食品中の微生物のリスク評価に関する研究

文献情報

文献番号
200200972A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の微生物のリスク評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山本 茂貴(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 春日文子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 武田直和(国立感染症研究所)
  • 岸本寿男(国立感染症研究所)
  • 熊谷進(東京大学大学院)
  • 林志直(東京都健康安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
37,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、微生物を原因とする食中毒など食品に関連した国際的問題が顕在化しており、その現状把握把握並びに防除対策の確立が早急に必要な状況となっている。また、食品流通の国際化が推進されるなか輸出入国間での食品衛生行政における規制の整合性が問題となっており、食品の微生物危害を防除するための規格基準は微生物学的リスクアナリシスをツールとして策定する必要がある。本研究では、国際的リスクアセスメント手法の有効性を検証しつつ、日本における微生物学的リスクアセスメントの手法を開発することを目的とする。
研究方法
1.タイ南部における赤貝中の腸炎ビブリオの定量調査
タイ南部のbloody clamを対象として、収穫、小売、および消費時点における腸炎ビブリオの定量データをMPN法とPCR法を組み合わせて収集した。また、環境パラメーターおよび貝の摂食データ行った。
2.腸炎ビブリオのリスクアセスメントに関する確率論モデルの作成
漁獲段階と小売段階における総腸炎ビブリオ濃度は、その分布の形から対数正規分布に従うと仮定し、分布のパラメーターはブートストラップ法により推定した。病原菌株の濃度は非常に低いので、ポアソン分布に従うと仮定し、それらの平均濃度をベイズ法により推定した。調理後の総腸炎ビブリオ濃度、病原株の濃度については、双方ともポアソン分布に従うと仮定し、それらの平均濃度をベイズ法により推定した。家庭での貝の摂食頻度及び摂食量の推定には、協力大学の学生及び職員を対象として年間の家庭での貝の摂食回数及び1回あたりの摂食個数を聞き取り調査し、それをもとに一人当たりの年間貝の摂食頻度及び一人1回当たりの摂食量の分布をブートストラップ法により推定した。その際、総腸炎ビブリオ数と毒素産生株(tdh遺伝子陽性及びtrh遺伝子陽性菌株)とを分けて解析した。
3.Exposure Assessmentのための基礎知見としての予測微生物学的研究-Vibrio parahaemolyticusの熱抵抗性
保管菌株Vibrio parahaemolyticusB-52株を、食塩ポリミキシン培地に2回培養 (37℃ overnight)。食品材料を約5gずつ入れた袋に、菌液を食塩ポリミキシン培地で、10培に希釈し、各袋に0.25mlずつ加える。袋をwater bath(48.0℃)に沈め、この時間を0時とし、後所定の時間ごとに2サンプルずつ取り出し冷した。その後、食材の入った袋に食塩ポリミキシン培地を50ml入れ、ストマッキング。そこから液を取り出し、スパイラルプレターを使って、1つのサンプルにつき2枚ずつTCBS寒天培地に塗布した。37℃ overnight培養後、菌数を測定した。
4.低食塩濃度もしくは低浸透圧下での腸炎ビブリオの挙動に関する研究
低食塩濃度もしくは低浸透圧下での腸炎ビブリオの増殖について検討した。
5.Exposure Assessmentのための基礎知見としての、調理過程におけるSalmonella Enteritidis(S.E.)の二次汚染のモデル化に関する研究
調理過程における調理器具を介した二次汚染を定量的に解析するための実験を行い、ボールからスポンジ、スポンジからマグカップさらにスープへの菌の移行を追跡した。S.E.を鶏卵に対し100000cfu/mlになるように調節したものを,滅菌ストマッカー袋に割卵した鶏卵に添加し,1分間ストマッキングをして均一にしたものを試供菌液とした。予め設定した手法で洗浄過程をシミュレーションし、ストマッキングあるいは拭き取り法により菌を回収した。各方法の回収率を別途測定し、測定菌数を補正した。
6.SRSVのリスクプロファイル作成
食品と微生物の関係を記述し、どのようなマネージメントオプションついてリスクアセスメントを行うかを記載した。
