化学物質の内分泌かく乱性を確認する試験法の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200963A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の内分泌かく乱性を確認する試験法の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
今井 清((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 西原 力(大阪大学)
  • 松島裕子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 高木篤也(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 永井賢司((財)三菱化学安全科学研究所)
  • 吉村慎介((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 武吉正博((財)化学物質評価研究機構)
  • 山崎寛治((財)化学物質評価研究機構)
  • 小野 宏(財)食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 広瀬雅雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 長尾哲二(近畿大学)
  • 白井智之(名古屋市立大学)
  • 長村義之(東海大学)
  • 吉田 緑((財)佐々木研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
129,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱化学物質の生体影響に関する研究は、基本的なスクリーニング法の開発の部分を終了し、「少数の個体レベルスクリーニング系の確立」および「内分泌かく乱性を確認するための試験法の考案」 が重要課題となってきた。従って、本研究は、これらに対応する試験系の開発を推進することを目的とするものであり、1) 個体レベルスクリーニング系の課題として、本邦から発信したマウスを取り上げた子宮肥大試験のブリッジング試験の進行、およびHershberger試験を実用化する上での問題点の解決、包皮分離などを指標とした新たなスクリーニング系の確立、2) 確定試験として、胎生期、新生児期の高感受性時期に焦点を当てた新たな試験法の考案と経世代試験法の改良、複合効果の有無や遅発性影響の検討を主な課題とした。
研究方法
(1)〈プレスクリーニング系追加開発〉
・酵母Two-Hybrid試験の改良とバリデーション -特に複合効果の検討-
被験物質をS9Mixで前処理し、酵母Two-Hybrid試験(ER-TIF2系)でエストロジェン様活性を測定した。またER-TIF2系において17β-Estradiol共存下でエストロジェン様活性を測定することにより、アンタゴニスト活性物質を検索した。陽性物質については、ER結合性試験および培養細胞レポーター遺伝子試験により確認した。
・マイクロアレイ法の基盤技術調査 
マウス組織を分離後、全RNAを抽出し、逆転写によりcDNAを調製してビオチンラベルされたcRNAを合成した。次いで、GeneChip(MGU74Av2)を用いてハイブリダイゼーションを行い、シリコンジェネティクス社のGeneSpringを用いて遺伝子解析を行った。
(2)〈スクリーニング試験系確立研究〉
・ES細胞培養系における内分泌かく乱化学物質の影響
ES細胞をLIFを除いたES培地上で浮遊培養し、DESを最終濃度1nMで添加して、4日後の浮遊培養により形成された胚様体における遺伝子レベルの変化をAffymetrix社のGeneChip を用いて検索をした。
・子宮肥大試験およびHershberger試験における遺伝子発現変化に関する研究
‐未成熟ラットを用いたERα、ERβ、AR遺伝子発現の変化の解析‐
Ethynylestradiol(EE)0.003 mg/kg/dayをCrj:CD(SD)IGS系の幼若雌性ラットに単回強制経口投与し、経時的にCO2麻酔下で解剖して、子宮の重量を測定後,全例の子宮の全 RNAを抽出し、Real-time RT-PCR法により性ステロイドホルモンレセプター遺伝子(ERα,PR,AR)およびエストロジェン応答遺伝子(complement C3)の相対的発現量を比較した。
