アルミニウムなど金属とアルツハイマー病発症機構との因果関係に関する研究 (H14ー食品・化学ー029)

文献情報

文献番号
200200949A
報告書区分
総括
研究課題名
アルミニウムなど金属とアルツハイマー病発症機構との因果関係に関する研究 (H14ー食品・化学ー029)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
武田 雅俊(大阪大学大学院医学系研究科ポストゲノム疾患解析学講座プロセシング異常疾患分野(精神医学))
研究分担者(所属機関)
  • 大河内正康(大阪大学大学院医学系研究科ポストゲノム疾患解析学講座 プロセシング異常疾患分野(精神医学)
  • 飯塚舜介(鳥取大学医学部医学科医療環境学講座)
  • 遠山正彌(大阪大学大学院医学系研究科ポストゲノム疾患解析学講座 プロセシング機能形態学分野(解剖学第二講座))
  • 高島明彦(理化学研究所 脳科学総合研究センターアルツハイマー病研究チーム)
  • 橋本亮太(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第3部)
  • 5.研究成果の概要※ 平成14年度の研究成果(目的、方法、結果(年度末までの予定を含む。)等)について、4000字以内(目安として全角40字×100行以内)にまとめてください。)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
36,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遠山らはアルミニウムとストレス応答に関する研究-異常スプライシング因子誘導機構について検討した。アルミニウムとアルツハイマー病の因果関係を明らかにする目的でアルミニウムによる影響をストレス応答を指標に分子生物学的方法によって解析した。これまでに、アルミニウムは小胞体ストレストランスデューサー群(IRE1, ATF6,PERK)の活性化を阻害して小胞体ストレス(ツニカマイシン、カルシウムイオノフォア等刺激)時、小胞体分子シャペロンGRP78発現誘導の減弱あるいはタンパク質翻訳抑制の減弱により、小胞体ストレスに対する感受性を増強させていることを明らかにした。さらに詳細な解析から、アルミニウムは培養細胞の生育や機能に全く影響を及ぼさない用量(2.5,25μM)でHigh Mobility Groupタンパク質-A1a(HMG-A1a)の発現を上昇させ、アルツハイマー病関連遺伝子プレセニリン2(PS2)のエクソン5を欠く異常スプライシング変種(PS2V)を産生させた。一方、我々は以前から孤発性アルツハイマー病患者の脳内において、PS2Vが高頻度に発現していること、PS2Vを発現しているヒト神経芽細胞腫(SK-N-SH細胞)は各種小胞体ストレスに対し脆弱で、さらにその培養液中で有意なAβの上昇が認められることを報告してきた。従って、アルミニウムはPS2V産生機構に影響を与え、孤発性アルツハイマー病の発症に関与する可能性が示唆される。そこで現在、アルミニウムが上記PS2Vを産生させることが明らかとなったHMGA1aをどのような機構で誘導するのか、また、アルミニウム以外の金属、酸化ストレス全般に認められる現象なのか?さらには、アルミニウムによって誘導され産生されたPS2Vが実際に小胞体ストレスに対する感受性を増強させるかどうかについて、即ち低濃度持続的アルミニウム負荷が細胞死に反映されているか否かについて検討した。
武田らはPS1ノックインマウス海馬スライスを用いたアルミニウムの神経毒性に対する電気生理学的な検討を行った。これまでに、家族性アルツハイマー病(FAD)の点突然変異としてプレセニリン1(PS1)遺伝子のI213T変異を報告し、かつこの変異を導入したノックインマウスの作製に成功した。このI213Tノックインマウスでは脳内にアミロイドβ蛋白(Aβ)42を遺伝子量依存性に発現することを確認しており、PS1変異によるAβ前駆体蛋白(APP)のプロセシング異常を研究する上で有用なモデル動物と考えているが、その機能的な特徴については未検討であった。ADの研究では従来の神経細胞死の機構の解明を目的とした構造的な研究から、大脳の萎縮が明らかでない極初期から出現する記憶障害・認知障害に着目しシナプス機構の障害として理解しようとする新たな流れが近年はみられ、電気生理学的手法を用いた機能的な研究が盛んになっている。そしてこのシナプス障害は、アミロイドβ蛋白(Aβ)42の2量体・3量体など乏量体 oligomerの直接的影響によることが、主として外因的に加えたAβ42と海馬スライスを用いた研究により次第に明らかにされてきた。今回、内因性のAβ42を過剰に発現するI213Tノックインマウスを用いて、これまでの外因性にAβ42を加えた研究に比較してより生理的な条件下で、Aβ42のシナプス活動に及ぼす影響を検討すると同時に、アルミニウムを加えた際にみられる影響についても検討した。ノックインマウス海馬のin vitroスライス(厚さ 450μm)を作製し、細胞外記録法によりCA1領域の錐体細胞層の集合活動電位(population spike)を測定し、さらに高頻度刺激を行ってLTPの発現の程度を測定し比較検討した。その結果、Aβ42発現量が最も多いホモ動物ではLTPの減弱がもっとも高度にみられ、ヘテロ動物ではホモ動物より程度は弱いが対照に比較して有意にLTPの減弱が認められた。次に、同様の条件下で海馬スライスを低、中、高濃度(10μM、25μM、100μM)のアルミニウム含溶液で30分間灌流し、LTPを測定した。