文献情報
文献番号
200200932A
報告書区分
総括
研究課題名
試料分析の信頼性確保と生体暴露量のモニタリングに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 恒久(東海大学医学部産婦人科)
研究分担者(所属機関)
- 中澤裕之(星薬科大学薬品分析化学)
- 岡尚男(愛知県衛生研究所)
- 堀江正一(埼玉県衛生研究所)
- 塩田邦郎(東京大学大学院農学生命科学研究科細胞生化学)
- 木村穣(東海大学医学部分子生命科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
79,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、分析法の信頼性確保とヒト生体暴露量モニタリングを実施するうえで多角的なアプローチによる検討を行うとともに、内分泌かく乱化学物質のヒト健康影響における代謝の側面を、遺伝子多型を含めた分子のレベルまで掘り下げて検討し、総合的な研究成果の達成を目標として計画されている。
研究方法
①生体試料中の内分泌かく乱化学物質の分析に関するガイドラインの作成:フタル酸エステル類、ビスフェノールA(BPA)、アルキルフェノール類は高分子素材由来の化学物質として暴露量も多いと想定され、社会的にも注目される内分泌かく乱化学物質である。そのため、信頼性の高い高感度測定法の構築やサンプリング・保存方法の基礎的検討が要求されている。測定対象試料として、生体試料を視野に入れて、精度の高い分析法と留意事項を明らかにしつつ、総合的に解析し、信頼性の保証された分析法ガイドラインの作成を最終目標とする。まず、フタル酸エステル類においては、フタル酸ジ2-エチルヘキシル(DEHP)を中心に,アルキルフェノール類においては、ノニルフェノール(NP)及びオクチルフェノール(OP)に対象を絞り、その主たる代謝物であるモノエステル類やグルクロン酸抱合体も視野に入れた高精度・高感度な分析手法を構築する。
②環境中の内分泌かく乱物質の胎盤機能と胎児発生における影響:本研究は、内分泌かく乱物質の影響を評価し、その防御法の確立あるいは安全基準濃度範囲を規定するための基礎的知見を得るのに必須の情報を提供するものである。まず第一に、胎盤および胎児における内分泌かく乱物質の代謝を行う酵素について、その発現と機能の解析を行い、母体から胎盤・胎児への内分泌かく乱物質の移行についての知見を得る。第二に、ヒトにおけるビスフェノールA、ノニルフェノールおよびフタル酸エステルであるDi(2-ethylhexyl)phthalate(DEHP)の代謝酵素を特定し、これらの代謝酵素に環境中の内分泌かく乱物質を解毒する能力がどの程度存在しているのかを評価する。第三に、核内受容体及びオーファン受容体の胎盤における発現を解析し、これらの受容体を介した環境中の内分泌かく乱物質の作用機序を解析する基礎を確立する。本研究に用いるTS細胞は、マウス初期胚に由来する株化細胞であり、分化能を有するため栄養膜細胞の発生過程をin vitroで再現することが可能である。また、これまでに胎盤栄養膜細胞機能の指標となる、胎盤特異的遺伝子を独自に単離してきており、in vivoでの内分泌かく乱物質の胎盤機能におよぼす影響の解析を行う基盤が整っているため、本項目の主実験はこれを用いた実験系で行った。
③内分泌かく乱化学物質に対する感受性に関与する遺伝子の解明:一般に環境要因が原因と思われている、内分泌かく乱化学物質関連の疾患について、その発症に関わる遺伝的背景、遺伝子領域、あるいは感受性遺伝子を明らかにすることである。環境要因が同一、同量であっても発症の程度が異なる事はよく経験される事であり、それには各個人の遺伝的背景が影響すると推測されることから、本研究は疾患の発症機構解明に必須の研究であると考える。また疾患感受性遺伝子が解明されれば、治療法の選択にも大きく貢献することが期待される。当初の対象疾患は子宮内膜症とした。子宮内膜症に関わる内分泌かく乱化学物質としてはBPAとノニルフェノールとフタール酸のDEHPを対象とし、その暴露量を測定し、その濃度と子宮内膜症の有無及びその重症度との関連を追求した。
