水道におけるダイオキシン類の実態等の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200956A
報告書区分
総括
研究課題名
水道におけるダイオキシン類の実態等の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
眞柄 泰基(北海道大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 国包章一(国立保健医療科学院)
  • 相澤貴子(横浜市水道局)
  • 安藤正典(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 亀井翼(北海道大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
68,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道水におけるダイオキシン類に関する課題を明らかにするため、その発生源、塩素化による発生、精度管理等について検討を行い、水道におけるダイオキシン類対策の在り方についての提言を行うことにより、水道水の安全性確保に資することを目的とする。そこで、昨年度までの調査からダイオキシン類濃度が高い利根川水系、相模川水系および淀川水系を中心として上流から下流にかけて調査を行い、農薬等の発生源とダイオキシン類の関係を明らかにすることとした。また、塩素化処理については、塩素処理によるダイオキシン類の生成に塩素そのもの中のダイオキシン類が影響することが考えられたことから、液体塩素、次亜塩素酸ソーダ中のダイオキシン類を測定した。さらに、水道におけるダイオキシン類測定の精度管理に関する全国的な本調査を行った。
研究方法
ダイオキシン類の水道における存在状況等についての調査方法、調査地点等を選定した。昨年度までの調査でダイオキシン類の高かった利根川系、相模川水系および淀川水系を選択し、その上流部から下流にかけて存在する浄水場において原水及び浄水のダイオキシン類の調査を行うこととした。塩素処理によるダイオキシン類の発生を確認するため、液体塩素、次亜塩素酸ソーダおよび食塩電解による生成次亜塩素酸中のダイオキシン類について測定した。また、水道水のダイオキシン類を測定している民間分析機関に共通試料を測定して、それらの分析結果をもとにダイオキシン類の精度管理について調査を行った。なお、ダイオキシン類の測定に関しては、国土環境株式会社環境創造研究所に委託して実施した。
結果と考察
(3.1)水道原水および浄水に関する調査
利根川水系の8つの浄水場における水道原水および浄水について測定した結果は次のようである。Total PCDDs, PCDFs,Co-PCBsの平均実測濃度は,それぞれ27pg/L,3.6pg/L,11pg/Lであった。ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の中でPCDDsとPCDFsが占める割合は,それぞれ88%と12%であった。また,Co-PCBsの中でnon-ortho PCBsおよびmono-ortho PCBsが占める割合は,それぞれ10%と90%であった。Total PCDDS,PCDFs,Co-PCBsの平均毒性等量は,それぞれ0.0554pg-TEQ/L,0.0433pg-TEQ/L,0.0106 pg-TEQ/Lであり,総ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs +Co-PCBs)の平均毒性等量は0.11pg-TEQ/Lであった。総ダイオキシン類の中でPCDDs,PCDFs,Co-PCBsが占める割合は,それぞれ50%,40%,10%であった。
利根川水系の8つの浄水場における浄水中のダイオキシン類のTotal PCDDs,PCDFs,Co-PCBsの平均実測濃度は,それぞれ0.78pg/L,0.29pg/L,1.5pg/Lであった。ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の中でPCDDsとPCDFsが占める割合は,それぞれ73%と27%であった。また,Co-PCBsの中でnon-ortho PCBsおよびmono-ortho PCBsが占める割合は,それぞれ11%と89%であった。毒性等量としてはPCDDsが0.0028pg-TEQ/L,PCDFsが0.0057pg-TEQ/L,Co-PCBsが0.0011pg-TEQ/L,全ダイオキシン類(PCDDs+ PCDFs+Co-PCBs)が0.0096 pg-TEQ/Lであった。