・国内外の子宮肥大試験に関するデータ整理とその問題点の把握及び解決法の検討 
国内外の子宮肥大試験に関するデータ整理とその問題点の把握および解決法の検討では、ラットに関してはOECDプロトコールに従って実施されたバリデーション試験データ、マウスに関してはOECD バリデーション試験以降に実施された試験データを収集し、評価した。
・卵巣摘出マウスを用いた子宮肥大試験における遺伝子発現変化に関する研究
7週齢の雌C57BL/ 6Nマウス(日本チャールスリバー)に卵巣摘出手術を行い、術後2週間目にE2(溶媒corn oil)を0.1、1.0および10μg/kg単回皮下投与した。投与後、経時的に屠殺し、速やかに子宮を取り出し重量を測定し、全RNAを分離・精製してビオチンラベルされたcRNAを合成した。次いで、GeneChip(MGU74Av2)を用いてハイブリダイゼーションを行い、シリコンジェネティクス社のGeneSpringを用いて遺伝子解析をした。
・内分泌かく乱化学物質の胎生期暴露による包皮分離試験に関する研究
コーン油に溶解したフルタミド(FUL)、DDE、DESを妊娠14~17日まで、あるいは妊娠18~21日まで4日間投与した。FLUおよびDDEは強制経口投与し、DESは皮下投与した。生後6日に出生児のAGDを測定し、各腹4匹の雄出生児について生後35~55日まで包皮分離時期を観察し、生後56日に麻酔下放血屠殺して、精巣、および副生殖器の重量を測定した後、肝臓、腎臓、前立腺、精嚢、陰茎および包皮を病理組織学的に観察した。
・内分泌かく乱化学物質の新生児期暴露による包皮分離試験に関する研究
コーン油に溶解したフルタミド(FUL)、DDE、DESを雄ラット新生児に生後1日あるいは7~21日まで5日間投与した。また、28日齢で購入した雄ラットに生後35~39日(あるいは34日~38日)の5日間同様の処置を行った。生後35~55日までの包皮分離時期を観察した後、生後56日あるいは57日に麻酔下で放血屠殺して解剖し、精巣および副生殖器の重量を測定して、肝臓、腎臓、前立腺、精嚢、陰茎および包皮を病理組織学的に観察した。
・28日間試験の改良 -α2uグロブリンの評価の利用について‐
DESを0.01?1 mg/kgの用量で7日間反復経口投与し、肝臓における遺伝子発現をDNA microarrayで検討すると共にELISA法にて血清AUGの変動を同時に調べた。
・国内外のHershberger試験に関するデータ整理とその問題点の把握及び解決法の検討
日本の7試験機関で実施したOECDプロトコールによる第2期Hershberger assayの結果を基に、現状でのHershberger assayの問題点を抽出した。
(3)〈OECD対応等試験開発部門〉
・臓器特異的ハイスループット検出系開発のための網羅的な遺伝子発現解析
卵巣摘出術後2週間経過したマウスに、コーン油に溶解したE2を、体重1kg当たり1μgを単回皮下投与し、4時間後に子宮、肝臓、腎臓、脳視床下部領域、および海馬を採取した。また、E2 を0.1、1.0、10μg/kg単回皮下投与したマウスから、1、2、4、8、12、24時間後に上記の各臓器を採取した。マウス組織を分離後、全RNAを抽出・精製し、cDNAを調製しビオチン化cRNAを合成した。次いで,GeneChip(MGU74Av2)を用いてハイブリダイゼーションを行い、シリコンジェネティクス社のGeneSpringを用いて遺伝子解析を行った。
・子宮肥大およびHershberger試験
OECD子宮肥大試験 プロトコールの試験系としてのマウスの有用性を、幼若マウスおよび卵巣摘出マウスを用いてEE、2,2',4,4' -tetrahydroxybenzophenone (THPP)および n-heptyl-4-hydroxybenzoate(HHB) を投与して評価した。さらに、第2期バリデーション試験として、p,p'-DDE、ビンクロゾリンおよびメチルテストステロンを用いてOECD Hershberger 試験法プロトコールの有用性を検証した。
・OECDガイドライン407:28日間反復投与毒性試験法の適用に関する研究
雌雄各群5匹のSD:IGSラットにEEを0.01、0.1、1.0ppm の割合で28日間混餌投与し、雄は28日目に屠殺し、雌は投与22日目から性周期を観察して28日目から発情休止期を示す日に屠殺・剖検した。次いで、RNAlaterに保存した肝組織から全RNAを抽出し、CLONTECH Atlas Glass Rat 3.8 Arraysによる解析を行った。
