地域・職域での糖尿病予防教育の長期効果に関する無作為割付介入研究

文献情報

文献番号
200201057A
報告書区分
総括
研究課題名
地域・職域での糖尿病予防教育の長期効果に関する無作為割付介入研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
岡山 明(岩手医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木一幸(岩手医科大学医学部内科学第一講座)
  • 日高秀樹(三洋電機連合健康保険組合保健医療センター)
  • 上島弘嗣(滋賀医科大学福祉保健医学教室)
  • 島本和明(札幌医科大学医学部内科学第二講座)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生学講座)
  • 坂田清美(和歌山県立医科大学公衆衛生学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病は急速な増加傾向にあるが、長期予防に関する研究はきわめて不十分である。本研究は無作為割付介入研究の手法を用いて糖尿病予防の健康教育の長期効果継続の要因を明らかにするものである。初年度の平成14年度は基本プロトコールの作成、参加施設募集、指導用教材の整備を行った。
研究方法
糖尿病予防効果を明らかにするための介入デザインおよび、介入期間、血液検査の管理方法について検討した。糖尿病予防効果と肥満との関連を解析し、肥満指導の基準および指導方法を整備した。さらに糖尿病に効果的な運動を行うための教材の整備を行った。自己管理の指標として自己血糖測定の有効性を検討し、指導のタイミングと測定管理方法を確立した。研究に協力を依頼するため、各都道府県、市町村および企業に研究の趣旨と参加条件を示した研究参加申込書を送付し、研究参加を検討中の施設に対する説明会を実施した。更に研究に参加を表明した施設に対して実務研修会を実施した。
結果と考察
1.基本プロトコール
対象者のスクリーニング基準は、通常の健康診断成績に基づいて実施することとした。擬陽性率が高いためスクリーニング基準にはHbA1cは採用しないこととした。糖尿病の判定基準は、6ヶ月間の強化健康教育実施中、およびその後のフォロー期間毎に定めた。
100mg/dl以上126mg/dl未満の対象者の糖尿病への年間移行率を12%とし、再検査で126mg/dl以上を示す確率を80%とした。年間の糖尿病発症率を10%として放置した場合4年間の追跡により40%が糖尿病を発症するものとした。適切なフォローによって糖尿病の発症率が30%軽減されるものとして標本数を計算したところ1群の標本数が303名となった。40%改善するとすると1群165名となった。そこで安全を見込んで対象者を1群250名とし総計500名の対象者を募集することとした。
強化介入期間は現行の個別健康教育と同様の6ヶ月間とし、参加者に対して栄養摂取状況を調査し、検査結果とあわせて指導方針を立てる。対象者の意欲や特性に応じ3項目以内の重点目標を定め、指導のポイントを確認しながら指導を継続する。指導開始後4ヶ月の時点で施設毎に無作為割り付けし、モニタリングのみの施設と継続的なフォロー対象となる施設に区分する。6ヶ月の集中指導の終了時点で対象者に継続指導の有無を報告し今後のフォローの仕組みを説明する。以後糖尿病の移行状況を明らかにするため、1年以内に実施される健康診断時に血液検査を実施してフォローする。2年目以降は1年ごとに血液検査を実施する。継続指導群となった施設では、対象者に健康手帳を配布し、4ヶ月に1回研究事務局と施設が連携し、運動、食生活、肥満状況について把握するとともに、生活改善の情報を対象者の特性に応じて郵便、面接、メイルなどによって配布する。
2.指導用教材の開発
(1)教材の基本的な構成
教材の構成は、アセスメント用教材、知識を伝える教材および行動を支援する教材に区分した。エネルギーに寄与する糖質と脂質摂取状況を明らかにすることに重点を置いて調査時間や調査者の負担を軽減するよう「知食V.2」とその調査用紙を縮小整理した。一方運動状況や生活改善意識を調査する項目を新たに追加した。
