文献情報
文献番号
200200982A
報告書区分
総括
研究課題名
食品用の器具、容器包装などの安全性の評価等に関する研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
有薗 幸司(熊本県立大学)
研究分担者(所属機関)
- 高尾雄二(長崎大学)
- 篠原亮太(熊本県立大学)
- 石橋康弘(長崎大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
BSEや輸入野菜の農薬検出問題など食品の安全性に関する国民の関心が高まる中、食品容器等の安全性についても十分な考慮を必要とされる時代になったと思われる。近年、幾つかの研究グループにより、食品用の器具、缶飲料容器やほ乳瓶などの容器などに含まれるまたは溶出する可塑剤や未重合物質などが比較的高濃度で検出され、それらが人などの正常なホルモンの働きを撹乱する可能性もあると指摘された。このため、調理用手袋、カップ麺容器や缶飲料の容器、ラップなどで見られたように材料の変更等など食品業界等の対応も見られた。しかしこれらは、主に内分泌撹乱化学物質のみを分析対象物質とした研究であっため、その他の化学物質に対する知見はほとんど得られていない。実際、プラスチック製品には、エポキシ樹脂とポリカーボネート製品に代表されるように内分泌撹乱化学物質の一つであるビスフェノールAを主原料としているものもあれば、これ以外のプラスチック材料であっても、例えば柔らかくするために可塑剤としてフタル酸等の種々雑多な有機化合物などを添加している例が非常に多い。また、リサイクルプラスチック製品や生分解製プラスチックについても例外ではなく、材料としての手触りや光沢などの性能を高めるために種々の有機化合物や金属類等を添加している。また、木製品および竹製品は防腐材や割れを防ぐための樹脂などを含浸している場合や抗菌剤を添加している場合が多い。このように、食品用の器具、容器包装等には、あらゆる化学物質が含まれ、それらが食品中に溶出し人体に取り込まれる可能性が潜在する。本研究では、生活環境化学物質として、有機化合物、有機金属化合物、重金属の3種類について、市販の食器用の器具、容器包装等に含まれるこれらの物質の総合的なスクリーニングを行うことを目的とした。
研究方法
市販の食品用の器具、容器包装等を中心に可能な限り広範囲に購入した。当初はこれらを用いて、溶媒(主にメタノール)を用いた溶出試験により、それらに含まれる有機化合物、有機金属化合物をスクリーニングしたが、検出されるピークがあまりにも多いため、本研究では、90℃の熱湯を用いた溶出試験を行うこととした。すなわち、オーブン中で熱湯に30分間接触させ、室温で放冷後、試料水からジクロロメタンを用いた液液抽出により有機化合物を抽出し、脱水後、窒素ガスの穏やかな吹き付けにより濃縮し、GC/MSにより分析した。GC/MSはSCANモードでもSIMモード並の高感度を有するイオントラップ型のGC/MSを使用した。なお、毎回、ガラスフラスコを用いたコントロール試験も同時並行して行った。GC/MS測定後、コントロールのクロマトグラフと異なるピークについて試料からの溶出とし、定性分析を行った。なお、本年度は、抗菌性の製品およびリサイクルプラスチック製品の2種類を総合的にスクリーニング分析することとした。一方、食品容器等からの金属類の溶出実験は、容器等を破砕しマイクロ波加熱分解容器を用いて酸分解し、原子吸光光度計を用いて分析した。分析対象とした金属はCd, Co, Cr, Cu, Fe, Mn, Ni, Pb, Hgとした。
結果と考察
測定した抗菌性製品のほとんどの試料から非常に多くのピークが観察された。中でもベンゼン環を有する種々の芳香族化合物が数多く見られた。特に多くの試料から共通して検出された化学物質は、はし-3(No.3)、タッパ-1(No.4)、コップ(No.6)、ざる(No.7)、マヨネーズカップ(No.8)、アルミカップ(No.10)、まな板-2(No.13)、まな板-3(No.14)で見られたButylated Hydroxy- toluene(BHT)。また、はし-3(No.3)、タッパ-1(No.4)、コ
