内因性リガンドの存在を前提とするダイオキシンリスクの再評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200944A
報告書区分
総括
研究課題名
内因性リガンドの存在を前提とするダイオキシンリスクの再評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
関澤 純(国立医薬品食品研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野純(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 江馬真(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 鈴木和博(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 松田知成(京都大学)
  • 加藤茂明(東京大学)
  • 北村繁幸(広島大学)
  • 佐伯憲一(名古屋市立大学)
  • 有薗幸司(熊本県立大学)
  • 安田峯生(広島国際大学)
  • 宮入伸一(日本大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
33,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンによる健康リスクは国民の関心を呼び、行政施策に大きなインパクトを与えている。世界保健機関は2003年にダイオキシンの耐容摂取量の再評価を予定し、またFAO/WHO合同の食品添加物専門家委員会や欧州連合の食品科学委員会はすでに耐容摂取量の見直しを行い、食品中のダイオキシン残留基準を決めようとしている。わが国でも国際的な安全性評価の動向を参考にしたリスクの再評価を含む対応が必要とされる。ダイオキシンの毒性はアリルハイドロカーボン受容体(AhR)経由で発現することはほぼ確立しているが、生体内におけるAhRの生理的な役割はまだ十分解明されていない。われわれはダイオキシンに比べはるかに低濃度でAhR経由の遺伝子発現活性を示す内在性リガンドのインディルビンを見いだし、このものとAhRの生理的な役割、AhR経由反応におけるインディルビンとダイオキシンとの相互作用について解明し、インディルビンがダイオキシンによるAhR経由の有害作用を抑制する可能性について検討する。本研究では、人と動物の間でのダイオキシン有害影響の種差の解明を含め、ダイオキシンのリスク再評価に重要な新知見と新たな考え方を提供しようと考える。
研究方法
インディルビンの高感度、特異的な分析法と純度の良い合成法を確立する。細胞、動物のレベルでインディルビンによる薬物代謝酵素系を含むAhR経由の遺伝子発現、細胞増殖と分化制御、インディルビンの細胞と動物体内での代謝・分解などについて検討する。ダイオキシンと併用投与によりCYP誘導抑制、生殖・発生影響抑制の可能性を検討する。現在の低濃度ダイオキシン曝露時によるリスクが同時に存在する内因性リガンドを考慮に入れた時に、ダイオキシンのみを考察した時と異なる可能性を視野に入れダイオキシン耐容摂取量の再評価への参考データをまとめる。
結果と考察
初年度の研究成果はつぎのとおり。(1)ダイオキシンの健康リスク評価におけるキーとなる研究および有害性評価の内容を整理し、AhRおよび関連要因の生理的な役割についての最近の知見を整理し、AhRの細胞周期制御への関わりや、AhRを経由しないダイオキシンの有害影響の可能性についても検討した。(2)研究材料であるインディルビンとその誘導体を高純度で必要量合成することができた。(3)質量分析および免疫抗体反応によるインディルビンとその誘導体について特異性の高い高感度な分析法を確立した。すなわちインディルビン骨格を有する新規ハプテンを合成し特異抗体を作成、酵素イムノアッセイ系を構築する一方、安定同位体標識インディルビンを合成しGC-MSにおける測定条件を検討した。(4)インディルビンをマウスに経口または腹腔内投与すると、用量に依存して薬物代謝酵素活性が誘導されたが、投与を停止すると誘導は3日でほとんど消失し代謝・分解の早いことが示唆された。また本誘導がAhRを介していることをAhR欠損マウスを用いて確認した。(5)妊娠マウスにインディルビン100 mg/kgを強制経口投与した後、ダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)を5、10、20 mg/kg強制経口投与し、胎児の口蓋裂及び水腎症を調べたが、調べた条件下では現在のところインディルビンの顕著な修飾作用は認められていない。(6)インディルビンがヒト肝がん細胞HepG2において、きわめて低濃度でCYP1A1やCYP1A2を誘導し、さらにCYP1A1によってそれ自身、代謝・
分解されフィードバック制御の対象となっていることを明らかにした。(7)野生型マウス由来の胚繊維芽細胞を用いてin vitro曝露実験を行ったところ、TCDD, TCDFと共通する発現誘導遺伝子に加え、多数のインディルビン特異的な発現誘導遺伝子を得、インディルビンはAhRを介した生理活性を有すること、また生理的リガンドとしてTCDD, TCDFとは異なる活性機序を有していることが示唆された。ヒト白血病細胞培養細胞を使いDNAマイクロアレイ解析を行い、インディルビンによって誘導される遺伝子としてCYP1A1, IGFBP1などを同定した。インディルビンはTCDDは似通った遺伝子発現パターンを示した。(8)白血球の増殖・分化への影響の検討を進め、ヒト白血病細胞株に対して、インディルビンとTCDDは単独では高濃度でも増殖、分化に影響を及ぼさなかったが、インディルビンをあるサイトカインと低濃度で併用曝露すると細胞増殖を抑えアポトーシスや分化を誘導した。(9)ヒト前骨髄性白血病細胞HL-60を用い好中球への分化を見る系を用いて、1mMのインディルビンが活性酸素産生能を、有意に(25%)上昇させる効果が見られた。(10)インディルビンの作用メカニズム検討のため、インディルビンのハロゲン誘導体を合成し、極性・分子サイズ増大効果並びにπ電子系への電子吸引効果とAhRとの親和性を調べた。インディルビンの誘導体をベンズピレンと併用投与した時に、ベンズピレンの小核誘発性を阻害しAhRの部分アゴニストとしてCYP1A1誘導阻害による抗変異原活性が示唆された。(11)エストロゲン受容体の新規転写共役因子複合体の同定により、エストロゲン依存性乳癌の増殖機構の一端をはじめて明らかにすることができた。初年度の成果を踏まえて、2年度は以下の課題をとりあげる。(1)インディルビンの動物とヒトの体内における起源、分布と体内動態の検討、および特異抗体を用い臓器また時期特異的な分布について解析する。(2)細胞レベルおよび動物を用いた研究で、インディルビンとダイオキシンによるAhR の転写制御作用への影響や細胞の増殖・分化の制御などの生理的な役割について解明する。(3)初年度の試験成績では、ダイオキシンと併用投与によりCYP誘導抑制、生殖・発生影響抑制の可能性を検討したが、検討した条件下ではダイオキシンとの競合作用による抑制作用は見られなかったが、発生毒性への影響をさらに詳細に検討する。(4)一般市民における極く低濃度のダイオキシン曝露時のリスクが同時に存在する内因性リガンドを考慮に入れた時に、ダイオキシンのみを単独に考察した時と異なる可能性を視野に入れ、ダイオキシン耐容摂取量の再評価への参考データをまとめる。
結論
初年度の研究では、ダイオキシンリスク評価根拠データと判断基準、およびAhRと関連要因の生理的な役割に関する最近の知見を整理した。またインディルビンの分析法を確立し、CYP誘導や体内での分解、およびダイオキシンとの相互作用について、遺伝子、細胞、動物のレベルでそれぞれ興味ある基礎的なデータを得たので、2年度は、人と動物の体内におけるAhRとインディルビンの時期および臓器特異的な発現と、細胞の増殖・分化の制御などの生理的な役割について検討し、人と動物の間のダイオキシンによる有害影響の発現の機作および種差解明などに向けて研究を進める。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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