インターネットおよび情報端末機器を用いた中高年期の健康づくり支援システムの開発

文献情報

文献番号
200201100A
報告書区分
総括
研究課題名
インターネットおよび情報端末機器を用いた中高年期の健康づくり支援システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
新開 省二(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 柴田博(桜美林大学)
  • 星旦二(東京都立大学)
  • 渡辺修一郎(桜美林大学)
  • 櫻井尚子(東京慈恵会医科大学)
  • 熊谷修(東京都老人総合研究所)
  • 山田敦弘(日本総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会環境の変化や高齢化の進展、医療技術の進歩などに伴い住民の健康意識が高まる一方、健康問題は多様化し、健康づくり活動では、社会環境の整備などのマクロ面での対策に加え、個別的対策の重要性が増してきている。しかし、ライフスタイルの多様化などに伴い、従来からの健康づくり事業への住民参加はあまり進んでいない。一方、健康づくりの基盤となる住民の意識や知識、生活習慣の形成には、急速に普及が進むインターネットをはじめとした情報技術(IT)機器を介した情報提供が次第に影響力を増しつつある。本年度の研究事業の一つとして行った60歳代前半の都市部中高年者に対する健康情報源に関する調査結果をみると、健康情報の入手先としてインターネットをあげたものは4.2%と未だ少ないものの、保健センターや保健所の3.6%よりはすでに高くなっている。こうした状況の下、本研究では、インターネットや情報端末機器による中高年者の健康づくり支援システムを開発することを目的としている。初年度(平成13年)は、インターネットおよび携帯情報端末、タッチパネル式情報端末機器を用いて、住民の生活習慣や健康に関わる情報を収集するシステムを開発した。さらに、得られた健康情報をデータベース化し、健康状態の推移を視覚的に把握するためのシステム、電子メールを活用した個別の健康教育情報提供システム、およびメーリングリストにより健康関連情報を提供するシステムの開発に着手し、その試作版を作成した。また、次年度に実施する健康づくりのアドバイス還元システムづくりの基礎資料とするため、約1,000名の高齢者の生活機能・介護予防に係わる要因等の検討も行った。これらの成果をふまえ本年度(平成14年)は、収集された情報を総合して、住民の生活習慣の問題点や生活習慣病の危険因子等を分析し、健康づくりのためのアドバイスを即時に還元するシステムを開発することを目的としている。本研究で開発するシステムにより、従来健康づくり活動へ参加する機会が少なかった多くの住民(勤労者)に対し、健康づくりのための個別的な情報提供を中心とした健康づくり支援が期待される。
研究方法
昨年度は、インターネット、携帯情報端末(PDA)、およびタッチパネル式情報端末機器を用いて、住民(勤労者)の生活習慣や健康に関わる情報を収集するシステムのプロトタイプを開発したので、本年度は、収集された情報を総合して住民(勤労者)の生活習慣の問題点や生活習慣病・要介護状態の危険因子等を分析し、健康づくりのための個別アドバイスを即時に還元するシステムへとバージョンアップする。結果判定のロジックとアドバイスの内容は、既存のもの(総合検診学会、ヘルスアセスメントマニュアルなど)の活用に加え、東京都老人総合研究所がこれまで行ってきた縦断研究や、本研究事業でこの2年間で実施した研究で得たエビデンスをふまえて作成する。3つのうち開発がもっとも先行している携帯情報端末については、実際の訪問指導の現場で試験的な運用を試み、15人のモニターの意見を集約する。また、回答の信頼性に及ぼす高齢者の認知機能レベルの影響をみるため、簡易認知機能検査(MMSE)で認知機能低下が疑われた高齢者158人に訪問面接調査を実施し、家族から本人の生活機能の自立度と痴呆の重症度(CDR)に関する聞き取りと、本人に再度MMSEを実施する。さらに、在宅自立高齢者の低栄養をスクリーニングするための問診票の開発を行うため、J1ランクであった在宅高齢者313人を2年間追跡
