行動科学に基づく簡便な生活習慣改善プログラムの開発と効果の検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201064A
報告書区分
総括
研究課題名
行動科学に基づく簡便な生活習慣改善プログラムの開発と効果の検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
足達 淑子(広島国際大学人間環境学部)
研究分担者(所属機関)
  • 川上憲人(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
  • 田中秀樹(広島国際大学人間環境学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣改善が、健康増進と疾病コントロールの鍵として保健医療上の重要課題となった。行動科学の臨床応用である行動療法は、生活習慣改善に対する効果的で具体的な方策を有しており、その工学的な治療構造から、標準化法により自己マニュアルやコンピューターでも一定効果が期待できるという、公衆衛生上の利点がある。それにもかかわらず、行動療法は、行動の捉え方や問題解決の方法論の体系でもあるため、正しく理解されにくく、実際の適用は必ずしも十分ではない。
そこで、本研究班では、従来とは異なる新しい健康教育法として、1)行動科学に基づいた習慣改善のセルフケア支援プログラムを開発し、2)職域や地域での集団的アプローチによりその効果を検証し、3)簡便で効率的な習慣改善法を提案すること、の3点を研究目的とした。
研究方法
研究計画は平成14年―16年の3カ年とし、平成14年度は、研究1:通信による生活習慣改善プログラムの効果の検討、研究2:適正飲酒の行動的介入プログラムの開発と効果の評価に関する研究、研究3:睡眠習慣改善の行動的介入プログラムの開発と効果の評価、の3つの研究を行った。
研究1では、既に職域で実施中であるメニュー方式の簡便な通信による生活習慣改善プログラムについて、①1年後の質問票による追跡調査から長期効果の維持を検討し、②体重と睡眠の2コースについては比較調査によりセルフモニタリングの特異的効果を検討するとともに、③5年分の参加者のデータ分布から集団の参加行動の動向を経時的に観察した。
研究2では、①飲酒コントロール目的の行動科学的プログラムを文献レビューし、②その結果に基づいて、軽度の問題飲酒者や節酒希望者を対象とした新しい飲酒コントロールプログラムを3つの事業所で試行した結果を評価した。
研究3では、①睡眠習慣と睡眠の質や健康との関係を、職域と地域での多数への質問票調査によって分析するとともに、研究1における簡便な生活習慣プログラムを発展させたセミナー形式の睡眠健康教育プログラムを職域で試行しその結果を評価した。さらに、③地域住民に対する睡眠健康と生活習慣調査を行った。
結果と考察
結果=研究1では、①1年後に追跡できた442名(44.3%)で、短期効果(1月後)のうち、運動促進(歩行時間の6分増加)、喫煙本数の減少(6本)、体重減少(0.96kg)や睡眠時間など36項目の習慣改善が1年後まで維持できており、②セルフモニタリングは参加者の終了率に影響するが、終了時(1ヵ月後)の体格指標および睡眠指標の改善効果には差を認めず、③5年間の平均応募率は約100/千名で、一度でも参加した経験を有する者は全被保険者の1/4に相当し、新規参入率は02年度が約30%と低下しつつあり、参加者は固定化の傾向にあるが、コース毎では比較的高く維持され、相当数がコース間で移動している実態が明らかになった。
研究2では、①文献レビューから問題飲酒者に対する医療現場での短期介入の有効性が示され、②適正飲酒達成目的の4週間プログラムを試行した31名(男性29名、女性2名)中26名では、平均飲酒量が19.0±6.6合/週から15.0±6.4合/週へ約20%減少し、飲酒速度や二日酔いの頻度も減少した。
研究3では、①職域の845名の調査から、睡眠習慣と睡眠の質との関係が明らかとなり、②セミナー方式の睡眠教育による睡眠と習慣の改善が示され、③地域住民でも睡眠習慣と睡眠の質や性、年齢別の特徴が明らかとなった。
考察=本研究での介入法の特徴は、自己制御理論モデルに基づき、習慣変容のセルフケアを支援している点にある。これは、簡便な行動療法によって習慣変容が達成できる階層が相当数存在するという仮説に基づいた新しい集団アプローチ法で、それらの理念に基づき、同時に8つの生活習慣を対象とした通信プログラムや、適正飲酒、睡眠改善のプログラムなど、いずれも、前例のない方法を試行して効果の検討を行った。
研究1で用いた通信指導プログラムは、教材による自己学習、習慣の自己評価と目標行動選択、目標行動のセルフモニタリングとオペラント強化からなる最小限の行動療法であり、初年度の食事、運動、喫煙、飲酒、休養、歯磨きの6種類の習慣については、既に半年後までの習慣改善効果の確認ができていた。8種の生活習慣から、研究2と3でとりあげた適正飲酒と睡眠の2つは、いずれも欧米での研究から行動療法アプローチの有効性が検証されているため、実際的で完成度の高いプログラム作成が可能と考えた。
その結果、研究1の追跡調査の回収率が44%と低く比較調査も厳密な無作為対照試験ではない点、研究2や研究3の介入プログラムでの対象者数が少ないという制約があるものの、いずれからも、簡便な介入で一定の生活習慣改善効果が得られ、それも長期に維持できるという可能性が示された。また、地域応用や電子化プログラムの作成、より効果的な飲酒や睡眠プログラムの作成という具体的な課題と研究の方向性が明らかとなった。これらは、地域や職域で強く要望されている実際的な方法であり、本プログラムは保健指導者に実践を通じての行動療法学習の機会も提供でき、生活の質と精神保健にも直結しているためより多くの国民の関心を喚起できる可能性もあると考えた。
結論
結語=簡便な行動療法プログラムによっても生活習慣改善の長期的効果が得られる可能性が強いことが明らかとなった。今後はこの方法をさらに情報技術の活用で費用対効果の高い効率的プログラムに構築し、地域や職域での普及啓発に努めることが課題である。

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