ダイオキシン類の体内動態及び生体障害性の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200200942A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の体内動態及び生体障害性の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
久保田 俊一郎(東京大学大学院医学系研究科代謝生理化学)
研究分担者(所属機関)
  • 福里利夫(群馬大学)
  • 野水基義(北海道大学)
  • 浅岡一雄(京都大学)
  • 村田宣夫(埼玉医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
63,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類による健康への影響が、親世代から次世代へ及ぶことが懸念されている。平成10年に、ダイオキシン類のTDIが、4pg/kg/dayと設定された。これは、齧歯類の実験結果を参考にして設定されたため、より妥当なTDIの設定およびより有効なダイオキシン対策をたてることを目的として、ヒトに最も近縁の霊長類であるアカゲザルを用いて本研究を遂行してきている。アカゲザルを用いて、母体に2,3, 7,8TCDD(30, 300 ng/kg)を皮下投与し母体および胎児での体内動態、さらに、F1世代の成長、生殖、神経発達、発癌を長期にわたって解析しつつある。TCDD投与群は、胎児死亡及び流産、死産および生後死亡が多いという結果を得た。これらの結果を確認、さらにその原因を明らかにする目的で、F1b児を誕生させた。同時に、TCDDによる生体への影響を明らかにするため、TCDD投与アカゲザルの各臓器での遺伝子の変化を解析した。
研究方法
1. ダイオキシンの調整および投与  TCDDは、Wellington Lab.あるいは関東化学で30及び300 ng/mLに調製済みの2, 3, 7, 8-TCDDを使用した.投与量は、0, 30 ng/ml (0.1 ml/kg), 300ng/ml (1ml/kg)で、サルの背部皮下に投与した。対照群は、トルエン/DMSO (1:2 v/v) 1ml/kgをTCDD投与群と同様の方法で背部皮下に投与した。2. 試験動物 アカゲザル(年齢:5~7歳,体重:4~6 kg)は、China National Scientific Instruments &Materials Import/Export Corporationから購入し、株式会社新日本科学で検疫、予備飼育、交配を行った。5?7歳のメスアカゲザルを成熟オスと3日間同居させて交配を行った。同居期間中の中間日を0日として、妊娠18?19日に、超音波診断により妊娠を確認した。3. 投与方法および期間 0, 30ng/ml (0.1 ml/kg), 300ng/ml (1ml/kg)の各群用の妊娠動物(F1aそれぞれ21,20, 20匹)が得られた。F1bは、それぞれ、(14,15,15匹)が得られた。追加として、300ng群9匹を加えた。妊娠20日にTCDDを投与し,初回投与後30日毎に初回投与量の5%量を追加投与した.投与量及び投与容量は初回は30 ng/kg;0.1 mL/kg,300 ng/kg;1 mL/kg,2回目以降;1.5 ng/kg;0.05 mL/kg,15 ng/kg;0.5 mL/kg,また対照群にはトルエン/DMSO(1:2,v/v)混合液を1 mL/kgの投与容量で背部皮下に投与した.妊娠動物は、自然分娩させて、児(F1)を哺育させた。4.出生児 生後に、外生殖器の観察に加えて、肛門‐生殖器間距離及び陰茎長を測定した。実験結果の確認を、さらに例数を増やして解析するため、F1a離乳後のメスを再交配、妊娠させ、TCDDの投与を行い、 F1bを得て、F1aと同様に解析した。5. 病理組織学的解析 生後死亡した児の主要臓器を病理組織学的に解析した。6. 血漿中TCDD濃度測定 妊娠80日、140日、分娩後90日、180日、その後、120日毎に、採血し、大腿静脈からヘパリン採血し、血漿に分離後、島津テクノリサーチ分析部にてガスクロマトグラフィー質量分析法にて分析した。
結果と考察
F1aとF1bの流産、死産、生後死の状況(流死産+生後死)は、以下の結果であった。F1a(追加分9匹を加えた)では、コントロール21匹中9匹、30ng/kg投与群20匹中8匹、300ng/kg投与群29匹中19匹と300ng/kg群で有意に多かった。F1bでは、コントロール14匹中6匹、 30ng/kg投与群15匹中8匹、300ng/kg投与群15匹中6匹であり、F1a とは異なる結果であった。その理由は明かでないが、今後の遺伝子、タンパク質解析などで明らかにしていく。
正常分娩例と胎児死亡・流産例での母体血漿中TCDD濃度を測定し(妊娠80日、140日、分娩90日)解析した。(分娩90日は正常のみ)
コントロール群ではいずれも、検出限界以下(ND)であった。妊娠80日での、正常分娩例の母体血漿中TCDD濃度は、30ng/kg投与群で、0.15~0.72pg/g wetで、300ng/kg 投与群では、1.9~4.5ng/kgであった。一方、胎児死亡・流産例では、30ng/kg投与群で、0.29~0.41pg/g wetで、300ng/kg 投与群では、6.3~8.6ng/kgであった。また、妊娠140日での、正常分娩例の母体血漿中TCDD濃度は、30ng/kg投与群で、0.19~0.65pg/g wetで、300ng/kg 投与群では、1.6~2.8ng/kgであった。一方、胎児死亡・流産例では、30ng/kg投与群で、0.25~0.30pg/g wetで、300ng/kg 投与群では、7.0ng/kgであった。これらの結果から、妊娠80日と140日でのTCDD血漿中濃度は、必ずしも、胎児死亡・流産とパラレルであるとは言えない。
F1死亡例の病理組織学的解析を行った。腎臓に間質性腎炎の所見、肝臓にaltered fociの所見が見られた。前者は、死因と考えられる。
TCDD投与後49日目の乳腺、肝臓、脳、皮膚、膵臓、腎臓を用いてCYP1A1の変化をmRNAレベルで解析した。30ng/kg, 300ng/kg投与により乳腺、皮膚などで顕著な変化を認めた。また、ヒト遺伝子をプローブとしてTCDDで変動する遺伝子を解析したところ、30ng/kgと300ng/kg投与で変化する遺伝子の増加、減少、不変の組み合わせで、8つのパターンに分類することが出来た。未同定の遺伝子が多いが、アポトーシス関連遺伝子、転写因子などが含まれている。遺伝子を同定する解析を引き続き行っている。
TCDD(300ng/kg)投与群(F1a)で、生後1日のオス児の肛門-陰茎基部間距離平均値に軽度の短縮が認められたが、F1bでは、みられなかった。
結論
F1aでTCDD投与群(300ng/kg)に死亡例、流産、死産が多いことが判明した。F1bでは、その傾向は見られなかった。理由は明かでないが、今後の解析で明らかにしていく。2例の生後死亡例の原因に関しては、腎臓に病理的異常が見られたため、腎臓機能不全によると考えられたが、その他の死亡、流産、死産の原因に関しては明らかでない。TCDD投与により、乳腺、肝臓などで、アポトーシス関連遺伝子、転写因子遺伝子など、多くの遺伝子変化を確認した。また、肝臓にaltered fociが見られたことから、TCDDによる発癌の可能性が高く、詳細に解析中である。遺伝子解析の結果から、ヒトとサルの遺伝子のホモロジーは、96%で(ヒトとマウスの遺伝子のホモロジーは80%)TCDDの影響をマウスではなく、サルで行っている本研究の大きな意義が裏付けられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-