構造・過程・結果のアプローチからの保健所機能の総合評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201081A
報告書区分
総括
研究課題名
構造・過程・結果のアプローチからの保健所機能の総合評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大井田 隆(日本大学医学部公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域保健法施行後、保健所は機能強化が求められているが、機能強化を推進するためにはその評価手法を開発する必要がある。しかしこれまでの研究では、地域住民の健康水準などの結果がほとんど把握されておらず、保健所機能の質の側面である構造、過程、結果が総合的・包括的に評価されていない。本研究は、地域保健法において明示された保健所機能を、構造・過程・結果のアプローチから把握し、それらの関係性を包括的に分析し、保健所機能を総合的に評価するための方法論を開発することを目的とした。
研究方法
①保健所機能(情報機能、調査研究機能、研修機能、健康危機管理機能、健康日本21推進機能、企画調整機能)の「構造」の実態を把握するために、全国の591保健所を対象に、平成14年11月、郵送により自記式調査票を配布し、情報機能(統計解析ソフトの保有、ホームページの開設、年報・業務報告の次年度事業への反映など)、調査研究機能(調査研究の公表、調査研究による施策提言の取得など)、研修機能(研修のための施設・設備の充足など)、健康危機管理機能(実地訓練の主催・参加、活動マニュアルの作成など)、健康日本21推進機能(二次医療圏計画の目標年度、管内市町村の計画策定・中間評価への支援など)、企画調整機能(保健所主催の会議への参加機関・団体など)などを設問した。②保健所機能の強化によって得られると予想される「効果」に対する認識を把握するために、全国の保健所を設置する123自治体(都道府県、指定都市、中核市、政令市、特別区)、3,164市町村、591保健所を対象に、平成14年11月、郵送により自記式調査票を配布し、各保健所機能の強化によって得られる効果(保健所・市町村の円滑な運営、保健所・市町村のサービスの質の向上、地域住民の健康水準の向上など)の程度を4段階評価で設問した。③健康日本21地方計画の策定・評価の推進状況を把握するために、全国の47都道府県、456都道府県保健所、3,240市区町村を対象に、平成14年11月、郵送により自記式調査票を配布し、地方計画の目標年度の設定、策定委員会・作業部会の設置、地方計画の住民への公表、計画策定のためのニーズ調査、中間評価の目標値・評価委員会・住民調査などを設問した。④保健所機能の構造・過程・結果の関係性を把握するために、2つの保健所においてモデル事業を実施した。
結果と考察
都道府県・指定都市・中核市・政令市・特別区の回収率は74.0%、保健所の回収率は69.4%、市町村の回収率は46.2%であった。①保健所機能の「構造」に関しては、平成11年調査と比較して、保健所機能の担当部門を設置する保健所は、情報機能が61%から79%に、調査研究機能が49%から58%に、研修機能が59%から75%に、企画調整機能が71%から83%に、健康危機管理機能が56%から85%に、健康日本21推進機能が87%に増加していた。またコンピューターの台数は15.5台から37.5台に、ホームページを開設している保健所は21%から65%に、住民の生活習慣に関するデータを把握・整理・解析している保健所は25%から47%に、調査研究の結果から施策提言が得られた保健所は60%から89%に、関係機関・団体が主催した健康危機に対応するための実地訓練に参加した保健所は28%から46%に増加していた。しかし、統計解析ソフトを保有している保健所は24%、情報整備に関する地方衛生研究所との協力体制が整っている保健所は57%、年報・業務報告を次年度事業に反映している保健所は82%、研修のための施設・設備が充足している保健所は4~6割、健康危機に対応するための実地訓練を主催した保健所は16%、健康危機発生時の活動マニュアルを作成している保健所は86%で、ほとんど変化していなかった。また、調
査研究結果を雑誌に投稿した保健所は7%、住民に公表した保健所は13%、健康日本21の二次医療圏計画の中間評価年度を設定している保健所は41%、保健所主催の会議に「公募」による一般住民が参加した保健所は約1割、警察・消防・教育委員会・学校・住民団体が主催する会議に参加した保健所は2~5割で少なかった。②保健所機能の「結果」に対する、保健所を設置する自治体、保健所、市町村の共通認識として、情報機能は全般的に効果が高く、調査研究機能は全般的に効果が低いと評価されていた。また研修機能は「保健所の市町村支援の技術・能力の向上」、「市町村が実施する地域保健サービスの質の向上」に対する効果が高く、健康危機管理機能は「関連行政部局・関係機関・関係団体との連携」、「快適で安心できる生活環境の確保」に対する効果が高く、健康日本21推進機能は「地域住民の健康水準の向上」に対する効果が高く、企画調整機能は「保健所の円滑な運営」、「政令市または特別区が実施する地域保健サービスの質の向上」に対する効果が高いと評価されていた。また認識の違いとして、市町村は健康危機管理機能を除く全ての保健所機能の効果を低く評価し、都道府県は健康日本21推進機能の効果を高く評価していた。③健康日本21地方計画の推進状況に関しては、ほとんどの都道府県は、計画策定・中間評価・最終評価の目標年度を設定し、策定委員会や作業部会を設置していたが、中間評価に関しては、目標値の設定、評価委員会の設置、住民調査の実施といった具体的な活動予定があるのは約半数であった。一方、県型保健所(二次医療圏)、市区町村では、策定年度の設定が約半数、中間評価年度の設定が2~3割と少なかった。市町村に対して支援をする予定がある都道府県・県型保健所は、計画策定でほぼ全数、中間評価で約半数であったが、都道府県や県型保健所の支援を受ける予定がある市町村は、計画策定で約半数、中間評価で約3割と、顕著に少なかった。支援内容としては、データや統計資料の提供・分析、市町村会議への参加、研修・学習会の開催などの「後方支援」の内容が多く、目標値や健康課題の優先順位の設定・見直し、計画・評価に基づく市町村事業の見直しなどの、計画推進作業を直接実施する内容は少なかった。
結論
①保健所の組織体系の多様化に対応するために、組織体系に関わらず全ての保健所に共通する評価指標と、特定の組織体系の保健所に適用すべき評価指標を明確に区別し、組織体系に応じた保健所機能の「構造」の評価体系を構築する必要がある。また達成度を段階で測定する評価指標に関しては、各段階の具体的な達成基準を設定する必要がある。②情報機能の効果は他の保健所機能の強化を介した間接効果の可能性があるため、情報機能の強化が他の保健所機能に及ぼす影響を明らかにする必要がある。また保健所機能の強化が、最終的な結果(地域住民の健康水準の向上など)に直接的に及ぼす効果と、中間的な結果(保健所や市町村の組織運営の円滑化、地域保健サービスの質の向上、関係機関・団体との連携など)を介して最終的な結果に間接的に及ぼす効果を測定し、保健所機能の構造・過程・結果の因果モデルを構築する必要がある。③健康日本21地方計画は、二次医療圏、市区町村レベルでは十分に推進されておらず、また規模の小さい町村などでは計画推進のための技術やマンパワーが不足している可能性があるため、都道府県、保健所は、管内市町村の計画推進能力を見極めて、必要があれば後方支援だけでなく実際の作業に参加するなどの対応をしていく必要がある。

公開日・更新日

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