未成年者の喫煙及び飲酒行動に関連する環境要因についての研究

文献情報

文献番号
200201108A
報告書区分
総括
研究課題名
未成年者の喫煙及び飲酒行動に関連する環境要因についての研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
尾崎 米厚(鳥取大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根智史(国立保健医療科学院)
  • 福島哲仁(福島県立医科大学)
  • 谷畑健生(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、わが国の未成年の喫煙行動や飲酒行動の実態とその関連要因およびそれらに影響を与えている環境要因を明らかにし、未成年者の喫煙対策、飲酒対策を効果的に推進する方策を提言することである。本研究の解析により、現在の未成年者の喫煙行動及び飲酒行動の実態が明らかになり、それらのハイリスクグループを特定でき、さらに関連要因や学校要因を明らかにすることで予防対策についての提言ができる。さらに、未成年者の飲酒及び喫煙行動に影響を与えるものとして特に広告とテレビドラマやコミック誌上での飲酒、喫煙シーンの取り扱いに的を絞り、それらの媒体別の量および内容を分析し、これらがどのように未成年者の飲酒及び喫煙行動に影響を与えているかを検討するこをと目的とする。本研究により未成年者の喫煙・飲酒行動に影響を及ぼしている社会的要因の問題点が明らかになるため、我が国において、どのような規制等の対策を講じるべきかという政策判断の極めて重要な判断材料を提供することになる。
研究方法
たばこ及び酒の雑誌広告調査の調査対象雑誌は、毎日新聞社調査に基づく青少年に良く読まれている雑誌とわが国の雑誌売上ベスト30の中から選んだ。小学生、中学生、高校生の男女別によく読まれている雑誌とわが国で売り上げ数が多い雑誌から上位12雑誌を毎年の調査対象雑誌とした。調査内容は、雑誌の発行年月日、総ページ、酒広告の量、酒の種類、タレント登場の有無、懸賞広告の有無、広告の雑誌における位置であった。調査した雑誌の発行時期は、たばこ広告調査で、1986年1月~2001年12月、酒広告調査で1996年1月~1998年12月までであった。交通広告調査では、首都圏を走るJR線、大手私鉄線、地下鉄線のうち、12路線を任意に抽出し、毎月1回車両内のたばこ及び酒の広告を全て調査した。調査内容は、広告数、酒の種類、銘柄名、広告の大きさ、枚数、タレント登場の有無、タレント名、懸賞・プレゼントの有無等であった。今回の解析対象は、たばこ広告の調査は1998年3月から2001年1月、酒広告の調査は、2000年7月より2001年1月までであった。街頭広告は東京の山手線周辺地域で、若者が集まることが多い6地域の繁華街の数ブロックを固定地域として定点観測を実施した。調査対象は屋外にあるあらゆる大きさのたばこ及び酒の看板広告である。調査内容は、広告数、銘柄名、酒の種類、タレント登場の有無であった。毎月1回各定点地域を調べみつかったすべての広告を写真にとって記録した。今回の解析対象は、たばこ広告の調査は1998年3月から2001年1月、酒広告の調査は、2000年7月より2001年1月までであった。雑誌のたばこ広告についての質的分析は、1987年~2000年に週刊誌など一般雑誌(全47誌)に掲載された「たばこ広告」を収集(約15,000点)し、資料とした。補足資料として1998年~2000年に東京の街頭に掲示された「たばこ広告」の写真も用いた。分析方法は、広告に描かれた言語的・図像的意味を分類し定性的分析である。先行研究として、広告が有するジェンダーアイデンティティへの影響)、たばこ広告と女性のジェンダー、たばこ広告にみる男性の喫煙表象の歴史的分析を参考とし、たばこ広告も、少なからず男性のジェンダーアイデンティティに関連する役割があると想定して分析した。
結果と考察
①青少年のよく読む雑誌におけるたばこ広告の動向の特徴:1986年から2001年まで青少年のよく読む雑誌(青少年雑誌)12誌におけるたばこ広告量(ページ換算)をみると2000年までほぼ増加傾向にあることが明らかになった。この16年間を4期に分けると、2期目は1期の1.2倍