・内分泌かく乱化学物質検出試験の技術移転普及に関する研究
ラットおよびマウスを実際に飼育し、以下に示す検査項目についてビデオ撮りを実施した。撮影対象検査項目:肛門生殖突起間距離(AGD)、腟開口、精巣下降、包皮分離、精子検査、性周期観察、排卵検査、身体発達(乳頭など)。
・OECD/WHO関連総括
国立研究所の安全性生物試験研究センター長として、国内の技術的な基盤を整える立場から、経済協力機構(OECD)、世界保健機構(WHO)、米国環境防護庁関係機関(EPA・ED-STAC)等の国際協調研究の受け皿となるような国内体制を整えることも重要であることから、国内外の会議および学会等への参加等による専門家との意見交換および情報収集を行い、その成果を本研究班に反映する事に努めている。
(4)〈確定試験等開発研究〉
・内分泌かく乱化学物質の性腺構築過程に及ぼす影響に関する研究 -経世代試験の改良-
ICRマウスの妊娠10~13日(膣栓発見日=妊娠0日と規定)に、DESをコーン油に懸濁して、100 (g/kg/dayを連日背部皮下に注射した。胎齢14および17日の胎児を摘出した。更に、DES暴露した一部の妊娠マウスは、妊娠18日に帝王切開して胎児を摘出後、胎児は無処置マウスに哺育(養母哺育)させた。同マウスは、生後9および14日にエーテル麻酔して屠殺し、生殖巣あるいは精巣を摘出して、TUNEL法に準じてTUNEL陽性細胞の有無を観察した。
・内分泌かく乱化学物質のラット神経核構築過程に及ぼす影響に関する研究
Sprague-Dawley系ラットの雌雄を終夜同居して交尾した雌ラットを自然分娩させ、新生児を得た。新生児に生後1~5日(出生日=生後0日と規定)連続して、DES 0、1、10、50あるいは100μg/kg体重を背部に皮下注射した。最終投与の24時間後に、雄出生児の脳を摘出し、その一部は視床を含む部位の切片を作成し、TUNELおよびBcl2陽性細胞を検索した。残りの脳については視床を含む部位を液体窒素にて凍結してヒートショックプロテイン(Hsp)をウエスタンブロッティング法により検索した。更に、生後1~5日にDES100μg/kg体重を背部に連続皮下注射して、生後10週に屠殺して脳を摘出し、大脳皮質前頭部、線条体、海馬、中脳および視床下部のドパミン(DA)、セロトニン(5-HT)およびそれらの代謝物(DOPAC、HVA、5-HIAA)をHPLC-ECDを用いて測定した。
・マウス胎児期子宮内位置と生後の発育・分化との関連に関する研究
ICR雌マウスの交配前1週間、交配期間を通じて交尾確認後妊娠17日(膣栓発見日=妊娠0日)まで、コーン油あるいはE2 0.05 (g/kgを連日皮下投与した。妊娠18日に帝王切開して胎児を摘出し、原則として子宮内での着床位置が雄に挟まれた雄、雌に挟まれた雄、雌に挟まれた雌、雄に挟まれた雌の各タイプに該当するもののみを、無処置のマウスに養母哺育させ、胎児期子宮内位置の差による性成熟・性分化への影響を検討した。更に、妊娠21日に帝王切開にて摘出したSprague-Dawleyラットの胎児を養母保育し、同様に胎児期子宮内位置と生後の発育・分化との関連を調べた。
・トランスジェニックラットを用いた内分泌かく乱化学物質の検討
浸潤癌がまだ高頻度にみられない15週時点および浸潤癌がほぼ全例に観察される35週時点からアンドロジェン枯渇処置(外科的去勢、エストロジェン皮下埋植)を行い、50週齢で屠殺解剖した。また10週齢のTgラットに作用機構が異なる2種類の抗アンドロジェン剤(finasteride及びflutamide)を7週間投与後、屠殺剖検し、前立腺癌の発生がどのように変化するかを病理組織学的に検討した。併せて血中のテストステロン濃度も測定した。
・内分泌かく乱化学物質の甲状腺発がん修飾作用を検出する鋭敏なモデルの開発に関する研究
F344妊娠ラットに、出産直後よりEEを0、0.2及び1.0ppm濃度で餌に混じて投与し、児動物の離乳と同時に児動物にも同様に3週間にわたりEEを混餌投与した。その後生後6週よりN-bis(2-hydroxypropyl)nitrosamine (DHPN) を0.2%濃度で8週間飲水に混じ、生後7週時に7,12-dimethylbenz[a]anthracene (DMBA)を50mg/kg体重の用量で強制経口投与して、甲状腺、肝臓、腎臓、肺、乳腺及び食道を中心に腫瘍発現の有無を調べた。
