市町村の指標化された中長期サービス政策立案に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201083A
報告書区分
総括
研究課題名
市町村の指標化された中長期サービス政策立案に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 啓(宮城大学)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤清司(福島県立医科大学)
  • 安齋由貴子(宮城大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康日本21を初めとする事業評価指標をもった中長期保健サービス政策(計画)策定方法について、市町村レベルでは多角的な研究はほとんどない。そこで本研究は市町村レベルでの具体的な策定方法論の確立を目的とするものである。この策定方法論は保健所の市町村への策定支援策としての活用も考慮したものである。本研究で目指している策定方法論は、どこの市町村でもどこの保健所の支援策としても活用できるものを目指している。そこで、本研究では方法論とは別に、保健所機能が市町村支援として有効に働く要因について分析した。また、あらゆる保健活動には住民参加および住民自主グループの育成が重要であることから、とくにこれらの政策手法への応用展開についても本研究で分析した。
研究方法
策定方法論の確立については、昨年報告した体系化(既存事業再編成)⇒優先順位付け⇒事業指標化⇒住民周知(住民参加)という4つのスッテプを経る策定方法について、実証的に宮城県の9町村に介入支援研究を行った。すでに1町は昨年度策定を終了していることから、そこでは評価指標の有効性についての検討を行った。昨年の研究では、市町村の場合はアウトカム(成果)指標だけでなく、アウトプット(行政のサービス投入量)指標も柔軟に活用することによって、住民にわかりやく実効性のある事業指標化(数値目標化)を考案したが、その有効性について分析した。4町1村は本年度策定を完了し、来年度の完成を目指した3町は策定中であり、そのなかの1町で住民参加型策定会議を取り入れた手法を試みた。この住民参加策定会議手法を取り入れることは、昨年開発した策定方法論の柔軟性を検証することでもある。一方、全国的には市町村の健康日本21地方計画策定が期待ほど推進されていない事実がある。そこでその背景を市町村保健師レベルで分析するために、山形県で市町村保健師326名に対して郵送法によるアンケート調査を行った。このアンケートの目的は特に、事業評価指標や数値目標など従来の保健計画にはない概念についての抵抗感あるいは困難感を評価するためである。この分析は、より円滑な策定方法論の周知研修に資する資料を得るためである。保健所における市町村支援策が有効に働く要因分析については、昨年に続き福島県の市町村と保健所に対して質問紙調査、聞き取り調査、実体調査を行なった。住民参加および住民自主グループ育成については、宮城県内の5事例の分析を通して行なった。
結果と考察
1)策定方法論について
体系化⇒優先順位⇒評価指標⇒住民周知という策定方法の有効性と実用性を宮城県内の9町村の介入研究で実証した。1町が昨年度完成し、5町村が本年度中に策定完了し、残りの3町が策定中である。体系化⇒優先順位⇒評価指標⇒住民周知という手順において、最終ステップの住民周知の重要性が再認識された。この住民周知とは、具体的には策定案が完成した後に、半年から1年ほどの周知期間を設定すること、また周知のためのシンポジウムや公聴会を行うことである。これによって住民の意見の吸い上げを行なうことがどの町村でも重要な策定プロセスと位置付けられている。このような周知期間の総仕上げとしてのシンポジウムでは、各種団体や町村議会議員等も参加する工夫がどの町村でも行なわれていることから、非常に有意義な機会となっている。シンポジウムのシンポジスト構成は、これら5町村のうち4町村で管内保健所保健所長が参加し、それぞれの町村の住民代表(健康づくりや福祉におけるボランティア団体代表や学校の養護教員など)もシンポジストとして選ばれる形式である。その中で、それぞれの町村の健康日本21地方計画最終案の目標や評価指標が公表され、最終的な策定案調整の機会として活用されている。このようなシンポジウムの効果としては、1)健康づくりへの住民参加に繋がる住民周知が徹底されること、2)行政内部の保健部門以外の部門でも健康日本21の理解が促進されること、3)周辺市町村への波及効果があること(各町村ともシンポジウムはオープンであることから、周辺自治体の保健スタッフ等も参加)、4)首長や議会などへも健康日本21の重要性が改めて再認識されること、5)シンポジウムへ管内保健所が協力することによって市町村と県保健所との連携機能が高まること、6)マスコミ(地元紙)や関係団体、学校教育機関への健康日本21のアピールがされること、などである。