住空間に存在するカルボニル化合物の実態を把握するために、98戸について、居間、寝室、屋外の3個所の合計約300検体、6,000データの濃度を検討した。カルボニル化合物の捕集には最近開発された拡散サンプラー(DSD-DNPH)を用いることにより、15種類のアルデヒド・ケトン類の測定を可能にした。
ホルムアルデヒドの平均濃度は居間28、寝室26、屋外3.6 μg/m3、アセトアルデヒドの平均濃度は居間21、寝室22、屋外3.1 μg/m3であった。1997年に実施したホルムアルデヒドの調査では、室内(居間)濃度の平均値が62 μg/m3であったのに比較すると、4年前の平均濃度に比べ34 %に減少した。しかし、今回の調査ではアセトアルデヒドの濃度が非常に高く、ホルムアルデヒドの代替として使用されていることが推測された。プロピオンアルデヒドとアクロレイン、ヘキサアルデヒドとバレルアルデヒド濃度の相関関係が非常によい(r2=0.92, 0.96)ことから、発生源が同一であることが推測された。
2.化学物質過敏症の発症要因化学物質の検索に関する研究
Ⅰ.ホルムアルデヒドがスギ花粉抗原特異的リンパ球刺激試験に与える影響-室内化学物質汚染がアレルギー性疾患の発症・進展に及ぼす影響
新築家屋転居後にスギ花粉特異IgEが上昇した6症例の末梢血単核球を用いて0.25ppmまたは0.5ppmのホルムアルデヒドを添加したスギ花粉抗原特異的リンパ球刺激試験を実施した。自宅室内ホルムアルデヒド濃度が低い症例ではホルムアルデヒド添加によってリンパ球増殖が亢進し、自宅室内ホルムアルデヒド濃度が高い症例ではリンパ球増殖が低下する傾向がみられ、ホルムアルデヒドが抗原刺激によるリンパ球増殖に影響を与え、免疫能に影響を及ぼす可能性が示唆された。
Ⅱ.ヒト末梢Tリンパ球のサイトカイン反応性に対するフタル酸エステル類の影響
内分泌撹乱物質であるフタル酸エステル類による、サイトカインの反応性を12名の成人健常者(男性6名:女性6名)から得られた末梢血から得たリンパ球で検討した。CD8リンパ球においては、細胞周期G1期?S期(C-kinase)、S期(ADR)、M期(cdc2-kinase)のいずれの活性も抑制させた。一方、CD4リンパ球は、いずれの因子も有意な影響を受けなかった。このことから、フタル酸エステル類は、CD8リンパ球に対して影響を及ぼし、その結果CD8によるCD4に対する抑制作用が減弱し、免疫機能を撹乱させる可能性が示唆された。
Ⅲ.室内空気中の化学物質の免疫学的評価に関する研究
家庭環境中で検出されるクロルピリフォス等の有機リン系殺虫剤の代謝的活性化に重要な役割を与えている薬物代謝酵素シトクロムP450(CYP2E1およびCYP2B6分子種)の異物毒性発現と薬物代謝酵素の遺伝子多型性の関連性について検討した。
CYP2E1およびCYP2B6の機能維持においてはArg76(CYP2E1)およびLys262(CYP2B6)が重要な役割を果たしており、これらアミノ酸残基の変異が、酵素機能変化を引き起こし、環境化学物質の毒性発現に何らかの影響を与える可能性が示唆された。
3. 病院等多量放散施設における室内空気中化学物質の調査と評価に関する研究
医療施設における室内化学物質汚染の原因は医療行為が化学物質の発生を伴う事が多いが、それ以外に建物、寝具・家具などの物品、医療機器、衛生材料、医療行為などからの発生量が重要である。
Ⅰ.病院内における化学物質汚染に関する実態調査
医療施設での追跡調査では、前年の調査で高濃度であったトルエン、キシレンは今回は10分の1に、TVOCにおいても暫定目標値の400μg/m3をいずれのポイントでも下まわっていた。しかし、病理検査室染色室では、トルエン、キシレンは濃度は高くTVOCも1600μg/m3であった。
Ⅱ. 開院前後の医療施設での空気質調査
医療施設で、新棟入居直前と入居1ヶ月後に空気質調査において、入居前には、エチルベンゼン以上の高沸点の成分、工業ガソリン成分と思われる高沸点成分が各種検出された。しかし、入居後では、フロンR-12(ジクロロジフロロメタン)、フロンR-11(トリクロロフロロメタン)や香料、リモネン、メンソール、防虫剤 パラジクロロベンゼン、防菌剤安息香酸などのほか、医療用で用いられているエチルアルコール、イソプロピルアルコールが検出された。
4.室内空気中化学物質の低減化にとしてピーナッツ殻による空気中ホルムアルデヒドの吸着除去関する技術的開発
室内空気のホルムアルデヒドをはじめとする化学物質を低減させるには、換気のほか、何らかの方法で吸収・吸着するしかない。そこで、ピーナッツ殻の多孔性、通気性に注目し、シックハウスガスの吸収材用担体としての検討したところ、ピーナッツ殻そのものに吸収能があることが分かった。

結果と考察
結論

公開日・更新日

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