ップ(No.6)、ざる(No,7)、マヨネーズカップ(No.8)、ピック(No.9)、ふきん(No.11)、まな板-1(No.12)、まな板-2(No.13)で見られたDiethyl phthalate。はし-3(No.3)、タッパ-1(No.4)、タッパ-2(No.5)、ざる(No.7)、マヨネーズカップ(No.8)、ふきん(No.11)、まな板-1(No.12)、まな板-2(No.13)で見られたDibutyl phthalate。タッパ-2(No.5)、コップ(No.6)、ふきん(No.11)、まな板-3(No.14)で見られたbnzophenoneであった。(試料の番号は資料参照)リサイクルプラスチック製品を溶出試験した結果、PETボトルの再生繊維を使用している試料からは、他の素材よりも多くのピークが観察された。特に多くの試料から共通して検出された化学物質は、水切りネット-3(No.3)、レンジフードカバー(No.5)、サラダパック(No.6)、どんぶり(No.7)、軍手(No.11)で見られたButylated Hydroxytoluene(BHT)。また、水切りネット-2(No.2)、レンジフードフィルター(No.4)、レンジフードカバー(No.5)、ボールペン(No.10)で見られたDibutyl phthalate。水切りネット-3(No.3)、レンジフードフィルター(No.4)、修正テープ1(No.8)で見られたDiisobutyl Phthalateであった。市販の抗菌性食品容器等14検体について溶出試験を行った。溶出したと思われる有機化合物のうち、プラスチック等の添加剤と考えられるのは安定剤、酸化・老化防止剤として使用されているButylated Hydroxytoluene(BHT)(14検体中9検体から検出)は、発ガン性が指摘されている物質である。合成樹脂、可塑剤として添加されているDiethyl phthalate(14検体中9検体から検出)は、内分泌攪乱作用が疑われている。溶剤、接着剤、潤滑剤、可塑剤であるDibutyl phthalate(14検体中8検体から検出)、紫外線吸収剤、殺虫剤であるBenzophenone(14検体中4検体から検出)も内分泌攪乱作用が疑われている。また、グラビア印刷用インキ接着剤、染料用可塑剤であるN-ethyl4-toluenesulfoneamid, N-ethyl O-toluene sulfoneamide(14検体中4検体から検出)が、はし-2(No.2)、ふきん(No.11)から溶出が認められた。はし-2(No.2)はイラストつきであり、ふきん(No.11)も白地にピンクの模様であったため、この有機化合物が2検体に含まれていた可能性は十分高いと思われる。顔料、塗料、殺虫剤、防虫剤、合成樹脂、可塑剤として用いられるDimethyl phthalate(14検体中2検体から検出)、合成原料である2,2'-Bithiophene(14検体中2検体から検出)、滑剤、離型剤であるOleamide(14検体中1検体)は、コップ(No.6)から溶出が認められたが、加工型からの離れを良くするために添加された可能性が高い。そのほかにも塗料、染料、殺虫剤、防虫剤、合成樹脂、合成中間体、可塑剤であるPhthalic nhydride、塗料原料、粘着剤、樹脂改質剤である2-Propenoic acid,octyl esterの溶出が、はし-3(No.3)から認められた。はし-3(No.3)は、ポリエステル塗装が施してあり、また絵付きであるためこれらを含んでいた可能性は高い。また、はし-3(No.3)からは、プラスチック添加剤、紫外線吸収剤、難燃剤であるChlorendic acid、可塑剤であるBis(2-butoxyethyl) phthalateの溶出が認められた。また、下記の化学物質の溶出が14検体中各1検体ずつ認められた。①有機合成原料の4-Methylbenzylalcohol。②塗料用樹脂改質剤、塩化ビニル安定剤、③酸化防止剤であるp-tert-butylbenzoic acid。④可塑剤、難燃剤であるTributyl phosohate。⑤可塑剤、溶剤であるTributylacethylcitrate⑥溶剤、洗浄剤であるButyl CarbitolAcetate。⑦界面活性剤、合成中間体であるLauricacid。⑧塗料、溶剤、洗浄剤、農薬全般、合成中間体であるIsophorone。⑨合成中間対であるHexanoic acid,2-ethyl-。⑩農薬、香料であるVanillin。⑪香料、農薬全般に使われ殺菌作用のあるEugenol。⑫可塑剤である1,2-Benzenedicarboxylic acid,diheptyl ester。また、精油成分で抗菌作用を持つα-Terpineol、合成樹脂、可塑剤であるNonanoic acidの溶出がふきん(No.11)から認められた。α-Terpineolは、木などから抽出される精油成分であるが、ふきん(No.11)の抗菌剤として使われている可能性がある。また、木
