食品製造の高度衛生管理に関する研究

文献情報

文献番号
200200975A
報告書区分
総括
研究課題名
食品製造の高度衛生管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
品川 邦汎(岩手大学農学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高鳥浩介(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 高谷 幸(社団法人 日本乳業協会)
  • 沓木力晴(全国食肉衛生検査協議会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
47,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品の安全性確保は、その食品について十分なリスクアセスメントを行い、その成果を基にして製造段階でのリスクコントロールに応用することが基本である。食品製造における危害としては、生物学的、化学的および物理的危害が知られているが、この中で生物学的(微生物学的)危害の発生頻度は高く、コントロール手段を確立することが重要である。
本研究は、近年食中毒発生頻度が増加している食品、あるいは危害の発生した場合、社会的影響が極めて高い食品を対象に、それぞれの食品にしてその製造工程における危害の低減化のためのコントロール手法を確立することを目的として進めている。その中で、特に急務とされている対象食品および対象病原微生物(食中毒菌)として、以下に示す4種類の食品を対象に研究を行った。
1. 食鳥肉のカンピロバクターの定量的危害評価と処理工程でのコントロール方法
2. 脱脂粉乳製造における食中毒菌(黄色ブドウ球菌)およびブドウ球菌エンテロトキシン、セレウス菌嘔吐毒の危害評価とその製造管理法の確立
3. 液卵(未殺菌液卵)製造におけるサルモネラ(特にS. Enteritidis)の危害評価と製造管理方法
4. と畜場での生食用牛肝臓処理における食中毒菌(カンピロバクター)の評価とその処理方法の検討。
研究方法
平成13年度の本研究事業では、これらの食品と病原微生物を対象に危険度評価・コントロールを行うため、それぞれについての文献を収集し、整理を行った。平成14年度は引き続いてこのデータを広く活用できるようにデータベース化してCD-ROMの作成を行った。また、文献学的調査で明らかになった問題点に対し、食品製造の工程において定量的危害評価を行い、さらに危害の発生予防対策として病原菌(食中毒菌)コントロール手法について検討した。
結果と考察
1. 食鳥肉のカンピロバクターの定量的危害評価と処理工程でのコントロール方法
1) 食鳥肉のカンピロバクター汚染、増殖性、生残性および制御法等に関する文献収集、整理を行い、食鳥生産段階から販売店までの食鳥肉の製造段階ごとに区別して、それぞれデータを集計してCD-ROMを作成し、広く活用できるようにした。
2-1) 国産および輸入鶏肉におけるカンピロバクター (C. jejuni/coli)の汚染状況の比較
輸入鶏肉のカンピロバクター汚染を定量的に解析し、国産品との比較を行った。小売店(計4店舗)において国産鶏肉50検体および輸入鶏肉100検体を購入し、鶏肉中のカンピロバクターの汚染菌数を調査した。輸入鶏肉は国産鶏肉に比べ汚染率も低く、汚染菌数も少ない傾向が認められた。さらに、鶏から最も多く分離されたC. jejuni血清型のPenner B群の菌株について、患者由来の菌株をPFGE法により型別を行い、本腸炎(食中毒)を起こす菌の遺伝子レベルでの検討も進めている。
2-2) 鶏肉におけるカンピロバクターの増殖性および生残性に影響をおよぼす保存温度と汚染細菌叢との関連性
