運動習慣の獲得・継続のための行動科学的手法を用いた指導教材の開発と活用に関する研究

文献情報

文献番号
200201066A
報告書区分
総括
研究課題名
運動習慣の獲得・継続のための行動科学的手法を用いた指導教材の開発と活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
下光 輝一(東京医科大学衛生学公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 川久保清(東京大学医学系研究科健康増進科学)
  • 内藤義彦(大阪府立健康科学センター)
  • 小田切優子(東京医科大学衛生学公衆衛生学)
  • 井上茂(東京医科大学衛生学公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
身体活動・運動の推進は生活習慣病対策上の重要な課題だが、それを推進する効果的な方法が充分に確立されているとは言い難い。推進方法に関する理論的なベースとしては、医学に留まらず社会学、心理学、教育学などさまざまな学問の応用が有用と考えられるが、保健指導の領域においては行動科学を応用することへの期待が高い。行動科学の身体活動・運動指導への応用はアメリカ、オーストラリアなどを中心に行われてきた。また、日本では禁煙、減量などの分野において行動科学の積極的な応用が試みられてきたが、身体活動・運動への応用例は少なく、海外や他の保健指導領域における経験を参考にしながら、指導方法を開発していく必要がある。さらに、開発された方法を、一線の保健指導担当者に普及し、既存の人的資源の活用を図ることが国民全体の身体活動推進に寄与するものと考えられる。そこで、本研究では行動科学的手法を応用した身体活動・運動指導のための教材を作成し、それを普及するための講習会を実施する。また、教材・講習会の有用性を介入研究により検討する。
初年度にあたる本年は、職域・地域の看護職・保健師を対象にアンケート調査を行い、行動科学的保健指導に関する実態を明らかにする。そして、その結果を教材に対するニーズの観点から考察する。また、既存教材の検討、文献検索などにより教材開発のベースとなる素案を提示する。
研究方法
職域・地域の実態調査は郵送によるアンケートで実施した。対象は関東、関西地域の453事業場、289市、235保健所とし、産業看護職あるいは保健師を指定して回答を求めた。内容は、施設向けの質問はマンパワー、保健指導の実施状況、運動実技の実施状況、運動実技場所の確保などに関する質問とした。指導者個人への質問は、行動科学を応用した保健指導、身体活動・運動指導などの実施状況、知識、自信、運動指導の障壁、教材のニーズなどに関する質問とした。既存教材の検討は、身体活動・運動をテーマとした小冊子21部を対象に行った。検討方法としては、運動の効果、運動の強度・頻度、運動実施方法、行動変容のステージ、目標設定、オペラント強化法など21項目について、これらの内容が含まれているかどうかや、その取り上げられ方について評価した。最後に、これらの検討をもとに教材素案、講習会プログラム素案の作成を行った。
結果と考察
調査票の回収は職域115事業場、地域(市・保健所)201施設より得られ、このうち研究活用への同意が得られた108事業場(23.8%)、179施設(34.1%)のデータを検討した。施設の人員(常勤看護職・保健師)は職域において1人あるいは2人、地域においては8名と回答する施設が多かった。個別保健指導は職域で96.3%、地域で86.0%の施設が実施していた。また、健康教室による集団保健指導は職域で51.9%、地域では88.3%が実施していた。保健指導を行う職種は職域、地域ともに看護職、保健師が中心だが、職域では栄養士による指導がほとんど行われていない(6.5%)のに対して、地域では89.1%が栄養士による指導を実施していた。また、看護職・保健師が指導に最も力を入れている指導分野は職域では栄養指導(56.1%)が、地域では身体活動・運動指導(59.1%)が第一位を占めた。運動の実技指導は職域の38.0%、地域の87.2%において実施されていた。実技実施場所は職域・地域ともに「施設内の運動施設以外のスペース」が多かった。以上のように、職域と地域では保健指導、運動指導の実施状況に大きな違いが認められた。すなわち、マンパワーの限られる職域では、個別指導を中心に指導が行われ、看護職の関心は栄養指導に高かった。また、運動実技はあまり行われていなかった。今回は回収率がやや低く、比較的大規模な事業場からの回答が多かったが、小規模な事業場ではさらに限られた資源で指導が行われている可能性を考慮しなければならない。一方、地域では集団指導も積極的に行われていた。また、充分ではないものの簡単な運動ならば、実技を指導する環境も、ある程度は整っているものと推察された。教材の作成にあたっては、個別指導か集団指導か、実技的な要素を取り入れるかどうか、多忙な日常業務の中で使いこなせるかどうか、職域と地域で構成の異なる教材が必要かどうかなどについて十分に考慮したい。
保健師個人への質問では、職域看護職・地域保健師とも同様の回答傾向であった。行動科学的手法を用いた保健指導への意欲は地域・職域ともに高く、「現在行っている」「今後積極的に行いたい」という回答が80%以上を占めた。行動科学を応用した保健指導の知識については、「行動変容のステージ」「目標設定」「セルフモニタリング」に関する認知度が高い(70-80%程度)一方、「刺激統制法」「オペラント強化法」といったその他の項目については、「用語の意味がわからない」という回答が50-70%を占めた。また、すべての手法について、これを応用して指導する自信は低かった。運動指導の障壁としては「指導のノウハウ」「指導の知識」「指導の技能」などが指摘された。教材の内容に関するニーズ調査では「運動を習慣化するための工夫」が圧倒的に高かった。また、既に多くの教材により取り上げられているものの、「運動の実施方法」「運動の種類・強度・頻度・時間」などに関する教材のニーズも高かった。以上の結果より、行動科学的手法への意欲、ニーズは高いが、実際に指導を行うには知識や技能が充分ではない実態が明らかとなった。また、行動科学的手法の中でも比較的認知度の高い手法、認知度の低い手法があることが明らかになった。これらの結果を考慮した上で教材・講習会の内容やレベルの設定を行う必要がある。
講習会の日程希望は「1日まで」「2日まで」とする回答が多かった。調査紙の回収率が低く、意欲的な指導者が回答した可能性も考慮すると、講習会は短期間で、複数回開催し、参加の利便性を高める方針で検討することとした。調査結果を踏まえ、講習会のプログラム案を提示した。
既存の指導教材の検討では、取り上げられている内容として、運動の効果(100%)、実施方法(100%)、運動強度(47.6%)、用具(42.9%)、メディカルチェック(33.3%)などに関するものが多かった。一方、行動科学的な内容としてはセルフモニタリングの応用が多くの教材において認められた(57.1%)。しかし、それ以外には行動科学的な内容は少なかった。一部にオペラント強化法、行動置換法、目標設定、社会的支援などの応用と考えられる内容もみとめられたが、行動科学的手法として意識的に記載されたものかどうかの判別が困難であったり、応用方法として不十分であったりするものが多かった。以上の検討結果、文献検索などにより、教材開発のベースとなる教材素案を提示した。次年度はこれらの検討結果を総合的に判断し、教材開発、配布、講習会を行い、介入研究をスタートする。
結論
職域・地域の看護師・保健師を対象に保健指導の実態調査を行った。その結果、行動科学的手法を保健指導に応用する意欲は高いものの、実際に指導を行うためには知識や技能が充分ではない実態が明らかとなった。また、マンパワー、保健指導事業形態、施設の状況などが、職域と地域で異なることなど、教材開発、講習会のプログラム作成などにあたり、留意すべきポイントが明らかとなった。また、既存教材のレビュー、これまで用いてきた指導教材の評価などより、教材素案を提示した。次年度は素案の教材化、教材普及のための講習会を行い、介入研究をスタートする。

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