製品であるはし-1(No.1)、はし-3(No.3)、まな板-3(No.14)からはThujone、4-Terpinenol、Cedrene-V6、α-Cedrene、Cedrene、Thujopsene、)-Cuparene、Cubenol、α-Terpineol、(R)-(-)-terpinen-4-olなどの多くの精油成分の溶出が認められた。このうち、α-Cedrene、Cedrene、Thujopsene、Cubenol、α-Terpineol、(R)-(-)-terpinen-4-olには抗菌作用が認められている。この中で、Thujoneにはエストロゲン作用が、また(+)-Cupareneには肌を刺激するという報告もある。なお、本研究ではスクリーニングが主目的であるため、各物質の定量までには至らなかった。今後の課題として、毒性が高く食品や化粧品の酸化防止剤にも使われているButylated Hydroxytoluene(BHT)や、可塑剤として広く使われているフタル酸エステル類などに注目して定量試験を行う必要がある。また、本試験で、はっきりとしたピークで抗菌剤が検出されなかった素材がほとんどだった。この理由として金属無機系抗菌剤(例えば銀イオンなど)が使われていた可能性が高い。実際、はし-1(No.1)、はし-3(No.3)、ざる(No.7)、で使用されている抗菌剤はAg(銀)を利用した無機系抗菌剤であった。 次に、市販のリサイクルプラスチック等11検体について溶出試験を行った。溶出したと思われる有機化合物のうち、プラスチック等の添加剤と考えられるのは次の物質である。 安定剤、酸化・老化防止剤であるButylated Hydroxytoluene(BHT)(11検体中5検体)は、発ガン性が指摘されている物質である。溶剤、洗浄剤、接着剤、潤滑剤、殺虫剤、可塑剤であるDibutyl phthalate(11検体中4検体)は、内分泌攪乱作用が疑われている。可塑剤であるDiisobutyl Phthalate(11検体中3検体)は、内分泌攪乱作用が疑われている。また、グラビア印刷用インキ接着剤、染料用可塑剤であるN-ethyl4-toluenesulfoneamide、N-ethylO-toluenesulfoneamide(11検体中3検体)。合成樹脂、可塑剤であるDiethyl phthalate(11検体中2検体)、これらは内分泌攪乱作用が疑われている。合成中間体であるHexanoic acid,2-ethyl-(11検体中2検体)。他にも可塑剤であるDiisononyl Phthalate(11検体中1検体)、顔料、塗料、殺虫剤、防虫剤、合成樹脂、可塑剤、染料混和剤であるDimethyl phthalate(11検体中1検体)、溶剤、界面活性剤、合成樹脂、可塑剤、架橋剤であるDiallyl Phthalate(11検体中1検体)など多くのフタル酸エステル類の溶出が認められた。また、ポリカーボネートの原料であるDiphenyl carbonate、界面活性剤原料、有機合成原料であるDodecane,1-chloro、合成中間体であるTriethylene glycol monobutyl ether、滑剤、離型剤であるOleamide、紫外線吸収剤、殺虫剤であるBenzophenone、界面活性剤、可塑剤であるBis(2-ethylhexyl)maleate、紫外線吸収剤であるDrometrizole、2-Ethylhexyl 4-methoxycinnamate、溶剤、洗浄剤、可塑剤であるCarbitol acetateなどの溶出が11検体中各1検体ずつ認められた。全体として、PETボトルの再生繊維を含んだ水切りネット-1(No.1)、水切りネット-2(No.2)、レンジフードフィルター(No.4)、レンジフードカバー(No.5)、軍手(No.11)で多くのピークが観察された。