特定保健用食材の安全性及び有用性に関する研究

文献情報

文献番号
200200984A
報告書区分
総括
研究課題名
特定保健用食材の安全性及び有用性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
池上 幸江(大妻女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 池上幸江(大妻女子大学)
  • 山田和彦(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 合田敏尚(静岡県立大学)
  • 中村優美子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 志村二三夫(十文字学園女子大学)
  • 篠塚和正(武庫川女子大学)
  • 江頭祐嘉合(千葉大学)
  • 奥恒行(県立長崎シーボルト大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では平成13年度より、新たな食品表示制度:保健機能食品が発足した。これは、栄養機能食品と特定保健用食品から構成され、通常の食品形態以外に錠剤やカプセルなど医薬品的な形態にも適用されることになった。特定保健用食品はすでに平成3年からあったが、これまで健康上の利点を表示することができなかった「いわゆる健康食品」についても安全性や有用性などについて科学的な実証があれば表示が可能となった。
そこで本研究では、新たな特定保健用食品制度の信頼性の確保のために、その安全性と有用性について多面的に検討することを目的とした。すなわち、健康強調表示の国際的な動向調査、糖質・脂肪酸素材の安全性や有用性、ハーブ類の安全性と有用性、ハーブ類の医薬品との相互作用、疾患モデル動物における安全性や有用性、食物繊維のエネルギー評価の考え方、について検討した。
研究方法
本研究では、8つのテーマによって行った。健康強調表示の国際動向調査では、EU関係資料、WHO、NIHのホームページから必要資料を得た。糖質、脂肪酸関連素材に関する研究、ハーブ類の安全性と有用性に関する研究、疾患モデル動物における安全性や有用性に関する研究ではいずれもそれらに適応した系統のラットを用いた。いずれの施設でも動物実験の倫理規定に従って行った。食物繊維のエネルギー評価では、人での発酵性を被験者での計測によって行った。人による試験ではヘルシンキ宣言に基づく倫理規定を遵守した。
結果と考察
本研究では、8 つのテーマに沿って研究を行い、以下のような成果が得られた。
健康強調表示と補完代替医療の国際的動向:EUではfood supplementの指令が2002年中に成立する。これはわが国の栄養機能食品に該当するものであり、特定保健用食品に該当する健康強調表示についてはEUとしての指令にはまだ時間がかかりそうである。個別にはイギリスやスウェーデンなど5カ国が健康強調表示を認めている。さらに、WHO やNIHでは補完代替医療に対する調査や今後の課題をインターネット上で公開している。WHOでは伝統医療を安全で有効に利用できるような支援体制を2005年までに確立する予定である。またNIHは補完代替医療を担当する部門があり、有用性に関する研究、研究データの調査などが行われている。
糖質関連素材:難消化オリゴ糖、糖アルコール、食物繊維について安全性や有用性、あるいは開発状況について検討した。さらに最近巷間にブームとなっているカスピ海ヨーグルトの安全性と有用性を明らかにするために、菌種の同定と特徴、保存条件による変化などについて明らかにした。
機能性脂肪酸:アラキドン酸をグリセロールの1位か2位に結合した機能性脂肪を投与したラットにおいて、小腸における脂肪酸核内遺伝子の発現に対する影響を検討した。その結果、2位グリセロールにアラキドン酸を結合した脂肪はPPARの遺伝子発現を促進することを明らかにした。これらの遺伝子は、脂肪酸や脂溶性ビタミンの代謝や消化管からの吸収に影響を与えるものである。
ハーブ類(ブドウ種子ポリフェノール):ブドウ種子ポリフェノールはその抗酸化性が注目され、広く利用されているが、有効性については明らかではない。そこでブドウ種子ポリフェノールをラットに投与し、その生体利用性と代謝について検討し、4種のカテキン類を同定し、、有効成分と代謝物を明らかにした。
ハーブ類(中枢神経機能を指向するハーブ類):中枢神経機能を指向するハーブ類については、現在わが国で利用頻度の高いものについてリストアップし、その中から肝臓機能に影響すると思われるハーブ類についてチトクロムP-450の分子種の遺伝子発現について調べた。対象としたハーブは、カバ、ノコギリヤシ、ブルーベリー、ピクノジェノール、パウ・ダルコ、レッドクロバー、エキナセアである。このうち、カバについてはCYP3A1とCYP1A1、レッドクロバーとエキナセアではCYP1A1の遺伝子発現を促進することを確認した。今後肝臓への影響や他の医薬品との相互作用などを確認する必要がある。
ハーブ類(循環器機能に影響するハーブ類):循環器機能に影響するハーブ類として、イチョウ葉エキス、プロポリス、杜仲茶、ピクノジェノール、ブドウ種子エキス、アレクリンを用い、薬理学的、薬物動態学的なスクリーニングを行った。ピクノジェノールとブドウ種子エキスでは顕著な影響はなかったが、プロポリスと杜仲茶では高血圧動物において血圧上昇抑制と血管拡張作用が観察された。プロポリスの有効性はその成分であるアレクリンによることも確認された。また、イチョウ葉エキスでは、海馬の脳微小血管の細胞内カルシウム濃度の上昇が脳循環改善作用に関連することを明らかにした。 
特定保健用食材の新たな安全性試験法:高コレステロール血症、ネフローゼ症候群のモデル動物を用いて、オリゴ糖とアガリクスの安全性評価を行った。その結果、高コレステロール血症動物ではラクチュロース、フラクトオリゴ糖では血清コレステロールの上昇傾向が確認された。しかし、ネフローゼ症候群動物ではオリゴ糖やアガリクスがとくに病態を増悪させることはなかった。さらにトリプトファン代謝への影響も観察したが、影響はみられなかった。
食物繊維のエネルギー値:前年度に食物繊維のエネルギー評価を文献的な調査に基づいて提案し、行政対応にも利用された。食物繊維やオリゴ糖では、その発酵分解性が重要な要因であることから、人に各種食物繊維や難消化性オリゴ糖を摂取させ、その発酵性を呼気中に排出される水素ガスから検討した。しかし、一部の素材ではこれまでの文献値とは一致しない結果も得られ、今後さらに検討が必要であることが示唆された。
結論
以上のように本研究課題では、8つの分担研究テーマを設定し、それぞれの方法によって研究を進めた。いずれも当初に予定した成果を得ることができ、次年度にさらに発展させることが期待される。
本研究では、現状の特定保健用食品素材のみならず、今後新たに申請される可能性がある素材や現在健康食品として広く利用されている素材の有用性や安全性のチェックを行うとともに、新たな安全性、有用性評価の方法として採用できるものを提案している。併せて、健康強調表示や補完代替医療に関する国際的な動向調査から、今後のわが国の特定保健用食品制度について考えるべき課題についても明らかにできたものと考える。

公開日・更新日

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