文献情報
文献番号
200200931A
報告書区分
総括
研究課題名
水道におけるフタル酸ジ-2-エチルヘキシルの濃縮機構等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
国包 章一(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
- 安藤正典(国立医薬品食品衛生研究所)
- 伊藤禎彦(京都大学大学院)
- 亀井 翼(北海道大学大学院)
- 西村哲治(国立医薬品食品衛生研究所)
- 林 秀樹((財)水道技術研究センター)
- 古米弘明(東京大学大学院)
- 米沢龍夫((社)日本水道協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究事業では、水道の浄水施設におけるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の浮上濃縮機構を明らかにし、水道管からの溶出特性等を含めてフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等による水道水の汚染機構につき総合的に評価することによって、より安全な水道水を確保するための適切な技術施策のあり方を明らかにすることを目的とする。主任研究者らによるこれまでの研究において、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル等は水道の浄水処理過程でよく除去されることが一応確認されているが、それと同時に、その一部は浄水施設において水表面に浮遊するスカムや懸濁物質に高濃度で濃縮された形で存在することが認められている。一般に浄水施設ではスカム等の除去装置は備えられていないので、条件によっては、高濃度に蓄積されたフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等が再び水道水中に移行するおそれが多分にある。以上のことから、本研究事業においてフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等による水道水の汚染機構を総合的に評価するとともに、今後の対応策を明らかにすることは、より安全な水道水の確保を通じて国民の健康の維持・増進を図る上で極めて重要である。本研究事業において所期の成果を上げることができれば、これに基づいて問題解決のための適切な技術施策を実施設において導入することにより、水道水からのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の摂取量低減を図ることができるので、国民の健康の維持・増進に寄与することができる。また、浄水施設において水表面に浮遊するスカムや懸濁物質には、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル等だけでなく他の様々な汚染物質が濃縮されている可能性が高いので、本研究事業はこのような面における今後の研究の発展につながることが期待される。
研究方法
1) 浄水場における浮遊物質等のフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等による汚染実態の全国調査:全国の代表的な浄水場11ヶ所(表流水を原水とする急速ろ過方式の浄水場10ヶ所及び伏流水を原水とする緩速ろ過方式による浄水場1ヶ所)を選んで、原水、浄水のほか、沈澱汚泥、スカム及び表面浮遊物質等を平成15年1~2月に採取し、それぞれのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル等による汚染状況を調査した。2) 浄水場における浮遊物質等の有機物組成とフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の付着に関する検討:浄水場における浮遊物質等へのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の付着機構につき基礎的な検討を行うため、前記の急速ろ過方式による浄水場のうち5ヶ所の浮上物質、沈澱汚泥及びろ過池洗浄排水の有機物含有量及び有機物組成を調べた。有機物組成は、熱分解GC/MSにより生じたフラグメント成分及びピーク面積に基づいて評価した。3) 浄水場における浮遊物質等のエストロゲン様作用の評価に関する検討:浄水場における浮遊物質等のエストロゲン様作用につき基礎的な検討を行うため、上記の急速ろ過方式による浄水場のうちいくつかの浄水場の浮上物質もしくは沈澱汚泥を試料として、MVLNアッセイ及びNRLアッセイ(Nuclear Receptor Ligand Assay)によりエストロゲン様活性を測定した。このほか、エストロゲン様作用評価のためのヒメダカ曝露試験につき基礎的な検討を行うため、17β-エストラジオールを用いて、曝露方法を回分方式にした場合と連続流方式にした場合での比較検討、及び、ヒメダカ曝露試験と酵母Two-Hybrid法による試験での比較検討を行った。4)