この理由として、これらの試料は布状であったため、他の試料よりも表面積が大きかったこと、再生繊維にする際もしくは他の原料と混合する際に、新たに多くの添加剤が添加されこと、3つ目に、再生繊維に使用したPETボトルの種類が複数あったことなどが考えられる。また、サラダパック(No.6)、どんぶり(No.7)、修正テープ-2(No.9)、ボールペン(No.10)では目立ったピークは認められなかった。この理由として、これらの素材に使用されているポリスチレンが溶出の少ない素材であること、また再生部分をバージン素材で覆った作りであることが考えられる。また、サラダパック(No.6)、どんぶり(No.7)については、24~29minでコントロールの方が大きなピークが出ている。これはもともと含まれていた24~29minにピークの現れる物質が、容器の表面に吸着しやすい物質であったため溶出水中に含まれなかったことが原因と考えられる。なお、今回試験に用いた試
料の中で食品容器はサラダパック(No.6)、どんぶり(No.7)の2種のみであったので、さらに多くのリサイクル素材を用いた食品容器の溶出試験を行ってみる必要性があると考える。
ップ(No.6)、ざる(No,7)、マヨネーズカップ(No.8)、ピック(No.9)、ふきん(No.11)、まな板-1(No.12)、まな板-2(No.13)で見られたDiethyl phthalate。はし-3(No.3)、タッパ-1(No.4)、タッパ-2(No.5)、ざる(No.7)、マヨネーズカップ(No.8)、ふきん(No.11)、まな板-1(No.12)、まな板-2(No.13)で見られたDibutyl phthalate。タッパ-2(No.5)、コップ(No.6)、ふきん(No.11)、まな板-3(No.14)で見られたbnzophenoneであった。(試料の番号は資料参照)リサイクルプラスチック製品を溶出試験した結果、PETボトルの再生繊維を使用している試料からは、他の素材よりも多くのピークが観察された。特に多くの試料から共通して検出された化学物質は、水切りネット-3(No.3)、レンジフードカバー(No.5)、サラダパック(No.6)、どんぶり(No.7)、軍手(No.11)で見られたButylated Hydroxytoluene(BHT)。また、水切りネット-2(No.2)、レンジフードフィルター(No.4)、レンジフードカバー(No.5)、ボールペン(No.10)で見られたDibutyl phthalate。水切りネット-3(No.3)、レンジフードフィルター(No.4)、修正テープ1(No.8)で見られたDiisobutyl Phthalateであった。市販の抗菌性食品容器等14検体について溶出試験を行った。溶出したと思われる有機化合物のうち、プラスチック等の添加剤と考えられるのは安定剤、酸化・老化防止剤として使用されているButylated Hydroxytoluene(BHT)(14検体中9検体から検出)は、発ガン性が指摘されている物質である。合成樹脂、可塑剤として添加されているDiethyl phthalate(14検体中9検体から検出)は、内分泌攪乱作用が疑われている。溶剤、接着剤、潤滑剤、可塑剤であるDibutyl phthalate(14検体中8検体から検出)、紫外線吸収剤、殺虫剤であるBenzophenone(14検体中4検体から検出)も内分泌攪乱作用が疑われている。また、グラビア印刷用インキ接着剤、染料用可塑剤であるN-ethyl4-toluenesulfoneamid, N-ethyl O-toluene sulfoneamide(14検体中4検体から検出)が、はし-2(No.2)、ふきん(No.11)から溶出が認められた。はし-2(No.2)はイラストつきであり、ふきん(No.11)も白地にピンクの模様であったため、この有機化合物が2検体に含まれていた可能性は十分高いと思われる。顔料、塗料、殺虫剤、防虫剤、合成樹脂、可塑剤として用いられるDimethyl phthalate(14検体中2検体から検出)、合成原料である2,2'-Bithiophene(14検体中2検体から検出)、滑剤、離型剤であるOleamide(14検体中1検体)は、コップ(No.6)から溶出が認められたが、加工型からの離れを良くするために添加された可能性が高い。