地域の健康危機管理における保健所保健婦の機能・役割に関する実証的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201054A
報告書区分
総括
研究課題名
地域の健康危機管理における保健所保健婦の機能・役割に関する実証的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 美砂子(千葉大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 牛尾裕子(千葉大学看護学部)
  • 松永敏子(千葉県健康福祉部健康増進課)
  • 春山早苗(群馬県立医療短期大学)
  • 錦織正子(茨城県立医療大学)
  • 藤本眞一(県立広島女子大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、健康危機管理は、わが国の地域保健対策において極めて重要な課題となっている。本研究は、保健所を中核とする地域の健康危機管理活動において、保健所保健師の果たすべき固有の機能・役割を実証的に明らかにすることを目的とするものである。
保健師は、保健所組織の一員として他の専門職と協働して、地域住民の生命・健康・生活を守る役割を担っている。個々の健康危機事例に対する活動報告は保健所単位で行われているが、保健師の機能・役割について、知見の抽出ならびに概念整理は充分になされていない。本研究では、地域の健康危機管理における保健所保健師の活動実態を詳細に検討することにより、健康危機管理における保健所保健師の機能・役割を実証的に解明することを目指す。本研究の成果により、現代の保健所保健師に求められる資質を明確にし、教育や活動条件づくりに貢献する資料を提示したい。
研究方法
本年度は3カ年計画の1年目に当たる。自然災害、感染症の集団発生、人体・環境への汚染事故に対する保健所保健師の経験事例を調査対象とし、危機発生から平常時に至るまでの活動過程についての事例調査、一つの県の全保健所保健師に対する質問紙調査、国内外の文献調査の各方法を用いて、健康危機管理における保健師の機能・役割の実態を調べた。そしてその結果に基づき、保健師の機能・役割を考えるにあたり重要あるいは必要な事項を検討した。主任・分担研究者の研究項目は、(1)豪雨災害における保健所保健師の機能・役割(分担研究者:春山)、(2)火山噴火災害における保健所保健師の機能・役割(分担研究者・牛尾)、(3)自然災害発生時における保健所保健師の機能・役割(分担研究者:牛尾)、(4)感染症における保健所保健師の機能・役割(主任研究者:宮崎)、(5)食品媒介感染症対策における保健所保健師の取り組み(分担研究者:松永)、(6)人体・環境への汚染事故発生における保健所保健師の機能・役割(分担研究者:錦織)、(7)保健所の活動体制・組織的対応と保健師の機能・役割との関連分析(分担研究者:藤本)、(8)地域の健康危機管理における保健師の活動に関する文献検討(主任研究者:宮崎)、である。これらの研究項目の各調査は、1.地域の健康危機管理における保健所保健師の活動事例に基づく保健師の機能・役割の検討、2.保健所の活動体制・組織的対応と保健師の機能・役割との関連分析、3.地域の健康危機管理における保健師の活動に関する文献検討、の3つの方向性に集約した。
結果と考察
豪雨災害及び火山噴火災害の事例調査の結果から、自然災害においては、被災地の応援体制づくり、避難所における保健活動の実施、専門職等関係者との連携体制づくり、ハイリスク者の安全な避難・医療等の確保、市町村保健活動の平常業務への移行支援、管内の健康危機管理に対する市町村保健師の資質向上への支援が重要となることが明らかとなった。感染症の集団発生の事例調査の結果から、患者・家族、接触者、関係者等の対象者一人ひとりを真に尊重する姿勢、対象者と信頼関係を結び対象者の同意・協力を基底に置いて働きかける技術、心身の回復に向けての継続的な支援への責任が重要となることが明らかとなった。人体・環境への汚染事故の事例調査から、正確な情報の収集・伝達、管内の地区把握及び地区診断、実態把握、健康相談等具体的活動の適切な運営、活動体制づくり、活動記録の保存が重要となることが明らかとなった。以上調査対象としたいずれの健康危機事例においても、地域や対象者の特性ならびにチームワークに根ざした活動展開が鍵となっていた。保健師の機能・役割を保障するためには、実地訓練を含む研修、保健指導マニュアルやチェックリストの整備、応援者や関係者と共同で対応するための引継書等の整備、日常からの市町村との連携の強化が必要である。また国内外の文献調査の結果から、わが国においては、感染症、自然災害に対する保健師の活動報告が多く、特に結核集団発生の報告が多くを占めることを確認した。外国文献おいては、ハリケーン、暴風雨、森林火災等の自然災害、結核、ジフテリア、麻疹、髄膜炎等感染症の流行、重油流出、暴動やテロ発生時への活動報告があり、自然災害及び事故発生に対しては、復興期以降の継続的な地域住民への精神支援ならびに緊急時に備えた計画策定が重視され、感染症に対しては、予防接種対策ならびに予防教育等の平常時の活動が重視されていることを
確認した。
結論
本研究は、自然災害、感染症の集団発生、人体・環境への汚染事故に対する保健所保健師の経験事例調査から、保健師の機能・役割の実態を明らかにし、地域の健康危機管理におけるわが国の保健所保健師の機能・役割についての第一段階の基礎的概念を得た。今後の課題として、保健所組織体制と保健師の機能・役割との関連、保健師の機能・役割が必要とされる事象の明確化、保健師の機能・役割としてより強化すべき内容の検討が挙げられる。

公開日・更新日

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