文献情報
文献番号
200201070A
報告書区分
総括
研究課題名
成人の飲酒実態と関連問題の予防に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 進(国立療養所久里浜病院臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
- 樋口進(国立療養所久里浜病院臨床研究部)
- 尾崎米厚(鳥取大学医学部衛生学)
- 白坂知信(医療法人北仁会石橋病院)
- 廣尚典(NKK鶴見保健センター)
- 松下幸生(国立療養所久里浜病院精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
既存の様々な間接的あるいは小規模な資料は、わが国におけるアルコール関連問題の深刻化を強く示唆している。しかし、適切な方法で、国を代表するサンプルについて、飲酒状況やアルコール関連問題の正確な実態は把握されてきていないのが現状である。このような状況を踏まえ、本研究の目的は、我が国の成人一般人口の飲酒状況を把握することにある。特に、アルコール関連問題については詳細な調査を行なう。本年度は同時に、既存のデータの掘り起こしとまとめを兼ねて、過去に行われた飲酒およびアルコール関連問題の実態調査の文献的考察を行った。また、最近の国民栄養調査の再解析を行い、習慣飲酒者および大量飲酒者の時系列分析等を行った。2年後に明らかとなる本研究結果と平行して、これらのデータから成人人口の飲酒状況やアルコール関連問題の対策を講ずる上で基礎となる情報が提供されることが期待される。
研究方法
本研究の中心的課題は我が国の成人人口の飲酒パターンとアルコール関連問題の実態を明らかにすることである。既述のとおり、今年度は実態調査に加えて、国民栄養調査の再解析と過去の調査の文献的考察とを行ったので、以下順に述べていく。【実態調査】3年間の概要は以下の通りである。班員でまず予備調査票を作成する。その調査票を使い、男女50名に対して予備調査を行なう。予備調査の結果をもとに、本調査票を作成する。本調査は、住民基本台帳から層化2段無作為抽出された20歳以上の男女3,500名の対象者に対して、自宅訪問して実施する。調査結果をコード化してパソコンに入力して解析する。なお、調査の実施および結果のコード化、パソコンへの入力は、社団法人中央調査社に委託する。今年度はまず、班会議を開いて、予備調査票の内容を検討し、最終版を作成した。この調査票を用いて、首都圏の5地区を選び、各地区で10名ずつの対象者に対して面接および自記式調査を行った。調査の終了後に、各調査員と研究班員との合同検討会を行った。なお、予備調査結果もパソコンに入力し、解析を行った。【国民栄養調査の再解析】所定の手続きを経て、厚生労働省より国民栄養調査の原データが格納されている磁気テープ(1990-1999年分)を入手し、解析した。飲酒状況を尋ねているのは、保健師らの問診による身体状況調査である。この調査で習慣飲酒者、多量飲酒者とはそれぞれ、1日平均日本酒換算1合以上、週3日以上飲酒する者および1日平均3合以上飲酒する者をいう。この研究は尾崎班員によって行われた。【過去の調査の文献的考察】この課題は3つの側面からなされた。それらは、主に地域における調査(担当: 白坂班員)、職域における調査(担当: 廣班員)、主に国レベルの調査(担当: 松下班員)である。まず、地域の調査は、北海道においてなされた3調査を網羅している。それは、平成3-4年に行われた「後志管内における酒害対策の方向性について」の一般住民調査、平成12年および15年度にそれぞれ一般住民、断酒会会員に対して行われた「心の健康の背景となっているストレス、休養、睡眠についての実態調査」である。職域調査は、最近10年間に論文または学会発表された職域関係の報告の内容を検討した。また、国レベルの調査は、JMEDICINEデータベースで、「飲酒」、「実態調査」のキーワードで文献検索して得られた4つの実態調査をreviewした。それらの調査は、「首都圏一般人口調査(1976)」、「日米共同疫学調査(1984)」、「岡山県調査(1991)」、「自治
体職員調査(1997)」である。しかし、これらのなかで国レベルといえるのは、日米共同調査のみであった。【倫理面への配慮】本研究は、国立療養所久里浜病院の倫理委員会の承認を得て行なっている。調査対象者に対しては、調査の趣旨、内容等を記した葉書をまず郵送し、調査の内容を伝える。その後に調査員が自宅を訪問し、対象者に対して調査の趣旨、内容、方法等を説明して同意の得られた場合に調査を実施する。得られたデータは保管を厳重にし、扱いは本研究の関係者に限るよう配慮する。データの発表に際しては、調査対象者個人が特定される恐れのないように配慮する。
