健全な水循環を考慮した感染性微生物対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201077A
報告書区分
総括
研究課題名
健全な水循環を考慮した感染性微生物対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
金子 光美(摂南大学工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原 正弘(財団法人 水道技術研究センター)
  • 平田 強(麻布大学 環境保健学部)
  • 遠藤 卓郎(国立感染症研究所 研究所寄生動物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、クリプトスポリジウム等原虫類による水道水汚染が世界的に問題となっている。わが国でも平成8年夏に埼玉県越生町において、水道水中のクリプトスポリジウムにより、給水人口の63%である8,705人が発症するという集団感染事故が発生した。このような状況の中、感染性原虫類に対する抜本的な対策を実施し、国民が安心して利用できる、安全な水道を確保することが急務となっている。本研究では有効な不活化技術および除去技術の開発を行うものである。
研究方法
1.紫外線による原虫類の不活化
1)クリプトスポリジウムの不活化実験
クリプトスポリジウムの不活化実験に際しては、病原性微生物を扱うことのできる機関において実施した。試料は、麻布大学生物科学総合研究所感染エリアでSCIDマウスを用いて継体培養しているヒト由来株HNJ-1を用いた。紫外線照射装置は5W低圧水銀ランプを用いた。紫外線照射実験は、プラスチックシャーレ(φ60mm)にオーシスト懸濁液10mLを入れ、上方からランプで紫外線を照射し、光回復処理・暗回復処理を行った。感染評価には、6週齢雄性SCIDマウスにオーシスト懸濁液を胃内投与し、投与4週間後の糞便を回収して、糞便中のオーシストの有無から陽性・陰性の判定を行った。濁質の影響評価を行う場合は、滅菌処理した上水汚泥と、河川水からの濃縮懸濁物を用いた。
2)ジアルジアの不活化実験
感染スナネズミの糞便より、ショ糖浮遊法を用いて精製したGiardia嚢子を用い、低圧水銀ランプ2本を用いて、紫外線(λmax=254nm)を照射し、光回復実験を行った。感染トリの糞便より、NaCl浮遊法を用いて精製したEimeria嚢子を用いて、紫外線照射実験を行った。また、磁気ビーズを付着させた嚢子および付着させていない嚢子に対してそれぞれ紫外線を照射し、培養試験で嚢子の活性を評価した。
3)海外情報の収集
海外における紫外線による原虫類研究成果に関して、不活化照射線量等の情報収集を行った。
2.凝集沈澱・急速ろ過の運転管理技術の開発
横浜市水道局西谷浄水場の原水に粒径、比重、ゼータ電位をクリプトスポリジウムと類似させたPMMA(ポリメチルメタアクリレート)製の代替粒子を1000個/mL程度添加し、2段の急速攪拌、3段の緩速攪拌を含む凝集沈澱・急速ろ過処理をおこない、除去性の評価を行った。使用した無機凝集剤は、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第2鉄、ポリシリカ鉄(PSI)、硫酸バンドの4種類、高分子凝集剤については、ノニオン系、及び弱アニオン系のアクリルアミドポリマーである。凝集沈澱設備は2系統準備し、1系は、塩化第2鉄、PSI、硫酸バンドの単独注入、及び、PAC、塩化第2鉄、硫酸バンドと高分子凝集剤の併用注入を行い、2系は浄水場における実注入率を基本としてPACの注入を行った。PACと高分子凝集剤を併用する場合は、PAC注入率を2系の80%とした実験も行った。急速ろ過塔は、凝集沈澱設備2系列の後段に各々3塔設置し、単層ろ過、けい砂とアンスラサイトを組み合わせた二層ろ過、けい砂とアンスラサイト、ガーネットを組み合わせた三層ろ過を行った。その際のろ過速度は、それぞれ、150 m/d、300 m/d、300 m/dとした。
(倫理面への配慮)
動物実験を行う場合、実験は原虫類を専門に扱っている機関にて行う。機関内部には、倫理委員会が存在し、動物愛護上の問題が生じないよう研究者に対し、指導している
結果と考察
1.紫外線による原虫類の不活化
1)クリプトスポリジウムの不活化実験
紫外線を0.50, 1.0, 1.5mWs/cm2照射して感染性を低下させた後、直ちに蛍光灯光照射により光回復処理したとき、いずれの紫外線照射線量の場合も、マウス感染性に増加も減少も見られず,感染における光回復現象はまったく認められなかった。また、暗回復処理した場合も,光回復処理の時と同様,感染性の変化は全く認められなかった。清水系と濁質共存系で達成された不活化log10数の差異は10~20%程度であり,完全混合系である限りは、濁質による紫外線の減少を考慮した平均照射線量と不活化の関係は、清水系と濁質共存系で有意な差はないと推定される。