食鳥処理場でカット、包装された各鶏肉の細菌汚染状況と、カンピロバクターの増殖性・生残性について調べた。低温細菌数は0℃の保存であっても、12日後では保存開始時の102倍近くまで増殖した。また、分離されたカンピロバクターは、C. jejuniが優勢であった。カンピロバクターは増殖を示さず、保存日数の経過とともに菌数は低下し、分離率も減少した。しかし、鶏肉の消費期限内では本菌は生存しており、食鳥処理場での衛生対策と販売店における汚染拡大防止が必要であることが明かとなった。
2-3) ブロイラーの処理工程におけるカンピロバクター汚染動態
食鳥処理工程におけると体のカンピロバクター汚染の動態を調べた。同一個体の脱羽後、中抜き後、冷却後のと体、包装前のムネ肉、モモ肉を対象に定量的にカンピロバクター汚染を調べたところ、中抜き工程でと体の菌数は明らかに高くなり、それ以降の工程では汚染菌数は減少が見られるが、製品まで残存・移行することが明らかになった。
2-4) 2剤混合タイプの二酸化塩素による鶏肉中のC. jejuni 殺菌効果
食鳥処理場で、と体冷却に用いるチラー水に次亜塩素酸ナトリウムを添加しているが、その殺菌効果は十分ではない。今回,2つの薬剤を混合して二酸化塩素を生成するタイプの薬剤の殺菌効果を検討した。次亜塩素酸ナトリウム水溶液と二酸化塩素水溶液の除菌効果は,対照の蒸留水浸漬と同程度であったが,2剤混合型の二酸化塩素水溶液では対照に比べ1/10程度まで菌数が減少することが認められた。
脱脂粉乳製造における食中毒菌(黄色ブドウ球菌)およびブドウ球菌エンテロトキシン、セレウス菌嘔吐毒の危害評価とその製造管理法の確立
1) 脱脂粉乳製造における農場での生乳から集乳センター(コールドセンター)、プラント(乳処理場)および脱脂粉乳の食品への応用等、における黄色ブドウ球菌、セレウス菌の汚染、生残性、増殖性およびブドウ球菌エンテロトキシン、セレウス菌嘔吐毒産生性に関する文献を収集、整理し、これらのデータをCD-ROMに整理して広く活用できるようにした。
濃縮乳における食中毒菌および毒素の危害分析とコントロール手法の確立
脱脂粉乳製造工程の濃縮乳について、実験的に微生物危害を解析し、HACCP構築における管理項目および管理基準設定のための基礎データを収集した。ブドウ球菌コアグラーゼ型による増殖特性と毒素産生性を解析し、さらにこれらのブドウ球菌を濃縮乳(固形濃度:30, 40, 45, 50%)に接種して、種々の条件下(温度、時間、および溶存酸素量)における増殖特性および毒素産生性に対する影響の解析中を行っている。
生乳中での黄色ブドウ球菌動態とエンテロトキシン産生性
生乳中での黄色ブドウ球菌の増殖性およびエンテロトキシン産生について、平成13年度より検討しているが、今回は10°C~20°Cの温度帯について検討した。その結果、他の温度帯と同様に生乳では黄色ブドウ球菌の増殖抑制の傾向が認められた。特に、10°Cでは牛乳(製品)中でブドウ球菌は漸増したが、生乳中では増殖を示さなかった。さらに、生乳より黄色ブドウ球菌を分離し、その生育温度およびエンテロトキシン産生性を検討した。分離菌34株は全て10°C以下では生育せず、48°Cでは17株が生育した。ほとんどの菌株はエンテロトキシン(SEA~SED)非産生であったが、1株がSEA、もう1株がSEB産生性を示した。
製造工程中の回収乳の汚染黄色ブドウ球菌の挙動
黄色ブドウ球菌が回収乳を汚染したときの増殖およびエンテロトキシン産生性について基礎的データを収集するため、実験室内でモデル実験を行っている。種々の乳固形分(15~35%)の乳にブドウ球菌を接種し、15, 25, 35°Cにおける増殖性とエンテロトキシン産生性を検討する予定である。
3. 液卵(未殺菌液卵)製造におけるサルモネラ(特にS. Enteritidis)の危害評価と製造管理方法
1) 液卵における食中毒菌、特にサルモネラ(S. Enteritidis)に関する文献収集、整理を行い、これらの情報をまとめたCD-ROMを作成して広く活用できるようにした。さらに、以下の研究を行った。
中小規模の液卵工場におけるHACCPマニュアル作成