・内分泌かく乱化学物質の乳腺発がんに及ぼす影響の検討
7週齢の雌性Sprague-Dawley系ラットにDMBAを20mg/animal/weekで合計3回投与し、通常飼育を行った。乳腺腫瘍が発生した個体について解剖して、通常の病理組織学的検査に加え,エストロジェンレセプター (ERα、ERβ)およびKi-67抗原(MIB-5)について免疫組織化学的検索を行った。
・内分泌かく乱化学物質の胎生期・新生仔期暴露が雌性生殖器に与える影響に関する研究
以下の1~3の実験において子宮がん好発系のCrj:Donryuラットを用いた。
1. 新生仔期の曝露期間の長さが雌性生殖器に及ぼす影響
生後24時間以内の雌新生仔ラットの背部にOP 100mg/kgを5日齢(PNDs1?5群)または15日齢(PNDs1~15群)まで隔日に皮下投与した。性成熟前の雌性生殖器系の発育・分化に対するOPの影響を観察するために経時的に動物を剖検し、内分泌学的および形態学的検索を行った。子宮発がんへの修飾作用を検討するために、PNDs1~5およびPNDs1~15群ともに11週齢にてN-ethyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(ENNG)を子宮腔内に投与して15ヶ月齢まで観察し、子宮の増殖性病変について形態学的に検索した。なお、参考のために生後4日齢のSprague-Dawley系ラット新生仔に 0、15、50、150mg/kg のOPを18日間反復経口投与して毒性学的な評価を行った。
2. 新生仔期曝露が卵巣に及ぼす影響
1.と同様の処置を行ったラットを用いて、初回排卵前の30日齢ラットの両側卵巣を摘出し、同群および異なる群の卵巣摘出動物の頚背部皮下に移植し、13週齢まで性周期を経時的に観察し各群の非移植動物と比較した。また、14週齢で一部の動物について、排卵数、卵巣の重量および卵胞数・黄体数など卵巣の形態について検索するとともに、生後12週齢では、対照群とPNDs1~5群の一部の動物を用いて無処置雄ラットと交配させ、着床数、子宮重量、胎児数、胎児体重を観察した。
3. 低用量曝露が雌性生殖器に及ぼす影響
低用量のBPA(0、0.006および6mg/kg)を妊娠2日目から離乳前日まで母ラットに強制経口投与して、児ラットの性成熟までの発育・分化およびその後の性周期の変動について検索した。ENNG誘発子宮発がんへの修飾作用についても形態学的に検索した。また、母ラットの血清、母乳および児ラットの血清および肝臓中のBPA濃度を測定し、さらに環境中BPAとして流水中、給水タンク内飲料水および餌中のBPA濃度も測定した。
結果と考察
(1)〈プレスクリーニング系追加開発〉
・酵母Two-Hybrid試験の改良とバリデーション -特に複合効果の検討-
試験した103物質中スチレンダイマー、スチレントリマー、スチルベン、ベンゾフェノン、ジフェニール類など20物質が、S9Mix処理により代謝活性化され、エストロジェン様活性を示した。陽性代謝物のひとつはそれぞれの4-水酸化体であり、CYPにより変換されることが明らかとなった。また、E2存在下で酵母Two-Hybrid試験(ER-TIF2系)により、6物質がアンタゴニスト活性陽性となり、いずれもERに対する結合性を有し、培養細胞レポーター遺伝子試験やMGF-7細胞増殖促進試験でもアンタゴニスト活性を示した。ED容疑物質約60物質中7物質がPXR-SRC1系の酵母Two-Hybrid 試験でアゴニスト活性が陽性を示し、肝臓においてPXRの標的遺伝子であるCYP、MDR1、OATP2のmRNAレベルを増加させた。酵母 Two-Hybrid 試験系は、代謝活性化によりホルモン作用を示す化学物質が効率よく検出可能であるだけでなく、ホルモン作用を示す化学物質の複合効果も捕らえられることが明らかにされたことから、in vitro 試験から in vivo 試験の間に位置するスクリーニング試験として有用であると考えられる。
・マイクロアレイ法の基盤技術調査
GeneChipに配置された遺伝子プローブは、発現比の大きい遺伝子に関してはその発現量に相関したシグナルを与えることが確認され、網羅的遺伝子発現パターンが異なる臓器由来のRNAを混合して用いることで、多数の遺伝子に関する検量線を作製できることがわかった。この事実を応用すると、遺伝子プローブの配列変更等を伴うチップのversion upが行われても検量線同士を比較することでデータの変換が可能になると考えられる。