2)ジアルジアの不活化実験
紫外線照射後のGiardiaに関して、光回復処理の有無にかかわらず、嚢子は1mJ/cm2の紫外線照射で2-log程度の不活化が得られ、回復には至らなかった。
Eimeria嚢子を用いて、紫外線照射実験を行い、4mJ/cm2ではEimeria嚢子はほとんど不活化されず、8mJ/cm2で1-log程度、12mJ/cm2で2-log程度の不活化が得られた。EimeriaはGiardiaに比較して明らかに紫外線への耐性があることが判明した。
また、濁質として添加した磁気ビーズと結合した嚢子は紫外線に対して大変強い抵抗性を示した。
3)海外情報の収集
原虫類の紫外線による不活化に関して、計26編の海外文献の要約を行い、低圧・中圧ランプによる原虫類の不活化、光回復・暗回復、海外での紫外線設備導入状況等に関して知見を得た。
2.凝集沈澱・急速ろ過の運転管理技術の開発
(1)高分子凝集剤併用効果
①一般的に処理性が高くなる高水温期においては、PAC、塩化第2鉄、ポリシリカ鉄、何れの凝集剤を用いてもい、凝集沈澱処理で約1.5 log程度、単層ろ過処理で約1.5~2.5 log程度のクリプトスポリジウム代替粒子除去率が期待されることが分かった。この時、PACとPAC以外の無機凝集剤、あるいは無機凝集剤と高分子凝集剤併用の有無との間で、処理性について有為な差は確認されなかった。
③一般的に処理性が低下する低水温期においても、PACを用いた凝集沈澱処理で約1~1.5 log、単層ろ過処理で2~3 log程度のクリプトスポリジウム代替粒子除去率が期待されることが分かった。また、高分子凝集剤併用の有無による処理性に、有為な差が確認された。特に、PACに比べ、塩化第2鉄と高分子凝集剤を併用した場合、凝集沈澱とろ過の一連の処理の合計で1 log程度クリプトスポリジウム代替粒子の除去率を向上させることができるという結果が得られた。                                          
(2)ろ過方式比較実験
低水温期において、処理性が良好であった塩化第2鉄及び塩化第2鉄+ノニオンの凝集沈澱処理条件における
ろ過処理性能をPAC処理におけるそれと比較したところ、以下のような結果が得られた。
①PAC、塩化第2鉄、塩化第2鉄+ノニオンの何れの凝集沈澱条件においても、単層ろ過(LV=150 m/d)処理では、初期漏出を除いて、50時間のろ過時間中に濁度、3~10 μmの微粒子、クリプトスポリジウム代替粒子の顕著な漏出は確認されなかった。
②LV=300 m/dの高速ろ過条件では、2層ろ過、3層ろ過のろ過条件とも、50時間のろ過時間の後半に濁度、微粒子、クリプトスポリジウム代替粒子の漏出が認められた。ただし、この時PACに比べ、塩化第2鉄を用いた方がクリプトスポリジウム代替粒子等が漏出し始めるまでのろ過時間が長くなり、かつ漏出開始後の代替粒子数等も低く抑えられることが分かった。また、この処理改善効果は、塩化第2鉄+ノニオンの場合も同様に認められた。
③2層ろ過と3層ろ過の比較では、PAC処理条件において、2層よりも3層の方がクリプトスポリジウム代替粒子等が漏出し始めるまでのろ過時間を長くできることが明らかとなった。
結論
1.紫外線による原虫類の不活化
1)クリプトスポリジウムの不活化実験
紫外線によるクリプトスポリジウムの不活化において、マウス感染性で評価される感染性を一旦喪失したオーシストは、光回復処理、暗回復処理をしても、感染して増殖する能力を取り戻すことはないことがわかった。
また、完全混合系である限りは、平均照射線量と不活化の関係は、清水系と濁質共存系で有意な差はないと考えられた。
2)ジアルジアの不活化実験
紫外線照射後のGiardiaに対して本研究で用いた条件では感染性を回復する程度の光回復は認められないものと判断された。EimeriaはGiardiaに比べ、強い紫外線耐性を有し、原虫の種類のみならず病原体によっては強い紫外線耐性を持つ可能性があり、消毒効果に関しては慎重な対応が求められるものと考える。濁質として添加した磁気ビーズと結合した嚢子は紫外線に対して大変強い抵抗性を示した。凝集沈澱処理後に漏出する微生物の濁質との付着状態や、粒子を単独で存在させるのに必要な分散処理等をあわせて検討する必要があるものと考えている。
3)海外情報の収集
原虫類の紫外線による不活化を評価する際に、その評価方法(DAPI/PI法、脱嚢法、マウス感染法等)により、大きく不活化の程度が異なることが確認された。
2.凝集沈澱・急速ろ過の運転管理技術の開発
本実験原水において、高分子凝集剤は、塩化第2鉄と併用することにより、濁度・微粒子除去効果が上昇することが確認され、クリプトスポリジウムに対しても除去率を向上させる有効な技術であることがわかった。

公開日・更新日

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