②環境中の内分泌かく乱物質の胎盤機能と胎児発生における影響:本研究は、内分泌かく乱物質の影響を評価し、その防御法の確立あるいは安全基準濃度範囲を規定するための基礎的知見を得るのに必須の情報を提供するものである。まず第一に、胎盤および胎児における内分泌かく乱物質の代謝を行う酵素について、その発現と機能の解析を行い、母体から胎盤・胎児への内分泌かく乱物質の移行についての知見を得る。第二に、ヒトにおけるビスフェノールA、ノニルフェノールおよびフタル酸エステルであるDi(2-ethylhexyl)phthalate(DEHP)の代謝酵素を特定し、これらの代謝酵素に環境中の内分泌かく乱物質を解毒する能力がどの程度存在しているのかを評価する。第三に、核内受容体及びオーファン受容体の胎盤における発現を解析し、これらの受容体を介した環境中の内分泌かく乱物質の作用機序を解析する基礎を確立する。本研究に用いるTS細胞は、マウス初期胚に由来する株化細胞であり、分化能を有するため栄養膜細胞の発生過程をin vitroで再現することが可能である。また、これまでに胎盤栄養膜細胞機能の指標となる、胎盤特異的遺伝子を独自に単離してきており、in vivoでの内分泌かく乱物質の胎盤機能におよぼす影響の解析を行う基盤が整っているため、本項目の主実験はこれを用いた実験系で行った。
③内分泌かく乱化学物質に対する感受性に関与する遺伝子の解明:一般に環境要因が原因と思われている、内分泌かく乱化学物質関連の疾患について、その発症に関わる遺伝的背景、遺伝子領域、あるいは感受性遺伝子を明らかにすることである。環境要因が同一、同量であっても発症の程度が異なる事はよく経験される事であり、それには各個人の遺伝的背景が影響すると推測されることから、本研究は疾患の発症機構解明に必須の研究であると考える。また疾患感受性遺伝子が解明されれば、治療法の選択にも大きく貢献することが期待される。当初の対象疾患は子宮内膜症とした。子宮内膜症に関わる内分泌かく乱化学物質としてはBPAとノニルフェノールとフタール酸のDEHPを対象とし、その暴露量を測定し、その濃度と子宮内膜症の有無及びその重症度との関連を追求した。
結果と考察
①生体試料中の内分泌かく乱化学物質の分析に関するガイドラインの作成:対象とする3物質は、前処理過程での汚染、微量での検出などを含め、従来の分析手法では、測定困難な問題を有している。そこで、本年度は、(1)フタル酸エステルの分析については前処理法の開発を念頭に置いたGC/MS法を確立した。(2)BPAとアルキルフェノール類については、LC/MSおよびGC/MSを用いた高感度分析法を構築した。次年度は、本年度の研究成果を踏まえて、ガイドラインの骨格を構築し、次年度以降では、更なる詳細なサンプリング法の検討及び実試料への適用を検討する予定である。
②環境中の内分泌かく乱物質の胎盤機能と胎児発生における影響:本研究では、胎盤でその核内受容体を発現することが報告されているレチノイン酸がTS細胞の分化に影響を及ぼすことを見いだし、TS細胞分化における核内受容体を介した遺伝子発現調節機構の重要性を明らかにした。TS細胞が、ベンゾピレンやダイオキシンなどの内分泌かく乱物質と結合する核内受容体として知られるアリルハイドロカーボン受容体(AhR)を発現することから、ベンゾピレンの胎児および胎盤発生における影響を解析したところ、ベンゾピレンがレチノイン酸の合成に関わるチトクローム P450 1A1 (CYP1A1)の誘導を介して作用しているという示唆を得ている。また、使用した系統のマウスから新しいタイプのAhRの単離にも成功した。さらに、ベンゾピレンを投与したマウスでは胎児の発生に遅れが生じ、出生後の発育にも著しい遅延傾向を示すという興味深い知見を得た。さらに、環境汚染物質などを肝臓で代謝・解毒するチトクロームP-450やUGTについても、本研究で、ビスフェノールAおよびジエチルスチルベストロール(DES)がラット肝臓内でUGTによって効率よくグルクロン酸抱合されて解毒されることを示し、この酵素がUGT2B1遺伝子から作られる分子種であることを明らかにしてた。さらに、ヒト肝臓にもラットと同様にビスフェノールAおよびノニルフェノールのグルクロン酸抱合能がある事を解明した。以上子宮組織が薬物のバリヤーとして機能していることが示唆されるとともに、フタル酸エステルが胎盤構成成分の分化に影響を及ぼす可能性が示された。
