新任保健師の遠隔継続教育プログラムの開発(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200201061A
報告書区分
総括
研究課題名
新任保健師の遠隔継続教育プログラムの開発(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
佐伯 和子(金沢大学)
研究分担者(所属機関)
  • 宇座美代子(琉球大学)
  • 和泉比佐子(札幌医科大学)
  • 大柳俊夫(札幌医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、行政における新任保健師の継続教育のプログラムを開発し、その方法と内容の評価を行い、新任保健師の継続教育支援システムを構築することを目的とする。家庭訪問や健康相談などの対人支援は地域保健活動の基本であるが、新卒者においては、その実践能力の低さが指摘されている。新任期の教育はその後の職業人生において重要であり、基礎教育の不十分さを補うためには、大学等の基礎教育担当者と本庁や保健所等、雇用機関の現任教育担当者との連携が重要である。
平成14年度は、新任保健師の支援能力の実態を明確にし、新任保健師の継続教育プログラムの作成及び継続教育における遠隔通信システムの整備を目的とした。
研究方法
1.新任保健師の職務能力に関する実態把握と分析:新任者の対人支援能力向上のためのプログラムを開発するにあたり、実態把握のデータ分析を行った。調査は4道県の行政機関に働く全保健師3,024名を対象に、2001年2月から11月に実施(回収率60.5%)し、有効回答1,614名について分析を行った。また、新任1年目の保健師6名に、職務に必要な自己の能力についての認知と現任教育への期待について面接調査を行い、内容を質的に分析した。
2.文献検討:文献は、保健師の機能に関するもの、職務能力及びコンピテンシーに関するもの、継続教育の方法論に関するもの、既存の新任保健師の現任教育や継続教育に関するもの等であった。
3.プログラムの開発:実態把握及び文献検討の結果をもとに、新任保健師の対人支援能力に関する現任教育プログラムの全体構造を検討した。新任保健師の継続教育プログラムは、①新任保健師を対象とするもの、②新任者の教育を担当する中堅保健師を対象とするもの、③職場の管理を行っている管理者を対象とするものの3つのプログラムで構成した。本研究では、新任期とは地域保健福祉の分野で就業して5年以内、中堅指導者とは6-10年の経験を持つ保健師を想定し、管理者とは保健師資格を持つリーダーとした。
さらに、地域の実情に見合った遠隔通信システムの機器選定と配置、継続教育の基幹センターとなる大学と各新任者が勤務する場所とのネットワーク構築のため、機器の選定と設置、試用を行った。
倫理面への配慮として、実態調査及び面接調査のいずれにおいても、研究の趣旨を対象者個人に対し、文書もしくは口頭で説明し、了解を得られた者のみ対象とした。
結果と考察
1.行政機関に働く新任期の保健師の発達課題と対人支援能力:
1)行政機関で働く保健師の専門職務遂行能力は、対人支援能力と地域支援及び管理能力の2つの因子から構成され、専門職務遂行能力は経験とともに発達していた。保健師のキャリア発達において、対人支援能力は新任者に重点が置かれることが適切と考えられた。
2)行政に働く保健師の職務満足には、相互啓発あるいは自己啓発といった機会が職務満足に影響を与えることが明らかとなり、適切な指導体制のもとに業務を遂行できるよう、業務を通じた専門職業能力の育成等の体制づくりが重要だといえた。
3)行政に働く新任保健師は、自己の未熟さの認識による自信のなさとともに、緩やかではあるが実践能力の獲得感を認知していた。職場内教育に対する要望として、新任者の職務に必要な自己の能力のレベルの認知に応じた積極的な個別教育の実施と、新任者への配慮がされた組織として行う教育があげられた。
2.新任保健師の対人支援能力に関する現任教育プログラムの開発:
1)概要;対人支援能力の向上は、組織人として職務を遂行するための基本を身につけ、なおかつ地域への支援を行うための基盤となる能力を養うことになる。行政機関に働く保健師のキャリア発達を長期的に展望し、その展望の下に新任期の課題を位置づけることが重要である。対人支援能力は段階的、系統的な発達を意図した継続教育プログラムの一部であり、新任者は個人家族を対象とする対人支援能力の向上を、中堅者は後輩の教育をとおして教育能力及びより熟練した対人支援能力の向上を、管理者は組織の人事管理面における教育的対応能力及び組織管理能力の向上につながるものである。
