内分泌かく乱物質と大豆等既存食品の発育・癌化及び内分泌かく乱作用の比較

文献情報

文献番号
200200934A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質と大豆等既存食品の発育・癌化及び内分泌かく乱作用の比較
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
螺良 愛郎(関西医科大学病理学第二講座)
研究分担者(所属機関)
  • 堀伸二郎(大阪府立公衆衛生研究所食品化学課)
  • 山田久夫(関西医科大学解剖学第一講座)
  • 西山利正(関西医科大学公衆衛生学講座)
  • 今井俊介(奈良県保健環境研究センター)
  • 茶山和敏(静岡大学農学部応用生物化学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々が食品として摂取するもののなかには天然エストロゲンとしてGenisteinやResveratrolといったPhytoestrogen、あるいはZearalenoneといったMycoestrogenが存在し、食品用器材には内分泌かく乱作用を有するBisphenol Aといった合成エストロゲンが使用されており、食品中に混入するおそれがある。内分泌かく乱物質は、成体においては可逆的に作用するが、機能・形態形成期では不可逆的に作用して重大な結果を招来する可能性がある。よって、これら食品関連内分泌かく乱物質のエストロゲン活性を比較・同定し、実験動物における周生期暴露実験で生殖器、乳腺あるいは神経系への影響をみた。乳仔期の内分泌かく乱物質の母仔移行は乳汁を介する。よって、乳汁中の内分泌かく乱物質の定量のため高感度分析法を確立した。併せて、我々の生活環境における食品関連内分泌かく乱物質として、輸入果物に防カビ剤として使用されており、内分泌かく乱作用が疑われている化学物質の残留性をみた。
研究方法
食品関連内分泌かく乱物質のエストロゲン様作用評価を以下の手法で行った。酵母Two-Hybrid法はER-GAL4DBD(Estrogen receptor a-GAL4 DNA binding domain fusion protein)とTIF2-GAL4AD(TIF2-GAL4 activation domain fusion protein)とを発現させた酵母を用いた。被験化学物質を添加し、OD595を測定した。o-nitrophenyl-b-D-galactopyranosideを加え、OD410及びOD570を測定し、Millerの式に基づき、生成したb-ガラクトシダーゼ活性を算出した。また、子宮重量試験はICRマウスの卵巣を除去し、1ヶ月後から被験化学物質をオリーブ油に溶かして各投与群10匹づつに3日間皮下投与した。投与後、体重および子宮の湿重量と内腔液除去後の重量を計測した。ラットを用いた食品関連内分泌かく乱物質の周生期暴露実験は15-19日齢雌Sprague-Dawleyラットに対し、被験化学物質を連日皮下投与し、無処置非投与群と雌性生殖器や乳腺につき、機能・形態変化を比較した。さらに、妊娠15-19日の母体に連日被験物質を皮下投与し、雌雄乳仔に対し上記検索に加え、神経系(性的異型核)への影響につき観察した。なお、食餌中に混入するXenoestrogenを最小にすべく、いずれの動物もNIH-07PLD(オリエンタル酵母)を給餌した。また、乳汁中の内分泌かく乱物質の検出として、マウスの乳汁0.1~0.5 gから高速液体クロマトグラフ(HPLC)による高感度分析法を確立した。併せて、市販の輸入柑橘類について防カビ剤の残留の実態を把握するため、防カビ剤として用いられているオルトフェニルフェノール(OPP)、ジフェニール(DP)、チアベンダゾール(TBZ)について、逆相高速液体クロマトグラフィーにて定量を行った。
結果と考察
食品関連化学物質のエストロゲン様作用を酵母Two-Hybrid法でみたところ、Estradiol-17bの10%作用濃度(EC10)は、8.2 ´ 10-10 Mであったのに対し、食品関連化学物質として測定したなかで、Zearalenoneが最も強い女性ホルモン様作用を示した(EC10:1.7 ´ 10-7 M)。Genisteinには作用が認められたが(EC10:2.7 ´ 10-6 M)、構造の類似した Daizeinには、作用が認められなかった。なお、Resveratrolには作用はみなかったが、Bisphenol A(EC10:2.3 ´ 10-5 M))にはエストロゲン様作用をみた。一方、子宮重量法では、Estradiol-17bおよびDESは100 ng/kg/dayの投与でコントロール群と比較して有意な子宮肥大が見られた。これに対し、Bisphenol A、Resveratrol