③内分泌かく乱化学物質に対する感受性に関与する遺伝子の解明:本年度は手法の確立に専念したため、症例数30での検討であったが、統計的な有意相関が検討できるだけの暴露量の範囲がなく、次年度の症例とあわせて詳細に統計処理することとなった。さらに本年度は、上記の物質に対する疾患感受性遺伝子としてAryl Hydrocarbon Receptor (AHR), Estrogen Receptor(ESR)あるいはチトクロム、グルクロン酸抱合酵素の遺伝子(CYP1A1)をとりあげ、それらの遺伝子多型を明らかにすると共に、子宮内膜症感受性のアレル(対立遺伝子)を分子遺伝学的、統計遺伝学的に求めることを最終目的として、試料解析の倫理面整備、DNA試料解析系の確立を行った。確立したDNA解析系をもとに、本年度は患者2名を含む合計10名の日本人の試料を分析し、日本人特有の遺伝子多型存在の可能性が示唆された。
②環境中の内分泌かく乱物質の胎盤機能と胎児発生における影響:本研究では、胎盤でその核内受容体を発現することが報告されているレチノイン酸がTS細胞の分化に影響を及ぼすことを見いだし、TS細胞分化における核内受容体を介した遺伝子発現調節機構の重要性を明らかにした。TS細胞が、ベンゾピレンやダイオキシンなどの内分泌かく乱物質と結合する核内受容体として知られるアリルハイドロカーボン受容体(AhR)を発現することから、ベンゾピレンの胎児および胎盤発生における影響を解析したところ、ベンゾピレンがレチノイン酸の合成に関わるチトクローム P450 1A1 (CYP1A1)の誘導を介して作用しているという示唆を得ている。また、使用した系統のマウスから新しいタイプのAhRの単離にも成功した。さらに、ベンゾピレンを投与したマウスでは胎児の発生に遅れが生じ、出生後の発育にも著しい遅延傾向を示すという興味深い知見を得た。さらに、環境汚染物質などを肝臓で代謝・解毒するチトクロームP-450やUGTについても、本研究で、ビスフェノールAおよびジエチルスチルベストロール(DES)がラット肝臓内でUGTによって効率よくグルクロン酸抱合されて解毒されることを示し、この酵素がUGT2B1遺伝子から作られる分子種であることを明らかにしてた。さらに、ヒト肝臓にもラットと同様にビスフェノールAおよびノニルフェノールのグルクロン酸抱合能がある事を解明した。以上子宮組織が薬物のバリヤーとして機能していることが示唆されるとともに、フタル酸エステルが胎盤構成成分の分化に影響を及ぼす可能性が示された。
③内分泌かく乱化学物質に対する感受性に関与する遺伝子の解明:本年度は手法の確立に専念したため、症例数30での検討であったが、統計的な有意相関が検討できるだけの暴露量の範囲がなく、次年度の症例とあわせて詳細に統計処理することとなった。さらに本年度は、上記の物質に対する疾患感受性遺伝子としてAryl Hydrocarbon Receptor (AHR), Estrogen Receptor(ESR)あるいはチトクロム、グルクロン酸抱合酵素の遺伝子(CYP1A1)をとりあげ、それらの遺伝子多型を明らかにすると共に、子宮内膜症感受性のアレル(対立遺伝子)を分子遺伝学的、統計遺伝学的に求めることを最終目的として、試料解析の倫理面整備、DNA試料解析系の確立を行った。確立したDNA解析系をもとに、本年度は患者2名を含む合計10名の日本人の試料を分析し、日本人特有の遺伝子多型存在の可能性が示唆された。
結論
「内分泌かく乱化学物質に関する生体試料分析法のガイドライン」策定作業はほぼ初年度の目標を達成しており、同時に推進している「内分泌かく乱化学物質のヒト健康影響についての研究」については、 内分泌かく乱物質が細胞分化および生殖器官形成期(すなわち胎児期)に暴露されると胎児の性分化や形態形成の異常・さらには成長後およびその子孫への不可逆的影響をおよぼすことが懸念されている現状をふまえ、この時期の内分泌かく乱物質の作用を解析するため、母体・胎盤・胎児における細胞分化・増殖におよぼす影響と代謝解毒反応を詳細に明らかにしている。この動物実験を主とした結果を視野に入れながら、本研究ではさらに子宮内膜症を対象に、疾患の発症に至る過程において重要であると考えられる代謝酵素を含むいくつかの細胞表面上あるいは細胞内の分子の状態を検討しており、これも疾患感受性遺伝子としてaromatic hydrocarbon receptor、estrogen receptor、あるいはチトクロム、グルクロン酸抱合酵素の遺伝子の遺伝子多型を明らかにし、子宮内膜症感受性のアレル(対立遺伝子)を分子遺伝学的、統計遺伝学的に求める基盤を達成した。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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