行動科学に基づいた喫煙、飲酒等の生活習慣改善のための指導者養成システムの確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201106A
報告書区分
総括
研究課題名
行動科学に基づいた喫煙、飲酒等の生活習慣改善のための指導者養成システムの確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(大阪府立健康科学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 生山 匡(山野美容芸術短期大学)
  • 足達淑子(あだち健康行動学研究所)
  • 増居志津子(大阪府立健康科学センター)
  • 大島 明(大阪府立成人病センター)
  • 島井哲志(神戸女学院大学人間科学部)
  • 内藤義彦(大阪府立健康科学センター)
  • 伊達ちぐさ(武庫川女子大学生活環境学部)
  • 須山靖男(明治生命厚生事業団・体力医学研究所)
  • 岸本益実(広島県呉地域保健所)
  • 山口幸生(福岡大学スポーツ科学部)
  • 本庄かおり(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣は、基本的には個人が自らの責任で選択する問題であるが、実際には、個人の力のみで、その改善を図ることはむずかしい。そこで、個人が健康的な生活習慣を確立できるよう、社会環境の整備とともに、教育面から支援を行い、行動変容への動機づけや行動変容に必要となる知識・スキルの習得を促すことが必要である。
本研究は、平成10年度より12年度にかけて厚生科学研究費補助金の下で過去3年間実施した研究成果(H10-健康-048)を踏まえ、健診や外来等の既存の保健医療の場での行動科学的手法を用いた生活習慣改善支援の普及を目指して、最新の教育手法や情報技術(IT)を活用した指導者教育養成システムを開発、評価し、その確立を図ることを目的とする。
研究方法
研究の初年度~2年次前半(平成13年度~14年度上半期)にかけて開発する指導者養成システムは、ワークショップ(基礎講習1日間、体験指導3カ月間、フォローアップ講習1日間)とeラーニングによる通信教育で構成される。まず、ワークショップのプログラムについては、行動科学の理論コースと適正飲酒のプログラムを開発することとし、指導者用の教材やワークショップのプログラムを試作するとともに、その使い勝手と効果を検討するための研究を実施した。また、禁煙、ストレス、運動については、平成10~12年度にかけて研究申請者らが開発したプログラムの簡易化と改良の検討を行った。次に、ワークショップのプログラムの簡易化に伴う講義や実習時間の短縮を補うため、eラーニングによる通信教育システムを開発し、ワークショップに組み合わせて用いることとした。今年度はワークショップのプログラムと組み合わせて用いるeラーニングのシステム設計を行うとともに、eラーニングにふさわしい学習内容の検討やシステム開発に必要なコンテンツの整理を行った。その他の研究として、1)効果的な健康づくりリーダー養成プログラムの開発と評価、2)行動科学に基づいた生活習慣改善プログラムや指導者養成システムの効果検証、3)自記式質問票による生活習慣行動の簡易評価法の開発と評価、4)諸外国における指導者遠隔教育の実態把握とレビューを行った。
結果と考察
1.今年度は、昨年度に引き続き、ワークショップとeラーニングによる通信教育で構成される指導者教育養成システムの開発を行った。ワークショップのプログラムについては、簡易化と改良の検討を行い、eラーニングについては、システムにふさわしい学習内容の検討、システム開発に必要なコンテンツの作成やシステムの開発を行った。
2.行動科学の理論や手法に関する指導者トレーニングプログラムの開発では、昨年度作成したテキスト「保健指導に役立つ行動理論」と指導面接のビデオ教材「習慣変容のための初回面接」を用いて、指導者教育養成プログラムを作成し、その教育効果を前後のアンケート票調査により比較検討するとともに、行動理論の学習に情報技術(IT)を応用することの問題点等を考察した。
3.適正飲酒のための指導者トレーニングプログラムの開発においては、開発したトレーニングプログラムの有効性を調べるため、3か月間の体験指導後のフォローアップ講習を開催し、その評価を行った。その結果、講習に対する満足度は高かったが、指導に対する自信や態度の結果から、講習時間や内容などプログラムの改良が必要であることがわかった。また、eラーニングによる通信教育システムの設計とeラーニングを用いた知識習得コースのコンテンツ作成に着手した。
4.禁煙サポートのための指導者トレーニングプログラムの開発では、他の領域に先行する形で作業を進め、ワークショップに参加する前に受講者が用いるeラーニングによる事前学習コースを作成した。また、職域や地域で保健専門職でなくてもタバコ問題の啓発ができる集団教育用CD-ROM教材とトレーニングプログラムを開発するとともに、講習会を開催して、その使い勝手と効果を検討し、良好な結果を得た。
