地域におけるたばこ対策とその評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201092A
報告書区分
総括
研究課題名
地域におけるたばこ対策とその評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大島 明(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中村正和(大阪府立健康科学センター)
  • 野津有司(筑波大学)
  • 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
  • 大野ゆう子(大阪大学)
  • 三上 洋(大阪大学)
  • 中村 顕(大阪府健康福祉部)
  • 柳 尚夫(大阪府池田保健所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国におけるたばこによる死亡数は1995年には9.5万人で、総死亡数の12%を占めていたと推定されている。喫煙は予防しうる最大の疾病・早死の原因との認識のもとに、欧米先進国では種々の喫煙対策が実施され成果を上げているにもかかわらず、わが国での取り組みは欧米先進国に比べて著しく立遅れている。このため成人男性の喫煙率は50%強と欧米先進国の約2倍の異常な高さにとどまっている。このような中において、府県、保健所、市町村や保健医療団体が取り組むことのできるたばこ対策としていろいろのものがあり、しかも成果を上げうることを示すことが、本研究の目的である。
研究方法
1.大阪府を地域ぐるみのたばこ対策の調査研究のフィールドとして位置付け、行政と連携して、2001年度から3年計画で医療機関におけるたばこ対策に焦点をあてた取り組みとその評価をおこなうこととした。(1) 2001年6月から2002年2月にかけて、府内(政令市を含む)の全ての保健所が医療監視等の機会を利用して行った病院の分煙・禁煙化ならびに禁煙サポートの実態調査(調査対象577病院、回収出来たのは561病院、回収率97.2%)のデータ解析をおこなった。(2)大阪府の各保健所において、地域の実情に応じたたばこ対策の取組みを実施した。
2.大阪大学医学部保健学科では、昨年度に引きつづき、保健学科3専攻の学部学生を対象に、喫煙行動とたばこに対する態度に関する調査を行った。また、看護学専攻2年生を対象に、2回完結のたばこ教育プログラムを作成し、その効果を検討した。
3.地域でのたばこ対策に役立つ情報を広く発信するために、研究班でこれまで収集してきた先進事例や、研究班の研究者が開発してきた禁煙サポート、喫煙防止教育、分煙の教材やプログラムをインターネットを用いて情報発信するための作業をおこなった。
4.医師特に医師会に焦点を絞り、"Doctors and Tobacco"(Tobacco Control Resource Centre, 2000)の著者のディビッド シンプソン教授による講演会を企画し、長寿科学振興財団の支援を得て、実現した。さらに、講演記録集やビデオの作成・配布、ホームページでの公開に向けて作業を進めた。
5.地域におけるたばこ対策の取組みを評価するための準備のための作業を開始した。
結果と考察
1.大阪府における取組み(1) 保健所による医療監視等の機会を利用して2001年度に実施した病院の分煙・禁煙化ならびに禁煙サポートの実態調査結果:ガイドラインでは、「患者が出入りする場所」のうち「病室、診察室、諸地質、手術室、検査室、病棟詰所、待合室、廊下、トイレ」などを「禁煙とすべき場所」として最初に取り組むことを求めている。これらの場所のすべてが禁煙となっていた病院は54.6%(前年の2000年度調査では50.6%、以下2000年度の成績を括弧内に示す)、たばこの煙が喫煙場所から流れ出ない完全分煙としていた病院は5.3%(4.3%)、あわせてガイドラインの目標をクリアしていた病院は59.9%(54.8%)であった。ガイドラインでは「職員のみが使用する場所」のうち「検査室、会議室、応接室など」は「禁煙とすべき場所」としているが、これらのすべてが禁煙となっていた病院は54.2%(46.7%)、たばこの煙が喫煙場所から流れ出ない完全分煙としていた病院は1.8%(1.3%)、あわせてガイドラインの目標をクリアしていた病院は54.2%(48.9%)であった。 (2) 池田保健所では2001年度作成の「池田保健所健康作り計画」の中で、たばこ対策を重点項目にあげ、実施計画を策定した。2002年度は、その初年度として、学校との連携と企業との連携に取り組んだ。2002年12月には、池田保健所はじめ大阪府内6保健所の所長あるいは地域保健課長が保健所における喫煙対策に関して情報交換、意見交換のためのワーキンググループ会議をもった。全体討論では、保健所による医療監視の際にあわせて行う病院の分煙・禁煙化ならびに禁煙サポートの実態調査に関しては、改善・要望事項として病院に伝えることにより成果を挙げ得るが、健康増進法が2003年5月に施行される際、厚生労働省が第25条受動喫煙の防止に関してどれだけ具体的な指針を示すかが重要なポイントである、子どもへの働きかけについては、保健所は、医師会、教育委員会、PTAなどと連携をとり、環境づくりを行うことが第1義的任務である、などの議論が行われた。
