地域職域学校の連携による生涯を通じた健康づくりのための保健サービスの提供に関する研究

文献情報

文献番号
200201059A
報告書区分
総括
研究課題名
地域職域学校の連携による生涯を通じた健康づくりのための保健サービスの提供に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本直幸(神奈川県立がんセンター)
  • 杉森裕樹(聖マリアンナ医科大学)
  • 須賀万智(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康日本21や健康増進法に基づき健康寿命の延伸を図るためには、生涯健康管理を支援する体制が必要になり、そのためには生活環境の改善を支援する体制を構築することが求められる。生活環境の支援のためには、地域診断に基づく地域保健介入が必要であり、健康指標の開発、連携に関わる情報の共有化、生涯健康管理の問診表を開発することが課題となる。本研究では、従来の疾病主体による健康指標から健康創成の観点での指標化を検討するとともに、地域職域の情報共有のHDML(Health-checkup Data Markup Language)をもとに母子健康手帳からの共有化に関するDTD(Data Type Definition)を提案した。また、生活習慣病予防の観点から生活習慣に関する質問表の標準化を試みた。
研究方法
以下の課題について、分担研究を行った。(1)健康指標の創成:医療行為による治療ではなく生活改善による疾病予防対策が重要となってきた状況と関連があると思われる。これまで地域の健康指標として使用されてきた死亡率(乳児、周産期、感染症など)、平均余命(寿命)、生命損失(PYLL)や質調整生存率(QALY)などでは、現状を充分に反映する指標ではなくなりつつあるのではないかと思われる。現状や今後の社会情勢の変化を推測し、新たな保健サービスの形態を構築するとともに、地域診断のための新たな健康指標の創成が必要であると思われる。本研究においては、今後の社会情勢(人口構成、家族構成、職業形態、医療システムなど)の変化を推測し、その変化に合わせた保健サービスの提供の在り方を検討することによって、地域診断のための新しい健康指標を開発することを目的とした研究を行っている。1979年にアーロン・アントノフスキーにより唱えられたサリュートジェネシス(salutogenesis、健康生成論)に注目し、あらたな健康概念の枠組みとして活用が可能か否かの検討を行った。また、現在、わが国で定期的に集計されている健康や疾病に関する資料、ならびに社会生活の指標となる資料の把握を行った。(2)母子保健におけるデータ共有のための標準化規約について:国際的標準化規約であるHealth Level Seven (HL7)とも互換性を考慮した健診データ変換規約である。HDMLには「保健医療カードシステム導入マニュアル」 (MEDIS-DC)等を参考としたJAHIS標準検査項目名およびJAHISコードのテーブルがあり,異なる健診情報を標準化し繋ぐものである。母子保健領域では取り扱う情報とその属性を定義した。(3)生活習慣病に関する問診標準化について:BRFSS(Behavioral Risk Factor Surveillance System)の調査票はthe National Health Interview Surveyやthe National Health and Nutrition Examination Surveyなど既存の全国調査の調査票を踏まえ、CDCの監修により作成されている。BRFSSの調査票を準拠することで、信頼性、妥当性のある情報を収集でき、しかも、国家間の比較を可能にするような問診票が得られると期待される。そこで、本研究では、1990年~2002年のBRFSSの調査票から必要項目を抽出して、27項目からなるBRFSS調査票日本版(Japanese Behavioral Risk Factor Surveillance Questionnaire; JBRFSQ)を作成した。
結果と考察
(1) 健康指標の創成:「健康と疾病は連続した状態であり、同じリスクやストレス下にありながらも健康を維持できる人と健康を害する人がいる」という点に立脚し、健康を保持増進させるファクターが存在すると考えている。そのため、従来の疾病に関連するリスク(stressor)に注目するのではなく、健康を維持増進させている資源ファクター(resource)に
注目し、このファクターをいかに強化することができるかが健康管理の課題と考えている。1. 身体的・化学的なリソース,2. 人為的なリソース(健康・着衣・食物・元気さなど),3. 認知のリソース(聡明さ・教育など),4. 情緒,5. ストレス対処法,6. 人間関係,7. 巨視的な社会のリソース(文化・宗教など)をもとに、現時利用可能なデータベースを一覧にまとめた。(2) 母子保健におけるデータ共有のための標準化規約について:母子保健領域で取り扱われる情報は、手帳交付時(随時妊婦自身で記入),妊娠経過観察中,妊婦健康審査1回目,妊婦健康審査2回目,出産直後産後の診察,歯科診査,両親学級,早期新生児期(退院時),晩期新生児期,1ヶ月,3-4ヶ月,6-7ヶ月,9-10ヶ月,1歳,1歳6ヶ月,2歳,3歳,4歳,5歳,6歳,ツベルクリン・BCG1回目,ツベルクリン・BCG2回目,DPT第1期第1回,DPT第1期第2回,DPT第1期第3回,DPT第1期追加,DPT第2期,ポリオ1回目,ポリオ2回目,麻疹,日本脳炎第1期1回,日本脳炎第1期2回,日本脳炎第1期追加,日本脳炎第2期,日本脳炎第3期を対象とした。DTD記載に必要なデータ種別,単位,検査方法,測定回数,検査部位,検査側,基準範囲(上限,下限),基準区分(区分数,区分1,区分2)についてまとめた。(3)生活習慣病に関する問診標準化について:BRFSSの調査票の項目は以下のように分類される。①属性 Demographics,②医療保険 Health Care Coverage,③健康状態 Health Status,④機能障害 Activity Limitations/Disability,⑤QOL Quality of Life,⑥喫煙 Tobacco Use,⑦飲酒 Alcohol Consumption,⑧運動・身体活動Exercise/Physical Activity,⑨食事・栄養 Nutrition/Diet,⑩体重コントロール Weight Control,⑪口腔衛生 Oral Health,⑫予防接種 Immunization,⑬家族計画 Family Planning,⑭女性の健康 Women's Health,⑮その他糖尿病、高血圧、高コレステロール血症、心血管疾患、がん、エイズ、負傷、などそのうち、健康負担の情報は③④⑤、生活習慣病の発症や進展にかかわるリスク行動の情報は⑥⑦⑧⑨⑩から得られる。JBRFSQはおもに老人保健法や労働安全衛生法による定期健康診断のなかで使用されることを想定しており、一般人を対象にして基本的生活の状況を把握するという観点から21項目を抽出した。
結論
本研究は、健康増進の視点から地域保健介入に関わる健康指標の開発をサリュートジェネーシスの視点から検討を進めている。この指標は、疾病負担による地域健康度ではなく、健康増進に関わる介入環境を示す指標であり、今後開発された指標と従来の指標との比較検証を行うことになる。また、標準化に関しては、母子保健情報からの共有化標準化の環境を整備する課題と生活習慣に関する国際的な標準化の作業を進めていくことで、情報の共有化による地域保健サービスの提供に関する基盤環境を整備できるものと期待される。

公開日・更新日

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