水道用タールエポキシ樹脂塗装管等からのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の溶出特性に関する検討:現在新たに使用されていないが以前は広く使用されていた水道用タールエポキシ樹脂塗装管を、鋼管メーカーと塗料メーカーの協力を得て特別に製作し、これらの供試管からのフタル酸エステル類、アルキルフェノール類及び多環芳香族炭化水素の初期溶出量を、試験室で公定法に従って測定した。また、今後、同一の供試管についてこれらの物質の溶出量の経時変化を調べるため、東京都玉川浄水場の敷地内に水道管連続通水実験設備を設置した。この設備は、常時一定条件下で供試管に連続通水するために設けたもので、次年度当初から通水を開始して、約2年間にわたって一定期間ごとに供試管を取り外して溶出試験を行う予定である。このほか、タールエポキシ樹脂塗装及びコールタールエナメル塗装からの上記と同様な化学物質の溶出量を調べるため、塗装試験片を用いて溶出試験を行った。5) 多環芳香族炭化水素のAhレセプター結合活性の評価に関する検討:タールエポキシ樹脂塗装からの溶出が考えられる21種類の多環芳香族炭化水素を対象物質として選び、各物質のAhレセプター結合活性を評価した。
水道用タールエポキシ樹脂塗装管等からのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の溶出特性に関する検討:現在新たに使用されていないが以前は広く使用されていた水道用タールエポキシ樹脂塗装管を、鋼管メーカーと塗料メーカーの協力を得て特別に製作し、これらの供試管からのフタル酸エステル類、アルキルフェノール類及び多環芳香族炭化水素の初期溶出量を、試験室で公定法に従って測定した。また、今後、同一の供試管についてこれらの物質の溶出量の経時変化を調べるため、東京都玉川浄水場の敷地内に水道管連続通水実験設備を設置した。この設備は、常時一定条件下で供試管に連続通水するために設けたもので、次年度当初から通水を開始して、約2年間にわたって一定期間ごとに供試管を取り外して溶出試験を行う予定である。このほか、タールエポキシ樹脂塗装及びコールタールエナメル塗装からの上記と同様な化学物質の溶出量を調べるため、塗装試験片を用いて溶出試験を行った。5) 多環芳香族炭化水素のAhレセプター結合活性の評価に関する検討:タールエポキシ樹脂塗装からの溶出が考えられる21種類の多環芳香族炭化水素を対象物質として選び、各物質のAhレセプター結合活性を評価した。
結果と考察
1) 浄水場における浮遊物質等のフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等による汚染実態の全国調査:調査した浄水場における水中のフタル酸ジ-2-エチルヘキシルの平均濃度は、原水表層が0.16μg/l、同下層が0.23μg/l、着水井表層が0.10μg/l、同下層が0.11μg/l、浄水池又は配水池表層が0.06μg/l、同下層が0.08μg/lで、処理に伴って減少する傾向が認められたほか、排水処理工程から原水への返送水の平均濃度は0.46μg/lであった。また、ろ過池洗浄排水の平均濃度は1.2μg/lで、沈澱汚泥及び浮上物質中の固形物乾燥重量当たりの含有量は、それぞれ640~14,000μg/kg及び2,900~52,000μg/kgの範囲にあった。フタル酸ジ-n-ブチルについても、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルと同様に沈澱汚泥や浮上物質に濃縮される傾向が認められたが、その含有量はフタル酸ジ-2-エチルヘキシルの場合に比べると全般に低かった。2) 浄水場における浮遊物質等の有機物組成とフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の付着に関する検討:調査対象とした浄水場5ヶ所のうち、ある浄水場における配水池浮上物質の強熱減量の値が他と比較して顕著に高く、かつフタル酸ジ-2-エチルヘキシル含有量も同様に高かった。そこで、試料中の固体成分の有機物組成に着目し、熱分解GC/MSによる分析結果を基に各試料の有機物組成を比較した。その結果、大半の試料では蛋白質が主構成成分であるが、一部の試料においては脂質の占める割合が大きくなっており、また多糖類の占める割合も比較的高いことがわかった。