(2)〈スクリーニング試験系確立研究〉
・ES細胞培養系における内分泌かく乱化学物質の影響
ES細胞へDESを添加し、4日後に遺伝子発現が2倍以上の増加がみられた遺伝子は10遺伝子、0.5倍以下に減少したのは19遺伝子、DES添加24時間後に2倍以上増加したのは37遺伝子、0.5倍以下に減少したのは12遺伝子で、最高に増加したものでも約3倍であった。一方、抗エストロジェン薬のICI182,780を4日培養EBに1uMの濃度で添加し、5日間培養したところ、対照に比較して大きさの減少傾向が認められた。
・子宮肥大試験およびHershberger試験における遺伝子発現変化に関する研究
-未成熟ラットを用いたERα、ERβ、AR遺伝子発現の変化の解析-
EE 0.003 mg/kg群の子宮重量は、投与後24時間をピークとして、投与後6~48時間で統計学的に有意な増加が認められ、投与後24時間の子宮重量は、溶媒群の約2倍であった。また、EE 0.003 mg/kg群では、投与後24時間の子宮でcomplement C3 mRNA発現の著しい増加が認められた。
・国内外の子宮肥大試験に子宮肥大試験に関するデータ整理とその問題点の把握及び解決法の検討
国内外の子宮肥大試験に関するデータ整理とその問題点の把握および解決法の検討では、OECD バリデーション試験の結果、いずれのプロトコールを用いても全ての試験機関でEEの子宮重量増加作用を確認でき、対照群と比較して有意に子宮重量が増加するEEの用量にも、試験機関の間に大きな差は認められなかったが、EEの検出感度は、皮下投与の方が経口投与よりも約3倍高い結果であった。また、弱いエストロジェン活性を示す物質の検出も可能であることが確認できた。
・卵巣摘出マウスを用いた子宮肥大試験における遺伝子発現変化に関する研究
子宮重量は、E2 1.0μg/kg以上の群で、投与後8時間目より用量に依存して重量増加がみられ、24時間後にはもっとも高い値を示した。
網羅的な遺伝子発現解析では、E2 0.1、1.0、10μg/kg群では、148、3766、4024遺伝子の発現がみられ、更にその半分がEST (Expressed Sequence Tag)であった。
・内分泌かく乱化学物質の胎生期暴露による包皮分離試験に関する研究
FLU暴露群では、胎齢18~21日暴露10mg/kg群で、生殖器の発育不全に伴う排尿障害のため出生児5例が死亡した。AGD体重補正値(mm/3√g)は、胎齢14~17日暴露で0.3 mg/kg以上の群、胎齢18~21日暴露では10mg/kg群で有意な短縮がみられた。10 mg/kg以上の群では胎齢14~17および18~21日のいずれの暴露でも尿道下裂がみられ、これらの例では包皮分離の判定が不可能であった。包皮分離は、FLU10 mg/kg群ではいずれの暴露時期でも有意に遅延したが、1mg/kg以下の群では分離完了時期の遅延はみられなかった。DDE 暴露群では、300mg/kgを投与した妊娠雌あるいは出生児が死亡したが、胎齢14~17および18~21日暴露の10、30および100mg/kg群のいずれもAGD体重補正値(mm/3√g)の有意な差はなく、また、尿道下裂も認められなかった。包皮分離時期に有意な差はみられなかった。DES暴露群では、胎齢14~17日暴露100μg/kg群では胎児に死亡例が認められたが、1 および10μg/kg群で胎齢14~17日暴露ではAGD体重補正値(mm/3√g)が増加する傾向がみられ、10μg/kg群で有意差がみられた。一方、胎齢18~21暴露では1μg/kg以上の全ての群でAGD体重補正値が有意に短縮し、100μg/kg群で包皮分離が有意に遅延したが、尿道下裂は認められなかった。
・内分泌かく乱化学物質の新生児期暴露による包皮分離試験に関する研究
FLU暴露群では、生後1~5日暴露試験および生後17~21日暴露試験では、10mg/kg投与群においても包皮分離完了時期の有意な遅延はみられなかったが、生後35~39日暴露では10mg/kg投与群で有意な遅延が認められた。DDE暴露群では、300mg/kg暴露により一部の新生児が死亡し、17~21日暴露では300mg/kg群、生後35~39日暴露試験では100mg/kg投与群で包皮分離が有意に遅延し、300mg/kg群の生存例2例も遅延がみられた。DES暴露群では、いずれの暴露時期でも死亡例はなかったが、包皮分離完了時期は生後1~5日暴露では用量依存性に遅延し、100μg/kg投与群の20例中2例は57日齢の解剖時も分離が完了せず、生後17~21および34~38日暴露では10および100 μg/kg投与群で軽度に遅延した。