そのほかにも塗料、染料、殺虫剤、防虫剤、合成樹脂、合成中間体、可塑剤であるPhthalic nhydride、塗料原料、粘着剤、樹脂改質剤である2-Propenoic acid,octyl esterの溶出が、はし-3(No.3)から認められた。はし-3(No.3)は、ポリエステル塗装が施してあり、また絵付きであるためこれらを含んでいた可能性は高い。また、はし-3(No.3)からは、プラスチック添加剤、紫外線吸収剤、難燃剤であるChlorendic acid、可塑剤であるBis(2-butoxyethyl) phthalateの溶出が認められた。また、下記の化学物質の溶出が14検体中各1検体ずつ認められた。①有機合成原料の4-Methylbenzylalcohol。②塗料用樹脂改質剤、塩化ビニル安定剤、③酸化防止剤であるp-tert-butylbenzoic acid。④可塑剤、難燃剤であるTributyl phosohate。⑤可塑剤、溶剤であるTributylacethylcitrate⑥溶剤、洗浄剤であるButyl CarbitolAcetate。⑦界面活性剤、合成中間体であるLauricacid。⑧塗料、溶剤、洗浄剤、農薬全般、合成中間体であるIsophorone。⑨合成中間対であるHexanoic acid,2-ethyl-。⑩農薬、香料であるVanillin。⑪香料、農薬全般に使われ殺菌作用のあるEugenol。⑫可塑剤である1,2-Benzenedicarboxylic acid,diheptyl ester。また、精油成分で抗菌作用を持つα-Terpineol、合成樹脂、可塑剤であるNonanoic acidの溶出がふきん(No.11)から認められた。α-Terpineolは、木などから抽出される精油成分であるが、ふきん(No.11)の抗菌剤として使われている可能性がある。また、木
製品であるはし-1(No.1)、はし-3(No.3)、まな板-3(No.14)からはThujone、4-Terpinenol、Cedrene-V6、α-Cedrene、Cedrene、Thujopsene、)-Cuparene、Cubenol、α-Terpineol、(R)-(-)-terpinen-4-olなどの多くの精油成分の溶出が認められた。このうち、α-Cedrene、Cedrene、Thujopsene、Cubenol、α-Terpineol、(R)-(-)-terpinen-4-olには抗菌作用が認められている。この中で、Thujoneにはエストロゲン作用が、また(+)-Cupareneには肌を刺激するという報告もある。なお、本研究ではスクリーニングが主目的であるため、各物質の定量までには至らなかった。今後の課題として、毒性が高く食品や化粧品の酸化防止剤にも使われているButylated Hydroxytoluene(BHT)や、可塑剤として広く使われているフタル酸エステル類などに注目して定量試験を行う必要がある。また、本試験で、はっきりとしたピークで抗菌剤が検出されなかった素材がほとんどだった。この理由として金属無機系抗菌剤(例えば銀イオンなど)が使われていた可能性が高い。実際、はし-1(No.1)、はし-3(No.3)、ざる(No.7)、で使用されている抗菌剤はAg(銀)を利用した無機系抗菌剤であった。 次に、市販のリサイクルプラスチック等11検体について溶出試験を行った。溶出したと思われる有機化合物のうち、プラスチック等の添加剤と考えられるのは次の物質である。 安定剤、酸化・老化防止剤であるButylated Hydroxytoluene(BHT)(11検体中5検体)は、発ガン性が指摘されている物質である。溶剤、洗浄剤、接着剤、潤滑剤、殺虫剤、可塑剤であるDibutyl phthalate(11検体中4検体)は、内分泌攪乱作用が疑われている。可塑剤であるDiisobutyl Phthalate(11検体中3検体)は、内分泌攪乱作用が疑われている。また、グラビア印刷用インキ接着剤、染料用可塑剤であるN-ethyl4-toluenesulfoneamide、N-ethylO-toluenesulfoneamide(11検体中3検体)。合成樹脂、可塑剤であるDiethyl phthalate(11検体中2検体)、これらは内分泌攪乱作用が疑われている。