相模川水系の6つの浄水場における水道原水および浄水を測定した結果は次のようである。Total PCDDs, PCDFs,Co-PCBsの平均実測濃度は,それぞれ11pg/L,2.4pg/L,11pg/Lであった。ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の中でPCDDsとPCDFsが占める割合は,それぞれ83%と17%であった。また,Co-PCBsの中でnon-ortho PCBsおよびmono-ortho PCBsが占める割合は,それぞれ12%と88%であった。Total PCDDs,PCDFs,Co-PCBsの平均毒性等量は,それぞれ0.028pg-TEQ/L,0.031pg-TEQ/L,0.093pg-TEQ/Lであり,総ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCBs)の平均毒性等量は0.068pg-TEQ/Lであった。総ダイオキシン類の中でPCDDs,PCDFs,Co-PCBsが占める割合は,それぞれ41%,45%,14%であった。
相模川水系の6つの浄水場における浄水中のダイオキシン類の平均実測濃度および平均毒性等量を表4に示す。Total PCDDs,PCDFs,Co-PCBsの平均実測濃度は,それぞれ0.35pg/L,0.16pg/L,2.2pg/Lであった。ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の中でPCDDsとPCDFsが占める割合は,それぞれ69%と31%であった。また,Co-PCBsの中でnon-ortho PCBsおよびmono-ortho PCBsが占める割合は,それぞれ13%と87%であった。毒性等量としてはPCDDsが0.0012pg-TEQ/L,PCDFsが0.0013pg-TEQ/L,Co-PCBsが0.0013 pg-TEQ/L,全ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs +Co-PCBs)が0.0037pg -TEQ/Lであり、ダイオキシン濃度はきわめて低いことが明らかとなった。
淀川水系の6つの浄水場における水道原水および浄水について測定した結果は次のようである。Total PCDDs, PCDFs,Co-PCBsの平均実測濃度は,それぞれ51pg/L,3.3pg/L,24pg/Lであった。ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の中でPCDDsとPCDFsが占める割合は,それぞれ94%と6%であった。また,Co-PCBsの中でnon-ortho PCBsおよびmono-ortho PCBsが占める割合は,それぞれ8%と92%であった。Total PCDDs,PCDFs,Co-PCBsの平均毒性等量は,それぞれ0.072pg-TEQ/L,0.028 pg-TEQ/L,0.012pg-TEQ/Lであり,総ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCBs)の平均毒性等量は0.11pg-TEQ/Lであった。総ダイオキシン類の中でPCDDs,PCDFs,Co-PCBsが占める割合は,それぞれ64%,25%,11%で合った。
淀川水系の6つの浄水場における浄水中のTotal PCDDs,PCDFs,Co-PCBsの平均実測濃度は,それぞれ0.61pg/L,0.10pg/L,2.0pg/Lであった。ダイオキシン類(PCDDs +PCDFs)の中でPCDDsとPCDFsが占める割合は,それぞれ86%と14%であった。また,Co-PCBsの中でnon-ortho PCBsおよびmono-ortho PCBsが占める割合は,それぞれ5%と95%であった。毒性等量としてはPCDDsが0.00073 pg-TEQ/L,PCDFsが0.00063pg -TEQ/L,Co-PCBsが0.0018pg-TEQ/L,全ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCBs)が0.0032 pg-TEQ/Lであった。
(3.2)浄水処理過程におけるダイオキシン類の除去に関する調査
利根川水系の浄水場におけるダイオキシン類の平均除去率は実測濃度で見ると,ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の除去率は96%,Co-PCBsの除去率は86%であった。一方、毒性等量で見ると,ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の除去率は92%,Co-PCBsの除去率は90%,総ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCBs)の除去率は91%であった。
相模川水系の浄水場におけるダイオキシン類の平均除去率は実測濃度で見ると,ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の除去率は96%,Co-PCBsの除去率は80%であった。一方、毒性等量で見ると,ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の除去率は96%,Co-PCBsの除去率は86%,総ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCBs)の除去率は94%であった。