・28日間試験の改良 -α2uグロブリンの評価の利用について-
0.1μg/kg×7 day以上の DES投与によって、投与1日後の血清AUGレベルの上昇と3?7日にかけての血清AUGレベルの減少が観察された。これらの動物の肝臓について、網羅的に遺伝子の変動を観察した結果、DESの投与の用量及び血清AUGと連動した一連の遺伝子群が抽出され、その一部は血清AUGの変動との関連性を有することが示唆された。
・国内外のHershberger試験に関するデータ整理とその問題点の把握及び解決法の検討
OECD Validation phase2試験の一環として国内の7試験機関においてHershberger 試験を実施し、そのデータを整理し、それを基に本試験の問題点を明らかにした。すなわち、
①Androgen作用の検出は、各機関において、腹葉前立腺、精嚢、肛門挙筋+球海綿体筋、陰茎亀頭、尿道球腺のすべての器官に用量相関性に重量増加がみられた。
②Antagonist作用の検出は、高用量群でTestosterone Propionateを投与した陽性対照群に比し、各器官で重量の減少がみられた。
③各試験機関における重量のばらつきは、antagonistであるVinclozolin、DDEの低用量および中用量群で顕著であった。
④各測定臓器間のばらつきは、antagonistであるVinclozolin、DDEの低用量および中用量群で顕著であった。
⑤重量測定は、固定後あるいは未固定で測定した機関間で変動はみられなかった。⑥試験に用いた動物系統間において変動はみられなかった。
Hershberger試験は、スクリーニング試験として有用性が確認されたが、本試験の方向性としては今後のすべてのphase 2試験が終了した後、更に、問題点が抽出され、それに対する解決策が検討され、OECD試験計画書の作成に進むものと考えられる。従って、世界的にphase 2の試験を実施するに当たり、日本で明らかにした問題は非常に有用と考えられた。
(3)〈OECD対応等試験開発部門〉
・臓器特異的ハイスループット検出系開発のための網羅的な遺伝子発現解析
E2投与後ごく初期に変動する遺伝子として、子宮では大きく変動する遺伝子が少ないことに加え、肝臓で発現が低下する遺伝子群、海馬で発現が上昇する遺伝子群が存在することが分かった。さらに、視床下部、腎臓においてもE2濃度依存的に発現変動する遺伝子群が捉えられたが、それらの遺伝子群は各臓器で異なるものが多く、E2の各臓器に対する特徴的な作用を担う遺伝子である可能性が考えられた。
・子宮肥大およびHershberger試験
幼若マウスを用いた子宮肥大試験では、EE投与群の子宮重量(blotted weight)は、経口投与で30μg/kg/day以上、皮下投与で1μg/kg/day以上の投与群において有意に増加し、卵巣摘出マウスを用いた子宮肥大試験では、経口投与で10μg/kg/day以上、皮下投与で0.3μg/kg/day以上の投与群において有意に増加した。また、幼若マウスでは腟の開口が、経口投与では 30μg/kg/day以上で、皮下投与では1μg/kg/day以上の動物で観察された。THBPは、マウス子宮肥大試験でエストジェン作用がおよび抗エストロジェン作用が確認されたが、HHBはマウス子宮肥大試験では影響は認められなかった。p,p'-DDEおよびビンクロゾリンの Hershberger 試験では、いずれの器官とも用量依存性に低下し、それぞれ抗アンドロジェン作用が確認された。メチルテストステロンの Hershberger試験においては、すべて器官重量が用量に依存して増加し、アンドロジェン作用が確認された。
・OECDガイドライン407:28日間反復投与毒性試験法の適用に関する研究
EEを28日間混餌投与した結果、性周期回帰検索では1.0ppm群の雌で5例中3匹に発情期の延長が認められ、雄の1.0ppm群で乳腺腺管の過形成、雌の1.0ppm群で子宮内膜上皮の高円柱上皮化等が認められた。EE投与により、2倍以上ないし0.2倍以下の発現の増減を示す遺伝子とも雌で多く認められ、用量依存性の反応を示す遺伝子のうち発現が上昇した遺伝子は雄で3個、雌で24個、発現が低下した遺伝子は雄で0個、雌で3個得られた。
