母乳中のダイオキシン類と乳児への影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200953A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳中のダイオキシン類と乳児への影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 松浦信夫(北里大学)
  • 近藤直実(岐阜大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における母乳中のダイオキシン類の濃度およびダイオキシン類濃度と生活環境因子の関連を明らかにするとともに、母乳中のダイオキシン類が乳児の健康に及ぼす影響を評価する。このために、定点を定めて母乳中のダイオキシン類濃度のモニタリングを継続的に実施し、わが国の母乳汚染の状況を知ると共に、汚染対策の効果を評価する。また乳児への健康影響を調査するために、ダイオキシン類を測定した母乳を哺乳した乳児について1歳時に健康診査と採血により発育発達や免疫機能、甲状腺機能などについて検査する。また、第2子を授乳中の母乳を採取してダイオキシン類濃度を測定する。これらの児の乳児期以降の発達や行動に関し評価する方法に関しても検討する。
研究方法
母乳中の脂肪含有量と脂肪1g当たりのPCDD7種類、PCDF10種類、CoPCB12種類を測定した。母乳採取地域を岩手県、千葉県、新潟県、石川県、大阪府、島根県の6府県とし、初産婦の出産後30日の母乳を採取しダイオキシン類濃度を測定するとともに、経年的変動を検討した。母乳中のダイオキシン類の測定を行った症例が1歳になった時点で、発育発達を測定すると共に、採血して甲状腺機能、免疫機能、アレルギ-反応などを検査し、マススクリ-ニング検査時のTSH値に関しても、母乳中のダイオキシン類濃度との相関を検討した。母乳中のダイオキシン類濃度を測定した母親が第2子、第3子を出生した場合には、第1子と同様に母乳中のダイオキシン類濃度を測定した。また、第2子に関しても第1子と同様の1歳児健康診査を実施した。さらに、哺乳中の母乳のダイオキシン濃度を測定した本研究の対象児の発達や行動を評価する方法に関しても検討を加えた。
結果と考察
(1)平成14年には46例の初産婦の母乳中のダイオキシン類を採取したが、測定を終了した26例の平均値は20.27 pgTEQ/gFatであり、経年的には不変あるいはやや低下傾向であった。(2)日本人女性の母乳中のダイオキシン類を各異性体別に観察し、それらの脂肪あたりの濃度やTEQを得たが、PCDD、PCDF、Co-PCBによって異性体間の相関の程度が異なっていた。このため、母乳中のダイオキシン類濃度を検討する際には、個々の異性体の動態も併せて検討する必要があり、そのために異性体別のモニタリングを今後も継続する必要があることが明らかになった。(3)初産時に母乳中のダイオキシン類濃度を測定した母親のうち、第2子を出産した86例の母乳中のダイオキシン類濃度を測定したが、PCDD+PCDFs+Co-PCD12種の値は、第1子の平均が25.7 pgTEQ/gFatであったのに対し、第2子の平均値は17.0pgTEQ/gFatであった。(4)1歳時の健康審査の際に得られた血液を用いて、免疫機能としてTリンパ球系、Bリンパ球系、ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球の幼若化反応、血清免疫グロブリン値(IgG,IgA,IgM)、特異IgE抗体について検討したが、有意な影響は認められなかった。(5)第1子と第2子の甲状腺機能の比較でも特に異常は認められなかったが、血清FT4値では第1、2子間に有意な相関がみられた。(6)発達および行動の評価方法に関して検討した結果では、知能面の評価は5歳以降に実施することが適当であると考えられた。さらに、検査方法に関しても検討を加えた。以上の結果から、わが国の母乳中の濃度は諸外国の報告に較べて特に高いものではなく、また近年には低下傾向にあることが明らかになった。また、1歳児の健康状態の評価では、わが国の乳児にダイオキシン類の汚染によると考えられる著しい影響は認められなかった。しかし、全ての乳児がある程度の汚染を受けているので、影響を正確に知るには、低濃度の曝露の児の
検査結果と比較する必要がある。第2子が哺乳する母乳中のダイオキシン類濃度は第1子哺乳時の濃度より著しく低下するので、第2子の健康調査よりダイオキシン汚染が軽度な場合の結果が得られるので、今後の第2子以降の児の調査症例の集積により、より正確な児への影響が明らかになるものと期待される。また、本年度は乳児期以降の発達や行動面を評価する方法について検討したが、5歳以降になれば検査が可能になると考えられた。これまでに、我が国においては知能的に正常な児において、詳細な発達や行動面への影響を評価する有効な方法が現在までのところ開発されていない。このため、本研究班で検討した評価方法は、今後計画している検査の実施結果によっては、他の化学物質の乳幼児への影響の評価にも利用できる有力な方法になり得ると考えられた。
結論
(1)平成14年度に岩手県、千葉県、新潟県、石川県、大阪府、島根県の6府県で採取した母乳中のダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCB12種)濃度は、現在までに測定を終了した26検体の集計では20.3 pgTEQ/gFatであった。(2)各異性体間の相関の検討から、今後のモニタリングでは個々の異性体の動態も併せて検討する必要があると考えられた。(3)第2子出産後の母乳中のダイオキシン類濃度は17.0 pgTEQ/gFatで第1子の25.7 pgTEQ/gFatより33.9%減少していた。(4)甲状腺機能への影響を検討するために47組の第1子、第2子の検査結果を検討したが、何れも甲状腺機能に異常はなく、FT4値のみ第1子、第2子間に有意な正の相関が認められた。(5)ダイオキシン類濃度を測定した母乳を哺乳した児の発達や行動を評価する方法について検討したが、測定は5~7歳に達した時点であれば詳細な変化を評価できると考えられた。

公開日・更新日

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