文献情報
文献番号
200201055A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における放射能事故発生時の対応に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 元((財)放射線影響研究所)
研究分担者(所属機関)
- 藤原佐枝子((財)放射線影響研究所)
- 箱田雅之((財)放射線影響研究所)
- 川田諭一(岡山市保健所)
- 宮田延子(岐阜医療短期大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
核テロや放射能事故・事件は、住民に多大な不安をもたらし、誤った健康行動へ走らせたり、長期的にPTSDや心身症的疾病を増加させる。核テロや放射能事故・事件が発生した場合には、地域の保健行政当局は、住民に積極的に情報提供し、健康不安の解消に努めなければならない。本研究は、保健行政が核テロや放射能事故・事件発生後の影響管理(consequence management)において果たすべき役割を整理し、保健所職員を対象にした解説書およびマニュアルを作成することを通じて、保健行政の対応能力を向上させることを目的とする。
研究方法
原子力施設立地16道府県および原子力施設非立地16都府県のすべての保健所・保健センターを対象としたアンケート調査を行い、保健所の持つ能力と放射能事故・事件に対する理解度および準備状況を調査する。また、国内機関および合衆国放射線防護計測委員会(NCRP)や国際原子力機関(IAEA)が刊行している文献を収集し、一部抄訳を作成する。これらの資料を基に、解説書およびマニュアルを作成する。
(倫理面への配慮)アンケート調査は、匿名化されて行われ、個々の保健所名が発表されることはない。また、本研究に、個人の人権に係わる事項は含まれない。
(倫理面への配慮)アンケート調査は、匿名化されて行われ、個々の保健所名が発表されることはない。また、本研究に、個人の人権に係わる事項は含まれない。
結果と考察
2002年度に原子力施設立地16道府県および原子力施設非立地16都府県のすべての保健所・保健センター568施設を対象としたアンケート調査を行った。代表回答となった32施設を除いた536施設のうち422施設から回答を得た回答率78.7%)。保健行政全般に関する質問項目に関しては、個々の保健所ではなく自治体単位で統一した回答を寄せていただいた。保健所の対応能力に関する質問項目に関しては、個々の保健所・保健センターが独自の回答をした。
アンケート調査の結果、放射能事故・事件に対する計画を持っている保健所(自治体)は17%、核テロに対する計画を持っている保健所は0.9%に過ぎない。また、管轄区域内の放射線発生装置と放射性同位元素の把握状況は、医療機関に関しては89%と86%と高いが、研究所や教育機関、事業所に関しては把握率が10%前後と低い。核物質の輸送に関して、事故の際の公安委員会との連絡体制を持っている保健所(自治体)は6%に過ぎない。この結果は、放射能事故・事件が発生するかもしれない場所に関して、自治体の中で保健所を含めた共有体制がとられていないことを示唆する。
避難などの際に介助を必要とする災害弱者の把握に関しては、3%の保健所(自治体)のみが把握しているにすぎない。さらに、情報伝達の言語として、日本語以外の言語も準備している保健所(自治体)は、7%にすぎない。災害弱者に対する対策が、未だ不十分であることを示唆している。
多くの保健所(自治体)が、複数の情報伝達手段を保持している。しかし、提供する情報の雛形に関して準備しているところは、3%以下と少ない。保健所の職員の放射性物質や放射線の健康障害に関する知識を調べる目的で、1999年9月の東海村JCO臨界事故の際に、実際に住民から問い合わせのあった質問項目を今回のアンケート調査で採録した。35% - 42%の保健所が、これらの質問項目に回答可能であると答えている。今回の調査では、質問に対する回答の正誤は調査しなかったので、回答が正解か否かここでは問わない。事故や事件で問い合わせのある質問は、かなり予見可能であるため、回答の雛形を準備しておくことは、有意義である。これにより、回答者による情報の錯綜を避けることができる。また、放射能事故・事件が発生した場合の専門的な助言先を有している保健所(自治体)は30%、検査依頼が可能な施設のリストを有している保健所(自治体)は17%である。
保健所が保持する測定器等に関する質問では、49%の保健所が電離箱式サーベーメータを持っている。これは、X線発生装置を所轄管内にもっている保健所は、日常的に使用する機会があるためと思われる。他方、汚染検査に有用なGMサーベーメータは19%の保健所しか保持しておらず、原子力施設非立地都府県に限れば、その数字は14%に下がる。また、直読式の個人線量計を持つ保健所は、11%にすぎない。マニュアル作成の際は、このような現状をふまえた上で、策定する必要があろう。
