食品中の微生物汚染状況の把握と安全性の評価に関する研究

文献情報

文献番号
200200971A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の微生物汚染状況の把握と安全性の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
西尾 治(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤健一郎(国立感染症研究所)
  • 牛島廣治(東京大学)
  • 鈴木 宏(新潟大学)
  • 藤本嗣人(兵庫県立健康環境科学研究センター)
  • 大瀬戸光明(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 杉枝正明(静岡県環境衛生科学研究所)
  • 古屋由美子(神奈川県衛生研究所)
  • 春木孝祐(大阪市立環境科学研究所)
  • 西 香南子(三重県保健環境研究所)
  • 新川奈緒美(鹿児島県環境保健センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
14,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品の微生物学的汚染状況と安全性評価における研究として、国産および輸入生鮮魚介類における小型球形ウイルス(ノロウイルス、ノーウオ―クウイルス)、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス汚染状況、ならびに野菜における大腸菌汚染状況を明らかにする。ウイルス性食中毒原因として最も問題となっているカキにおけるウイルス学的安全性の確保を目的とした。
研究方法
昨年度に引き続き、食品からのウイルスおよび大腸菌検出精度を高めるための検査法の改良・開発を行った。本年度は市販生食用カキ517ロット、加熱用カキ28ロット、自生カキ9ロット、ヒオウギ貝4ロットおよび主に東南アジアからの生鮮輸入魚介類183件からノロウイルスおよびA型肝炎ウイルスの検出を定量的に行った。さらにE型肝炎ウイルスの検出および組織培養によるポリオを含むエンテロウイルスの分離を行った。
食中毒あるいは有症苦情カキについて、ノロウイルスの検出を定量的に行った。
本年度は環境中のノロウイルスの汚染実態調査では河川水2地点、養殖海域30地点、プランクトン1地点で、主に冬季に調査・研究を行った。
食品媒介集団発生79事例について、患者ふん便636件、従事者ふん便428件、吐物37件、食品165件からノロウイルスの検出を行った。115件について遺伝子配列を決定した。
患者のふん便125件、吐物5件および従事者ふん便35件についてウイルスの定量を行った。
下痢原性大腸菌の食品汚染については野菜漬物43件、生鮮野菜31件について、遺伝子解析にはese陽性健康者検体59株、患者検体197株について検討した。
結果と考察
ノロウイルスについて昨年度は検出できなかったアルファトロン型も検出できるプライマーとプローブを設定し、検査精度を高めた。
ノロウイルスのN1207株に対する抗体を作製し、患者ふん便から30分以内に検出できるイムノクロマト法を開発したところ、検出感度、特異性に優れていた。
国産生食用カキは517ロット中41ロット(8%)からノロウイルスが検出された。月別では12月から汚染が見られ、1月が15%、2月は11%、3月は8%であった。1月~3月に4海域の5地点で海水がノロウイルス陽性となり、カキによる食中毒事例発生は生カキおよび海水におけるノロウイルス汚染との関連性が強く示唆された。カキ筏では海面から7m位まで汚染される傾向が認められ、今後カキのウイルス検査は海面近くのカキについて行うことで、汚染状況をより正確に判断できると考えられた。カキ対策の資料が得られ、昨年の結果をさらに追認した。
カキによる食中毒原因あるいは有症カキ事例では75%の事例カキ1個当たりにノロウイルスが125コピー以上認められた。このことから、市販生カキにおいて1個当り125コピー以上が存在するものについて自主規制をすることにより、カキによる食中毒事例は75%減少することが可能であると考えられた。
国産生カキに極めて定率ながらA型肝炎ウイルス汚染が認められ、今後も監視が必要である。輸入魚介類の9%がノロウイルスに、0.5%がA型肝炎ウイルスに汚染されていた。輸入魚介類を介してノロウイルス、A型肝炎ウイルスがわが国に侵入してきており、これら食品は十分に加熱して食べるように、衛生教育が必要である。
E型肝炎ウイルスは輸入魚介類および生後6ヶ月以上のブタからは検出されなかったが、今後も輸入魚介類についてノロウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルスの継続調査が必要である。輸入魚介類は野生ポリオウイルスに汚染されてなかった。
カキ関連食中毒31事例の喫食者数は699名、発病者は328名(47%)で、発生施設は殆どが飲食店・旅館であった。原因食材が非カキによる事例では、12月が12事例で最も多く、37事例の喫食者数は7,244名で発病者は2,020名(28%)であった。1事例当たりの患者数は46名と多く、発生場所は料理屋・旅館のほかに学校、福祉施設等で多く見られ、社会的にも大きな問題となっている。一般的にカキ媒介では複数の遺伝子型が検出されるのに対し、ヒトを介するものは遺伝子型が一つで、複数患者の遺伝子型を調べることにより、貝かヒトを介するものかの鑑別が可能で、食中毒の原因食品の早期に特定が行えることが明らかとなった。
食中毒事例患者のふん便1g中にノロウイルスが1億コピー以上存在したものは34%、100万から1億以下は40%で、75%以上が100万コピー以上であった。ふん便中にノロウイルスが大量に存在し、100個以下で感染発病することが知られており、ほんのわずかのふん便が食品を汚染しても大規模な食中毒事例となる危険性が大きく、実際にそのような事例も見られている。食中毒発生施設の従事者33名はふん便中に大量のウイルスを排泄しており、感染源としての可能性が推察された。
患者のふん便、吐物には大量のウイルスが存在しており、これらの適切な処理、充分な手洗い等、感染防止の衛生教育が必要である。
地理的・地図的・時間的情報システムによる食品汚染の危機管理シュミレーションによる集団胃腸炎発生の解析により、今後危機管理面での感染拡大様式が明らかになれば、流行時に対応が可能となる。
下痢原性大腸菌の汚染状況は、白菜以外の漬物及び生鮮野菜漬物では、腸管出血性大腸菌O157と他の病原大腸菌及びサルモネラは全て陰性であったが、黄色ブドウ球菌は1件 (小松菜)から検出された。
下痢症大腸菌の病原性に関連する遺伝子に変異、欠損があり、検査法の改良が必要であることを示した。
結論
国産生食用カキは8%がノロウイルスに汚染されていた。輸入魚介類を介してノロウイルス、A型肝炎ウイルスがわが国に浸入している。E型肝炎ウイルスおよび野生ポリオウイルスは検出されなかった。ウイルス性食中毒事には生カキ等の貝類によるものと、ふん便を介するものとが見られた。
カキによる食中毒原因あるいは有症カキ事例では75%の事例カキ1個当たりにノロウイルスが125コピー以上認められた。カキにおけるノロウイルス汚染は海水汚染との関連性が認められた。今後カキのウイルス学的安全性に関しては少ない量のウイルス検出法の開発ならびに、河川、海水、カキ養殖筏、海流等についてウイルス汚染を総合的に研究する必要があると考えている。

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