公衆衛生専門家の養成・確保および資質向上に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201113A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆衛生専門家の養成・確保および資質向上に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
高野 健人(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 二塚信(熊本大学)
  • 川口毅(昭和大学)
  • 三角順一(大分医科大学)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 古野純典(九州大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公衆衛生専門家を数多く養成し、かつ質的に優れた人材を確保するための具体策を提示することを目的とした。衛生学・公衆衛生学の卒後教育に関する研究においては、公衆衛生領域の主要な活動の場である衛生行政の現場での人材確保及び資質の向上に関する課題について検討し、公衆衛生大学院の設置について、その受け皿及び社会的ニーズについて把握をすること、および海外の卒後教育なかでも衛生学・公衆衛生教育を中心に現状を明らかにし、わが国への応用を検討することを目的とした。公衆衛生志向臨床医の養成に関する研究においては、平成16年度より必修化される卒後臨床研修制度をふまえ、現在までの各大学における臨床研修の地域保健・医療研修の実施体制についての進捗状況を明らかにすることを目的とした。衛生学・公衆衛生学の卒前教育に関する研究においては、「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の体系内で、社会医学実習の位置付けおよび学習目標設定について検討することを目的とした。疫学的研究と倫理に関する研究においては、現在の疫学研究と倫理に関する動向と問題点をまとめ、今後の疫学研究の推進に資することを目的とした。社会医学サマーセミナーに関する研究においては、全国の医学部・医科大学学生を対象としたサマーセミナーを開催し、衛生学公衆衛生学専攻医師、社会医学志向型臨床医への動機づけを試み、それを評価することを目的とした。
研究方法
全国の医育機関における衛生学、公衆衛生学教室等の教授により構成される衛生学・公衆衛生学教育協議会の会員を研究協力者とし、これまでの経験を踏まえ、内外の文献調査、ワークショップ、小グループによるワーキングにより討論を重ね、所期の目的を達成した。衛生学・公衆衛生学の卒後教育に関する研究では、既存の文献資料を用い調査研究を行うとともに、海外の衛生学・公衆衛生学卒後教育について、海外留学経験者を演者にワークショップ「21世紀の衛生学公衆衛生学教育の方向性を考える」を開催した。また、独自に関連資料の収集を行った。公衆衛生志向臨床医の養成に関する研究では、ワークショップ、小グループによるワーキングを行うとともに、医学部衛生学・公衆衛生学を擁する大学80校を対象に、「医科大学における卒後臨床研修におけるプライマリヘルスケア(PH)研修の実施状況調査」を行った。衛生学・公衆衛生学の卒前教育に関する研究では、海外の衛生公衆衛生卒前教育に関するワークショップを開催し、情報を共有するとともに、社会医学実習に関するワークショップを開催し、「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の体系内で、社会医学実習の位置付けおよび学習目標設定について検討した。疫学的研究と倫理に関する研究では、文献調査を中心に現在の疫学研究と倫理に関する動向と問題点をまとめた。社会医学サマーセミナーに関する研究では、全国の医学部・医科大学学生を対象とし、平成14年7月29日~31日にかけてサマーセミナーを実施し、成果について評価をおこなった。
結果と考察
地域保健対策を推進するための人材の確保及び資質の向上を達成するためには、卒後教育における充実した研修が不可欠である。国レベル、都道府県レベル、市町村レベルと各レベルでの研修体制の整備が早急に望まれる。地域保健の広域的、専門的かつ技術的拠点としての保健所に多くの機能強化が求められるとともに、地方自治体における対人サービス業務の拡大に伴い、公衆衛生従事者の現任教育の実態について把握することも必要である。また、長期的には公衆衛生大学院の構想化も考慮
