畜水産食品中の化学物質残留防止対策に関する研究

文献情報

文献番号
200200978A
報告書区分
総括
研究課題名
畜水産食品中の化学物質残留防止対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
三森 国敏(東京農工大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松田りえ子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗菌剤のフルメキンや昆虫成長調節剤のジサイクラニルはマウスの肝臓に対して発がん性を示すことが報告されている。FLは、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)において、肝細胞の壊死・再生がみられることから、その発がんは非遺伝毒性メカニズムに起因するものとして許容一日摂取量(ADI)を設定している。しかし、最近の報告では、本物質にイニシエーション作用を示唆する成績が得られていることから、その発がんメカニズムについてはさらに解明すべき点が残されている。初年度の研究でフルメキンがコメットアッセイにおいて125mg/kg以上の単回強制経口投与により、胃、結腸、膀胱や肝が陽性を示したことから、今年度は、新生児マウスおよび肝2/3部分切除マウスにFLを同様に投与し、コメットアッセイにより、フルメキンのDNA損傷性の閾値を検索した。また、FLのイニシエーション作用をさらに確認するため、ラットの肝イニシエーションアッセイを行った。その他、フルメキンの肝発癌プロモーションメカニズムをさらに解析するため、マイクロアレイ解析で発現上昇がみられた遺伝子のmRNAについてリアルタイムRT-PCRを用いて解析を行った。ジサイクラニルによる肝発がんには、肝細胞の壊死と再生の反復による非遺伝毒性メカニズムが関与するものとJECFAは評価し、ADIを設定しているが、そのようなメカニズムを支持する明確な実験は今までになされていない。今年度は、マウスのコメットアッセイとラットの肝イニシエーションアッセイを行い、遺伝子障害性ないしイニシエーション活性の有無を検索した。
平成14年12月に残留基準が設定された、抗生物質のゲンタマイシン、スペクチノマイシン及びネオマイシン、合成抗菌剤のサラフロキサシン、ダノフロキサシン、また新たに答申が得られた、抗生物質のストレプトマイシンについて残留検査法を検討した。
研究方法
FLのDNA傷害性の閾値を検索するため、幼若マウスおよび部分肝切除成熟マウスに62.5、31.3ないし0 mg/kgのFLを単回経口投与し、投与後3ないし24時間に屠殺して、それぞれ摘出した肝臓および再生肝を用いてコメットアッセイを実施した。また、FLのイニシエーション作用を確認するため、2/3肝部分切除ラットに1000 、500 ないし0 mg/kgのFLをそれぞれ単回経口投与し、肝における組織学的検討および前癌病変であるGST-P陽性細胞の数と面積を基にイニシエーション作用を評価した。さらに、FLの肝発癌プロモーションメカニズムを解析するため、4000 ppmのFLをマウスに4週間混餌投与し、マイクロアレイ解析で発現上昇がみられたERK-5、PKCε、Cdk 5、FGF7、Wnt receptor などのmRNAについてはリアルタイムRT-PCRを用いて発現量を解析した。マウスに200、100ないし0 mg/kgのジサイクラニルを経口投与し、投与3及び24時間後に屠殺して、摘出した胃、結腸、肝臓、腎臓、膀胱、肺、脳、骨髄についてコメットアッセイを実施した。さらに2/3肝部分切除ラットに75 ないし0 mg/kgのジサイクラニルを経口投与し、摘出した肝についてイニシエーション作用を検討した。
ゲンタマイシン、スペクチノマイシンおよびネオマイシンは1.0%メタリン酸で抽出し、オクタデシル化シリカゲルにて精製後、高速液体クロマトグラフィー/質量分析装置による検査法を検討した。また、サラフロキサシンおよびダノフロキサシンは、0.3%メタリン酸-アセトニトリル(6:4)混液で抽出し、ジビニルベンゼン-N-ビニルピロリドン共重合体にて精製後、高速液体クロマトグラフィー/紫外吸光度検出による検査法を検討した。
結果と考察
FLのコメットアッセイでは、62.5ないし31.3mg/kgの単回投与では陽性結果は得られなかった。肝イニシエーションアッセイではFLの単回経口投与では、GST-P陽性巣面積および個数が対照群に比し増加傾向を示したが、統計学的に有意な差は認められなかった。リアルタイムRT-PCRを用いた肝発癌プロモーションメカニズムの解析に関しては現在解析中である。FLは、マウスに対してはDNA損傷性に閾値があり、62.5 mg/kg以下の投与では遺伝子を傷害しないことが明確となった。しかし、FLの肝イニシエーション作用の原因として、FLのトポイソメラーゼⅡ抑制が二次的にDNAの二本鎖を切断することがあげられるが、その両者の関連性を明確にした研究はなされていない。よって、両者の関連性をさらに明確にするための研究が今後必要である。ジサイクラニルの200ないし100 mg/kgの単回経口投与によるマウスにおけるコメットアッセイ、ならびに75 mg/kgの単回経口投与によるラットにおける肝イニシエーションアッセイはいずれも陰性であったことから、ジサイクラニルには遺伝毒性ないし肝イニシエーション作用はないことが明らかとなった。
ゲンタマイシン、スペクチノマイシンおよびネオマイシンの、牛の筋肉、肝臓に対する添加回収試験の結果は、筋肉に0.1~0.5ppm添加の時、回収率64~80%、肝臓に0.5~2.0ppm添加の時、回収率69~83%、相対標準偏差は4.7~8.3%(n=3)であった。その定量下限は0.02ppmであった。サラフロキサシンおよびダノフロキサシンの、鶏の筋肉、肝臓に対する添加回収試験の結果は、筋肉に0.01~0.2ppm添加の時、回収率90~95%、肝臓に0.08~0.4ppm添加の時、回収率93~99%、相対標準偏差は3.3~3.9%(n=3)であった。その定量下限は0.005ppmであった。今回確立した方法の精度は、現在の各種検査機関において容易に実施、導入が可能であり、残留検査法として有用であると考えられる。
結論
FL の単回投与による新生児マウスおよび肝2/3 部分切除成熟マウスにおけるコメットアッセイおよびFL単回経口投与によるラットを用いた肝イニシエーションアッセイによりFLのDNA損傷性および肝イニシエーション活性を検討した結果、FLはラットの肝に対してはイニシエーション活性を示さず、マウスに対してはFLのDNA損傷性に閾値があり、62.5 mg/kg以下の投与では遺伝子を傷害しないことが明確となった。ジサイクラニルについては、マウスのコメットアッセイとラットの肝イニシエーションアッセイを行ったが、本物質に遺伝子傷害性はないことが確認された。ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシン、ネオマイシン、サラフロキサシンおよびダノフロキサシンの残留検査法を確立した。

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