特に上記の浄水場における浮上物質の熱分解フラグメントは、蛋白由来フラグメントが他の試料と比較して少なく、多糖類、脂質由来のフラグメントが多いことが特徴として上げられた。3) 浄水場における浮遊物質等のエストロゲン様作用の評価に関する検討:浄水場における浮上物質もしくは沈澱汚泥からの抽出物質について、MVLNアッセイ及びNRLアッセイによりエストロゲン様活性を定量評価し、その値はいずれの場合においても、対照として用いた17β-エストラジオールの活性に比べてはるかに低いことを明らかにした。また、ヒメダカを用いたビテロジェニンアッセイでは、簡易な回分方式による曝露試験でも、連続流方式による曝露試験と同等の結果が得られることを明らかにした。このほか、ヒメダカ曝露試験による結果と酵母Two-Hybrid法による試験結果との間には、高い相関があることが認められた。4) 水道用タールエポキシ樹脂塗装管等からのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の溶出特性に関する検討:タールエポキシ樹脂塗料については、連続通水実験設備に取り付ける前の水道管を用いた溶出試験、これらの水道管を連続通水実験設備に取り付けたあとの初期通水試験における吐出水の水質分析、及び、塗装試験片を用いた溶出試験のそれぞれにおいて、フタル酸類、ノニルフェノール、ビスフェノールA及び多環芳香族炭化水
素のうちいくつかの化学物質の溶出が認められた。ただし、同一の化学物質の溶出が、これらの試験又は分析において共通して認められたわけでは必ずしもなかった。また、コールタールエナメル塗料については、塗装試験片を用いた溶出試験において、フタル酸類、ノニルフェノール及びビスフェノールAの溶出は認められなかったが、いくつかの多環芳香族炭化水素の溶出が認められた。5) 多環芳香族炭化水素のAhレセプター結合活性の評価に関する検討:21種類の多環芳香族炭化水素のAhレセプター結合活性強度の値は、それぞれの物質の化学構造によって非常に異なっており、最も高いのはベンゾ(a)アントラセンでTCDDの約1/10であることを明らかにした。
素のうちいくつかの化学物質の溶出が認められた。ただし、同一の化学物質の溶出が、これらの試験又は分析において共通して認められたわけでは必ずしもなかった。また、コールタールエナメル塗料については、塗装試験片を用いた溶出試験において、フタル酸類、ノニルフェノール及びビスフェノールAの溶出は認められなかったが、いくつかの多環芳香族炭化水素の溶出が認められた。5) 多環芳香族炭化水素のAhレセプター結合活性の評価に関する検討:21種類の多環芳香族炭化水素のAhレセプター結合活性強度の値は、それぞれの物質の化学構造によって非常に異なっており、最も高いのはベンゾ(a)アントラセンでTCDDの約1/10であることを明らかにした。
結論
本年度の研究により、全国の浄水場における一般的な傾向として、原水中のフタル酸ジ-2-エチルヘキシル及びフタル酸ジ-n-ブチルは浄水処理によってある程度まで除去されているが、水中から除去されたフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の一部は沈澱汚泥や浮上物質にかなり高い濃度で濃縮されており、また、一部は返送水として原水へ戻っていることが確認された。しかし、沈澱汚泥や浮上物質から溶媒抽出した物質のエストロゲン様活性は、それほど高い値を示してはおらず、17β-エストラジオールに比べてはるかに低いレベルにとどまっていた。また、現在新たに使用されていないが以前は広く使用されていた水道用タールエポキシ樹脂塗装管等からは、フタル酸類、ノニルフェノール、ビスフェノールA及び多環芳香族炭化水素等の溶出が認められた。多環芳香族炭化水素の中には、Ahレセプター結合活性が高いものがあることも明らかにした。本年度は3ヵ年計画の初年度にあたるので、次年度以降においてはこれらの結果を踏まえつつ、当初の計画に従ってさらに研究を継続・発展させて行く予定である。特に浄水場の沈澱汚泥や浮上物質によるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル等の濃縮に関しては、調査対象を特定の浄水場に絞り込んで詳細調査を実施することにしている。さらに、タール系樹脂塗装から溶出する多環芳香族化合物は、水道水中で残留塩素と反応して内分泌かく乱作用を持つ塩素化物を新たに形成することが考えられるので、この点についても今後検討するようにしたい。
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