家庭用品における製品表示と理解度との関連及び誤使用・被害事故との関連の検証に関する研究

文献情報

文献番号
200200952A
報告書区分
総括
研究課題名
家庭用品における製品表示と理解度との関連及び誤使用・被害事故との関連の検証に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(大阪府立病院救急診療科部長)
研究分担者(所属機関)
  • 波多野弥生(日本中毒情報センター大阪中毒110番)
  • 真殿かおり(日本中毒情報センター大阪中毒110番)
  • 今田 優子(日本中毒情報センター大阪中毒110番)
  • 島田 祐子(日本中毒情報センターつくば中毒110番)
  • 遠藤 容子(日本中毒情報センター大阪中毒110番)
  • 前野 良人(大阪府立病院救急診療科)
  • 飯塚富士子(日本中毒情報センターつくば中毒110番)
  • 黒木由美子(日本中毒情報センターつくば中毒110番)
  • 鹿庭 正昭(国立医薬品食品衛生研究所療品部)
  • 中嶋 晴信(大阪府立公衆衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
26,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、家庭用化学製品に含まれる化学物質に起因する中毒や、家庭用ゴム・プラスチック、繊維製品、抗菌製品等に起因する慢性的な健康被害について、発生状況や原因製品-原因化学物質の関連性等を明らかにし、製品表示内容から消費者がこれらの健康被害を予測できるかという観点から、現在の表示内容を分析することである。 最終目的は、得られた結果から家庭用品の表示内容を評価するシステムを構築することと、単なる表示内容のガイドラインではなく、製品表示の作成手順を含むシステムを開発することである。
研究方法
上記研究目的に沿って、今年度は下記、10課題の調査・研究を行う。
1.消費者の製品表示理解度に関するアンケート調査
2.製品表示作成者の危険認識度に関するアンケート調査
3.家庭用化学製品による誤使用・被害事故の実態調査
4.誤使用による被害事故発生商品の製品表示、記載内容の分析と各種関係法律、自主基準等の調査
5.洗剤・洗浄剤に起因する誤使用・被害事故に関する詳細調査
6.家庭用殺虫剤・防虫剤・園芸用品に起因する誤使用・被害事故に関する詳細調査
7.乾燥剤類・化粧品・家庭用雑貨等の誤使用・被害事故に関する詳細調査
8.家庭用品の誤使用・被害事故の発生状況、原因物質と臨床症状、重症度の検討
9.家庭用ゴム・プラスチック・繊維製品に起因するアレルギー性接触皮膚炎等の慢性的な健康障害に関する原因究明及び発生防止のための情報提供手段としての製品表示の評価に関する研究
10.抗菌製品による健康障害の原因究明と防止のための製品表示法の評価に関する研究
結果と考察
結果および考察=1.消費者の製品表示理解度に関するアンケート調査:県立高校の保護者640名を対象とし、問い合わせ時に有症率の高い製品2種(カビ取り剤、家庭用殺虫剤)と誤使用による事故が多い製品2種(ポット用洗浄剤、鮮度保持剤)について、実際に発生した事例と製品表示を示して、事故の発生が予測できるかについて問うアンケート調査を行った。
詳細は分担研究報告書に譲るが、現在の製品表示で十分に健康被害事故が防げると考える人(20~43%)より事故防止は難しいと考える人(48~66%)の方が多かった。事故防止が難しいと考える人の挙げる製品表示の問題点は、記載内容について記載不十分(135件)、具体的な記載でない(46件)などであり、少数ではあるが成分などの専門用語が判りにくい(10件)、実際の健康被害事故などの記載がない(8件)などもあった。表示方法については、文字が小さい(45件)、読む必要性が感じられない(24件)などであった。これらの問題に対する改善策は文字などを工夫して表示を読みやすくする(71件)、健康被害事故の記載をする(34件)、図・絵を効果的に使用する(31件)などであり、消費者の製品表示を読む意識を高める必要があるとする意見も13件あった。今回の結果より、消費者は製品表示にある程度の関心を示すが、誤使用を防ぐための十分な製品情報は得られていないことが判明した。
