ダイオキシン類の毒性発現機構の解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200946A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の毒性発現機構の解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山下 敬介(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 解剖学・発生生物学研)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野雅元(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 免疫学研究室)
  • 横崎恭之(国立療養所 広島病院 呼吸器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は肝臓酵素誘導作用、生殖発生毒性、免疫毒性などさまざまな毒性を有する。本研究は、ダイオキシン類の肝臓への影響・発生毒性・雄性生殖毒性・神経毒性に焦点を絞り、これらの毒性発現機序について明らかにしようとするものである。ダイオキシンはダイオキシン受容体(別名:アリール炭化水素受容体、以下AhRと略)を介して毒性を発現すると考えられている。ダイオキシン類の毒性発現に対するAhRの関与の有無について検討することも本研究の目的である。研究の結果、ダイオキシンは抗原提示細胞である樹状細胞に働きかけて、アレルギー疾患・アトピー疾患誘発のリスクを増加させることが明らかとなった。
研究方法
マウスを用いて研究を進めた。マウスの系統はダイオキシンに対する感受性が最も高いとされる系統のC57BL/6Jを用いた。AhRの関与を見るため、AhR遺伝子欠損マウス(AhR-/-)マウス(Mimura et al., 1997)を使用した。ダイオキシンは、ダイオキシン類のうち最も毒性が強いとされる、2,3,7,8四塩化ジベンンゾパラジオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin, 以下TCDDと略、Cambridge IsotopeLaboratories Japan, CIL Japan、製品番号 ED-901)をコーン油を溶媒として溶解した。溶媒投与(5,000μl/kg体重)を対照群とした。
5週齢の雄マウスを購入し、飼育環境に慣らすため、1週間飼育した。6週齢で、マウスにTCDDを40μg/kg体重の割合で1回強制経口投与した。投与後7日でマウスをネンブタール深麻酔により屠殺した。AhR遺伝子欠損マウスにも同量のTCDDを投与して7日後に屠殺し、AhRの関与を見た。
(倫理面への配慮)実験はヒトを対象としないので、倫理問題は生じない。また、実験動物はマウスを使用した。ヘルシンキ条約に基づき、動物は愛護的に扱い、十分な麻酔下にて屠殺、あるいは頚椎脱臼により屠殺した。
結果と考察
抗原提示細胞への影響(樹状細胞の分離と表面抗原)
樹状細胞(DC, dendritic cells)を他の細胞と区別するため、一般的にDCのマーカーとして用いられているCD11cとDEC205に対するFITC標識抗体を用いて組織染色を行った。その結果、両抗原とも良好な染色像を示した。さらにCD11cに染色されるDCのアクチン線維を調べたところ、細胞内表層に存在するストレスファイバーの存在も明確に観察され、細胞の形態も細胞骨格も正常に保たれていることが確認できた。
TCDD投与1週後のマウス脾臓からDCを分離し、その細胞数と活性化表面マーカー群の変化を調べた。その結果、脾細胞の総数は溶媒投与対照群では88.00×106、TCDD投与群では83.33×106であるが、樹状細胞数に関しては溶媒投与対照群では 0.40×106、TCDD投与群では0.17×106となり、投与群では対照群の約40%までの樹状細胞数の低下が認められた。
また表面マーカーに関しては、CD11c陽性細胞中のCD80, CD24の増加が認められた。したがってTCDD投与によりDCの総細胞数は低下するもののこれらの細胞は活性化されており、抗原提示能が亢進していることが判った。
考察
樹状細胞は他のB細胞やマクロフアージに比べて強力な抗原提示細胞であり、生体内の様々な組織に分布し、免疫応答の制御に関与している。未成熟な樹状細胞は多様な食作用機能を有し、末梢の組織内で抗原を取り込む。異物の侵入に伴う炎症性の刺激によりリンパ節への移動が促進され成熟した樹状細胞は、T細胞を活性化し、相互作用により強力な免疫応答を引き起こす。リンパ組織に存在する成熟樹状細胞は、高レベルのMHCクラスIおよびクラスII分子、補助刺激因子B7.1, B7.2(CD80, CD86)および接着分子ICAM-1, ICAM-2, LFA-1, LFA-3を発現して、ナイーブT細胞を活性化する。本研究において、ダイオキシンを投与したマウスの末梢樹状細胞は、CD80などの補助刺激因子の発現のみならず、T細胞上に発現するCD40リガンドと結合するCD40や、heat stable antigenであるCD24を高発現していた。すなわち活性化状態にある成熟した樹状細胞のT細胞への抗原提示能が亢進し、過剰な免疫反応によるアレルギー疾患やアトピー疾患へと導かれる可能性が考えられた。
参考論文
Mimura J, Yamashita K, Nakamura K, Morita M, Takagi TN, Nakao K, Ema M,
Sogawa K, Yasuda M, Katsuki M, and Fujii-Kuriyama Y (1997) Loss of
teratogenic response to 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) in mice
lacking the Ah (dioxin) receptor.
Genes to Cells 2: 645-654.
健康危険情報
今回の実験はマウスを用いた実験で、TCDDの暴露用量も高く、得られた結果を直ちにヒトへ外挿することはできない。健康危険情報(国民の生命、健康に重大な影響を及ぼす情報)として、厚生労働省に報告すべき事柄はない。
研究発表
1.論文発表
なし。本年度は期間の大半を実験に費やした。
2.学会発表
なし。
知的財産権の出願・登録状況(予定を含む)
1.特許取得:なし
2.実用新案登録:なし
3.その他:なし
結論
研究の結果、ダイオキシンは抗原提示細胞である樹状細胞に働きかけて、アレルギー疾患・アトピー疾患誘発のリスクを増加させることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-