家屋内での水有効利用と環境負荷低減に資する給水システム構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201076A
報告書区分
総括
研究課題名
家屋内での水有効利用と環境負荷低減に資する給水システム構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中村 文雄(財団法人給水工事技術振興財団)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原 正弘(財団法人水道技術研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道として生活に関わる「水」は、流域圏の大きな水循環系を構成する重要な要素となっており、個別の水利用形態から地域循環まで、健全な水循環を形成するうえで、欠くことのできないものである。また、水道水としての利用は、下水道への負荷や消費エネルギー等の環境負荷が大きく、極力低減することが重要な課題となっている。これらの課題に対応するため、水道水利用の原点である各家屋等で、生活用水の利用を量、質の両面から合理化し、節水を促進することで、健全な水循環を確保することが必要である。本研究では、水の有効利用(節水とエネルギー活用)を通じて河川や下水道への負荷のみならずエネルギー消費を軽減した健全な水循環を構築することを目的とし、居住環境に応じた水の有効利用手法(家屋スケール)についての研究開発を行う。また、家屋内での水の循環使用に伴って生ずる衛生的問題を回避するため、給水管・給水装置に由来する漏水および水質汚染等の事故例の解析や、異常水流・異常水質等の早期検出に基づく維持・リスク管理方法の検討等により、望ましい給水システムの構築方法を研究する。
研究方法
(1)水有効利用のための給水システム構築に関する研究
学識者、水道事業体および民間企業からなる「水有効利用のための給水システム構築に関する研究委員会」を設置し、3カ年の研究計画(案)に関して審議・検討を重ねた上で研究を実施している。初年度にあたる本年度は、給水管・装置に由来する漏水等の事故例の解析やアンケート調査を実施(一部解析)すると共に、水圧・水量・水質の異常現象検出および水質変換装置影響解明のための実験装置作成とその検出感度の検討が行なわれた。
(2)家屋内での水有効利用と環境負荷低減に関する研究
学識者、水道事業体及び民間企業からなる「家屋内での水有効利用と環境負荷低減に関する研究委員会」を設置し、種々の問題に対する審議・検討を重ね、研究開発を推進している。3カ年計画の初年度にあたる本年度は、文献調査、各委員へのヒアリング調査等により、家屋スケールでの水循環による水利用の合理化を達成するための方策を見出すとともに、次年度より行う技術的な検討課題について整理し、研究の方向性を明確に示した。
結果と考察
(1)水有効利用のための給水システム構築に関する研究
1.給水システムにおける漏水・水質汚染等の事故事例解析結果と、アンケート調査
都市Aのデータを用いて検討し、調査地域の事故数は季節的変動傾向を持つこと、「漏水事故」「管路閉塞事故」の占める割合が高いこと、 事故数は各地区の世帯数その他を説明変数とする重回帰式により推定できることなどが明らかとなった。また、給水システムの事故と給水量、気温、配水圧力との関係について検討を行ない、各因子は事故数と相関性を持つことを明らかにした。なお、事故事例等に関するアンケート調査表を水道事業体と管工事業組合(471団体)に発送・回収(65%,50%)し、現在、解析中である。 
2.給水システムのリスク管理方法に関する研究結果
給水システムにおける異常現象の早期検出と迅速な対応による事故の未然防止を目的として4研究を実施してきたが、その研究結果の概要は下記の通りである。「水撃作用(水圧(音・振動)変動異常)の検出方法の研究」では、水撃現象発生時の動水圧の変動特性についての検討と、平常時の給水管の振動を計測して出水量と管軸および管軸直交方向の振動加速度特性との関連性について考察を加えた。また、「水量、水質(EC、ORP等)異常の検出方法の研究」では蛇口近傍での流量・圧力・電気伝導度の同時測定システムの検討を行ない、実装置の試作を行った。さらに、「濁度・懸濁粒子数・吸光度等を指標とした水質異常の検出方法の研究」では、給水栓水質異常の検出を目的として濁度,吸光度,懸濁粒子数のインラインでの計測技術開発を行こととし、今年度は、原理試作器として,680nmの光の90度散乱光を計測するフローセル型濁りモニタを試作し、20分間で濁度が4度以上上昇する場合の水質異常検出の可能性が示された。また、「水質変換装置の給水システムへの影響の研究」では、適切な逆流防止措置が施されなかった場合、浄水機からの逆流水中のFe、Mn、Alは水道水質基準(指針)値を上回ることが確認された。