その結果、全てのスライスで中濃度以上のアルミニウムはLTPを有意に阻害し、その阻害効果は非アルミニウム存在下と同様に変異遺伝子アレルの量に依存的に増加した。したがってアルミニウムのシナプス毒性は一定濃度以上で起こり、またAβ42単独のシナプス毒性を増強する現象がみられた。アルミニウムはカルシウムチャネルの阻害剤であることが知られているが、Aβ42がいかなる機序をもってシナプス活動を阻害するかは明らかではないが、毒性を有するのは二量体、三量体などの可溶性Aβ42であることがわかっている。我々のノックインマウスでは脳内総Aβ42量は既に測定しているが、可溶性分画の定量は未施行であるため、次の課題としてこれを測定し、さらに細胞内カルシウム濃度およびグルタミン酸濃度の動態と併せて検討を行う予定である。
飯塚らはアストロサイトによるアルミニウムアミノ酸錯体の取り込みと毒性について検討した。血液中ではFe運搬体であるトランスフェリンと結合しているAlが90%をしめているといわれる。脳でも同様である可能性もあるが,(2)細胞外液中ではAl-citrateが主成分である、(3)血液脳関門を通過するのはAl-citrateである、(4)glutamateと結合したAlが活性種であるなどの説もある。そこで外部よりの異物に対応するグリア系の培養細胞を用いて,Al-アミノ酸錯体の取り込みと毒性の実験を行った。Al-glycine, Al-serine はアストロサイトによる取り込みが見られた。glutamine synthetaseの特異的阻害剤であるMSO(methione sulfoximine)の存在下では,Al-glycine, Al-serineに加えて,Al-glutamateが顕著に取り込まれることが示された。Alの取り込みは細胞のアミノ酸代謝の影響を受けていることを示している。Al-アミノ酸錯体は1.0及び0.1mMの濃度でアストロサイトにアポトーシスを引き起こすことが示された。MSO存在下でも同様にアポトーシスが観測された。僅かのAl刺激によって細胞はアポトーシスを起こすが,量が多い場合には,異なった機構がはたらくことが示唆された。これらの結果はAlのアミノ酸錯体がAlの取り込みと,その後の毒性の発現にかかわっていることを強く示唆する。Alのアミノ酸錯体は医薬として用いられているものもある。引き続き中枢神経系への影響を調べる必要があると考えられる。
大河内らは家族性アルツハイマー病発症型突然変異を導入した培養細胞系におけるアルミニウムの細胞毒性や細胞内軸索輸送系に与える影響について検討した。プレセニリン変異などアルツハイマー発症型の突然変異がどのような側面でアルミニウムの細胞障害毒性に関与するかを検討した。プレセニリンの突然変異を導入したhuman neuroblastoma細胞(SH-SY5Y)に対してアルミニウム暴露を行い、細胞骨格蛋白のneurofilament-Lおよび細胞内輸送系蛋白のsynaptophysin、kinesin-1の抗体を用いて二重染色を行った。250、500μM、1mMのアルミニウム濃度を1時間暴露させ4日後に免疫染色を行った。Propidium Iodide染色およびLIVE & DEADテストにおいてはアポトーシスなどの細胞死での有意な差は認められなかった。輸送系蛋白に対する免疫染色の結果、プレセニリン変異がアルミニウムの輸送障害を促進する可能性が示唆された。またAPPの突然変異を導入した細胞培養系ではアルミニウム1mMおよび2mMの高濃度でAPP変異細胞系で細胞死が有意に増加していた。今後はどのようなメカニズムで輸送系が障害されるかの検討を続けるとともに、リチウムなど細胞保護的な薬剤やNGF、IGFなどの成長因子を投与する実験を計画している。
高島は金属イオンのアミロイド凝集とその毒性発現における役割について検討した。アルツハイマー病の脳で見られる不溶性沈着物の形成にAlなどの金属イオンが関与することが示唆されている。老人斑で見られるs-シート構造を持つアミロイド会合体を定量するためチオフラビンTを用いてアミロイドの会合に与える金属イオンの効果を調べた。その結果は既報通り金属イオンの存在はアミロイドの会合を促進するのだが、s-シート構造を持つアミロイド会合はZnやCuによって減少することが明らかになった。さらにZnの存在はAsのs-会合を阻止するためs-アミロイドの細胞毒性を減弱した。Cuの存在はZnに比べて細胞毒性の阻止効果は少なかった。これはCu-sアミロイド結合による活性酸素発生によるものと考えられた。これらのことから、少なくとも金属イオンは毒性を示す繊維化s-アミロイド形成には関与しないことが示された。
今年度より参加する橋本はアルミニウムによるアセチルコリンの分泌に対する影響の検討を開始する。アルツハイマー病では、アセチルコリン系の異常が認められており、その結果コリナージックニューロンにおけるアセチルコリンの産生が低下していると考えられている。現在、有効であるアルツハイマー病の治療薬であるタクリンは、アセチルコリン分解酵素の阻害薬でありアルツハイマー病の病態にアセチルコリンの分泌が重要な役割を果たしていると考えられる。今年度は線条体や中隔野のコリナージックニューロンを培養し、アセチルコリンの放出系を確立し、次にアルミニウムのアセチルコリン放出に対する影響とそのメカニズムを検討する。


研究方法
結果と考察
結論

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