2.製品表示作成者の危険認識度に関するアンケート調査:家庭用殺虫剤、防虫剤を製造・販売している63社を対象に、製品表示作成担当者の危険認識度、製品表示作成方法と表示の実態をアンケート調査した。回収率は71%で、44社から回答を得た。 製品表示作成担当者は、一般的な健康被害事例は良く認識している(95%)が、自社製品で健康被害事故が発生する可能性の認識は、50%と危険認識度が低かった。さらに、自社製品で健康被害事故が発生した場合に予想される重症度(無症状、外来受診、入院、死亡)の認識は、無症状または受診しない程度が5社(11%)、外来受診まで25社(57%)、入院まで9社(21%)であり、死亡まで起こり得ると考えたのは5社(11%)のみであった。家庭用化学製品の中では毒性が強い成分を使用している殺虫剤・防虫剤に関する調査であったが、担当者の重症度認識は低いことが明らかになった。
製品表示は、ほぼ100%が各業界団体が作成している表示作成自主基準におよび関連法規制に従って記載していると回答した。製品表示を作成する上で利用している基礎資料は、各製品・成分のMSDSが最も多く、44社中39社(89%)であった。次いで、他機関で行った毒性試験が33社(75%)、自社で行った毒性試験が16社(36%)と続き、類似製品の毒性試験や既存の出版物もあった。
製品表示作成に際し、日本中毒情報センター(JPIC)のアドバイスを希望する業者が73%、JPICからの事故状況報告が製品表示に有効であると考えた業者が91%を占め、JPICが関与する製品表示作成システムの必要性が明らかになった。
3.家庭用化学製品による誤使用・被害事故の実態調査:2001年に日本中毒情報センターで把握した家庭用化学製品の被害事故は27,280件で、そのほとんどは乳幼児や高齢者等の認識や判断が困難な状況で発生した事故であった。誤使用による事故と確認できたのは1,792件(6.6%)で、誤使用の多い製品は、漂白剤類(474件)、洗剤・洗浄剤類(407件)、乾燥剤類(214件)、殺虫剤類(199件)、化粧品類(111件)の順であった。これら誤使用の内訳は、①本来と異なる用途に使用した例(用途誤り)、②使用方法が不適切であった例(用法誤り)、③別の薬剤と誤って使用、④薬剤の存在に気づかず使用した例(誤認)などに分類できる。また同じ用法誤りでも“過量使用"、“長時間使用"、“換気不良"、“保護具不適切"、“薬剤混合"、など、事故の大部分は適切な製品表示とその遵守により防止可能と考えられた。この検討で確認できた誤使用による事故1,792件は、家庭用化学製品において「起こりやすい製品」と「起こりやすい事故」を示唆するものであり、事故防止対策を検討するうえで貴重な情報となる。
4.誤使用による被害事故発生商品の製品表示、記載内容の分析と各種関係法律、自主基準等の調査:誤使用・被害事故が発生している製品の各種関係法律(家庭用品品質表示法、薬事法、農薬取締法、毒物及び劇物取締法)および、自主基準(家庭用カビ取り剤・カビ防止剤、酸性又はアルカリ性洗浄剤、家庭用シミ抜き剤、家庭用不快害虫用殺虫剤、家庭園芸農薬等)による家庭用化学製品の表示に関する規制項目、内容について調査した。一方、誤使用による被害事故発生件数の多い製品(漂白剤10製品、ポット用洗浄剤6製品、不快害虫用殺虫剤22製品等)、中毒症状発現率の高い製品(カビ取り剤5製品、トイレ用洗浄剤5製品、クレンザー5製品、殺虫剤5製品等)を中心に、約160製品のラベルを収集し、その記載項目や内容、表示法を検討するとともに、関係法律や自主基準と照合した。自主基準規定項目を満たさない製品がかなり存在し、また項目は存在してもその表示内容が製品ごとに異なっていた。さらに、外箱、添付文書、容器等への直接印刷など表示場所にも問題があった。製品表示と健康被害の発生状況との関連性を追求し、製品表示内容を評価するため、今後はこれらをデータベース化して行く必要がある。