液卵工場を見学し、情報収集を行って中小規模の液卵工場での問題点を浮き彫りにしてその回避方法を提案した(ラインのクロス、ストレーナーの交換、ひび割れ卵、B級破卵等)。さらに液卵工場のデータを元にマニュアル作成に必要な科学的データを列挙・整理した。次年度においては、今年度の調査で不足する部分のデータを収集・解析する予定である。
液卵の現状把握とその対策
鶏卵を原因としたサルモネラ食中毒の近年の事例(1997年以降の2981事例、厚生労働省より入手)について、特に液卵を原因とする事例について衛生管理のための資料作成を目的として解析した。その結果、液卵の中では未殺菌液卵よるものが多く見られることが判明した。さらに液卵に関してその流通量や細菌数等を明らかにするため、液卵公社、各自治体が保有する液卵微生物検査データを収集、解析している。
サルモネラ食中毒防止のための基礎的研究
食品および患者より分離されたS. Enteritidisについて、1980年代前半と1989年以降に区別して、それぞれの菌株の特性を明らかにするために、phage type、侵入遺伝子等の解析を行っている。さらに、卵に移行するS. Enteritdisについても生化学性状を解析し、侵入性等の病原性についても検討している。また、液卵工場のHACCPを行う上で液卵の原料である殻付卵がS. Enteritidis非汚染であることが重要であることから、産卵鶏農場のGAP(適正製造基準)導入に向けての取り組みにも着手している。さらに、液卵工場内や液卵を用いた食品加工工場での作業を考慮した条件を元にモデルを作成し、加熱や乾燥のS. Enteritidisへの影響、生残性を検討している。
4. と畜場での生食用牛肝臓摘出における食中毒菌(カンピロバクター、サルモネラ)の評価とその処理方法
平成14年度は、国内9箇所のと畜場(青森県、新潟県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、大阪市、鳥取県、宮崎県)で解体されたウシの胆のう内胆汁、胆管内胆汁様液、肝臓(尾状葉、方形葉、左様)について、カンピロバクターの定性的および定量的(MPN法および平板法の併用による)汚染実態調査を行った。その結果、胆のう内胆汁は一定の頻度でカンピロバクターにより汚染されており、その菌数も102~108レベルであることが明らかになった。汚染頻度に地域差は認められず、牛の品種(乳牛、肉牛、F1)による差も認められなかった。また、これら胆汁中にカンピロバクター汚染が見られた個体の中には、肝臓もカンピロバクターにより汚染されているものが存在した。肝臓の汚染は、表面のみならず肝臓実質内にも見られ、腸管内容物中のカンピロバクターが上行性に胆管、胆のう、肝臓を汚染している可能性が推測された。肝臓の部位別(尾状葉、方形葉、左様)の汚染頻度と汚染菌数に差は見られなかった。さらに、カンピロバクター陽性となった肝臓には、と畜検査により廃棄されたもののみならず、健康と診断されたものも高率に含まれていた。安全な生食用レバーを供給する上で、牛肝臓中のカンピロバクターの病原性とヒト疾病の関与を明らかにする必要性が示唆された。さらに、このようなカンピロバクターによる肝臓汚染をいかに排除し、また二次的な汚染を防ぐ方策を検討する必要があることから、牛解体工程のうち、肝臓を摘出するラインの拭き取り検査による汚染実態調査と、効果的な消毒剤の使用法について検討を始めている。
結論
本研究では、近年食中毒発生頻度が増加している食品、あるいは危害の発生した場合、社会的影響が極めて高い食品と病原微生物を対象に危険度評価・コントロールを行うため、それぞれについての文献を収集・整理し、このデータを広く活用できるようにデータベース化してCD-ROMの作成を行った。さらに、各食品の製造工程における各病原微生物の汚染動態とその制御法を検討した。これらの成果は、食品製造の高度安全管理を達成するうえで、有用な知見になると考えられる。

公開日・更新日

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