3.考察
これらの研究により、①給水システム内における事故実態明確化と、望ましい給水システムの維持管理の確立、②不適切な装置工事や、管・装置類の異常発生とこれらに由来する水質異常の早期検出と迅速対応、③水質異常による衛生的問題発生の未然防止 などの可能性が示唆された。
(2)家屋内での水有効利用と環境負荷低減に関する研究
1.各委員に対するヒアリング調査の結果
家屋内での水の有効利用に関して、各委員に対するヒアリングを行った結果、各委員が共通して重視している項目は、「循環」と「水の有効利用」であった。
2.研究の方向性と研究課題
後述する3.家屋内での水使用の実態に関する文献調査、および各委員に対するヒアリング調査の結果を精査し、研究の方向性を明確にした。
本研究では、水有効利用システムに必要な要素技術、特に水道水圧の有効利用手法について、次年度以降、実験装置による技術的な検討を行い、その実現可能性を検証する。実施する予定の具体的な実験項目は、1)家屋内における水道水圧駆動機器の検討、2)水車利用発電の検討、の2項目である。
この他、北九州市水道局が所有する配水管理システムで収集した流量-圧力(水頭)の関係のデータについて、その一部を解析した結果、流量と水頭の明瞭な関係の把握、配水管内のエネルギー量算出などが行えることを確認した。また、LCA的な手法による環境負荷低減効果の試算、各利用段階における水質目標値の設定、必要水質を確保するための水質変換装置についても検討を行う予定である。
3.ライフスタイルの変化等を含めた家屋内における水使用の実態把握
生活用水使用の現況を用途別、地域別に社会的背景も含めて精査し、家屋内における水使用の実態を把握することで、本研究における検討課題を明らかにした。その結果、家屋内における水の有効利用では、現在までに行われてきた水そのものの循環・再利用という観点からだけでなく、水道水が有する水圧、水温といったエネルギーの活用などを視野に入れた検討を行うことにより、新たな水の利用手法を見出すことが重要であることがわかった。
4.考察
本研究により、(1)水道原水の取水量抑制による河川環境への影響低減と、需要水量の日変動抑制による浄水場の安定運転、(2)家庭排水の低減による下水道への負荷低減や、水道水圧などの未利用エネルギー活用による電力エネルギー等の環境負荷低減、(3)家屋内における再利用水の安全性の向上、および衛生面の確保、(4)住民側と水道事業者側の双方向情報公開による社会的合意形成の促進効果が期待される。
結論
(1)水有効利用のための給水システム構築に関する研究
本研究では、①給水管・装置に由来する漏水等の事故例の解析や、②異常水流・異常水質等の早期検出方法の開発、③水質変換装置の給水システムへの影響 などに関する研究を実施した。その結果、給水システム内における事故・工事の実態の明確化と望ましい給水システムの維持管理法確立の可能性、不適切な装置工事や給水システム内における管、装置類の異常発生とこれらに由来する水質異常の早期検出と迅速対応の可能性、水質異常による衛生的問題発生の未然防止の可能性 などが示唆された。したがって、これらの研究をより発展させることにより、水利用の合理化・有効利用の目的に合致した安全性の高い給水システムの構築が可能となると期待される。
(2)家屋内での水有効利用と環境負荷低減に関する研究
本研究では、水使用の最小単位である家屋内での水利用に着目し、そこにおける水使用状況の実態、ならびに現在行われている水の有効利用手法等について精査した。その結果、水道水圧等、水道が有する未利用エネルギーを有効に活用し、家屋内での多段階利用を達成すること、および、それぞれの段階における水質目標値を設定することにより、安全で衛生的、且つ快適な家屋内水循環が形成できる可能性が示唆された。家屋内での水循環を健全に保つことは、流域圏での大きな水循環の一端を担う、河川や下水道への負荷、エネルギー消費量を軽減した健全な水循環を形成するために不可欠である。次年度以降、家屋内での水の有効利用システムの構築に向け、水道水圧の有効利用手法等について実験装置による技術的な検討を行う。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-