する必要があると考えられた。ワークショップ「21世紀の衛生学公衆衛生学教育の方向性を考える」においては、アメリカ、フランス、オランダ、英国、ドイツ各国の現状について最新の詳細情報を持ち寄り情報共有を行い、医学教育改革の流れの中で衛生学公衆衛生学教育が本来果たすべき役割、21世紀の日本に望まれる社会医学教育システムについて検討した。また、並行して、米国および英国の衛生学・公衆衛生学の卒後教育について独自に調査を行い、分析を行った。平成16年度より必修化される卒後臨床研修制度をふまえ実施した、各大学における臨床研修の地域保健・医療研修実施体制についての進捗状況調査では、6割の衛生学・公衆衛生学関連教室が何らかのかたちでプライマリ・ケア研修のカリキュラムの編成に関与していることが明らかとなった。研修施設としては,保健所次いで老人保健施設等の保健福祉関係施設の協力が期待されており,学外施設との連携強化がすすめられている状況にあった。研修実施上の問題点については指導体制,受け入れ機関,(指導者の)報酬や身分,教育カリキュラム等が指摘された。前述のワークショップ「21世紀の衛生学公衆衛生学教育の方向性を考える」において、社会医学卒前教育システムについても討論がなされた。また、社会医学実習に関するワークショップにおいては、社会医学実習の実践事例として特色ある実習を行っている大学の経験を共有し、卒前教育における社会医学実習を「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の体系内でどのように位置付けるか、また学習目標設定について検討した。「医学部における社会医学実習の実態調査」を行い、全国80の医学部・医科大学のうち78大学より回答が得られた。各大学における学習目標におけるキーワードを分析した結果、環境、予防、公衆衛生マインド、福祉、実践といったキーワードの出現頻度が高いことが明らかとなった。また一方で、GIO(一般教育目標)、SBOs(個別学習事項)の整備が不十分な大学もあり、今後社会医学実習のモデルGIO/SBOsの作成が必要であると考えられた。わが国の疫学に関する代表的な学会である日本疫学会が「疫学研究を実施するにあたっての倫理宣言」を採択し、疫学研究のあるべき姿として、(1)真理の追究を目的とした研究であること、(2)対象者の人権を尊重した研究であること、(3)目的を達成するために最も適切な方法を用いた研究であること、(4)社会規範に反しない研究であること、(5)常に社会に開かれた研究であること、の5点が挙げられている。これを受けて同学会は「疫学研究を実施するにあたっての倫理指針」を公表し、「日本疫学会倫理審査委員会設置要項」を制定し、学会独自の倫理審査委員会を設置した。一方、国では文部科学省と厚生労働省が検討してきた指針が、「疫学研究に関する倫理指針」として公表・施行された。本指針は、疫学研究を円滑に進めるための配慮が相当なされており、このことを一定の形で国が保証するという点においては画期的な指針である。今後論点として、学問の自由との兼ね合い、行政指導に関連する事項が考えられた。社会医学サマーセミナーについては、セミナー終了後の参加学生の感想・評価から、学生たちが社会医学の多岐に渡る課題を自分なりに消化し、講師及び他の学生との討論・交流を通じて、社会医学の意義や社会医学の将来について深く学んだと評価できた。また、社会医学教育において、チュートリアル形式の教育手法の有効性が示された。
結論
公衆衛生専門家を数多く養成・確保し、さらに質的に優れた人材を確保するための具体策を検討、提示することを目的として、全国の医科系大学の衛生学・公衆衛生学教授により構成される衛生学公衆衛生学教育協議会の会員を研究協力者に組織して調査研究を行った。衛生学・公衆衛生学の卒後教育に関しては、各レベルでの研修体制の整備が早急に望まれており、今後の日本に望まれる衛生学・公衆衛生学の卒後教育システム構築の基礎資料として、欧米の卒後教育に関する資料を作成した。公衆衛生志向臨床医の養成に関しては、平成16年度より必修化される卒後臨床研修制度に
おいて、よりよいプライマリ・ケア研修が提供できるようカリキュラムを整備する必要があり、現段階における進捗状況、課題を明らかにした。衛生学・公衆衛生学の卒前教育に関しては、「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の体系内で、社会医学実習の位置付けおよび学習目標設定について調査検討を行い、今後社会医学実習のモデルGIO/SBOs作成の必要性が示された。疫学的研究と倫理に関する研究では、「疫学研究を実施するにあたっての倫理指針」(日本疫学会)、「疫学研究に関する倫理指針」(国)の意義についてまとめ、今後の検討事項について整理した。社会医学サマーセミナーを実施し、医学部・医科大学学生に対し社会医学への動機付けとして効果があると評価でき、チュートリアル形式の教育手法の有効性が示された。

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