このようにシンポジウム等を含んだ周知期間は、非常に有力な住民参加や関連団体、学校教育機関への啓発手段となることが確認された。評価指標の設定については、多くの町村ではアウトカム指標にこだわると、そこで策定が頓挫するケースが生じやすことが明らかとなった。このため、本策定方法では、アウトプット(行政のサービス投入量)指標の設定を促している。例えば、タバコ対策事業であれば、禁煙率というアウトカム指標ではなく、アウトプット指標として禁煙講演会の開催回数などを指標とするものである。しかし残念ながら、多くの市町村で指標はアウトカム(成果)指標であるという固定観念が強く、また、アウトプット(行政のサービス投入量)指標についての理解が乏しいこと、さらに国や都道府県の計画はアウトカム指標が多く、市町村レベルでも同様なアウトカム指標を立てようとすること、などにより指標化に難渋する場合が多い。また、市町村にとっては現実的でない指標のための指標化が指導されるケースも多く、保健所側の指標についての理解の向上がより一層望まれる。今後の課題として、アウトプット指標の設定についての啓発普及が望まれるだろう。さらに、今後は都道府県保健所では、管内のアウトカム指標となる基礎調査を行い、一方で市町村はアウトプット指標を計画に盛り込み、評価の時点で管内保健所の基礎調査によるアウトカム指標を活用できるように環境を整えるなど、健康日本21においての市町村と保健所の役割分担が望ましい。特に人口規模の小さな自治体で調査を行なっても、疫学的な偶然変動が大きくなり、アウトカム(成果)指標になり難い場合などは、より広域的な保健所による調査が望ましい。以上、この策定方法は保健所での市町村計画策定支援策としての有効性も実証した。本策定方法の周知期間は、健康日本21計画の啓発と推進について大きな効果があることが明らかとなった。また、いわゆる住民参加型策定を取り入れた策定手法も応用例として本方法で活用できることから、本策定方法は実用性と柔軟性があることが確認された。山形県の市町村保健師調査では、有効回答206名(有効回答率63.2%)のうち58.4%が指標化を伴う計画策定に関して困難感を示し、その
対策の必要性が示唆されたので、この状況に対応した市町村への支援策定マニュアルの策定を試みた。
2) 保健所が市町村支援を行う場合に必要とされる要素について
保健所が市町村の保健福祉計画策定に対し効果的に支援を行うには、「十分な庁内の協議」と「意思の統一」「情報の共有化」が必要であり、「最初の協議の枠組みづくりがとても重要なポイント」になっているものと思われる。また、特に福島県の保健所においては、「所長の他に所内に公衆衛生専門医が配置されること」「業務横断的な役割の地域支援グル-プの力量が重要であること」を強調したい。一方、市町村が計画策定に取り組むためには「あせらず、計画策定について所内での十分な共通理解を得た上で、保健福祉事務所を上手に活用」することが重要と思われた。
3)政策立案手技としての住民参加および住民自主グループ育成について
住民参加および自主グループ育成のプロセスには、5事例の分析の結果、「住民の実態から対応の必要性を把握し対策を思案する」、「対策の必要性について理解を得ながら実施の機会を待つ」、「国、県、町の施策に位置づける」、「試行的に対策案を実施する」、「事業実施に関する行政組織・組織間の対応」、「参加者の主体性の育成・自主的活動への支援」、「事業の拡大・発展を企画・支援する」「評価する」という8つの手法を状況に応じて展開することが明らかとなった。
結論
結語=初年度に開発した策定方法論が市町村の策定方法としても、また保健所の支援策としも有効性であることを実証した。しかし、市町村保健師のアンケート調査からは、計画策定の指標化、数値化については、その必要性や有効性の理解が進んでいないことが示唆された。このため、策定方法論について研修会やマニュアル化が必要とされ、策定マニュアルを試みた。市町村へ効率的に支援を行う保健所の要因を明らかにし、また住民参加および自主グループ育成の要因を明らかにした。来年度は、策定方法では住民参加型策定会議の導入について分析し、本年度からスタートした町での実証研究を行ない、また、山形県で行った保健師アンケートをプリテストとして、全国規模ではどのような問題点があるかを調査し、本年度までに得られた成果を基に、本格的なマニュアルの作成を予定している。本研究はすべて実証的な介入研究であることから、宮城県、福島県において既に成果提供を行なっているが、来年度は成果について全国的な規模での貢献を企図している。

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