合成中間体であるHexanoic acid,2-ethyl-(11検体中2検体)。他にも可塑剤であるDiisononyl Phthalate(11検体中1検体)、顔料、塗料、殺虫剤、防虫剤、合成樹脂、可塑剤、染料混和剤であるDimethyl phthalate(11検体中1検体)、溶剤、界面活性剤、合成樹脂、可塑剤、架橋剤であるDiallyl Phthalate(11検体中1検体)など多くのフタル酸エステル類の溶出が認められた。また、ポリカーボネートの原料であるDiphenyl carbonate、界面活性剤原料、有機合成原料であるDodecane,1-chloro、合成中間体であるTriethylene glycol monobutyl ether、滑剤、離型剤であるOleamide、紫外線吸収剤、殺虫剤であるBenzophenone、界面活性剤、可塑剤であるBis(2-ethylhexyl)maleate、紫外線吸収剤であるDrometrizole、2-Ethylhexyl 4-methoxycinnamate、溶剤、洗浄剤、可塑剤であるCarbitol acetateなどの溶出が11検体中各1検体ずつ認められた。全体として、PETボトルの再生繊維を含んだ水切りネット-1(No.1)、水切りネット-2(No.2)、レンジフードフィルター(No.4)、レンジフードカバー(No.5)、軍手(No.11)で多くのピークが観察された。この理由として、これらの試料は布状であったため、他の試料よりも表面積が大きかったこと、再生繊維にする際もしくは他の原料と混合する際に、新たに多くの添加剤が添加されこと、3つ目に、再生繊維に使用したPETボトルの種類が複数あったことなどが考えられる。また、サラダパック(No.6)、どんぶり(No.7)、修正テープ-2(No.9)、ボールペン(No.10)では目立ったピークは認められなかった。この理由として、これらの素材に使用されているポリスチレンが溶出の少ない素材であること、また再生部分をバージン素材で覆った作りであることが考えられる。また、サラダパック(No.6)、どんぶり(No.7)については、24~29minでコントロールの方が大きなピークが出ている。これはもともと含まれていた24~29minにピークの現れる物質が、容器の表面に吸着しやすい物質であったため溶出水中に含まれなかったことが原因と考えられる。なお、今回試験に用いた試
料の中で食品容器はサラダパック(No.6)、どんぶり(No.7)の2種のみであったので、さらに多くのリサイクル素材を用いた食品容器の溶出試験を行ってみる必要性があると考える。
結論
市販の抗菌性商品12検体(箸3種類、タッパー2種類、その他7種類)、リサイクル商品9検体(水切り袋3種類、どんぶり、サラダパック、文具など6種類)の、合計21検体を用いて熱湯による溶出試験を行った。その結果、溶出量は少ないものの比較的多くの種類の化学物質が溶出することが確認された。ほとんどの検体で、環境ホルモンであるフタル酸エステル類の溶出が認められた。その他に、検出頻度が高かった化学物質は、ジエチルフタレート(可塑剤・動物実験では催奇性を示す)、ジブチルフタレート(殺虫剤・防虫剤・可塑剤・皮膚、目、粘膜を刺激)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)(酸化防止剤・安定剤・皮ふを刺激・動物実験で発ガン性、発新生物性)であった。また、抗菌性商品のはし2種類とまな板の木製品からは、Cubenolの他にも抗菌・防虫作用を持つ精油成分である、Thujone(ツヨン)、Camphor(しょうのう)、4-Terpinenol、Cedrene(セドレン)、Thujopsene(ツジョプセン)、opaene(コパエン)、Eugenol(オイゲノール)等の溶出が認められた。また、殺虫剤・防虫剤・可塑剤・紫外線吸収剤として用いられる、ベンゾフェノンの溶出が、1種類のタッパー、ふきん、まな板で認められた。一方、測定した試料から、目立った金属類の溶出は検出されなかった。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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