以上のアンケート調査結果は、放射能事故・事件に対する準備は、十分なされていない事を示している。放射能事故・事件は、低頻度の事象である。そのため、過大な投資を行い準備する必要はないであろう。しかし、一般の災害対策を充実させる過程で、放射能事故・事件に特有な情報を雛形として準備し、その伝達手段を整備し、専門家との連絡体制を確立しておくことは可能と思われる。
2002年度は、アンケート調査と共にNCRP報告第138号「放射性物質を伴うテロ行為の管理」を抄訳した(添付資料)。核テロや放射能事故・事件の規模に応じた被害の規模、健康傷害の特徴、危機管理、影響管理、情報伝達などに関して、有用な情報が得られた。
アンケート調査の結果、放射能事故・事件に対する計画を持っている保健所(自治体)は17%、核テロに対する計画を持っている保健所は0.9%に過ぎない。また、管轄区域内の放射線発生装置と放射性同位元素の把握状況は、医療機関に関しては89%と86%と高いが、研究所や教育機関、事業所に関しては把握率が10%前後と低い。核物質の輸送に関して、事故の際の公安委員会との連絡体制を持っている保健所(自治体)は6%に過ぎない。この結果は、放射能事故・事件が発生するかもしれない場所に関して、自治体の中で保健所を含めた共有体制がとられていないことを示唆する。
避難などの際に介助を必要とする災害弱者の把握に関しては、3%の保健所(自治体)のみが把握しているにすぎない。さらに、情報伝達の言語として、日本語以外の言語も準備している保健所(自治体)は、7%にすぎない。災害弱者に対する対策が、未だ不十分であることを示唆している。
多くの保健所(自治体)が、複数の情報伝達手段を保持している。しかし、提供する情報の雛形に関して準備しているところは、3%以下と少ない。保健所の職員の放射性物質や放射線の健康障害に関する知識を調べる目的で、1999年9月の東海村JCO臨界事故の際に、実際に住民から問い合わせのあった質問項目を今回のアンケート調査で採録した。35% - 42%の保健所が、これらの質問項目に回答可能であると答えている。今回の調査では、質問に対する回答の正誤は調査しなかったので、回答が正解か否かここでは問わない。事故や事件で問い合わせのある質問は、かなり予見可能であるため、回答の雛形を準備しておくことは、有意義である。これにより、回答者による情報の錯綜を避けることができる。また、放射能事故・事件が発生した場合の専門的な助言先を有している保健所(自治体)は30%、検査依頼が可能な施設のリストを有している保健所(自治体)は17%である。
保健所が保持する測定器等に関する質問では、49%の保健所が電離箱式サーベーメータを持っている。これは、X線発生装置を所轄管内にもっている保健所は、日常的に使用する機会があるためと思われる。他方、汚染検査に有用なGMサーベーメータは19%の保健所しか保持しておらず、原子力施設非立地都府県に限れば、その数字は14%に下がる。また、直読式の個人線量計を持つ保健所は、11%にすぎない。マニュアル作成の際は、このような現状をふまえた上で、策定する必要があろう。
以上のアンケート調査結果は、放射能事故・事件に対する準備は、十分なされていない事を示している。放射能事故・事件は、低頻度の事象である。そのため、過大な投資を行い準備する必要はないであろう。しかし、一般の災害対策を充実させる過程で、放射能事故・事件に特有な情報を雛形として準備し、その伝達手段を整備し、専門家との連絡体制を確立しておくことは可能と思われる。
2002年度は、アンケート調査と共にNCRP報告第138号「放射性物質を伴うテロ行為の管理」を抄訳した(添付資料)。核テロや放射能事故・事件の規模に応じた被害の規模、健康傷害の特徴、危機管理、影響管理、情報伝達などに関して、有用な情報が得られた。
結論
核テロや放射能事故・事件に対する保健所の対応能力を調査し、対応能力向上のための基礎資料を得た。現状は、放射線影響などに関する住民の質問に対する対応において、職員個人の能力に負うところが多く、組織として統一した対策がとられていない。また、専門家との連携体制もとられていない。2003年度の研究において、保健所の対応能力を向上させるための、解説書、マニュアル(情報の雛形を含む)を整備する。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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