5.洗剤・洗浄剤に起因する誤使用・被害事故に関する詳細調査:2001年に日本中毒情報センターで把握した家庭用洗剤・洗浄剤に起因する3,041件中、誤使用の割合が高く、法律や自主基準のあるカビ取り用洗浄剤とこれらのないポット用洗浄剤について発生状況と製品表示内容を比較した。カビ取り用洗浄剤の製品表示内容は商品間でほぼ統一されていたが、自主基準の存在しないポット用洗浄剤では、製品表示内容に大きなばらつきがあった。また、カビ取り剤では事故件数131件の80%以上にあたる109件が、商品表示に事故防止に関する注意事項が記載されているにもかかわらず、発生したことが判明した。
6.家庭用殺虫剤・防虫剤・園芸用品に起因する誤使用・被害事故に関する詳細調査:2001年に日本中毒情報センターで把握した家庭用殺虫剤類に起因する4,548件の中から衛生害虫または不快害虫用殺虫剤のくん煙剤・全量噴射型エアゾール50件、エアゾール剤146件、うじ殺し剤72件について、事故発生状況と製品表示内容の実態を解析した。試買製品表示には、事故防止に関する注意点がいずれも記載されていた。今後は被害事故発生時に、製品表示を読んだか否か、健康被害が予測出来たか否か、さらに健康被害防止の工夫された製品の有用性や健康被害防止策を問うアンケート調査をprospectiveに実施する。
7.乾燥剤類・化粧品・家庭用雑貨等の誤使用・被害事故に関する詳細調査:2001年の日本中毒情報センターの受信記録から、乾燥剤・鮮度保持剤による事故1,724件と義歯洗浄剤による事故181件を対象に事故の発生状況と製品表示内容や剤型との関係を解析した。乾燥剤類による事故は、5歳以下の小児の誤食例が70%以上を占めるが、成人や高齢者においても年間300件以上の事故が発生しており、その半数は医療機関を受診していた。成人例の多くは封入されていた食品や医薬品そのもの、あるいは食品の調味料と誤認して誤食しており、一部は食品に封入されていた乾燥剤・鮮度保持剤に気づかず調理して誤食した事例もあった。乾燥剤・鮮度保持剤については製品表示の改良よりも、封入されている商品の包装方法等の物理的な改良が事故の減少に直結すると考えられる。
義歯洗浄剤による事故の70%は、高齢者が未使用の錠剤をそのまま誤食して医療機関を受診した事故であった。特定商品での事故発生はなく、事故の発生頻度と市場占有率は相関していた。製剤の外観から医薬品と誤認した事故が発生しており、誤食を注意喚起する表示が個包装に必要で、容易に認識できる体裁とするべきである。
8.家庭用品の誤使用・被害事故による急性中毒例の臨床症状、重症度の検討:2001年の受信記録で何らかの臨床症状を有すると考えられた3456症例と2002年に追跡調査を行い事後に医療機関から調査用紙を回収できた571 例を対象に、その発生状況、原因物質、中毒症状を分析し、5段階評価の重症度評価を行った。誤使用・被害事故に基づく症例は全体の約1/4 で、初診時に症状を認めたのはその約1/3に過ぎない。死亡例を2例認めたが、誤使用・被害事故によるものではなく、重症度は意図的摂取例等に比較して低い。誤使用・被害事故例の重症度は低いが、発生症例数の多い漂白剤類、洗剤・洗浄剤類等への対応が重要である。