5.ストレスコーピングのための指導者トレーニングプログラムの開発においては、eラーニングのコンテンツについて検討するために、「メンタルヘルスセミナー」の基礎コースと専門コースの研修会を開催した。その結果、eラーニングのシステムのコンテンツには、指導者が具体的な指導ができるように、理論的な事項と具体的かつ事例的な事項を織り交ぜて盛り込んでいく必要性があると考えられた。
6.運動支援のための指導者トレーニングプログラムの開発においては、行動科学をベースにした教育方法および指導者養成システムの開発を目的とし、eラーニングによる運動支援のための指導者養成システム構築に着手し、指導者養成用テキストのハイパーテキスト化および運動指導のためのホームページ作成について検討を行った。また、テキスト作成に当たっては、2日間コースの講習会で提供すべき内容、事前または事後に講習会に絡んで自己学習すべき内容、講習会とは独立した身体活動・運動指導に関連した重要事項などを整理した。
7.効果的な健康づくりリーダー養成プログラムの開発と評価に関する研究においては、行動科学的視点を盛り込んだ2日間(計10時間)の養成講座を2カ所で開催した結果、今回のプログラムが一定の有効性を持つことが明らかになった。また、生活習慣改善支援に関する自己効力感について検討した結果、地域健康づくりリーダーの養成プログラムとしては、2日間で講座を終了するのではなく、講座で作成した行動計画の実践後にフォローアップ講座を開催し、フォローアップ講座を含めた形で評価を行うことが望ましいと考えられた。
8.行動科学に基づいた生活習慣改善プログラムや指導者養成システムの効果検証については、平成10-12年度の健康科学総合研究事業において開発した、コンピューター問診による生活習慣改善の個別アドバイスシステム「生活習慣カウンセラー」を用いて、職域における生活習慣改善による1次予防介入の効果を調べるための研究デザインの概案について検討した。次に、医療における効果検証については、昨年度に引き続き、医療、特にプライマリケアの場における生活習慣改善指導の効果検証等について文献的なレビューを行うとともに、現在計画しているPMPC(Preventive Medicine at Primary Care)プログラムの効果検証のための研究デザイン案の検討を行った。
9.自記式質問票による生活習慣行動の簡易評価法の確立とその応用では、平成11~12年度に開発した食生活、特にエネルギー、塩分、脂肪の摂取状況に関する自記式食生活簡易質問票について、再現性と妥当性の検討を行った。その結果、開発した質問票は、2者択一形式で質問項目が15項目と少なく、簡易で簡便であり、エネルギー、脂質、食塩摂取量が多めの人をスクリーニングする方法として有用であることが示唆された。
10.諸外国における指導者遠隔教育の実態把握とレビューについては、諸外国で行われているeラーニングに関わる問題点を文献的に検討するとともに、事例として英国におけるeラーニングの取り組みを調査した。その結果、1)学習時間の確保、2)ITに関連する環境、3)プログラム内容の適切性、が主要な問題点としてあがった。これらの問題点の対応策として、eラーニング実施前に、受講生のeラーニングに対する準備性を把握するアセスメントが必要であると考えられた。
11.わが国において、ワークショップとITを活用した通信教育から成るトレーニング方法を用い、保健医療従事者に対して、行動科学に基づいた効果的な生活習慣改善支援の方法論の普及を図るための研究は、これまで例がなく、本研究がわが国で最初の研究と考える。本研究で確立された指導者教育養成法を地域や職域、医療等の場に、それぞれに合った形で広く普及することにより、国民の生活習慣の改善が促進され、その結果、生活習慣病の一次予防に少なからず貢献することが期待できる。また、本研究の成果は、健康日本21の地域展開にあたり、その基盤づくりのための行政施策として活用されうるものと考える。来年度は、今年度に引き続き指導者教育養成システムの開発を行うとともに、開発した教育養成システムの有効性の評価についても、開発が終了したプログラムから順次研究を開始する予定である。
結論
わが国では健康日本21の地方計画の策定や健康増進法の制定に伴い、医療や健診等の場での生活習慣改善支援のための指導者教育養成システム構築の必要性が高まってきている。今後、早急に行動科学や最新の情報技術を用いて効果的かつ効率的な生活習慣改善のための指導者教育養成プログラムを開発するとともに、効果検証を行った上で、その普及を図ることが必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-