7.食品、海水、糞便および吐物に含まれるノロウイルスの定量
食品、海水、糞便および吐物に含まれるノロウイルスの定量をリアルタイムPCR法を用いて行った。また、ウイルスのGenotype(遺伝子型)についても検討した。
8.特定地域におけるSRSV食中毒及び下痢症患者の発生動向調査
感染症サーベイランス事業における感染性胃腸炎患者のうち、SRSVのよる胃腸炎がどの程度発生するのかを推計する基礎データを得る目的で調査を行った。
9.鶏卵からのCoxiella burnetii検出法の検討および汚染実態に関する研究
Real Time PCRを基盤とした検出法を開発することを目的とした。
結果と考察
1.タイ南部のbloody clamを対象として、収穫、小売、および消費時点における腸炎ビブリオの定量データを収集した。また環境パラメーターおよび貝の摂食データを収集した。
2.実験室内で貝をボイルした条件では、腸炎ビブリオは十分死滅し、患者発生数は非常に低く抑えられることが示された。
3.ポリミキシン培地のみの場合、10~15分以降に菌は観測されなくなったが、食材との共存により、熱抵抗曲線は菌数が初め急速に減少する前半と、その後緩やかに減少する後半の二相に分かれ、48℃60分の加熱でもlog2.14~3.69の菌数が残る場合があった。食材によって菌が温存されると推測でき、加熱処理後の食品を適切に保存する必要があることがわかった。
4.低張食塩水中での急激な死滅は、低食塩濃度ではなく低浸透圧によって起こること、食塩が存在しなくても浸透圧が海水程度ならば、1時間は生存可能であることが判明した。また、定常期の菌は対数増殖期の菌よりも低浸透圧に対して抵抗性が強いことが認められた。さらに、低浸透圧ストレスによって低浸透圧にたいする耐性を獲得すること、低浸透圧ストレスによって酸耐性も獲得するが、逆は成り立たないことなどが見い出された。以上、真水による洗浄方法の基礎データおよび汽水域における生存機構に関わる知見が得られた。
5.スポンジからスープ代替としての生理食塩水へのS.E.移行率は、洗剤無しのパターンが0.0020%,洗剤有りのパターンが0.0003%であり,マグカップへのS.E.移行率よりも更に10%程低い数値であった。調理過程における二次汚染はどの病原菌についてもデータが不足している部分であり、定量的な解析のためにデータの蓄積が必要とされている。今回のシミュレーション実験により、調理器具の一つとしてのスポンジが二次汚染経路でのSalmonella Enteritidisの摂取に関与する程度を推定することができた。
6.SRSVのリスクプロファイルを作成した。
7.検出されたウイルス数は、Genogroup 2 (G2)ウイルスがGenogroup 1(G1)ウイルスより3倍多く、検出されたウイルスのGenotype(遺伝子型)はG1で7種、G2で11種に達した。ウイルス量をリアルタイムPCRで定量したところ、原因食品として特定された大アサリの中腸腺から、100~1000コピー数の遺伝子が検出された。急性期の患者糞便1gには1億以上のコピー数を持つものが多く存在した。特に、乳幼児では排出されるウイルス量が多い傾向が見られた。吐物1gからも、1000~100万コピー数の遺伝子が検出され、感染源となりうることが示唆された。便材料と同様、用心深く除去することが感染防止の上から重要である。
8.本調査で38検体の糞便中26検体がSRSVであった。感染性胃腸炎患者147名中貝類との関係があるもの13名(8.8%)、糞便でSRSV陽性となった患者のうちカキとの関連があるものは5名(5/26、19.2%)であり、80%がカキ等の食品による感染ではなく、人及び環境からの感染と考えられた。
9.今回設計したIS遺伝子に対するプライマーおよびプローブIS1RTが最も感度が高く,0.01~0.1個の菌が検出可能であった.IS2RTに関してもほぼ同等の感度が得られた.また,外膜蛋白質に対するプライマーおよびプローブomp1RTおよびomp2RTは1~0.1個の菌が検出可能で,同じ遺伝子を標的としたnested PCRより感度が高かった.
結論
1.タイでのbloody clamによる腸炎ビブリオの定量的リスクアセスメントにより、充分な加熱により菌が死滅し患者数が減少することが明らかとなった。
2.サルモネラ菌の定量リスクアセスメントに必要なデータが収集された。
3.腸炎ビブリオの定量リスクアセスメントに必要なデータが収集された。
4.Q熱リケッチアの定量PCR法が確立された。

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