・内分泌かく乱化学物質検出試験の技術移転普及に関する研究
内分泌かく乱化学物質検出試験の技術移転普及のために、AGDの測定、陰茎包皮分離および腟開口の確認法、精子検査についてビデオ撮影を行った。
OECD対応等試験開発において実施してきた、OECDより提案された子宮肥大試験法プロトコールの2期に亘るバリデーション試験により、本試験プロトコールはエストロジェン作用物質のみならず抗エストロジェン作用物質を検出するための有効で安定した結果が得られる試験法であることが確認され、すでにOECDにおいてガイドライン化が最終段階に至っており、多くの物質についてスクリーニング実施段階にある。一方、Hershberger 試験法に関しては、第2期のバリデーション試験が終了し、現在試験結果の解析が行われている段階であるが、国内においても幾つかの問題点が指摘されており、OECD試験法ガイドラインに向けて新たな展開があるものと思われる。なお、今回内分泌かく乱化学物質試験法の技術の移転普及を目的として雄の性成熟の指標となる検査法を主体にその手技をビデオ撮りをしたが、幅広い分野でこれらに技術が利用されることを期待する。
・OECD/WHO関連総括
国立研究所の安全性生物試験研究センター長として、国内の技術的な基盤を整える立場から、経済協力機構(OECD)、世界保健機構(WHO)、米国環境防護庁関係機関(EPA・ED-STAC)等の協調研究の受け皿となるような国内体制を整えることも重要である。
本年度は、毒性学方面における基盤と応用にかかる幅広い研究を集積する学会である米国トキシコロジー学会へ参加し、内分泌かく乱性試験に関する情報収集と専門家との意見交換を行い、研究課題の今後の進展および職務の反映への参考とした。
(4)〈確定試験等開発研究〉
・内分泌かく乱化学物質の性腺構築過程に及ぼす影響に関する研究 -経世代試験の改良-
胎齢14日(最終暴露の24時間後)の生殖巣の光顕観察の結果、DES暴露群の間質細胞の細胞質に多数の脂肪滴、グリコーゲンの蓄積が確認された。一方、生後9および14日の新生児の精巣に顕著なTUNEL陽性細胞の増加が観察され、生殖索では生殖細胞の細胞質の部分的な脱落、細胞質全体の淡明化、生殖細胞の萎縮および間質細胞の軽度過形成などが観察された。
・内分泌かく乱化学物質のラット神経核構築過程に及ぼす影響に関する研究
DES暴露群の雄新生児のSDN-POA部位にTUNEL陽性細胞の増加が認められ、雌新生児では逆にアポトーシスは抑制されたが、Bcl2の発現は観察されなかった。また、DES投与群(10μg/kg)ではHsp90が多く産生されることが示唆され、大脳皮質前頭部のDA濃度が有意に減少し、DOPAC濃度も減少傾向を示した。しかし、線条体、海馬および中脳のモノアミン濃度にはDES投与の影響は認められなかった。
・マウス胎児期子宮内位置と生後の発育・分化との関連に関する研究
マウス、ラットともに胎児期子宮内位置による生後の発育・分化の差は認められなかった。
・トランスジェニックラットを用いた内分泌かく乱化学物質の検討
いずれのアンドロジェン枯渇処置群においても処置開始時期および処置期間に関わらず癌病巣の高度な退縮が認められ、また抗アンドロジェン剤投与群においても、Tgラットの前立腺癌発生が部分的ではあるが、有意に抑制された。特に5α-reductase の阻害剤であるfinasterideでは用量相関をもって前立腺癌の発生が抑制された。
・内分泌かく乱化学物質の甲状腺発がん修飾作用を検出する鋭敏なモデルの開発に関する研究
雄では処置終了後13週時の死亡/切迫屠殺率が EE 0、0.2、1.0ppmの各群で 33、45、44%に達したため、全例を屠殺したが、肉眼的には甲状腺の結節がEEの濃度に依存して減少する傾向がみられた。一方雌では、発がん物質処置終了後16週までの触知可能な腫瘍の発生頻度及び個数がEE投与により増加する傾向がみられた。
・内分泌かく乱化学物質の乳腺発がんに及ぼす影響の検討
DMBA誘発乳腺腫瘍ではほとんどの腫瘍細胞で陰性であり、ERβは、自然発生乳腺腫瘍、DMBA誘発乳腺腫瘍ともに弱陽性を示した。Ki-67抗原は、DMBA誘発乳腺腫瘍よりも自然発生腫瘍の方が高頻度に陽性となった。
・内分泌かく乱化学物質の胎生期・新生仔期暴露が雌性生殖器に与える影響に関する研究
1. 新生仔期の曝露期間の長さが雌性生殖器に及ぼす影響.