淀川水系の浄水場におけるダイオキシン類の平均除去率は実測濃度で見ると,ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の除去率は99%,Co-PCBsの除去率は92%であった。一方、毒性等量で見ると,ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs)の除去率は99%,Co-PCBsの除去率は85%,総ダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCBs)の除去率は97%であった。
(3.3)塩素剤によるダイオキシン類の負荷
消毒剤として利用されている塩素剤中にダイオキシン類が不純物として存在していることが考えられる。そこで、液体塩素、次亜塩素酸ソーダ、食塩電解生成次亜塩素酸ソーダを純水および水道水に添加して、ダイオキシン類を測定した。その結果、液体塩素および次亜塩素酸ソーダには不純物としてダイオキシン類が存在しているが、その濃度は微量であることが明らかとなった。そのため、通常の塩素注入率の範囲では、水道水のダイオキシン類の増加は厚生労働省で示しているダイオキシン類の評価値である1pg/lの1/100以下であることが明らかとなった。
(3.4)ダイオキシン測定精度管理について
(3.4.1)配布試料の調整
配布試料は標準試薬および試料濃縮に用いるウレタンに添加した試料を分析機関に送付して測定精度の検定等を行った。配布した共通試料を参加した13機関での測定結果はロバスト(Robust)法によって統計計算を行った。この方法は異常値があった場合でも,試験値の中央約50%のデータをもとに平均値,標準偏差に相当する指標を計算する方法なので,異常値の影響を受けないという利点がある。また,次式によるz-scoreを求めてデータの標準化を行い,判定評価を行った。S-1試料の各機関におけるデータの標準偏差は6~18%とばらつきが小さく,z-scoreにおいても±3を超える値は検出されなかった。 S-2試料の標準偏差は1,3,6,8-TeCDDの224%,1,3,7,9-TeCDDの93%を除いては4~32%であった。1,3,6,8-TeCDD及び1,3,7,9-TeCDDについては,配布溶液に添加していないため,ほとんどの機関で検出下限値未満であり,データとして各機関の検出下限値をそのまま入力しているためにばらつきが大きくなったと考えられる。1,2,3,7,8-PeCDF,1,2,3,4,7,8 -HxCDFの標準偏差がそれぞれ18%,20%と比較的高かった。P-1試料の標準偏差はPCDDs 8~27%,PCDFs 6~39%,Co-PCBs 9~23%,TEQ5~10%であった。z-scoreについては,機関AのHpCDDsが3.016で±3を超えたが,それ以外は±3以内であった。P-2試料はブランクを確認する試料であるため,標準偏差及びz-scoreによる判定は基本的に行わなかったが,マニュアルで目標としている定量下限値に試料量をかけた値(絶対量)との比較を行った。Co-PCBsでは,他のPCBよりも環境中に高い割合でブランクを低減させるためには,分析室の雰囲気(クリーンルーム仕様)やガラス器具の洗浄などに対する細心の注意が必要である。
結論
水道原水および浄水について調査した結果、利根川水系の8カ所の浄水場で、水道原水の平均毒性等量は0.11pg-TEQ/Lであり、浄水では0.0096 pg-TEQ/Lであった。相模川水系の6カ所の浄水場で、水道原水の平均毒性等量は0.068pg-TEQ/Lであり、浄水では0.0037pg-TEQ/Lであった。淀川水系の6カ所の浄水場で、水道原水の平均毒性等量は0.11pg-TEQ/Lであり、浄水で0.0032 pg-TEQ/Lであった。水道原水のダイオキシン類が高い3水系であっても、浄水施設での除去率が高いため、浄水での濃度はごく微量でリスクは殆ど無いことが明らかとなった。
消毒に用いられている液体塩素や次亜塩素酸ソーダには不純物としてダイオキシン類が存在しているが、その濃度は微量であることから浄水への影響は実質的に無視できることが明らかとなった。しかし、次亜塩素酸ソーダを生成する際に使用する原料水の水質や製造から使用までの期間を短くすることが望ましいことが明らかとなった。
ダイオキシン類を測定している分析機関を対象として、共通試料を配布して測定した結果をもとに、測定精度についての検討をおこなった。その結果、z値が3を超える機関が少なく、その測定精度はほぼ満足出来ることが明らかとなった。ただし、測定精度を確保するためには、特に、ブランク値を低減させるために注意が必要であることが明らかとなった。
次年度以降は、これまでの研究を継続するとともに、水道におけるダイオキシン類のリスク管理についてのマニュアルを提言することとしている。

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