2)新任期のプログラム;基本となる理論及び考え方として、主体性の育成、自己効力感、内的動機づけ、目標による管理、コンピテンシーラーニング、専門性の育成、自己統制学習、自己評価能力、思考能力を検討した。教育目的は、①対人支援能力の育成、②保健師としてのマインドの育成、③自己学習能力の育成、これらをとおして④思考分析判断能力の育成の4点とした。教育目標は、①住民の視点で住民の生活に即したニーズを理解できる、②住民とともに健康課題を考え、協働で課題解決ができる、③対人支援に必要な地域の資源を理解し、支援に導入できる、④様々な方法を用いて、地域で生活する個人家族への看護支援を実施し、評価できる、⑤保健師としてのアイデンティティを持つことができる、⑥自己の対人支援についての課題を探索し、当面の目標を設定できる、⑦専門職業能力向上のために、設定した目標達成に向けて自己学習し、自己評価できる、の7つを設定した。これらの目標は、新任期終了までに到達できればよいもので、1年目ごとの目標は特に設定しないこととした。教育方法は、特にOJTで、事例援助の必須体験、事例の記録、関係機関との接触体験、学習レポートの作成、指導者とのカンファレンス、職場内事例検討会を取り上げた。
3)中堅指導者のプログラム;基本となる理論及び考え方として、自己効力感、内的動機づけ、目標による管理、プリセプターシップ、コンピテンシーラーニングのシステムとその要素であるコーチングを検討した。
教育目的は、①新任者の対人支援能力(個人家族支援)の獲得、新任者の指導を通した自己の対人支援能力の向上、③新任者の指導を通した後輩育成能力の向上、④新任者の指導を通した思考分析判断能力の向上の4点とした。教育目標は、①新任者の対人支援能力の到達レベルが理解できる、②新任者の対人支援の現状と課題を明らかにすることができる、③系統的な教育プログラムを実施・評価できる、④系統的な教育プログラムを実施するための職場環境調整ができる、⑤新任者教育を通じて対人支援能力を高めることができる、の5つを設定した。
4)管理者のプログラム;文献検討等の結果から、管理者の課題は、管理能力の向上、新任保健師がスムーズに職務遂行能力を獲得していくための職場環境の整備、新任保健師を指導する中堅指導者の支援と考えられた。管理者のためのプログラムは中堅指導者の指導・支援や学習しやすい職場環境の整備を中心に、日本看護協会が提案している継続教育の基準を満たせるような内容とした。教育目的は、①組織の人事管理面における管理者としての教育対応能力の向上を図る、②新人、中堅者、管理者のキャリア開発の継続的な推進を図るとした。教育目標は、①新任期の教育プログラムの全体的な管理や職場環境の整備ができる、②新任期の指導構想が提示できる、③中堅指導者の選出と動機付けを行うことができる、④中堅指導者の指導や支援ができる、⑤新任期の教育プログラムの全体的な評価ができる、の5つを設定した。
3.地域保健における継続教育への支援方法としての遠隔通信システムの構築:
ISDN回線用のテレビ電話、デジタルビデオカメラ、マイク内蔵スピーカーを導入することで複数人によるテレビ会議が可能になるシステムを構築した。さらに、最近では多地点接続サービスを提供する企業が現れ、多くの費用をかけずに簡単に多地点接続が可能になる。また、遠隔通信システムの評価は、通信状況、機器の機能及び操作性の2つの観点から評価を行うことにした。
結論
行政機関に働く新任期の保健師には、卒業後に公衆衛生看護の基礎からはじまる系統的な継続教育が必要であるといえる。系統的な継続教育には2つの意味が含まれる。ひとつは、個人が専門職業人として発達していくための順序性を考慮することである。すなわち、対人支援能力は新任者に、地域支援及び管理能力のうち施策化は後期中堅者に重点を置き、実践能力の実態に基づいた段階的・系統的な継続教育プログラムであることである。もうひとつは、組織的な教育体制を確立することである。これは、新任保健師の継続教育プログラムを構築するためには、①プリセプターと管理者の各々に対する職場内教育、②本庁や保健所など上位システムの支援、③大学による支援といった指導体制の整備が必要である。教育方法・内容としては、実践体験を重視し、日常活動からの学習を通し、対人支援能力を向上させることが重要である。新任者にとって対人支援能力は、地域保健福祉に携わる専門職の基盤になる能力であり、中堅期以降の施策化能力形成へとつなげていくことが必要である。

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