、Genisteinといった植物性化学物質のエストロゲン活性はDESおよびEstradiol-17bと比較して非常に弱く、Bisphenol Aで約1/10万、Resveratrolで約1/5万、Genisteinは約1/50万以下である。以上両試験の結果、Genistein、Resveratrol、ZearalenoneやBisphenol Aにはエストロゲン活性があり、Estradiol-17bやDESに比して非常に微弱ではあるが、植物由来の天然化学物質は合成化学物質よりむしろ強いエストロゲン活性を有する。食品関連内分泌かく乱物質のラット周生期暴露実験として、妊娠15-19日、あるいは生後15-19日に連日Resveratrol、ZearalenoneあるいはGenisteinを皮下投与し、さらに、50 mg/kg N-methyl-N-nitrosourea(MNU)の単回腹腔内投与によるGenisteinの乳癌発生への影響を比較した。投与量として、Resveratrolは10と100 mg/kg/day、Zearalenoneは0.1と10 mg/kg/day、Genisteinは1.5と30 mg/kg/dayとした。天然エストロゲンは発育期(Zearalenone、Genistein:28日齢、Resveratrol:49日齢)の雌ラットの生殖器や乳腺に形態的変化は惹起しなかったが、膣開口や成熟後の性周期よりみると、機能的に内分泌かく乱作用を呈し、特にZearalenoneに顕著な作用をみた。また、Genisteinの出生前期/思春期前期暴露ともに乳癌を抑制したが、思春期前期の少量暴露により有意な抑制をみた。性的異型核のひとつであり、カテコルアミン起始核のひとつである青斑核の容積ならびにニューロン数は通常雌が雄より大である。ニューロン数を計測したところ胎仔期Genistein暴露雄ではA6ニューロン群は低用量群(1.5 mg/kg ´ 5)で増加、高用量群(30 mg/kg ´ 5)で減少、雌ではいずれも減少傾向をみた。出生前期Genistein暴露は神経系に影響を及ぼす。周生期における内分泌かく乱物質の暴露経路は胎仔期の経胎盤経路と乳仔期の母乳を介する経路が考えられる。乳汁中の内分泌かく乱物質のHPLCによる効果的な高感度分析法を確立したので、食品関連内分泌かく乱物質の母乳における定量的解析に着手する。輸入柑橘類の防カビ剤の残留性として、DPはすべての検体から検出できなかったが、OPPはオレンジやレモンから、TBZはオレンジやグレープフルーツの外果皮から検出したが、果肉からは検出されなかった。OPPの中性洗剤による洗浄効果を検討したところ、温水浸漬(約80度、1時間)では、約40%の溶出が確認できた。以上、市販の輸入柑橘類には防カビ剤が残留している。内分泌かく乱作用の発現の可能性につき、動物実験での確認に着手する。
結論
酵母Two-Hybrid法による食品関連化学物質のエストロゲン様作用の評価の結果、Estradiol-17bに比して作用は微弱ではあるが、Bisphenol A(polycarbonate matertial)といった環境ホルモンとして今問題となっている合成化学物質に比して、むしろ天然エストロゲンであるGenistein(phytoestrogen)やZearalenone(mycoestrogen)に、より強い活性をみた。子宮肥大試験でもResveratrolがBisphenol Aより強いエストロゲン活性を示す。Resveratrol、Zearalenone、Genisteinといった天然エストロゲンのラット周生期暴露は、発育期にはエストロゲン標的臓器(子宮、卵巣や乳腺)に形態的変化を惹起しなかったが、発育後の性周期からみると、内分泌かく乱作用を発現した。特にZearalenoneの内分泌かく乱作用は強力なため汚染穀物の同定は重要である。Genisteinの出生前あるいは思春期前投与ではいずれも乳癌を抑制する傾向にあった。特に思春期前の短期生理的用量(アジア人の1日摂取相当量)の投与では有意な抑制をみたことは、この時期の豆乳等大豆食品の摂取が推奨される。一方、Genistein出生前投与では、青斑核のカテコールアミンニューロン数に変化をみたことは、神経系への影響が示唆される。Genisteinの出生前暴露で脳かく乱作用をみたことは、妊娠時の食生活に示唆を与えるものと考える。乳児の栄養源には母乳、牛乳、豆乳があるが、植物エストロゲンをはじめとした内分泌かく乱物質の乳児への移行はこれら物質を介する。よって、乳汁をはじめとした内分泌かく乱物質の濃度を計測することは移行程度を知る上で必須である。高速液体クロマトグラフ
(HPLC)による高感度分析法を用いて、直ちに実態把握に着手する。また、防カビ剤として輸入柑橘類に使用が許可されているフェノール系化合物であるオルトフェニルフェノール(OPP)の残留性を検出した。果肉には存在しないが、外果皮に残留し、温水浸漬により溶出をみたことは、調理法によってはヒトが摂取する可能性がある。フェノール系化合物は内分泌かく乱作用を示すものが多いので、OPPの内分泌かく乱作用の有無の同定に着手する。

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