PNDs1~15群では、性腺刺激ホルモン値あるいは性腺の分化発達異常、膣開口の早期化などが観察されたが、PNDs1~5群ではいずれの項目も対照群と同様で異常は認められなかった。さらに、PNDs1~15群では膣開口後全例が速やかに持続発情となり、PNDs1~5群では大多数の動物が膣開口後正常な性周期を示したにもかかわらず、同群では対照群より早期に持続発情となり、対照群より6ヶ月間早く全例が持続発情となった。また、PNDs1~15群では、子宮がんの発生頻度は対照群と同程度であったが、中・低分化型あるいは遠隔転移等の悪性型が有意に増加したのに対し、PNDs1~5群では子宮内に留まる分化型の内膜腺癌が有意に増加した。一方、4日齢のSDラットにOPを連続投与した結果、150mg/kg 投与群に肝細胞の空胞化、腎細尿管障害が見られその一部が死亡したほか、成熟卵胞の減少子宮内膜上皮の空胞化、乳腺腺管上皮の増生が認められた。
2. 新生仔期曝露が卵巣に及ぼす影響
対照群同士あるいは対照群にPNDs1~5群および1~15群の卵巣交換個体では、8週齢以降大部分が正常性周期を示したが、PNDs1~5群の個体に対照群あるいはPNDs1~5群の卵巣を移植した群では生後8週齢以降漸次持続発情が増加した。PNDs1~15群に対照群およびPNDs1~15群の卵巣を移植した個体ではいずれも9週齢までに全例が持続発情を示し、持続発情を示した例では嚢胞状の閉鎖卵胞が認められ、黄体数が顕著に減少するかまたは全く認められなかった。
3. 低用量曝露が雌性生殖器に及ぼす影響
0.006および6mg/kg BPA群では、性成熟前の観察項目である子宮の発育・分化および性腺刺激ホルモン、腟開口において異常は認められず、15ヶ月齢まで実施した性周期観察にも対照群との間に有意差は認められなかった。また、子宮がんの発生にもBPA投与による影響は観察されなかった。BPA 6mg/kg群の母ラットではBPAの血清値が有意に増加したが、いずれの群も母乳および児の血清および肝臓中BPA値に差は認められなかった。なお、餌および給水タンク内の水からBPAが検出された。
結論
本研究において、すでにOECDでガイドライン化が進んでいる子宮肥大試験法、Hershberger試験法は内分泌かく乱化学物質の動物を用いたスクリーニング法としてはきわめて有用であることが明らかになった。さらに、新生児期の早い段階でエストロジェン作用を受けた雌動物においては、それらが性成熟に達した段階で生殖機能障害が発現し、特に子宮の化学物質に対する感受性に影響を及ぼすことが確認されたことから、今後の胎生期、新生児期に関わる試験法、あるいは経世代試験法に加え、動物に一生涯に亘り視床下部・下垂体・性腺軸への影響を観察する試験法(一生涯試験と仮称)を開発する必要性か浮上して来たほか、既存の試験法改良のためには遺伝子発現、包皮分離時期の確認等の新たな指標を組み込んだ試験法を開発していく必要があると考えられる。

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