し、その間血清アルブミン値が0.2g/dl以上低下することの予知因子を多重ロジスティック回帰分析により明らかにする。最後に、住民(勤労者)の主体的な保健行動を促す上での、ITを活用した健康支援システムの役割とその必要な要素を明らかにするため、文献調査やブレインストーミングを行う。
結果と考察
インターネット、携帯情報端末(PDA)、およびタッチパネル式情報端末機器を用いて、住民(勤労者)の生活習慣や健康に関わる情報を収集した情報を総合して、住民(勤労者)の生活習慣の問題点や生活習慣病・要介護状態の危険因子等を分析し、健康づくりのためのアドバイスを即時に還元するシステムを開発した。①インターネットによる中高年者の健康づくり支援システムの開発:本システムの特徴は、健康情報の双方向性を重視し、収集されたデータを即時に分析し、利用者に個別アドバイスを還元することにある。開発過程では、指紋識別により本人を確証するシステムを開発した。こうした特徴を有するシステムの有効性についての分析は今後の課題である。本システムは、インターネットを用いた新しい形態の健康支援策を提案しており、後続する開発者にとっての優れたモデルとなろう。②携帯情報端末(PDA)を活用して生活と健康の情報を収集しアドバイスを還元するシステムの開発:訪問保健指導に役立つシステムとして開発した。モニターとなった相談員(15名)による評価をみると、全体的にはまだ改善の余地があるものの、PDAを活用した訪問保健指導記録を入力するシステムは非常に有用であることが明らかとなった。本システムはコンテンツを変更することにより、他の老人保健事業や介護予防事業あるいは介護保険事業に応用できる。すなわち、保健師等が対象者宅を訪問し、生活や健康状態のアセスメントを行い、それに基づいてアドバイスを還元したり、健康情報の時系列的な蓄積に役立てることができる。③タッチパネル式情報端末を活用して健康情報を収集しアドバイスを還元するシステムの開発:楽しみながら自分の生活習慣や要介護リスクがチェックできるよう設計されたので、住民の健康意識・保健意識の向上が期待できる。今後は、自己チェックした情報が保健センターなどに設置したサーバーに蓄積され、保健師などによる日常業務に活用できるようネットワーク化をはかることが課題である。④モデル地域におけるeプロモーションシステムの構築へ:今後は、上述のシステムをすべてネットワーク化して、住民(勤労者)の健康づくりを支援するeヘルスプロモーションシステムを、モデル地域で構築することが課題である。その有用性と費用対効果が確認されれば、他の自治体が本システムを導入する強力な動機づけとなろう。また、本システムがプロトタイプとなり、より優れたeヘルスプロモーションシステムの開発につながることが期待される。また、生活機能測定の信頼性に及ぼす高齢者の認知機能レベルの影響についての研究では、老研式活動能力指標の総得点と手段的自立において、重度認知機能低下群(MMSE≦20点)は他の二群(軽度認知機能低下群および健常群)に比べて、家族の評価よりも本人が過大評価する傾向を認めた。逆に言えば、MMSE得点が21点以上である高齢者(地域在宅高齢者の90%以上)では、老研式活動能力指標への回答はほぼ信頼できると考えられた。さらに、J1ランクであった在宅高齢者の低栄養状態を予測する上で、初回調査時の「過去1年間の転倒歴あり」、「過去1年間の入院歴あり」、「趣味や稽古事をしない」、「同居家族が3人以下」、「手段的自立障害がある」が独立した要因として抽出され、低栄養のスクリーニング項目として有力と考えられた。最後に、住民(勤労者)の主体的な保健行動を促す上での、ITを活用した健康支援システムが備える要素として、データの継続的な蓄積性と、ユーザーが参画でき人生を楽しくいきいきと生活する支援、すなわちポジティブな要素の二つをもつべきと考えられた。
結論
昨年度は、インターネット、携帯情報端末(PDA)、およびタッチパネル式情報端末機器を用いて、住民(勤労者)の生活習慣や健康に関わる情報を収集するシステムの
プロトタイプを開発したが、本年度は、収集された情報を総合して住民(勤労者)の生活習慣の問題点や生活習慣病・要介護状態の危険因子等を分析し、健康づくりのためのアドバイスを即時に還元するシステムへとバージョンアップをはかった。モデル地域において、これらのシステムをすべてネットワーク化して、住民(勤労者)の健康づくりを支援するeヘルスプロモーションシステムを構築する必要がある。

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