2.大阪大学医学部保健学科の取組み
2002年度の調査によると、喫煙率は学科全体では5.7%で前年度の6.2%と比較してやや低かった。専攻別では、看護学専攻で5.4%、検査技術学専攻で4.3%、放射線技術学専攻で7.1%であった。全体として学年が上昇するにつれ喫煙率は上昇していた。次に、看護学専攻2年生を対象に、2回完結のたばこ教育プログラムを作成しその効果を検討した。教育プログラムにより、学生のたばこの知識と態度は改善を示したが、禁煙サポート方法の理解とたばこ保健指導への意欲の上昇は十分とはいえず、プログラムの内容を改善する必要があると考えられた。
3.インターネットによるたばこ対策情報の提供
中村班員は、これまで収集してきた地域でのたばこ対策の先進事例や研究者が開発してきたたばこ対策の各種プログラムについてインターネットを通して広く情報発信を行うため、2003年5月には大阪府立健康科学センターのホームページに本研究班のホームページを立ち上げ(http://www.kenkoukagaku.jp/)、本研究のこれまでの報告書やたばこ対策に関連した論文や教材の詳細情報等のほか、後述のシンプソン教授講演会の概要や講演記録集を掲載するべく準備を進めている。また、2000~2001年度にかけて「がん予防キャンペーン実行委員会」と共同で開発した医療機関用のたばこ対策キットは、大阪がん予防検診センターのホームページ(http://www.gan-osaka.or.jp/canpain/2001/2001kyouzai.html)で閲覧およびダウンロードができるよう2002年3月から公開を始めたが、当研究班のホームページでも公開する。
大和班員はこれまで開発した分煙プログラムを引きつづき、産業医科大学のホームページ(http://tenji.med.uoeh-u.ac.jp/smoke.html)で紹介した。2002年度には、地域・職域における分煙事例の収集をこれまでに引きつづき行うとともに、官公庁、教育機関、医療機関における望ましい受動喫煙対策である屋外喫煙についても事例を収集した。
野津班員は、喫煙防止教育プログラムとして開発した「ケムケムケロ」について、協力小学生および教師らによる試行、評価をへて改善をおこない、さらに関係者らへのヒアリングにより修正をおこなうなど、「インターネット版ケムケムケロ」の完成に向けて作業を進めている。
4. 喫煙対策推進のための医師会における医師を対象とした講演会の開催
主任研究者の大島は日本医師会禁煙推進委員会委員として、医師会のたばこ対策の推進に向けて、"Doctors and Tobacco"(Tobacco Control Resource Centre, 2000)の翻訳出版を提言し、2002年6月に日本医師会から「医師とたばこ-医師・医師会はいま何をすべきか」というタイトル名で出版された。これまでに約3万部が希望者に対して無料配布されている。さらに、中村班員と共同して、著者のディビッド シンプソン教授による講演会を企画し、長寿科学振興財団の支援を得て、2002年10月に4ヵ所での医師会主催による講演会が実現した。10月10日大阪府医師会館における講演会(大阪府医師会主催)には、134名が参加、10月11日日本医師会における講演会(日本医師会主催)には142名参加、10月13日京都私学会館における講演会(京都府医師会と京都禁煙推進委員会との共催)には60名参加、10月14日兵庫県医師会館における講演会(兵庫県医師会、兵庫県喫煙問題研究会、日本禁煙医師連盟兵庫支部との共催)には65名参加した。
5.地域におけるたばこ対策の取組みを評価するための準備のための作業
大野班員は、既存モデルCANSAVEを参考にシステムダイナミクスを用いて肺がん自然史モデルを構築し、「喫煙の状況を改善した場合」は肺がん死亡減少効果が大きいものの効果が現われるまでには若干のタイムラグが発生すること、「肺がん検診受診率を上昇させた場合」では肺がん死亡減少数は「喫煙の状況を改善した場合」に比べて小さいものの、その効果が現われる時期は早いことが示された。また、未成年喫煙の影響が大きいことが明らかになった。
結論
たばこ対策に関する環境がまだ整っていない現在のわが国においても、地域における各種のたばこ対策は実行可能で成果が上がることが示された。

公開日・更新日

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