9.家庭用ゴム・プラスチック・繊維製品に起因するアレルギー性接触皮膚炎等の慢性的な健康障害に関する原因究明及び発生防止のための情報提供手段としての製品表示の評価に関する研究:今年度はゴム手袋等家庭用ゴム製品を調査対象として、アレルギー性接触皮膚炎等の慢性的な健康被害について調査した。用途では家庭用、医療用、工業用を、材質では天然ゴム、合成ゴムを対比させつつ、製品表示のチェック、消費者へのアンケート調査、メーカーへの問い合わせ等により、健康被害の発生状況、原因究明の現状、消費者における製品表示の理解度等について調査した。その結果、以下のことが判明した。
(1) 天然ゴム製手袋では、遅延型アレルギーであるアレルギー性接触皮膚炎と即時型アレルギーが発生していたが、前者はゴム添加剤のジチオカーバメート系加硫促進剤、p-フェニレンジアミン系老化防止剤が、後者は天然ゴムラテックス由来の水溶性タンパク質が原因化学物質となっていた。
(2)家庭用には医療用や検査用手袋で「使用上の注意」に記載されていたラテックスアレルギーに関する記述(症状、対応策等)がほとんど記載されていなかった。
(3)ゴム添加剤の化学物質等安全データシート(MSDS)は、ゴム業界が既に原因究明結果を取り入れて改訂がなされているが、アレルギー性接触皮膚炎の原因化学物質に関する情報は具体的には記載されておらず、MSDSの改訂が活かされていなかった。
10.抗菌製品による健康障害の原因究明と防止の為の製品表示法の評価に関する研究:抗菌防臭、除菌、消臭、衛生、防カビ、防虫、防ダニ加工などと表示されている抗菌製品を対象に製品表示の店頭調査を実施した。調査は、系列の異なる大手スーパー2店舗(ダイエー、イズミヤ)の定点観測を中心に行った。調査商品数は869商品で、各製品の表示をデジタルカメラで撮影し、データベース化するとともに、商品名、製品分類、製造者、販売者、主組成、組成表示、ブランドSEK番号、薬剤分類、使用薬剤等の項目は文字入力し、作成した抗菌防臭加工データベースに蓄積した。今年度の調査結果と、過去10年間の調査結果を比較し、ほとんど進展のないことが判明した。
一方、製品表示の元となる化学物質等安全データシート(MSDS)について、今年度は主として繊維製品を製造している関西地区のメーカー92社を対象に、MSDS取り扱い方法のアンケート調査と、各社の保有しているMSDSの提供を依頼した。しかしアンケートの回収率は低く(34社)、MSDSの提供はさらに低率であった(14社)。このことは、製品の安全性確保への取り組みが不十分な企業が多いものと考えられる。
結論
家庭用化学製品に含まれる化学物質に起因する中毒や、家庭用ゴム・プラスチック、繊維製品、抗菌製品等に起因する慢性的な健康被害について、発生状況や原因製品-原因化学物質の関連性等を明らかにし、製品表示内容から消費者がこれらの健康被害を予測できるかという観点から、種々の調査・研究を行った。その結果、以下のことが判明した。
誤使用による家庭用品の健康被害では、重症例は少ないが発生頻度は極めて高い。家庭用品品質表示法の指定品目は限られており、自主基準を含めても品目数は未だ不十分である。また、品質表示基準のない家庭用化学製品はもちろん、これが存在する製品についても、表示項目・表示内容の吟味とその表現方法、表示場所、剤型や包装の工夫が必要である。
製品表示作成者の危険認識度は低く、これを高めること、製品表示の作成に際しては基礎資料として用いられている化学物質等安全データシート(MSDS)や既存の出版物を十分に反映させるとともに、日本中毒情報センターが把握している事故発生状況や臨床症状等を参考にすべきである。
今後の課題は、単なる表示内容のガイドラインではなく、製品表示の作成手順を含むシステムを開発することと、家庭用品の表示内容を登録・評価するシステムを構築することである。

公開日・更新日

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