、3期目は1期の1.4倍、4期目は1期の2倍の広告量があった。青少年雑誌におけるたばこ広告量の増加が示されたが、2001年は前年に比べ急減した。これは一部の雑誌における広告量が激減したためである。大人がよく読む雑誌(大人雑誌)においても広告量が増加したが、青少年雑誌の増加率のほうが大きかった。雑誌単位ページあたりのたばこ広告量は、やや大人雑誌のほうが多いが、差は縮まりつつある。青少年雑誌におけるたばこ広告の増加は主に日本銘柄、男子向け銘柄で認められるが、最近では両性向け銘柄の広告量の割合が高くなった。日米銘柄とも男子向け広告が多いが、日本銘柄では比較的両性向け銘柄広告が、アメリカ銘柄では比較的女子向け銘柄広告が多い傾向にあった。また、たばこ広告における懸賞広告の割合が高くなってきている。16年を4期に分けて分析すると、最初の1期の懸賞広告の割合は11%、2期目は10%、3期目は23%、4期目は26%と3期目以降急増した。懸賞広告割合は日本銘柄よりアメリカ銘柄で、男子向け銘柄で高いことが明らかになった。これは、大人雑誌のたばこ広告における懸賞広告割合より高かった。
②青少年の喫煙銘柄とよく読む雑誌にみられるたばこ広告との関連:1996年度青少年の喫煙行動に関する全国調査における青少年の喫煙銘柄と、青少年雑誌に広告されている銘柄と大人雑誌に広告されている銘柄を比較すると、前者2つは似ており、大人雑誌の広告とは異なる傾向が認められた。すなわち、青少年が良く吸う銘柄でかつ青少年雑誌に多い広告銘柄は、マールボロ、ラッキーストライク、クール、バージニアスリム、等であった。逆に青少年が余り好んで吸わず大人雑誌に広告されている銘柄はフロンティア、アルファ、カールトン、ネクスト等であった。フロンティアはマーケットシェアも高い。このように青少年雑誌のたばこ広告と青少年の好む喫煙銘柄に関連があることが示された。
③たばこ広告の質的分析:雑誌のたばこ広告に描かれた場面や言葉を言語的、図像的意味を分類し定性的分析を試みた。たばこ広告の特徴として、自然の強調したばこのイメージを自然と融合しようとするもの、人間による自然への挑戦・征服という喫煙による爽快さや力強さの意味付け、広告中の言説、タレント起用、しぐさ、賞賛的まなざしなどによる男らしさの強調、男性のアイデンティティ構築を強く意識した内容(性差別的表現)、白人登場による西洋的イメージの強調などによる、健康への害、自然環境破壊、などといったマイナスイメージを払拭しようとする作りになっていることが明らかになった。
④交通広告、街頭広告、新聞広告:たばこの交通広告調査によると、12路線の年間合計広告数は1998年(3月以降)で317、1999年で360とほぼ同レベルであったのが、2000年には511と急増した。広告数が増加した路線とほとんど変わらない路線に分かれていた。電車広告のおよそ3分の1がアメリカ銘柄であった。たばこ広告は夏休み中、年末年始、春先に多い傾向が認められた。総広告数のおよそ6分の1が懸賞広告であった。懸賞広告数は年々増加傾向にあった。懸賞広告の2/3が外国銘柄でその数は2000年に急増していた。「20歳になるまでたばこは吸わない」というキャンペーン広告数は3年間でわずかに21で、しかも1998年には19あったが1999年0、2000年は2と激減した。たばこの街頭広告調査によると、街頭広告数は1998年から2001年1月にかけてほぼ一定であった。地域別にみてもほとんど変化はなかった。街頭広告の約8割は外国銘柄のものであった。特に六本木のたばこ広告はほとんど外国銘柄のものであった。新聞広告は、広告量の月別変動が大きく、ほとんどが日本銘柄の広告で、男性向け広告が多く割合も増加しつつあり、掲載紙により広告量の多い新聞や男性向けの広告がほとんどである新聞といった特徴があることなどが認められた。また雑誌より懸賞広告の割合が高く、ほとんどが男子向けの銘柄で、日本たばこでその割合が高いことも明らかになった。
⑤酒広告の分析:酒の雑誌広告の量をみると、たばこ広告の量よりかなり少く(半分以下)、しかも減少傾向にあった。酒の広告を酒の種類別にみると、1998年ではビールが最も多く、次いで甘い果物味のお酒、日本酒、サワー類、発泡酒の順であった。最近増加傾向にあるのは、甘い果物味のお酒で、青少年が好んで飲むビールと甘い果物味のお酒の広告の割合が高いのが特徴である。また、総広告量に占める懸賞広告の割合は年々増加してきた。路線毎にみると、広告数が多い路線(2001年になって広告数が増加した路線と一致)と2000年の内から広告が少なく2001年になっても増加しなかった路線に分かれていた。酒の種類別にみると6割近くがビールで次いで、発泡酒、ウイスキーであった。ビールは季節に関係なく広告量が多かった。
結論
たばこの雑誌広告は、特に1998年以降(テレビCMの自主規制後)増加傾向にあり、懸賞広告の割合も増えている。雑誌広告銘柄は青少年が好んで吸う銘柄に関連があり、広告の内容も喫煙のマイナスイメージを払拭し、プラスのイメージを提供するようになっている。たばこの交通広告も増加傾向にあった。このような喫煙を助長する環境が我が国では青少年の喫煙行動に影響を与えていると推察された。

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