体職員調査(1997)」である。しかし、これらのなかで国レベルといえるのは、日米共同調査のみであった。【倫理面への配慮】本研究は、国立療養所久里浜病院の倫理委員会の承認を得て行なっている。調査対象者に対しては、調査の趣旨、内容等を記した葉書をまず郵送し、調査の内容を伝える。その後に調査員が自宅を訪問し、対象者に対して調査の趣旨、内容、方法等を説明して同意の得られた場合に調査を実施する。得られたデータは保管を厳重にし、扱いは本研究の関係者に限るよう配慮する。データの発表に際しては、調査対象者個人が特定される恐れのないように配慮する。
結果と考察
【実態調査】調査票は前半の聞き取り調査部分と後半の自記式調査部分から成っている。聞き取り部分は、1)調査対象者の背景情報、2)健康状況、3)喫煙、4)睡眠、5)飲酒状況とアルコール関連問題、から成っている。飲酒状況に関連した項目として、初飲年齢、習慣飲酒開始年齢、最大飲酒量などの質問も含んでいる。アルコール関連問題については、1)飲酒に関連した不快な経験、2)ICD-10による有害な使用、3)ICD-10によるアルコール依存症の評価が可能な調査票となっている。自記式部分は、既存のアルコール関連問題のスクリーニングテストと新しいテスト開発のための質問項目からなっている。既存のテストは、AUDIT、2)CAGE、3)KASTである。予備調査の結果の概要は以下の通りである。飲酒頻度は男女合わせての数字であるが、週に3日以上飲酒する頻回飲酒者が48%とかなり高い割合を示していた。アルコール関連問題に関しては、スクリーニングテストではある一定の数が問題飲酒者またはアルコール依存症として同定された。しかし、面接調査による方法では、ICD-10の有害な使用およびアルコール依存症はほとんど同定されなかった。スクリーニングテストから推察されるICD-10の有害な使用はもっと頻度が高いはずであり、この点については調査票を改良しなければならないだろう。調査員との検討会から、1) 調査の名前が長すぎる、2) 調査の順序を変える必要がある、3) 飲酒パターンの聞き方を改良する余地がある、4) 飲酒が原因の不快体験は自記式にすべき、5) ICD-10に関する調査票改良の必要性などの意見が出された。上記予備調査結果およびこれらの意見を考慮して、予備調査票を修正して、次年度に予定されている本調査用の調査票を完成させる必要がある。【国民栄養調査の再解析】国民栄養調査の原データを1990年の国勢調査の総人口に従って、年齢調整することにより経年比較が可能となった。習慣飲酒者率は男性が50%前後、女性が6-8%であった。男性の場合、この割合は94年までは漸減、95年に飛躍的に上がり、以後ほぼ横ばいであった。この上昇の理由は不明である。年齢調整多量飲酒者率は、男性は7-8%で女性は1%未満であった。女性の場合は、実数でも20-30人で解析が困難であった。以上をまとまると、国民栄養調査を用いて飲酒者率、多量飲酒者率を推計するにはいくつかの問題点が存在した。それらは、調査方法、飲酒の定義、サンプリング方法、サンプル数、情報の不完全さなどである。従って、成人の飲酒者率を明らかにするためには、それを直接目的とした全国を代表するような調査が必要である。【過去に行われた調査の文献的考察】詳細は各分担研究報告を参照していただきたい。それぞれの分野の調査には、久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)が組み入れられているものが多く、各調査を比較するのに適している。北海道の1地域の住民調査では、スクリーニングテスト上アルコール依存症と判定される重篤問題飲酒者の割合は、男女合わせて21%であった。職域では男性が10-30%、女性に対する調査は少ないが1.7%という数字を報告している調査がある。松下班員のまとめた4調査のうちで、国レベルといえるのは日米調査のみで(無作為抽出サンプリングではない)、他の3調査は地域レベルのものである。これによれば、男性5.0-19.4%、女性が0.3-4.8%で、ばらつきが非常に大きかった。調査は職域では比較的よくなされていたが、一般住民に対する無作為抽出方法による国レベルの
調査はなされていないことが改めて示された。その意味でも本実態調査の意義は大きいといえる。
調査はなされていないことが改めて示された。その意味でも本実態調査の意義は大きいといえる。
結論
国民栄養調査の再解析や、過去に行われた飲酒実態調査のreviewなどはいずれも、飲酒状況およびアルコール関連問題に関する無作為抽出サンプリングによる国レベルの調査の必要性を示している。その意味では、本研究班で進行しつつある実態調査の意義は大きいといえる。本調査の場合、今年度作成した飲酒パターンとアルコール関連問題に関する調査票を使用した予備調査結果から、この調査票を一部修正することで、次年度の本調査が実施できる目処が立った。次年度には、3,500サンプルを用いた本調査を実施する。
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