ダイオキシン類の汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200954A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 久美子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 米谷民雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研究所)
  • 豊田正武(実践女子大学)
  • 天倉吉章(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトは主に食品を介してダイオキシン類を摂取している。そこで、本研究では日常の食事経由のダイオキシン類摂取量を把握すること、各種食品のダイオキシン類による汚染実態を明らかにすること、食品中ダイオキシン類測定の迅速化を図ることおよびダイオキシン類の食物経由摂取によるリスクを低減化することを目的として次の4課題の研究を実施した。(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査、(2)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査、(3)食品におけるダイオキシン類の迅速測定法開発に関する研究、(4)食品中のダイオキシン類のリスク低減に関する研究。
研究方法
(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査(TDS)では、全国7地域、12機関でTDS試料を調製した。各機関でそれぞれ約120品目の食品を購入し、平成12年度国民栄養調査の食品別摂取量表に基づいて、それらの食品を計量し、そのまままたは調理した後、13群に大別して、混合し均一化したものを試料とした。ダイオキシン類による汚染レベルが比較的高い魚介類、肉類、乳製品の群は各機関とも3組ずつ試料を調製した。試験項目は、WHOが毒性等価係数を定めたPCDDs 7種、PCDFs 10種およびCo-PCBs 12種、計29種であり、試験方法は厚生労働省の「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(平成11年10月)に従った。(2)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査では、一般食品として国内産および輸入品の魚介類、食肉、野菜・果実類、調味料、卵、およびそれらの加工品(合計158検体)を対象とした。 また、瓶詰等の市販ベビーフード(飲料、果実・野菜加工品、ご飯もの、麺類、カレー、煮物、おやつ)51試料を対象とした。(3)ダイオキシン類の迅速測定法開発では、Ahイムノアッセイによる市販魚中のダイオキシン類分析の予備的検討を行った。魚検体の前処理法としては、ホモジナイズした魚検体(筋肉部、20 g)を、室温で一晩、アルカリ分解した。ヘキサン抽出後、硫酸処理を行い、多層シリカゲルカラムおよびアルミナカラムによりクリーンアップを行い、モノオルソPCBs(第1分画)とノンオルソPCBsおよびPCDD/Fs(第2分画)に分画した。本法は被検溶液中に、一部のモノオルソPCBsが多量に共存した場合、測定値が低くなる可能性が指摘されていた。そこで、第2分画をDMSO置換し、Ahイムノアッセイに供した。Ahイムノアッセイには市販キット(販売元㈱クボタ)を使用し、添付書に従いダイオキシン類の測定を行った。(4)ダイオキシン類のリスク低減に関する研究では、ダイオキシン類の毒性発現に関与するAhレセプター(AhR)と食品成分との相互作用について、ダイオキシン類バイオアッセイ法であるCALUXアッセイを用い、検討を行った。植物性食品成分95種(フラボノイド類、タンニン類、サポニン類、テルペン類など)を試料とし、8段階の濃度についてCALUXアッセイにより評価した。すなわち、試料のDMSO溶液を、96穴培養プレートで生育させたマウスH1L1細胞に加え、20~24時間培養後、誘導されたルシフェラーゼ活性をルミノメーターにより測定し、ダイオキシンによる活性化と比較することにより、誘導等価係数として数値化した。
結果と考察
(1)TDS調査の結果、ダイオキシン類の平均1日摂取量は1.49±0.65 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.57~3.40 pgTEQ/kgbw/day)であった。これらの値は、平成13年度の調査結果(1.63±0.71 pgTEQ/kgbw/day,範囲0.67~3.40 pgTEQ/kgbw/day)とほとんど同じレベルであり、日本における耐容一日摂取量(4 pgTEQ/kgbw/day)より低かった。なお、同一機関
で調製したTDS試料であっても、10~12群に選択した食品の種類、産地等の差によりダイオキシン類摂取量には約1.4~3.2倍の差が生じることが分かった。
(2)個別食品の汚染実態調査では、鮮魚(31検体)から0.028~18.939 pgTEQ/g(平均1.862 pgTEQ/g)、魚干物(16検体)から0.292~1.946 pgTEQ/g(平均0.910 pgTEQ/g)のダイオキシン類が検出された。畜産食品と乳製品では、馬肉(4.696 pgTEQ/g)を除いて0.347 pgTEQ/g以下であった。植物性食品は動物性食品に比べて濃度は低く、76検体中48検体では0.001 pgTEQ/g未満であり、乾燥海苔の0.199 pgTEQ/gが最高であった。市販ベビーフード51検体中14検体では0.001 pgTEQ/g未満であった。0.010 pgTEQ/g以上検出されたのは21検体であり、最高は0.135 pgTEQ/gであった。濃度が高かった検体の多くは、魚介類を含むものであった。
(3)迅速測定法開発に関する研究では、市販魚(13検体)に対してAhイムノアッセイによる測定を行った結果、HRGC/HRMSによる毒性等量値(ノンオルソPCBs及びPCDD/Fs)と比較し、良好な相関(r = 0.92)が得られた。本法では、従来法の測定値と比較すると、数倍高い値が得られる傾向があった。さらに、モノオルソPCBsを含めたダイオキシン類の毒性等量値と比較した場合も、良好な相関であった(r = 0.88)。従って、本法は市販魚中ダイオキシン類のスクリーニング法として、応用が十分可能であると示唆された。しかし、操作ブランク値が高い傾向があり、検体中のダイオキシン類汚染濃度を数値化するにあたっては、現在のところ注意を要する。今後は、実検体における定量下限値の設定を行い、毒性等量値を正確に予測するため、より多くの実検体に対して応用することが望まれる。
(4)ダイオキシン類のリスク低減に関する研究では、大半の植物性食品成分ではルシフェラーゼ活性を認めなかった。しかし、ダイゼインなどの大豆イソフラボン、一部のフラボノイドおよびレスベラトロールなどの植物エストロゲンといわれるものでは、高濃度において活性が認められた。一方、同じく植物エストロゲンであるクメステロールなどでは活性を認めなかった。
結論
食品中のダイオキシン類に関連した4課題について研究し、下記の成果を得た。
(1)トータルダイエット調査により、ダイオキシン類1日摂取量の全国平均が 1.49±0.65 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.57~3.40 pgTEQ/kgbw/day)であることを明らかにした。
(2)一般食品およびベビーフード製品中のダイオキシン類を分析し、汚染実態を明らかにした。
(3)Ahイムノアッセイによる魚検体ダイオキシン類測定結果はHRGC/HRMSによる毒性等量値と良好な相関が得られたが、操作ブランク値が高い傾向があり、検体中のダイオキシン類汚染濃度を数値化するにあたっては、現在のところ注意を要する。
(4)ダイゼインなどの大豆イソフラボン、一部のフラボノイドおよびレスベラトロールなど、植物エストロゲンといわれるものには、高濃度においてAhR活性化が認められた。

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