知識が十分得られ動機付けされた対象者には、適切な生活行動が維持できるよう適切なタイミングで支援用の教材を用いる。支援用の教材は食事の選択を促す教材として4日間の食事記録用紙、2週間のヘルシーライフ手帳を用い、更に運動では歩数計を用いて日々の運動状況をエネルギー摂取状況と比較しながら把握可能となるよう配慮した。また対象者がビデオをみながら効果的な運動を行えるものとした。更に自己管理意識を高めるため自己採血キットを導入し、定期的な測定を行うことで血糖値と食事の内容や運動の状況との関連を把握できるようにした。
(2)栄養指導の方法
糖尿病予防のための栄養指導では、指導方針を2段階に行うことが望ましいと考えられた。第1の方針は脂肪の摂取量の減少を計ること。第2の方針は摂取量そのものの制限を行うことである。これらの指導ポイントを効率よく指導するには栄養のアセスメントが重要となるが、調査者の負担を軽減して、指導ポイントに沿ってエネルギーや糖質、脂質の摂取量を把握可能な調査票と調査用キットを開発し指導ポイントが容易に示されるよう配慮した。
本研究ではアセスメントの結果から得たエネルギー摂取量と現在のBMIを比較して、BMIを適正に保つためのエネルギーを求めた。更にこのエネルギー摂取をバランスよく保つための主要栄養素の値を計算から求めるとともに、寄与する食品の割合を計算から求めた。
(3)運動指導用教材
運動の糖尿病予防効果は、普段こまめに体を動かす習慣程度でも十分な効果が期待できる。
運動の特徴として、運動群と対照群の体重を比較しても有意な差は見られない。運動指導のみをした群では運動量の増加とともにエネルギー摂取も増えるので、体重減少を目的とした場合には同時に食事指導を行うことが必要となる。
運動を始めた初期は食欲が亢進することが多いので、当初から食事制限を併用することは本人の意志を十分確認した上で行うことが望ましく、運動が定着した時期(1ヶ月程度)を見計らい体重の減少を目標と定めるべきである。定期的な運動は効果があっても持続することは困難なので、短期的な運動として定期的な運動メニューを使用し普段の身体活動度を増やすアドバイスが効果的と考えられる。
そこで本研究班では、定期的な運動で持続しやすいものとして、ウォーキング、ダンベル体操、セラバンド体操を導入することとした。短時間に運動のポイントを説明可能なビデオを作成し、指導ポイントを対象者が把握しやすいよう配慮した。
(4)減量指導法
どのような対象に減量指導を行うのが効果的かを検討するため、6ヶ月の健康教育の前後でBMIレベル別にHbA1cの改善効果を検討した結果、BMIが大きい対象のみでなく、やせでない対象にも減量指導を拡張する必要があると考えられる。また、減量効果は肥満の有無にかかわらず同じと考えられた。また男女でも同様であった。以上の点から、体重減少を促す対象はBMIが22kg/㎡を下回らないもの全員を対象とすることとした。
(5)研究実施マニュアルの作成
各施設のスクリーニングおよび指導スケジュールを把握して円滑な実施体制を確保するため、研究事務局を岩手医科大学内に置くこととした。研究実施マニュアルを作成し、各施設はこのマニュアルに沿って対象者を募集し、指導するものとした。マニュアルには指導時期に必要な帳票類を整備し、コピーして使用可能なよう配慮した。
3.参加施設の現状
研究協力施設募集により問い合わせのあった施設に研究の趣旨を説明し参加の検討を依頼するため、平成14年11月と15年2月に説明会を実施した。市町村担当者、管轄する県の担当者を含めた地域保健担当者36名、職域保健の担当者11名が参加し、研究趣旨の説明と質疑応答に加えて、研究プロトコール細部の検討を行った。平成15年度前半に実施予定の施設を対象として平成15年3月に実務研修会を開催し、糖尿病予防のための基本的な考え方、本研究班で開発した教育教材の使いこなし、対象者の特性の効果的な把握方法の習得を目指した。本研究では参加施設の募集を平成14年10月から継続的に実施し、現在のところ参加を確定した施設数は18カ所34人であった。
結論
糖尿病予防の長期効果を検証するための研究班の初年度として、研究プロトコールの検証、研究実施マニュアルの作成、参加施設の募集、指導用教材の開発をおこなった。本年度で教材開発が完了し、当初の研究計画に沿って施設募集も実施することが出来た。平成15年度は当初計画の研究規模とするため、様々な機会を得て更に参加施設の募集を行うとともに、指導を開始した施設への支援を行うこととする。

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